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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『かくりよの宿飯八 あやかしお宿が町おこしします。』友麻 碧 




『かくりよの宿飯』シリーズ第八弾。
大旦那様を取り戻す協力を得るため、仲間たちと北の地へと向かう葵。
美しくも閉ざされた雪国で葵を待っていたのは、北の美味しい名産品の数々と、この地に嫁いでいた春日との再会。
そして葵は、天神屋に協力する見返りに、雪国復興のための観光名物料理をプロデュースしてほしいと持ち掛けられる——。


お話はますます盛り上がり核心に迫ってきた感のある、かくりよの宿飯シリーズ。
もう八巻目とはすごい。安定の面白さがあります。そして安定のおいしそうなごはん。
別シリーズ『浅草鬼嫁日記』と連動して思いがけないところからお互いの伏線が少しずつ紐解かれていく感じなのも、読み応えあってどきどきです。

表紙イラストが相変わらず皆勢揃いでにぎやかで楽しい。
仲睦まじい若夫婦の様子にときめきます。春日のくりっとしたおめめがかわいい~!
そしてかっぽう着姿の葵ちゃんの仕草もとても可愛らしい。彼女を見守る銀次さんのまなざしの優しいこと。
そして大旦那様……雪ダルマ?デザート??(笑)


例によってネタバレ交じりで感想をつらつら書き連ねていきます。


まずは私、お嫁入りしていった春日のその後がずっと気になっていたので、今回彼女の嫁ぎ先がメインになって、嬉しかったです!
若奥様になっても春日は変わらず人懐っこく相手によって態度を変えないちゃっかり目端のきく女の子で、当たり前のように葵ちゃん達の味方でいてくれていて、嬉しいなあ。うんうん。
最初のうちはキヨ様やお城の古参の人達とあまりうまくいっていない感じで心配だったのですが、葵ちゃんが作った二人の思い出のお菓子をひとつのきっかけにして、気持ちをちゃんと通じ合わせることができたようで、良かった~!!
幼馴染カップルのロマンスは大好物な私です。
キヨ様も優しさだけではない強さを特に今回の件で確実に身に着けつつあるようで、信頼できる人達も確かにいるようだし、まずは大丈夫かな。イタキさんが好きでした。ちょっと天神屋のサスケ君みたいな。
キヨ様と春日のかつての現世デート、500円を渡した人物の正体、絶対あの人ですね。五百円という半端な金額が絶妙にらしいというか……。そしてふたりともちまっと可愛い顔して当たり前に葵ちゃんよりずっと年上だという事実にううむとうなったり。

あと今回何気に頑張っていたのがお涼。そうか、雪女だから彼女のふるさとでもあるのか……。あまり明るくはない過去をさらっと語り全然湿っぽくないお涼が、なんか、らしい。それでも確かにふるさとなんですよね。
葵と春日とお涼の天神屋三人組の女子会っぽい雰囲気を久しぶりに味わえて、懐かしくも嬉しくなりました。
お涼と春日の先輩後輩の関係も変わってないのがいいですね。ほっとします。
そして男性陣の中でやっぱり今回何気に頑張っていたのは乱丸。特にキヨ様とは全然タイプの違う者同士だからこそ、キヨ様にいい影響を与えられたんじゃないかなと。
乱丸と銀次さんの嫌味交じりの応酬も今となっては微笑ましい。

大旦那様の秘密が終盤でかなり核心に迫ってきた感じで、銀次さんの意味深な台詞もあり、おおお、そういうことだったのか……。心の中で盛り上がりまくりました。
葵ちゃんの呪いというのは、やはり、史郎さん関係のものなのかしら。『浅草鬼嫁日記』を読んでいる限り相当やっかいそうな呪いですし、もしかして史郎さんは孫娘を救うために、大旦那様と契約したということなのかしら。分からないけれど。
確かに借金のかたにお嫁入り~という当初の設定をもはや誰も覚えていないんじゃないか、というほど天神屋の欠かせない一員にいつのまにかなっている葵ちゃんですが、借金を返してしまえば、解放されるという選択肢も現実味をおびてくるんですよねえ。
大旦那様の思惑が完全にはまだ読めなくてもどかしい!
次巻は大旦那様のパートみたいですし、ここら関係のもやもやが明らかになるかしら。早く読みたい。
葵ちゃんへの愛情は、なにもかもぼんやりとしかわからないなかでも、たしかにつたわってくるのに、じんときます。
ほとんど実際に登場していないながらにこの存在感、さすが、天神屋の大旦那様だけあるな~とも思うのでした。

一方大旦那様と葵ちゃんの距離感が近づいていく様を気持ちを隠して優しく見守る銀次さん……切ない!!
葵ちゃん救出に間違いなく重要な役目を担っていたのに常に身をわきまえて一歩引いている銀次さん、切なすぎる。
私は葵ちゃんにはやっぱり大旦那様と一緒になってほしい派なのですが、ですが!銀次さん自身の幸せは、どうにかならないかなあ。ううう。
身を挺して葵ちゃんを守り抜く彼の姿にこみ上げてくるものがあります。

さてこのお話のメインはなんといっても美味しい葵ちゃんのお料理。
かくりよではまだちょっと珍しいものもある食材がどれもこれもきらきら豪華でおいしそうで、がしっと心をつかまれてしまいました。特にチーズ推しがすごい。読んでいてチーズのかたまりを食べたくて食べたくて仕方なくなってきました……。
醤油が隠し味の和風チーズフォンデュも、あんこ重ねの和風ティラミスも、ツナカレーもアイス大福も油揚げ入りチーズドリアも、みんなおいしそうです。ううう。
チーズが受け入れられたのはまずはチーズケーキ、お菓子からだった、というのは、なんだかちょっと納得しました。
折尾屋の双子達再登場も嬉しかったです。相変わらずのゆるさと料理への情熱が好きだなあ。
雪ん子たちのたんぽ鍋の場面もほこほことても美味しそうでした。

今回ちょっと思いましたが、史郎お祖父ちゃんとはチーズフォンデュやあたたかな思い出を持っている葵ちゃんだけど、祖父が死んだ今では、現世への執着をもはやほとんど持っていないっぽいのが、彼女、悲しいことだなと。
天神屋にお嫁入りするにはむしろ別れに迷い苦しむものなどない方がいいのは確かなのですが、『浅草鬼嫁日記』や『鳥居の向こうは、知らない世界でした』などと読み比べたりしていると、なんだか、考えてしまうなあ。

そんなこんなで葵ちゃんと大旦那様の約束の物語!!次巻が読めるのをたいへん楽しみにしております!!


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: ファンタジー(和風)

タグ: 友麻碧 

『炎の神子様は大精霊ではございません』江本 マシメサ 







ありえない嫌疑から処刑されようとしていた、炎の神子をつとめる少女・エルフリーデ。
処刑寸前に彼女が救われるように召喚されたのは、若き王子アルフレートが治める、鼠妖精たちの村だった。
炎の大精霊と勘違いされたエルフリーデは、雪の大精霊の怒りで春が来なくなってしまった村を救ってほしいと懇願される。
元いた魔導教会に帰れるわけもなく保身のため大精霊としてふるまう男装少女と、色々問題をかかえた王子様の、もふもふ可愛い村での奮闘記。

江本マシメサさんの小説家になろうさん作品の書籍化。現在二巻まで出ています。
Webでは未読でしたがふと心にひかれるものがあり手に取ってみました。

あらすじにある通り、まさに、愛と魔法ともふもふの物語でした。最後まで。
一巻、二巻と読んでいくごとに、ああ、なんだかとても好きです。大好き。
タイトルから恋愛要素は薄めのコメディタッチの物語なのかなと思っていたのですが、予想以上にロマンス要素もしっかりあって、心をぎゅっとつかまれてしまいました。
ゆるい日常ラブコメとシリアス設定のファンタジーのバランスが絶妙。
二巻目の続き部分からWebで読んでみたらもう途中からやめられなくて、最後まで一気読みしてしまいました。
思っていたより百倍ぐらい壮大な物語になってきてびっくり!!(笑)
胸がじわーっと切なくあたたかいもので、いっぱいに満たされます。
主役カップルとまわりのみんなが幸せそうな姿をみているのが心から幸せで、切なさ交じりの幸福感に、涙が目ににじんできて。

理不尽な状況に追い込まれても、根は楽天家で明るくて元気いっぱいなヒロイン・エルフリーデが、とにかく魅力的です。
お日様みたいな明るさで周囲に笑顔と元気を振りまいているような。
なにげに男装少女でした。炎の大精霊(性別無し)の振り設定なのが面白い。
シリアス設定ですが楽天家でざっくりした性格のエルフリーデなので、深刻になりすぎず楽しく読めました。
大精霊の振りといっても彼女は間違いなくたぐいまれな炎の魔法使い。
力を気負わず村の皆のために一生懸命尽くしてにこにこしている彼女の姿がいいなあ~。

そんな彼女が「友人」になったのは、生い立ちに影を持つ寂しい王子様・アルフレート。
雪と青のイメージぴったり、冷たく凍り付いた過去をしょい込みつつ根は真面目で繊細でとても優しいお人柄がじわじわ伝わってくる、これまたとても魅力的なヒーロー!
照れてどうしたらいいのか分からないと目をそらしてしまうツンデレっぷりも慣れると微笑ましい。
能力的には似た者同士なふたりで、関わるうちに、特にアルフレートの体質問題的にいい風に回っていった感じなのが、ほっと安心できました。
ここにいてもいいのかと悩むエルフリーデにアルフレートがかける飾りのないことばが良いのです。
というかイラストの神経質そうな生真面目文官風美形めがね青年アルフレートが本当にイメージぴったりで、すごい!!

二巻目くらいからの、アルフレートのシャイで不器用なアプローチとそれに全然気づかない鈍感なエルフリーデのふたりが読んでいて本当に微笑ましく可愛らしく、そんなふたりを温かく見守っている周囲の妖精さん達という図がまた微笑ましく、ふふふ、いいなあ~。
想いが通じてそれぞれ照れまくりつつ愛を確かめ合うふたりもまた可愛らしすぎました。(イラストが最高)
エルフリーデのショートカットがだんだん本当に女の子らしく可愛らしく見えてくるのですよ~。

猫妖精のホラーツ爺や、鼠の侍女のチュチュ、葉っぱ妖精メルヴ、雪の大精霊様、竜人のヤン、周りをかためる妖精、人外のキャラがまた、魅力的でたまらないです。
もふもふの鼠さん達の可愛らしさもエルフリーデ視点でストレートに伝わってきます!チュチュにチュリンにチューザーに名前もみんな可愛い。もふもふ欲刺激されまくりつつ相手を尊重し嫌がるようなことはしないエルフリーデに好感を持てる(笑)。
ホラーツ爺やの策士っぷり、その根柢のアルフレートへの愛情にも泣けてくる。エルフリーデが来てくれて本当に良かったですよね!
あとなんといっても強烈なのが筋肉妖精さん達。筋肉妖精……??これはもう読んで確かめていただくしか(笑)。
はじめは単なるかわいいマスコットキャラに思えていたメルヴの活躍っぷりがすごすぎました。いいこだなメルヴ。癒されまくりました。メルヴアイスクリーム……ありなのか。ありなんだな。
妖精さん以外では前領主の奥様でエルの侍女になったドリスさん、アルフレートのお兄さん殿下、どちらも素敵なキャラでした。
全員が全員エルフリーデとアルフレートの仲をあたたかく見守っていて、本当に和みます。
一日一回ふたりの時間はチュチュとドリスの努力によって作られていたものだったとは!侍女の鏡!!

あとこの物語もやっぱりごはんがおいしそうです。
水晶を求めてのふたり旅の場面で食べていた、焼きたてパンとスープのセットメニューがおいしそうでおなかがへってきました。
領主の館で出てくるご飯やお菓子もみんなおいしそうです。出てくるメニューをおいしそうに幸せそうに食べているエルフリーデの姿が読んでいて幸せです。
二巻目のメルヴ視点の番外編で、プリンを頬張っているエルフリーデの満面の笑顔のイラストが、かわいすぎてたまらないです。不意打ちで「大好き」と言われて真っ赤になって固まっているアルフレートも非常に可愛い。
アルフレートのアイスクリームも。アイスをほおばって幸せなエルフリーデの横で涙しているアルフレートがもう健気で彼のこれまでの人生を思うと不憫で……隣にエルフリーデがいてくれて本当に良かった。

Web版の続きの感想メモも、追記以下にちょこっと収納しておきます。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: その他少女小説レーベルの本

タグ: 江本マシメサ 

最近のオンライン小説読みの記録(2018冬~早春編) 

新年くらいから読んでいたオンライン小説の感想をメモとして残しておきます。

こんなに遠くまできてしまいました』ナツさん
幸薄い人生を歩んできた二十代後半のOL美香さんが、さらについてないことに突然異世界トリップしてしまう。
彼女が出会ったのは、巨大な鳥に変化できる人間達で……?

安定のナツさんの異世界トリップもの少女小説。
トリップ先の異世界のありようが、なかなか変わっていて癖がある。けっこうシリアス。でも姿かたちが変わっていても、ミカが出会った人たちはあたたかく優しくて。胸がきゅうっとしました。
ついてない人生を歩んできた故愛情を素直に受け入れきれないミカの心の葛藤も共感でき、他人を知らず傷つけ辛い思いもいっぱいしつつ、唯一無二の彼と少しずつ距離を縮めていく様が、心ときめいて仕方がありませんした。
ふふふっ、やっぱりそう収まると思ってました。
親公認というのが面映ゆいというかなんともほのぼの~というか。
恋愛観が現代日本とかなり違うので、ときにかなりあけすけな愛情表現もあり、読んでいてもだえつつもときめきました。
いちばん好きなのはミカ、ラスですが(ほんとうにかわいく格好いい)、読んでいくごとにチェインもユーグさんも好きでした。
ちょっとへたれで影があるけど優しいユーグさんは独特の存在感。
ユーグさんとレイラさんも本当に良かった~!!

ナツさん、最近アップされた『傍観者の恋』の後日談のおまけエピソードもなんとも微笑ましく幸せでした。みんなおかあさんだいすき!

初恋はクラーケン』道草家守さん
海で海生石を採り暮らしている美しい娘アーシェ。どんな男が求婚しても首を横に振るばかりのアーシェ、そんな彼女がずっと恋しているのは、幼いころ自分を助けてくれた、海底都市を守護する海の化け物・クラーケンで。

Twitterで流れてきた民話風の四コマまんががふと目に留まり、読んでみた小説。
異種婚姻譚の王道!といいますか。美しい娘と心優しい怪物の恋。絵になります。
周囲に何を言われてもどんな状況になっても、一途にクラーケンを恋したい信じ抜くアーシェの姿が、読んでいて胸を打ちました。
アーシェとお父さんの関係もなんだか私は好きでした。
クラーケンの大きく安定した愛情というか真心も、つたわってきます。
ちょっとほろ苦くてでも光を感じさせるラストでじんわりきました。

寵妃の連れ子は、自国の第一皇子を振り回す』タイガーアイさん
アンシェーゼ第一皇子のアレクの元に、ある日、五年前に亡くなった寵姫の連れ子で現在は第四皇女であるヴィアトーラが突然訪ねてくる。
同母弟セルティスと自身の身を守るため、ヴィアはアレクに、「自分をあなたの側妃にしてください」と直談判しにきたのである——。

美しくて朗らかで賢くて猫かぶりなヒロイン・ヴィアが、とにかく魅力的です!
庶民根性とノブレス・オブリージュを併せ持ち、完璧な高貴なお姫様である一方、恋する姿はただのふつうの純な女の子で、過去のトラウマゆえの繊細な部分も持っていて、家族思いでおひさまのような明るい愛情を常にまわりにふりまいていて、すべてひっくるめてきらきら光り輝いてる。
彼女が優秀だけれど孤独だったアレクの心の琴線に触れ、次第にお互いかけがえのない存在になってゆくのが、よくわかる。
それでも表立って結ばれるには障害ばかりの二人。お互いの身の安全と幸いを心から案じて己を律して行動に移す二人が切なくやりきれない。アレクもヴィアも若くして完璧な王族で、誇り高い彼らの姿が胸を打つ。そして秘めた恋心に懊悩する様が辛い……。
もう二人の(主にアレクのかな)粘り勝ちですよね。本当の本当に良かった。アレクのある意味父親譲りの一途な執着っぷりにはときめきました。
ヴィアがばらばらだった皇室のきょうだいたちをいつの間にかつなぎとめて、ひとつのあたたかな家族に変えていった過程が、すごくステキでした。臣下の一人一人に真心を持って接して信望者を次々に増やしてゆく様も格好いい。
アレクの側近達三人組も、ヴィアの騎士エベックも、姉に似てなかなか食わせ者な第二皇子セルティスも、妹姫マイラちゃんも、みんな読みこむごとにじわじわ味が出てきて好きだな~。くー。
アレク達の父皇帝陛下のどうしようもなさはここまでくるとあっぱれというか。ツィティー妃に過去にしたこととか到底許せない……。
番外編までヴィアのあたたかな愛情がきいていました。
ちょっと違うのだけれど、『身代わり伯爵』シリーズのミレーユとリヒャルト達の関係に、近いものがあるかもしれない。とか思いました。騎士団が重要な役目を担っているところとか。

ぽつりぽつりと更新を追っているのは、はなさんの『短編集』。
身分違いのロマンスだったり、異世界トリップものだったり、なにげない日常の出会いだったり、ひとつひとつ粒ぞろいの良いお話なのですよ。
最新話の『ふうふのおはなし』、しみじみとした愛情と幸福感に、読み終えてぽろぽろ涙があふれました。はなさんの作品のヒロインたちがもう本当に好きすぎる!

カテゴリ: オンライン小説

『純真を歌え、トラヴィアータ』古宮 九時 




音大に入ったもののトラウマによって歌声を失い、声楽の道から脱落してしまった、19歳の椿。
もう一度の大学生活のはじまり、彼女はオペラの自主公演を行う「東都大オペラサークル」のデモ演奏の音色にこころひかれ、指揮者の黒田と言葉を交わす。
同級生と共にサークルに入った椿は、ピアノ伴奏者として必死に頑張る傍ら、サークルのメンバーたちとの交友関係を、ぎこちないながらもゆっくり深めていく——。


古宮九時さん(藤村由紀さん)のメディアワークス文庫の新作。
ずっと志してきた歌を喪い挫折した歌姫・椿ちゃんは、ひょんな出会いから大学生のアマチュアオペラサークルに入ることに。
彼女が出会った孤高の指揮者・黒田さんと、サークルの個性豊かで人の良いメンバー達。
周りの皆に支えられ、椿ちゃんが音楽ともう一度向き合うまでの道のりをたどる、ものがたり。

ストーリー自体はシンプルながら、迷い苦しんだ末に椿が見出した音楽への愛情が胸を打つ、美しく深みのある、とても素敵な物語でした。
背景に光さす表紙イラストとタイトルがイメージぴったり。
彼女が挫折を乗り越えるまでの描写が、まさに真摯。支えてくれる周りの人々の温かさが読んでいてじんわりと伝わってくるのが、良いです。
椿ちゃんと黒田さんの努力を当たり前に惜しまない生真面目でストイックな部分が、作者さんの物語らしい。とても好きでいとおしくて泣きたくなる。
あとサークルの中の、びしっとしていると同時に音楽を軽やかに愛し楽しんでいる雰囲気が、読んでいて心地よい。

腰が低くて真面目で常に丁寧口調で体育会系力持ちの椿ちゃん、自然に共感でき応援して読んでゆける、私好みのヒロインでした。
派手さはないけど側にいるとほっと和むようないいこなんだろうな。『ラ・ボエーム』のお針子ミミの歌が、まさにイメージにぴったり。
アジの干物とか筋トレ三昧とか何か微妙にずれてて本人はまったく気づいていないあたりも愛おしい。
そんな彼女のずれを鷹揚に受け入れておもしろがっているサークルの雰囲気がいいな。

ヒーロー役の黒田さんも、厳しくも面倒見よく格好良く、うーん、好きだなあ!
優秀な指揮者で格好良く女の子に人気があるのかというとそういうタイプではなく、むしろサークル内では面倒見のいいお母さん的な立場というのが、ちょっとおもしろい。
音楽を愛し挫折して再生したふたり、ある意味最大の理解者で、黒田さんが椿ちゃんに向ける、変に甘くも厳しくもない真摯な気遣いと行動の数々が、とても尊かったです。
序盤の少女時代の椿ちゃんと関わりを持った少年のエピソードから、運命のふたり……みたいな雰囲気を漂わせつつ進行していく物語で、再会して(椿ちゃんは気づいていませんが)仲良くなっていっても特に甘さはなく、このままいくのかなー?と思って読んでいくと、ラストでふんわり微糖。
わあ、これはたまらない!
黒田さんの方では「初恋の君」として(たぶん)淡く意識しているものの、椿ちゃんがフラグを速攻でへし折っているのがちょっと気の毒でした。(まあ椿ちゃんは他のことでいっぱいいっぱいで、恋愛モードまで進める余裕は今はまだちょっとなさそう)
目下、黒田さんの最大のライバルは、かなみちゃんでしょうか。
花束を渡しに来たかなみちゃんと受け取った黒田さんの会話の実際のところが気になる。火花ばちばちだったんだろうな(笑)。
かなみちゃんの勝気な強さ、誇り高さが、傷さえ味方として燦然と輝く才能が、椿ちゃんにとってときには辛いのでは……と心配して読んでいましたが、かなみちゃんもいいこですね。椿ちゃん大好きですよね。
まあ確かに黒田さんはとても面倒見が良く優しいけれど、椿ちゃんへの面倒見の良さは明らかに別格なんだろうなと思いますよ。彼女が気づいていないだけで。(そうでなければ彼は今までももっと女の子にもてているのではないでしょうか)

サークルの同級生清河君や先輩の理恵さん、浜崎さん達、みんないいひとで良かったです。
清河君の万能さと何でもやってみて楽しもうとする姿勢とさりげない気遣いが、読んでいて心にしみました。
黒田さんとは別の意味で、椿ちゃんには得難い友人だなあ。彼女と清河君が出会えてよかったな。
サークルそして人生の先輩的な理恵さんと浜崎さん、それぞれ頼もしくていいひとで好きでした!!
おそらくふたりは椿ちゃんと黒田さんのことをあたたかい目で見守っているんだろうな……。

アマチュアオペラのあれこれやオペラの作品解説なども分かりやすく程良く書かれていて、ほとんど知識のない私にとってはありがたく、気軽に楽しく読めました。
そうか、たいてい人が死ぬのか……。
全員の音を拾いすくい上げていくというか、黒田さんの指揮者としてのありようが、何度読んでもあたたかくて好きだなあ。
大学生のサークルのほのぼの仲良さげな雰囲気も楽しかったです。
合宿いいですね。ジャンルばらばらのごちそうがおいしそう。
清河君が持ってきたピザがしょいこんでいた悲劇が、ストーリーとは全く関係ないながらに地味に余韻に残りました。
オペラのお話って、こうして小説でちらりと読んでいるだけだと悲劇的な恋愛とかすれ違いとかシリアスっぽいのですが、大学生のサークルメンバー独特の若いゆるさ、明るさで、重たさを必要以上に感じずさくっと読めるのが、いいなと思いました。

私自身は、大学生時代に一時期音楽系のサークルに入っていたものの色々あってそのサークル自体を挫折した人間で、色々重ね合わせながら読んでいました。
音楽に愛されなくても、愛してるって、ああ、シンプルでとてもいい言葉だな。
そうそう、学生の音楽サークルって、本当になにげにレベルが高くてびっくりするのです。

椿ちゃんはこれからサークル内で歌姫として活躍していきそうだし、ほんのりとした恋の行方も気になるし、続きもあればぜひぜひ読んでみたいな。

(余談:「ミミ」というと、どうしても、Unnamed Memory 内の無邪気な美少女ミミちゃんのことを、思い浮かべてしまう!
かわいらしい名前の響き、可憐で純情なイメージが、オペラの登場人物のミミ、ひいては椿ちゃんのイメージにも重なる気がして、読んでいてほんわり嬉しかったです
!)

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 古宮九時 

『京都寺町三条のホームズ9 恋と花と想いの裏側』望月 麻衣 




『京都寺町三条のホームズ』シリーズ第9弾。
一月になり大学にも慣れてきた葵だが、修行中の清貴とはなかなか会えない日々。
清貴の修行先・伏見の老舗酒造で起こった家宝の徳利紛失事件、そしてほぼ同時期に、香織が所属するフラワーアレンジメントサークルで葵が直面した先輩達の仲違い。
二つの出来事の裏には、それぞれ切ない想いが秘められていて——。


『京都寺町三条のホームズ』の新刊!!待ちわびていました。ようやく読めました。
今回は特に事前でネット版をごく一部しか読んでおらず大部分まっさらな状態で読むことになったので、内容に関するハラハラドキドキ感もひとしおでした。
(ただそのごく一部の既読分がここでそうくるかーー!!と読んでいて叫びそうになりました。かなり盛り上がりました。)


結論から申し上げますと、今回も最初から最後までめっちゃ楽しかったです!!
サブタイトルにもあるように、清貴君と葵ちゃんの主役カップル、そしてサブキャラたちのロマンスが随所にちりばめられていて、お花や和歌や骨董品や美しく雅な小道具も随所で光っていて、ときめき度満載でした。
今回はシリアスな事件ネタは控えめで、よりロマンス面に重きが置かれていたように感じました。
この歳になっても甘々少女小説を愛好している私としては、今回のこの盛り上がりようはたまらなかったです。ふふふ。

遠距離恋愛でも葵ちゃんと清貴君はちゃーんとラブラブで、読んでいて微笑ましく幸せでたまらなかったです。
なかなか会えない寂しさを募らせ葵ちゃんが見せた涙にぐっときました……。清貴君の「尊い」、私も分かる(笑)。
一方途中で円生がとんでもない爆弾を落としていきました……わあ、これは一体どういうストーリーにつながっていくのやら。
その後の秋人さん話で彼の屈託のない明るさと友情にだいぶ救われて楽しく読めました。


ではではさっそくここからネタバレ交じりの感想です~。
長くなってきたので追記にたたみますね。


その前に、コミックス版の書影も、ぺたり。



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カテゴリ: 日常のお話

タグ: 望月麻衣 

『コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙』村山 早紀 




『コンビニたそがれ堂』シリーズ第七弾。
大事な探し物がある人がたどりつけるという風早の街の伝説のコンビニたそがれ堂。
幼い日に不思議な手紙のやりとりをした女性、ねここが出会った困り顔の優しい少年、そして星野百貨店ゆかりの少し前の時代の少年たち。
春の街を舞台とした二話と、『百貨の魔法』番外編の計三話収録。


村山早紀さんの『コンビニたそがれ堂』シリーズの、待っていましたの新刊でした。
続きを一日でも早く読みたいと待ちわびるというよりは、ふと新作の便りを目にして、あの世界の物語がまた読めるのね、嬉しい、とぽっと幸せな気分が胸にゆっくりひろがるような。

早い春の今の季節にぴったりな、花の香りがするやわらかくて優しい物語、三編でした。
シリーズの中では気持ちボリュームは薄めでしょうか、さらさらと優しくきれいな文章でつづられていて、どのタイミングでもとても読みやすく上質の幸せ感が得られます。
またシリーズの中では気持ちダークさが控えめで明るく幸せなイメージがおもてに出てきて、いいですね、春ですねえ。
個人的にはシリーズ一巻目にイメージが近かったかなと思いました。

『雪柳の咲く頃に』
淳君のお人好しさ優しさが際立っていて、読んでいてきゅっと胸が痛いくらい。
あのタイタニックのお話のたとえをした少女の気持ちも分かります。ただその無邪気なたとえ話に自分自身縛られてしまった淳君が、ちょっとかわいそうでしたけれど。失恋の下りもせつない……。
こんな優しいいいこになぜこんなにかわいそうなことばかり降りかかるのか、とやるせない気分になってきたところで、ねここ登場。
淳君に対しては頼れるお姉さん的なポジションのねここ、格好良かったです!
そして鮭のおにぎりおいしそうです。コンビニたそがれ堂の配達販売ってまた胸をくすぐる設定ですね。
そのあとの壺の魔人とねここのやりとり、ねここ、強い!!さすがです。お腹壊さなかったかな。
雪柳の花も、花の名前も、美しいですよねえ。よいものです。
たばこ屋のおじいさんの愛情にもほろり。

『小鳥の手紙』
結婚を控えて幸せな若い女性が主人公の優しい春の物語。ささやかな幸せで満たされているこういうお話もいいものです。
幼い日の千花さんの不思議な手紙のやりとり。ラストまで読んでほわりと心温まりました。
千花さんと婚約者さんの馴れ初めエピソードもなんだか好き。手紙のやりとり、空に羽ばたく小鳥のつばさ、千に散る花々、なんというかひとつひとつのイメージの重なり合いが素敵です。新天地の蛙の島と不思議な手紙のやりとり、おとぎ話なイメージがまとまっているのもよい。千花さんは蛙好きの王子様に見初められたお姫様みたい、とか少女小説の読みすぎかな(笑)。
ところで千花さんがアップルパイとコロッケパンを買いに行ったパン屋さんは、例の三日月パン屋さんなのかしら。
違うとしても同じ町の人々に愛される同業者として、お店同士馴染みではあるんだろうな、きっと。と勝手に想像してみる。

『百貨の魔法の子どもたち』
星野百貨店のデパ地下のパティシエさんが主役……素敵な設定!(きらり)
冒頭からシュトーレンの美味しそうであたたかな描写にやられてしまいました。
そして瑛太少年と想少年のかつての物語へ。
あの思い出エピソードはそうか、ここにつながっていたのか!!
ふたりの少年の、塾の先生へのひたむきな思い、優しさと勇気と友情がぎゅっとつまった、一夜の冒険譚。
奇跡の猫とコンビニたそがれ堂のコラボ。なんというか、豪華ですね!!ふふふ。
大人たちも伝説や奇跡を心のどこかですまわせている風早の街が、やっぱり素敵だなあ。
シュークリームやレモンパイやマドレーヌや、今となってはどこか懐かしいお菓子がどれも美味しそうで心惹かれました。
シュークリームというと未だに『やまんば娘、街へいく』に出てきた、膨らみ損ねたシュークリームにクリームをふわっと、の描写を、思い出さずにはいられないです。あれを読んでいたのがまさに中学生の私でした。

あとがきを読んでいて、村山先生、それほどに大変な時期を過ごされていたとは……。
そんな中で、こんなに優しくて温かな物語をこの世に作り上げてくださって、ひたすらに感謝を申し上げることしかできないです。
これからもずっと応援させていただきます。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀