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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『百貨の魔法』村山 早紀 




風早の街の老舗百貨店・星野百貨店。
時代の波に抗しきれず閉店の噂もささやかれる中で、従業員たちは今日も店頭に立ち続ける。
願いをかなえてくれる「白い猫」と人々の夢がきらめく美しい物語。

村山早紀さんの新作『百貨の魔法』
『桜風堂ものがたり』の姉妹作、今回は銀河堂書店が入っている星野百貨店がメインのものがたりということで、読めるのを楽しみにしてきました。
読んでから感想を書くまでにちょっと間があいてしまい、細かいところを色々忘れかけてしまているのですが、それでもひとかけらでも感想を残しておきたくて。

実際に本を手に取り装丁の美しさにため息が漏れました。
瑠璃色というのか青色の表紙カバーも素敵ですし、カバーを外して百貨店の包装紙風のイラストがちりばめられている本体もまた素敵。
しかし実際にこの表紙の真価をみたのは、ラストまで物語を読み終えてから。
作中に出てきた一つ一つのモチーフが合わさりこの一枚の絵でひとつの世界が完成されていて、その素晴らしさに感服するほかありません。
可愛らしくて品があってお洒落で、まさに私のイメージするあこがれの百貨店。
ネイルか香水のびんを振りかけてキラキラした夜空をいっぱいに満たしたみたいな。

実際に読んでみても、今回も期待を全く裏切られない、とてもとても素敵な物語でした。
夜空の星のきらめきが、星に照らされた海の飛沫が、読んでいると心の中に静かにさらさらと広がってゆくような。
美しくて優しい読み心地でした。
あまりに心地よくて読み終えるのがもったいなくなるくらい。あえて何日かかけて、少しずつゆっくり読んでいました。
星野百貨店というだけあって、イメージは夜が似合う。
別に暗いという訳ではなくさんさんとした明るいお日様に照らされた百貨店もしっくり馴染むのですが、やはりちょっと静かで落ち着いた夜のイメージなんですよねえ。夢と現の境目といいますか。

百貨店で働く人達が順番に語り手を担う、連作短編集。
『桜風堂ものがたり』は主人公が男性の一整さんでしたが、比べてこちらの『百貨の魔法』は、女性の語り手が多く、よりフェミニンといいますか。ふんわり可愛らしくお洒落なイメージ。

何より心地よかったのは、星野百貨店の店員さんたちの職場や自分の仕事、お客様への姿勢。
内に百貨店の将来など不安を持ってはいても、仕事にはつねに真摯で誠実で、誇りを持って自らの役割をまっとうしていて、星野百貨店を愛していて、なによりお客様の満足、笑顔を大切にしていて。
読んでいるこちらも深い充足感を得られました。
皆の姿を読んでいると、ああ、私も自分のお仕事頑張らないとな、と、ごく自然と励まされました。

「魔法の白い猫」が作中何度もモチーフとして登場してきて、噂の新人コンシェルジュさんの謎めいた正体とは?というのも相まって、ファンタジーちっくな読み心地もまた、村山早紀先生のお話ならでは。
私自身もちょっと信じちゃいました(笑)。
でもこれも、まさに大人のためのおとぎ話、夢の物語。
皆の現実的で誠実な途方もない努力と想いの積み重ねが作り上げた、それがあってこそ導かれた奇跡なのだもの。夢を見てもいいじゃないですか。
ものがたりの世界の中なのだから。
と、『桜風堂ものがたり』を読んでいた時も確か似た感じに思っていたな。

ほろ苦い夢、叶えられなかった夢、色々な夢の記憶がありましたが、格好悪くなんか全然なく、これまでの人生を誠実に生きてきた人たちの夢はみんな美しく星みたいにまたたいている。
白い猫との絡め方が絶妙なんですよね。
あと思ったのは、百貨店の物語であると同時に、従業員たちそれぞれの家族の物語でもあったな、と。

『空を泳ぐ鯨』
いさなさん、というお名前の響きがまず素敵です。
エレベーターガールという職務にぴったり、星野百貨店へようこそ、館内は~~みたいな、まずはご案内の一話、そんなイメージでした。
結子さんといさなさんの邂逅の場面がお気に入り。村山先生が描かれる結子さんみたいな女性キャラクターが私はとても好きです。
サクラとテディベアのエピソードもほろ苦さも含みつつ柔らかで優しいお話で素敵。

『シンデレラの階段』
テナントの靴屋の咲子さんの物語。百貨店とテナントだとまた立場がちょっと違っていて、でも咲子さんたちも星野百貨店の一員であり百貨店を愛していて、やっぱり、いいな。
シンデレラ・ウィングの可愛らしくキラキラしたイメージがとても好き。杏さんの最後のメッセージに涙。
今靴屋さんとして誇りを持って働いている咲子さんも、やっぱり格好いいし輝いています。

『夏の木馬』
宝飾品フロアというと私はほとんど近寄ったことがなく遠くからそっと憧れのまなざしを注ぐのみなのですが、健吾さんのお母様への想いと相まって、なんとも美しく切なく、それでいてあたたかな愛情に満ちた、素敵なエピソードでした。
人として親として弱くてダメなところもあったけれど、美しくて息子を彼女なりに愛していたお母様、とても印象深く心に刺さりました。
屋上で食べたソフトクリームで寒くなる、という下りがリアルで私もぞわっときました。

『精霊の鏡』
一花さん、というお名前の響きがまた素敵でそれだけで好きになったのに、実際に読んでみても可愛らしく奥ゆかしい女性で仕事への姿勢も凛としていて、やっぱり私好みだったのでした。
そんな彼女の絵への複雑な思いと、偶然が導いた出会い、なにより淡い恋のはじまり。このお話私とても好きです~!!
雨にふられた花火大会、浴衣、なんだかこのちょっと残念だけど一緒に楽しんじゃえ、という仲間意識は、百貨店の従業員側だからこそかな、と思いました。Torinekoさんの好青年っぷりもいい。
併せて美容部のお化粧の魔法も込みで。いちばんロマンティックではなやかなエピソードだったかな。
みほさん側の語りも印象深かった。

『百貨の魔法』
最後に明かされていく結子さんサイドの物語。
途中でなんとなくうっすら感じるものもありましたが、そういうことだったのね。という。
お父さんもお母さんもひとりの人間で、上手くいかないことはあって、どうしようもなかったんだろうな。
おじいさんもまり子さんも、もちろん結子さんも、読みこむごとに皆、愛おしかったです。
うむむ、あんまりうまくまとめられないので、このくらいで。

私の場合ですが、「星野百貨店」は、地元のターミナル駅にある百貨店と、名駅にある「星野書店」の二つのお店が重なり合ったイメージなのです。
どちらのお店も十年以上ずっとお付き合いさせてもらっているお店で、特に地元の百貨店のそんなに大きくはなく新しくもないけどいつもぴかぴか磨かれて店員さん達のサービスも素敵なあのお店と星野百貨店のイメージはけっこう重なり合っていて、読んでから百貨店にあるお気に入りのカフェでひとりまったりお茶しつつ、浸っていました。

また一冊、心から大好きな物語にめぐりあえました。


十一月に入ってからそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀 

『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~ 3』青木 祐子 




天天コーポレーションの経理課一筋28歳の森若さん。
仕事とプライベートはきっちり分けたい彼女だが、ここ最近はややペースを乱されがち。
そんな沙名子さんの日常は今日も賑やか。
仕事熱心だけど周りから浮いている契約社員、逃げ癖ありの困った社員、社内のトラブルにはからずも首を突っ込む羽目になる沙名子さんだが——。


『これは経費で落ちません!』シリーズ第三弾。
作中ではクリスマスも近づき黒タイツの森若さんでした。

いやーこのお話ますます面白いですね!!!
とにかくもう沙名子さんが最高です。
今回も不本意ながら冷静沈着に社内のトラブル処理に大活躍で、キレッキレで、仕事もできるし、本当に格好いいです。
私から見ると何歳も年下なのに、きらきら尊敬と憧れのまなざしを送ってしまいます(笑)。
通勤の電車の中で読んでいるとほんとうにたのしく元気になれる。

相変わらず社内のトラブル(未満なものもあり)は、すっぱり綺麗に解決するでもなくもやもやっとしたものも残るのですが、そこがかえってリアルで共感して読める。
もやもやしているのに読んでいてすっごくスカッとして気持ちいいんですよね~!
このあたりの塩梅が絶妙です。
やはり登場人物のキャラクターと心理描写がものすごくお上手だからでしょうか。さすが青木先生。
沙名子さんの内心の突っ込みが毎回面白く共感大でうんうんうなずきまくってます。
二巻三巻と重ねるごとに、キャラクターがしっくり馴染んで、きてますます面白くなってきたように思います!!

私生活でもきっちり完璧なペースを築いている森若さんですが、太陽のことでペースを乱されがちで、そのことにイライラしつつも受け入れている彼女が、一方でものすごく可愛らしい。
沙名子さん本当に太陽のこと好きで恋しているんですねえ。いいですねえ~ふふふ。
太陽も、相変わらずお調子者で軽いノリですが、すごく一途で健気だし、沙名子さんの独特なペースをそのまま受け入れて尊重しているし、だんだん私の中で好感度が上がってきました。
「太陽さん」「沙名子さん」名前でさん付けで呼び合っているふたりがふたりらしくて好きです。

あと沙名子さんの後輩真夕ちゃんも沙名子さんと別のレベルで共感できて沙名子さんを理解して尊敬している感じも好感度大きい。
やはり経理部員のお互いの信頼関係が好きだな~。トラブルがあった際のみんなの一致団結っぷりが良かったです。

順番に簡単に感想を書いてゆくと、まずは派遣社員の千晶さん。
これもまたデリケートな問題ですね……。千晶さんと自分を比べて落ち込んでいる真夕ちゃんのことをフォローしている沙名子さんの場面が好きでした。いやでも難しいな。
次に馬垣さん。この人はちょっと嫌だなー!!
やばいことがあったら逃げたくなるという心理はたしかにすごくわかるけれど、こうして物語として客観的に読むと、駄目さが俄然あらわになって、自分自身は本当に気をつけよう……と改めて思えました(笑)。
自分にミスが多いことを自覚していてこつこつフォローと努力を惜しまない真夕ちゃんの姿が好きです。
そして山崎さんが思っていたより曲者でした。
太陽視点の休日のトラブル話、沙名子さんの名探偵っぷりがすごすぎる。沙名子さんならそういうこともあるだろうと思えてしまう辺りが沙名子さんのすごいところだな(笑)。さんまの塩焼き→さんまの煮物になる下りが好き。でもやっぱり塩焼きが美味しいんですよねえ。
最後の由香利さんのお話は、落としどころが思っていたより深刻じゃなくてほっとしました。吹っ切れたようで良かったです。
婚活パーティーの場面は、ちょっと『恋のドレスと舞踏会の青』の舞踏会の場面を思い浮かべてしまいました。
バーンズ姉妹はあれからちゃんと幸せな生活を送っているかなあ。
沙名子さんと由香利さん双方に趣味仲間ができたみたいで沙名子さんの気持ちも分からないでもないけれど微笑ましい。


「——ありがと」
戻ってきた太陽へ向かって、沙名子は言った。
「何が?」
わたしを好きになってくれて。
「この間のマグカップ」     (84頁)

沙名子さん可愛い……!!(じたばた)


エピローグの真夕ちゃん視点も、沙名子さん視点とはまた別な風に社内の人間関係をのぞきみることができて、面白くて好きです。
千晶さんの態度が人によって違うのはやっぱり若干もやっとするな。馬垣さんも。
経理部の新人さん、ラストに登場しただけでもうかなり強烈なので、これからどうなっていくのか非常に気になります。
あと太陽が他でもない沙名子さんの恋人(ですよね)と、真夕ちゃんはいつ気づくのかな~。

あ、あと勇太郎さんはやっぱりか……!と由香利さんのお話の最後の方を読んでいて思いました。
そして沙名子さんのスルーが完璧すぎて、沙名子さんらしく、いや経理部女子らしくて、ずっこけました。
勇さんと沙名子さんならそれはもう沙名子さんも自分のペースを乱されることもなくお互い分かりあえて完璧なパートナー関係を作れそうではありますが、沙名子さんが好きなのが太陽である以上はしょうがない。というかやっぱり沙名子さんの恋人としては太陽ぐらいのゆるくて明るいタイプの方が良い気もしますし。
でも勇太郎さん今後、沙名子さん以外の女性を見つけることなんてできないんじゃなかろうか……と今から心配だ。デリケートなひとですし。
とかなんとか色々思ってしまい、個人的にはこの巻でいちばん盛り上がったのって何気にこの場面だったりしたのでした。
もしかしたら勇太郎さん単純にクリスマスの有給休暇の話題だったという可能性もあるけれど。
なんで私がここでこんなに盛り上がるのかって、(成立すれば)年の差カップルだからっていうのもあるかもしれないな。(つまりものすごく好み)

読んでいて笑って元気になれるお話でした。大満足♪
そして『舞踏会の青』を思い浮かべてしまったこともあり、『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』を久しぶりに読み返したい気分です。
青木先生の描かれるお仕事ができる女子が私は大好きなのですよねえ。と今回改めて思いました。
クリスやパメラといい『ベリーカルテット』のシャノンといい。


ここ一週間にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 青木祐子 

『スロウハイツの神様 上下』辻村 深月 







中高生に絶大な人気を誇る作家チヨダ・コーキの小説で「人が死んだ」——凄惨な事件から十年。
脚本家の赤羽環がオーナーであるアパート「スロウハイツ」では、環とコーキ、そしてその友人のクリエイターたちが共同生活を営んでいた。
夢を語り物語を作り世間に作品を認められるのを目指して、仲間と共に足掻き全力を尽くす日々。
そんな彼らの日常は、新しい入居者・加々美莉々亜の登場によって、大きな変化を迎える——。


ずっと気になっていて、もう結構な前から積み本になっていた小説でした。
先週の三連休に、ようやく手に取ってみました。

最初の方は頻繁に移り変わる語り手と登場人物たちの個性の強さに若干話に入っていきづらかったのですが、次第にぐいぐいひきこまれてゆきました。
特に下巻から。ひとつひとつの何気ない伏線が予想外の方向に収束していくたびにうなりつつ、お話にも勢いがついて飽きさせず。
何より今までのすべての伏線がつながり大きくひっくり返された最終章には、やられました!!
ああ、もう、そういうことだったのかー!!すごくすごく良かった。
確かに最後まで読むと、究極の純愛小説だったのだなあ、としみじみ納得がいきました。
ピュアな恋心と人を思う優しさとそれが報われる瞬間のよろこびと、色々な感情がこみあげてきて、じわじわと目頭が熱くなりました。

チヨダコーキの作品を読むことで辛い境遇から救われた少女と、今度はその彼女のメッセージで絶望的な状況から救われたコーキ。
昔から読書好きで、辛い時やっぱり本(それもいわゆるライトノベルの類)の力で何度も乗り切って生きてきた私としては、やはりこのシンプルなエピソードが胸を打つ、良いものでした。
(途中でややもやっとしたものの最後まで読むとカタルシスがすごい)

あと芸術家の卵の若者たちが「スロウハイツ」で仲良く共同生活を営んでいる空気も、とてもとても好きでした。(コーキと環のふたりはすでにプロデビューしている訳ですが)
オーナーの環が何と言っても我が強い性格の女性で他の皆も個性的で自分の中にゆずれぬ芯を持っていて、必死にあがいているがゆえに時にぶつかり合ったり色々なこともあるのですが、確かな友情と絆で結ばれた仲間たちであり、読み進めていくごとにメンバー一人一人に愛着がわいてきて、ラストまでくるともう皆いとしくてたまらなくなりました。
私は特に下巻部分の環とスーの対等な女性同士の友情がとても好きでした!!
その作風からはむしろ一番遠く思える、コーキの不器用だけれど人としてどこまでもピュアで誠実で優しい人柄にも、惹かれました。

あと作中のここぞと言う場面で何度も登場する「ハイツ・オブ・オズのチョコレートケーキ」が最高に美味しそうで、読んでいて憧れの気持ちがどんどん膨らんでゆきました。

今さら私が感想を新しく付け加えるのもおこがましい人気作品なのですが、ネタばれこみの感想メモを、追記に少しだけ。


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カテゴリ: ミステリー・日常の謎系

タグ: 辻村深月 

『ひみつの小説家の偽装結婚 恋の始まりは遺言状!?』仲村 つばき 




覆面小説家のセシリアは、自らを見捨てた没落貴族の親から逃れるため、後見人の騎士ヒースとかたちばかりの結婚をしていた。
だがそのヒースが亡くなり、小説の売れ行きも芳しくなく、切羽詰まった状況に立たされたセシリアは、ヒースの遺言状によって、彼の部下クラウスと「二度目の」かたちばかりの結婚をする流れに。
最初は喧嘩腰だったクラウスだが、実はセシリアを上回る読書家で、セシリアが男性名義で書いている小説のファンであることが分かり——。


仲村つばきさんがコバルト文庫の方から出された新作。
すみれ色とクリーム色がかった柔らかなタッチのきれいな表紙とあらすじに心ひかれて手に取ってみました。

実際に読んでみると、これぞコバルト文庫と言いたくなるような、しみじみと品のある、とても良い少女小説でした。
派手さはなく落ち着いたタッチでつづられる王道パターンの物語なのですが、ひとひねりがちゃんときいていて、読み終えるとあたたかくやさしいもので心満たされる。
ああ、何だか私、このお話を読むことができて、とても幸せだなあ。
それほどボリュームがある物語ではないということもあり、一昨日くらいに読み終え実はすでに二回読み返してしまいました。
ロマンス、家族愛、友情、そして本や読書への愛情。すべてが読んでいて胸を打ちました。

ヒロインのセシリアは、金策に失敗し夜逃げした両親に置いていかれ、どん底の暮らしをしていたところを、親子ほどにも年が違う騎士団長ヒースに拾われ、「結婚」という形で保護された貴族の女の子。
仮面夫婦ながらもおだやかな生活を送っていたところに、その夫と死別し……というところから物語がはじまります。

若い身空でギリギリのところで苦労してきたセシリア、それでも小説を書きたいという強い意志は捨てることなく持ち続け、あきらめずに努力をし続け女流作家の小説は売れぬと言われてもあきらめず男性名義で書き綴り、彼女のこの不屈の精神が、なんといっても格好いい。
少し我が強くて、ひたむきで凛として、自らを客観的に様々な角度で見据え、目的に対しまっすぐに進んでゆく。
彼女の精神は、クラウスが評する通りに、確かに彼女が書く「セオ」の小説に出てくる登場人物像に自然と重なります。
けして完璧という訳ではなく荒削りで、でもなんだかとても心惹きつけられる。
彼女の不器用に背を伸ばして頑張っている姿に、そっと手を差し伸べたくなる。

最悪の出会いをしたセシリアとクラウスが、最初はお互い利害が一致するということでかりそめの婚姻関係を結び。
そしてお互い本が好き、しかもクラウスは「セオ」の小説の大ファン、というところから徐々に距離を縮めていき……そんな一連の流れが、ごく自然なタッチで描かれていて、自らの小説を迷いなく絶賛されて身もだえるセシリアに微笑ましくなりつつ(笑)、王道ながらにとても良かったです。
ふたりとも本当に本が好きなんだな~というのが端々から伝わってくるのが、読書好きの私としてはまた嬉しくにまにまするポイントでした。
現実的な読み方をするセシリアに、比較的ロマンチストなクラウス。


クラウスにとって読書とは、箱庭だった。
本の頁をめくることは、美しく手入れされた庭を逍遥する行為に似ていた。
景色を楽しませてくれるが、どこへもつながることはない。
そのうち孤独をすっぽりとおおいくるんで、クラウスの意識を濃くて温かい霧のなかに閉じ込めてくれる。それで良かったのだ。
だが、マクウェル家の書斎に通うようになってから、クラウスは霧の中で彼女を捜すようになった。
クラウスの視線の先には、質素なドレスに身を包み、本のページをめくるセシリアがいた。
いつしかそれが心地よいと思うようになっていった。   (180-181頁)


クラウスというヒーローがまた、過去の戦争で親友を喪い心に傷を負って、他人を全く寄せ付けなくなってしまっていた孤高のひとで。彼が読書、とりわけ「セオ」の本の世界にのめり込むようになった気持ちが、これも私にはなんだかとてもわかる。
そんな彼が、実際にセシリアに接するうちに、徐々に心を許してゆくさまも、淡々とした態度ながらに彼の気持ちが透けて見えるようで、また良かったです。
不器用だけれど優しい人で、相手のプライドを傷つけずに如才なく仮面夫婦を演じそっと寄り添いあう、そこはセシリアに似ている。お似合いです。
パンを買ってベンチで読書し仲睦まじく寄り添っているふたりの場面が大好きです。(パンもおいしそう)

一度は距離感を間違えまた大きくすれ違ったふたりですが、突然の別離、クラウスのけがと帰還、色々あって、結局はすべてがまるくおさまって、一連の流れがまたとても良かったです。
セシリアがクラウスの父に切々と訴えた彼への想い(理詰めで自らを客観視していてこんな場面なのにとてもセシリアらしい)を、実はクラウスは狸寝入りして全部聞いていた……という下りが、もう本当に泣き笑いですよ!!「ばか!」としか言えない(笑)。

で、こんな仮面夫婦だったので、甘い場面というのはほぼ皆無だったのですが、ラスト直前のふたりのやりとりのときめき感といったらもう、もう、言葉にならない!!
今までが抑えられていた分余計に、といいますか。ひかえめにいって最高でした。
クラウスの「それだけ本を読んでいて、口だって回るのだから、俺の言葉の意味を察するべきだ」というのが、セシリア向けの最高の殺し台詞でした。
あとセシリアの返答を聞いた後のため息。堅物で言葉少なな青年だからこその色気……。
ほんのり甘えるセシリアもいかにも若奥さんらしく可愛くてもだえます。それに照れてるクラウスも可愛い!

クラウスに出会い恋を知りすべてを糧にしたからこそ書けた新作、そしてセオの正体をようやく明かすラストも、完璧でした。最高でした。
このふたりへの、ヒースのちゃめっけたっぷりの愛情がお話全編にいっぱいに満ちていて、それを改めて再認識させられました。
図書館への夢が、クラウスとセシリアが語り合うことでどんどん具体性を増してゆき現実的になっていく場面も、ふたりこれからよきパートナーになれることをはっきり見渡せたと言いますか、しみじみ良かった。ヒースが結んだ縁が尊い。

クラウスの家族もなんだか読みこんでいくごとに好きでしたよ。
デューイお兄さんも軽いノリながらクラウスのことをちゃんと理解しセシリアへのフォローもナイスでしたし、おとうさんも上のお兄さんも、なんだかんだ弟君をちゃんと大切にしているし。
セシリアの両親も、親としては完全失格だけれど人として極悪人ではないし、まあ、今が幸せならばもうそれでいい。というスタンスで。

あとセシリアと男性名義の小説家仲間のフレデリカのふたりの、お互いを高め合う友情関係も、またとても良かったです。
ふたりのお茶会のお菓子がはなやかで最高に美味しそうです。
セシリアが迷い悩んでいるときフレデリカが差し伸べるアドバイスが、美味しいお菓子と共にいつも的確でうなってしまいました。
カートも最後の最後できりっと格好良かったな。
マルコ氏もあれでなかなか頼もしかったし。
誰より何より頼もしくてユーモアと包容力があって素晴らしかったのは、もちろんヒース氏でしたけれどね!!文句なく!!

セオの小説のタイトル通りに、灼熱の苦労の時代から、しんしんと孤独な冬、雪解け、そして明るく優しい春の世界へ。
そんな転調を感じるお話の流れでした。


なんだかお話の魅力をこんなにたくさん語ってきたのにまだ語り尽くせない!!というもどかしさ。
少女小説好きさんにはとてもおすすめです。ぜひぜひ、読んでみてくださいませ。

最後に、読んでいて私がなんといってもうらやましかったのが、読書好き夫婦が共有できる、夫婦で一度に十五冊くらい買っても収納場所に悩まなくても済むくらいの、お屋敷の立派な書斎(笑)。


カテゴリ: コバルト文庫

タグ: 仲村つばき 

『ぬばたまおろち、しらたまおろち』白鷺 あおい 




両親を交通事故で失い山深い村の伯父の家に引き取られた綾乃。
十四歳になる彼女の秘密の親友は、白い大蛇のアロウ。
村祭りで舞い手をつとめた夜、サーカスから逃げたアナコンダに襲われた綾乃は、村に来ていた女性民俗学者の大原先生に救われる。
けがを負った綾乃は先生の母校であるディアーヌ学院に連れていかれてそのまま入学することに。
だがそこは、妖怪たちが魔女と一緒に魔法を学ぶ奇妙な学校で——。


はじめましての作者さんのお話。
荻原規子さんの『RDG』に近いとか色々ネット上で情報をみてこころひかれて早速手に取ってみました。

幼馴染の大蛇に外国風の魔女の学校に寄宿舎ものに少女の成長と冒険と友情、淡い恋、キラキラした設定がこれでもかとつめこまれた、宝箱のようなお話でした。
作者さんが心から楽しんで描かれたのが伝わってくるよう。
私も読んでいてものすごく楽しかった!!
少女小説好き、和風ファンタジー系が好きな人間にはとくにたまらない仕様となっていました。
表紙イラストの雰囲気が本の内容にとても良く合っているので、あらすじと表紙でぴんと来た方は、手に取って損はないかと。


以下、ぼかして書いたつもりですがやはり一部ネタバレ含み感想です。ご注意を。


お話の舞台は、まずは綾乃が伯父に引き取られ暮らしていた岡山の山奥の村、そして関東にあるディアーヌ学院、さらには時を超えた世界にまで。
明確に章立てされているわけではないのですが、お話の流れ自体はシンプルで辿りやすい。
(たぶん全体がうっすらとつながっているからこそヒーローの背景が生きるのではないでしょうか)

なにより主人公の綾乃と幼馴染の大蛇のアロウ(雨太郎)の関係が微笑ましい。
十四歳にして大蛇の婚約者になるなんて、なかなか心ときめく設定ではないでしょうか(笑)。大蛇の結婚式の約束が素敵。
そんななかで村祭りの舞い手、不穏な昔ばなしもありなにかはあるなと思っていましたが、案の定。
大原先生とアロウがとても格好良かった!

そしてディアーヌ学院での新生活。
雪女やのっぺらぼうや人狼やあずきとぎ、妖魅(妖怪)達の子女が、フランス風の学院で箒に乗って空を飛び魔女の勉強をしているという和洋折衷ファンタジーとりどりの設定が、読んでいて斬新!とても面白くワクワクしました。
寄宿舎のルームメイトの絵葉ちゃんが食いしん坊で情にあつい良い子で彼女と綾乃の友情が好きだな~。
この学院にはこの学院なりにスクールカーストが存在し、異性関係や出自のことや色々ぎくしゃくもするのですが、はじめ異分子だった綾乃がしだいに学院に馴染んでゆき友達と楽しそうに学び楽しそうに過ごしている様も、また良かったです。
綾乃が箒で空を飛べるようになるまで、なかなかたいへんでした。みんなすごい技術持ってるんだな……。感心。
お茶会やパーティーのごはんや食堂の定食までごはんもおいしそうでした。「お八つ」という表現がなんだかレトロでディアーヌ学院の雰囲気に合っていてお気に入り。

そんな綾乃の学院生活で次第に大きな存在になっていくのが、大原先生のおうちの末の弟・雪之丞。
涼しい目をした読書好きの少年に私はとても弱い(笑)。彼と綾乃の距離がまた少しずつ縮まっていくごとに、アロウの存在を思うと複雑でどうなっちゃうんだろう……とどきどきしながら読んでました。
冬休みに大原家の家族たちと温泉で過ごす場面も好き。雪女のお姉さんたちとのぶっちゃけ女子トークが楽しかった(笑)。
(なにげに三重県の温泉だったのも親近感ましまし)
しかし綾乃と雪之丞の読書トークは良かったです。これも王道ですね!

ツチノコ騒動や恐怖の(笑)夜間遠足や下級生のケンカの仲裁やいろんなイベント目白押しで楽しんでいるうちに、綾乃の田舎への帰省、そして思ってもみなかったタイムスリップ。
箒に乗りたがるすけべな河童たちに和み華乃子さんの身の上にそういうことだったのか!と思ったり。
お初さんが有能で柔軟で合理的な思考の持ち主でとても格好良かったです!お菊さんも伝説で想像していたよりは明るくしっかりした女の人でした。あ、みどりさまもすてきでした。
なにより雪之丞の正体は、途中から薄々そうかなあ……と思っていたのがラスト直前に一気につながって、やっぱりそういうことか!そういうことならば良かったです!!彼の告白がシンプルで心がこもっていてよかった。

最後の最後でいろんなことが丸く収まって、後味も良かったです。
個人的に伯父さん夫婦とちゃんと話し合い納得の上今後を決められていたのがほっとしました。
『ぬばたまおろち、しらたまおろち』というタイトルも、ラストまで読むとしっくりなじみます。

いやあ、こういう楽しいお話が世の中に新しく出てくるなんて、読書を続けてみるものですねえ(笑)。
個人的にはとくに細部に至るまでオリジナルの設定をとにかく味わい尽くして楽しむタイプのお話でした。
王道パターンのお話ももちろん楽しかったですけどね!王道ばんざいです。

『ハリーポッター』や『RDG』を彷彿とさせる設定のお話で、でも面白いのが、綾乃ちゃんはハリーポッター実際に読んでいて学院生活のいたるところで実際になぞらえている、という描写がはっきりとあるところかなあ。
『カーリー』も読んでいる綾乃ならば、きっと荻原規子さん作品も読んでいるのではないかしら(勝手に想像)。
そしてアロウと言われると、ついつい『伯爵と妖精』シリーズを思い出してしまう私。このシリーズも実際遠からずじゃないかな、とか。

きれいにまとまっているお話ですが、これは続編とかあればぜひ読んでみたいです。
ディアーヌ学院高等部編とか。綾乃の友人達のその後やロマンス談もちょっと読んでみたい。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: ファンタジー(和風)

タグ: 白鷺あおい 

『わが家は祇園の拝み屋さん6 花の知らせと小鈴の落雁』望月 麻衣 




高校2年生に進級した小春。
京都で不穏な事件が続発する中、事態を重く見た澪人は、小春や朔也達と対策チームを結成し、かつて京都にはりめぐらされた護りの結界を補修しようとする。
一方小春は胸にわだかまる「後悔」の理由を解き明かすため、自らの前世をすべて知ろうとするが——。


『拝み屋さん』シリーズも六巻目。
『ホームズ』シリーズ八巻目を読んで間もないうちにこちらのシリーズも新刊が読めるなんて、とても贅沢ですねえ。
作者さんは刊行ペースが安定してお早くて、読者としては嬉しいです。

ふんわりはんなり女の子らしい和風ファンタジーで、本のボリュームも薄めで、構えずに気楽に読めるのが、このシリーズの魅力のひとつだと個人的には思ってます。
とても読みやすいのですが中身は色々つまっていて読み足りないということもなく充実感ありますし。
今回は特に前世のエピソード&前世から現在にまでつながるロマンスのエピソードがだいぶ明らかになって、盛り上がりもあって、とても面白く読むことができました。
切なさとときめき感満載。
あと平安時代ネタも堅苦しくない程度に描写があって、京都の雅な描写や京都弁も品よく安定していて、こちらもまた楽しい。

友風子さんの表紙が毎回まずとても楽しみなのですが、今回は十二単。美しい……眼福です。
着物の色目と鈴と猫と合わさって素敵です。

さてようやくすべてが繋がった玉椿姫の前世エピソード。
左近衛少将と夫婦になってからの彼女の心の変化と二人の結末が、とても切なく苦かった。
これは確かにふたりとも辛い。ふたりが悪いという訳ではなく、もうめぐりあわせが上手くいかなかったのだとしか……。
特に玉椿姫の後悔が胸にじくじく迫ってきて辛かったです。
水晶をにごらせずに生きるって、ものすごく難しい、のだと思う。
そしてこんな状況でも、ふたりとも相手を恨まずに自分の中に後悔を抱え込んで苦しんでいるので、いじましい。(特に左近衛少将)
玉椿姫のお誕生日を祝えて良かった、というのが、現世での小春のお誕生日祝いの場面にも重なりあわさって、よけいにぐっときました。

同時に少将の前世の記憶もちの澪人さんの本心、小春の告白を拒絶した理由も、ようやく繋がりました。
そういう意味で身を引いていたのか……はたから見ているとじれったいったらないですが、辛い。
小春のお誕生日会や宗次朗さんとの会話とかでもうだいぶ澪人の本心は透けて見えてきてましたが(ふふふ、結局のところ彼もまだ成人したばかりの若者なんですよねえ。私から見ると微笑ましい)、なんといってもラスト近くの和人お兄さんの場面がとても良かった。
和人さんの弟への愛情に読んでいて涙ぐみました。
ようやく引き出された澪人さんのストレートな本音にぐっときつつ。
バイクの二人乗りのエピソードといい、賀茂家の三姉弟の仲の良さが私はしみじみお気に入りです。

ふたり以外に目を向けると、クールビューティー由里子さんが内にとても可愛らしい面を持ってらして、和みました。
コウメちゃんほんとうにかわいいですよね!
愛衣ちゃんと小春の友情もやはりいい。朔也くんがなんだかんだいってよき仲間に落ち着いたようでそこもほっとしました。(澪人さんの複雑な心境が……またうっかりときめいてしまった。笑)
京都に迫る危機の正体、確かにそういうこともあるんだろうな、と。
澪人さん結成のチーム、にわかごしらえと言えばそうかもしれないけれど、配役も理屈もきっちり考えられていてさすがだと思いました。

同時に進行していく小春と和人さんのデート。
物凄く気になるところで物語が終わってもだえました。はやく、続きを!!!

そうそう、杏奈さんあれから元気で活躍しているようで、ほっとしました。
宗次朗さんの愛情の形がとても格好いい。
吉乃さんと宗次朗さんの親子の遠慮ないやりとりもあいかわらず和みます~。

あいかわらず和菓子も影の主役を張っていると言っていいくらい、おいしそう。
やっぱりサブタイトルにもなっている小鈴の落雁がとても斬新でおいしそうです。
涙して水色のくずきりを食べる場面も印象的でした。
志津屋のカルネも小倉山荘のおせんべいも吉乃さんのすきやきも誕生日の抹茶ケーキもみんなおいしそう。


もうすぐ発売の望月麻衣さんの新作もとても楽しみです♪

カテゴリ: ファンタジー(和風)

タグ: 望月麻衣