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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『コンビニたそがれ堂 祝福の庭』村山 早紀 




『コンビニたそがれ堂』シリーズ第6弾。
本当に欲しいものがあるひとだけがたどり着けるという、風早の街の不思議なコンビニ、たそがれ堂。
街角の洋品店で働くつむぎが手にした品と聖夜の思い出『ガラスの靴』、老いた少女漫画家と彼女の屋敷を訪ねてきた少女の交流『神様のいない家』、サンタクロースに手紙を書いたかつての少年たちの物語『祝福の庭』の三編収録。


ゆったりペースで息の長いお付き合いができてうれしい『コンビニたそがれ堂』シリーズ。
今回のたそがれ堂は、収録作品すべてがクリスマスの物語。
今の季節に読むのにぴったりです!!

『祝福の庭』サブタイトルにふさわしく、クリスマスの夜の金色のきらめきがまばゆく美しい表紙です。ながめていてあたたかく幸せな気持ちになれる。
三郎さん格好いいしねここはちょっとつんとすました感じなのが可愛いのですよ。
どちらも人ではないミステリアスでちょっと怖いような雰囲気もありつつ、人の世のクリスマスのあたたかなきらめきの中にしっくり調和したたずんでいるのが、三郎さんとねここらしくていいな。
ねここのお着物とエプロンドレスが可愛らしくてときめきます。

大人になり現実を知っても、「クリスマス」っていいなあとしみじみ素直に思える、三編ともそんなお話でした。
物語の中の、現実と夢の塩梅が、なんというか絶妙で。
大人のための美しいファンタジー仕立てになっていました。

私の家でも、サンタさんの正体は最初からばれていたんですが、大好きなお父さんがサンタクロースだから!と私は幼心に全然不満はなかったし、むしろ嬉しかったな。
好きなプレゼントの希望は聞いてもらえるし、家族で一緒におもちゃ屋さんやデパートに出かけるというイベントがまた嬉しかったし。
あとがきまで読みそんなことをつらつら思い返しつつ。

『ガラスの靴』
洋品店アザレアという店名もいいし、つむぎさんというヒロインの名前とそこに込められた由来がとても好きでした。
つむぎがミヨコちゃんに贈ったシンデレラのワンピースと夢のひと時の場面が、優しくて可愛らしくて最高に良かったです。
凍えそうに寒そうな場面ですが読んでいて心がぽかぽかあたたかくなりました。身を寄せ合う女の子二人のささやかな秘密の香りが魔法のひとしずくみたいで。
シンデレラに魔法をかける精霊の役の方に憧れ、ラストも心から幸せそうに働いているつむぎの姿が、読んでいてとても幸せで格好良かったです。
ミヨコちゃんではなく、つむぎの方がヒロインというのが、きりりときいていますね。
ふたりの再会の場面も幸せで読んでいて涙がにじみました。
たそがれ堂のおでんのおいしそうな描写に改めて惹かれてしまいました。寒い季節のおでんは最高……。
あと、「心根のきれいなお嬢さん」って最高の褒め言葉だと思いました。

『神様のいない庭』
一見シリアスなタイトルに思えましたが、三作の中でいちばん明るくコミカルなタッチのお話だったかな。薔薇の小物遣いが素敵。
マイペースで素直で家族思いの少女こずえちゃんの、ひと夏の冒険仕立て。
大好きな『秘密の花園』のようなワクワク感も味わえてとても良かったです。風早の街のお屋敷ってどうしてこんなに夢があるんでしょう。あの秘密の近道も子ども心に最高にときめきますね!
さくら先生はなるほど、ツンデレっぷりがとても可愛らしいお方でした(笑)。読んでいくごとに優しいお方なのです。
さくら先生の過去の回想に胸が締め付けられましたが、ラストのケーキの場面がとてもとても幸せで良かったです。
こずえちゃんの名前の由来が分かる場面もお気に入り。
『ひまわり冒険者』シリーズ、私も読んでみたいです。
ねここのお稲荷さんと熱いお茶もおいしそう~!

『祝福の庭』
幼馴染の駆け出し芸人コンビの秀一と圭介の、クリスマスの奇跡の物語。
三作の中でこれが一番純粋にクリスマスなお話だったなと思いました。
性格も境遇も違うけれどずっと親友でコンビを組んでいるふたりの、優しく純粋で他人のためにためらいなく身をはれるところがなにより共通していてまさに親友で、男の人の友情っていいなー!!と読んでいて思わずにっこり笑顔になれました。
ふたりそれぞれの親とのエピソードが心に残りました。

ねここがたそがれ堂の店員さんとしてもしっくり馴染んできていて、シリーズ二作目『奇跡の招待状』の『ねここや、ねここ』の悲しくてきれいなねここのお話を思い返しては、またほろりとしつつ、読了。
人の子の営みをずっと微笑んで見守っていてくれていて、ありがとう。みたいな。

そしてあとがきを読んでいて、私自身、中学生の頃に読んだ『はるかな空の東』のナルやサーヤやハヤミさんやユリアたち、『やまんば娘』の由布ちゃんや千鶴ちゃんやお銀さんたちが今でも心の中に生きているので、そういう意味でもとても嬉しい気持ちになれました。


ここ一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀 

『桜風堂ものがたり』村山 早紀 




月原一整は、銀河堂書店の文庫担当の青年。他者と関わるのを避ける傾向にあるが、かくれた名作を探し出す目がありまた誠実な仕事ぶりで、同僚たちには信頼されていた。
しかしある日、書店内で起こった万引き事件により、一整は書店を辞めざるを得なくなる。
そんな一整は、ネット上でかねてより親しくしていた、桜風堂書店の老店主を訪ねるために、桜野町に旅に出る。
彼を待ち受けていたのは、思いがけない出会いと運命で——。


村山早紀さんの新作は、書店員さんが主役の、長編書きおろしの一冊。
大人の男の人が主人公のお話って、村山先生のお話にはちょっと珍しいかもしれない。と読んでいて思いました。

あらすじと、げみさんの柔らかくて優しくて美しい表紙イラストに惹かれて手に取って。
少しめくってみたら、主要登場人物の一人の娘さんのお名前が、「苑絵(そのえ)」さん、というのが、目に留まり。
他の作家さんのお話で恐縮ですが、荻原規子さんの古代日本ファンタジー小説『薄紅天女』のヒロイン・「苑上(そのえ)」が好きで大好きな私は、もうこの名前の響きに心の中でぴんときて、これは今すぐ読むしかない!と。
小さなころから私、リアルでも物語の中でも、人の名前というのがすごく好きで、お気に入りの名前の響きをいつまでも心の中に転がしてうっとりたのしんでいるところがあるので、こういうきっかけで何かのお話を読みはじめる、というのが、実はときどきあります。
苑上という人物も好きだし、彼女の名前の響きも好き。どちらが先か主かは分からないし、どっちでもいい。

話を戻しまして。
村山先生のいつものスタイルとは少し違い、ファンタジー要素はほとんどないのですが。
読み終えてみると、この物語もまさしく、村山早紀さんの書かれた「奇跡」の物語であったなあ。と思いました。
表紙のイメージの通りに、やわらかくてあたたかな桜の花散る本棚の海に、しばしまどろんでいるような。
現実には大変なことはもちろんいっぱいあるのだけれど、それでも本を愛し、未来を信じて働く人々の姿は、読んでいて美しく、心が洗われるかのようでした。
『四月の魚』が、世の勢いに乗り何重にも奇跡の物語となっていく過程は、美しいファンタジー。なのだけど、浮世離れしているわけじゃないのよ。
裏には途方もない人々の努力、苦労の積み重ねがあり、人々の作品への愛と祝福があり、そういうすべてのものに裏打ちされた、奇跡。
現実の世界にだって、こんな物語がもしかしたら、あるのかもしれないですよ。いや、きっとありますよ。
読み終えて、そう信じたくなる。

読む前に思っていたより文章量があり中身もかっちり作りこまれていて、ゆっくりときどき休みつつ、それでも最後まで一気読みしました。

本屋さん業界の諸事情、バックヤードのお話が、部外者の私にはひとつひとつ新鮮で、お仕事小説としてまずとても楽しかったです。
今の世の中は本当に厳しいのだな。と改めて思いました。万引き事件のエピソードも書店側の不利益とか丁寧に書かれていて、それでも犯人の少年の事情も辛いし追い詰められていく一整も本当に辛いし……。読んでいて胸を抉られました。
そんな世の中でも、本を愛し書店を愛し毎日たくましく働く銀河堂書店の店員さんひとりひとりが、読んでいてステキに格好良くって、関わり合いをもつ作家さんや出版社の営業さんや星野百貨店の人々や、すべてのひとびとが、格好いい。
こんな風に己の仕事に誇りを持ち日々働く人に、私もなりたい。
一整を追い詰めた「闇」の部分を持つネット、SNSが、物語の終盤では、書店員たちの横のネットワークとなり素晴らしい奇跡を起こす伝達手段となり広がっていき収束していくのが、ああ、上手く言えないんですが、良かったなあ。

主人公・一整青年の人となり、たたずまいが美しかったです。
辛い過去から心を閉ざしている一方で、書店員としての真摯な働きぶり、他者との関わりを避けているわけではなく誠実なところが、本への愛を静かに感じさせるところが、すごくステキで、確かに私まで惚れ込んでしまいました。
『竜宮ホテル』の響呼さんの男性版キャラというか。そんなイメージでした。

ヒロインの一、苑絵さん。
私が名前で惚れた人。「内気で夢見がちな美しい娘」なんて設定まで私好み(笑)。
育ちのいい繊細で優しい苑絵さん、一整さんを王子様と重ねて憧れて恋している苑絵さんが、読んでいてもう本当に可愛らしくて、わあ、幸せですねえ!野薔薇を持った王子様の絵本のエピソードが美しい。
だからこそ一整のあの事件はこたえますよね。
彼の力になりたい一心で、彼女にとって本当に大きな一歩を踏み出した苑絵さんが、また良かったです。
彼女の絵は、私の中ではゴーギャンの『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』のイメージでした。
(私自身が一番つらかった時代にテレビ番組で観てなにか心の救いになった作品というのがあり。)
一整さん、なんだか脈ありな感じでしたし、内向的で感性豊かなふたりお似合いだと思いますし、応援してしまいます。ふふふ。

ヒロインの二、渚砂さん。
苑絵さんの親友の若きカリスマ、明るく元気で有能な書店員のお嬢さん。
彼女が恋した相手は……。そ、そうきますか。
苑絵さんとは事情が違うとはいえ、なんだか渚砂さんがちょっとかわいそうで報われないな……と残念に思っていたら、ラスト近くで小さなフラグが立ったようで、これならまあ、大丈夫かな。
先生も、一整さんとはまた別の過去のトラウマを抱えたひとで、知的で優しく内面は繊細な大人で、このひともやっぱり好きだ。お似合いだと思いました。
渚砂さん自身にも過去の傷があるようで、それでも強く凛々しい渚砂さんが、やっぱり大好き。幸せになってほしいです。

柳田店長も塚本副店長も頼れるダンディーな書店員さんで格好いい~!

都会の銀河堂書店とはまた趣が全然違う桜風堂書店も、店主の心がいたるところに込められた、素敵な書店だなあと思いました。
一整が桜風堂書店にごく自然に馴染み書店をよみがえらせていく過程が、読んでいてとても心地よかった。わくわくしました。
店主さん、すごく心配だったのですが、持ち直したようで、本当に良かったです。
透君もいいこです。塩麹漬けの鶏もも肉は美味しいですよね。
透君と一整の人生がこうして交わって、どちらの面からも本当に良かったなあとしみじみしました。
猫のアリスとオウムの船長も、欠かすことのできない物語の大切な登場人物。

『四月の魚』を私も読んでみたいな。
リカコさんつながりがラストで判明する流れにうなってしまいました。

あと、一整が桜野町を目指して春の旅に出る場面が、静かなんだけれど浮き立つようにわくわくして、道中の風景が美しくて、お気に入りな部分でした。
自然界の描写がとても美しい物語でもありました。すべて書き尽くせないのだけれど。

私は文才もないし絵も描けないし、胡蝶亭さんや星のカケスさんみたいな素敵な書評はとても書けないけれど、それでも私なりの「恋文」が書けたらいいな、とか思いつつ、やっぱりいつものとりとめのない感想文になってしまいましたが。
本を愛するひとに、おすすめな一冊でした。
実際の本屋さんに出かけて本棚をじっくりじっくり見つめてみたい。
魅力的なキャラクターがたくさん出てきて全員が自身の能力をすべては見せきってくれていない気がするので、続編ぜひ読みたいです。個人的にはロマンスをちょっと進めてほしい(笑)。


ここ何日かにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 村山早紀さん

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『竜宮ホテル 水仙の夢』村山 早紀 




『竜宮ホテル』シリーズ第三弾。
魔法の力に祝福されて不思議をまねく「竜宮ホテル」。不思議の目をもつ作家・響呼とあやかしの娘・ひなぎくのふたりももうすっかりホテルの住人として馴染んでいる。
ひなぎくが節分の夜に出会った不思議『水仙の夢』、響呼が縁あった小さな書店を訪れる『椿一輪』、白猫のおもちゃの幽霊がつないだ『見えない魔法』など、四編の物語収録。

『竜宮ホテル』シリーズ、新刊ずうっと楽しみに待っていました。
前回のお話が出たのは、2013年12月だったのですね。もうそんなに経ったのかあ。
この間にも村山先生の他シリーズの新作や過去の作品の復刊などいろいろたくさん読めて、寂しくはなかったのですけれど。
実のところ、現在刊行中の村山先生のシリーズものの中で、私がいちばん愛をそそぎ続きを待ちわびているのは、こちら『竜宮ホテル』シリーズなのです。

サブタイトルの『水仙の夢』なんて美しい言葉の響き。
今回の遠田先生の表紙イラストもため息が漏れるほど美しく深みがあって、ひなぎくちゃんがとてもとても可愛らしくて、喜びを胸に静かに頁を開き読みはじめました。
最初に登場人物紹介があって、少しお久しぶりな登場人物たちの名前を、いま一度再確認できたのが、ありがたかった。(まあ何度も読み返しているのでほとんどの名前はもちろんおぼえていたのですが、ひとり、キーパーソンのお名前を確認できて良かったなと、後々。)

今の季節にまさにぴったりな節分の物語からはじまって、季節を共有して読み進められたのはなんとも幸せでした。
すぐにクリスマスになり一瞬時間の流れに戸惑ったのですが、あとがきを読んで、そちらは納得。

響呼さんの優しい丁寧語口調、クラシックホテルの優美でゴージャスな描写(あくまでゆかしい描写なのがまたよい。シャンデリアとか)、響呼さん達のストイックで静かな誇りがうかがえる作家ライフ&編集者ライフ、遠田志帆さんの奥行きのある挿絵、等々、村山先生のお話の中でも特に格調高く端正で、古き良き少女小説という風情。
そういうものが読んでいると頁の端々からにおい立つように感じられて、ああやっぱりこの雰囲気好きすぎる……!と、読んでいてうっとり。
優しくてていねいな物語を読んでいると、私の心も静かに澄み渡り浄化されてゆくここちがしました。

響呼さんとひなぎくちゃんのふたりがホテルで同居している何気ない生活の描写が微笑ましく(ひなぎくの作る和風のていねいなあさごはんだとか、響呼さんがひなぎくの寝起きを魔法の糸のように感じ取るところとか)、ああふたりはもうすっかり姉妹で家族になったのだなあと、読んでいるとこちらも幸せで満ち足りた気分になれました。
ホテルの同居人さんたちもますますしっくり物語に馴染んできていて、今回直接登場がなかったひとたちであっても、確かな生活の息遣いを各場面に感じ取れて、嬉しくなったりね。

『水仙の夢』
節分の夜の、ひなぎくと青鬼の、夢のように美しく優しく幻想的な旅。ひなぎくの懐かしの水仙の花畑。
夜空を飛ぶふたりの場面と、柳さんが響呼さんに語った昔話を重ね合わせると、胸が締め付けられるような心地がしました。
ひなぎくのおとうさまのようだった、青鬼さんの物腰が、このふたりの心情が、想像するとたまらないです。悲しくやりきれない感情も水仙の美しい場面に吸い込まれて溶けていったような、いっそう印象的に思えました。
青鬼の娘の方も数奇な運命をたどったのだなあ。彼女のエピソードも読んでみたくなりました。
柳老人がまたひとつ新しい顔を見せてくれたな、と。読めば読むほど底の知れないお方です。
私の中では柳さんは『カフェかもめ亭』の銀の鏡の悲しすぎる少女の物語の語り手のイメージがいちばん強く、今回のお話はあの悲しみと、通じるものを感じました。
そして確かに柳さんと響呼さんは、立場を同じくしているな、と。影の部分が。
『カフェかもめ亭』といえば、満ちる先生のおつかいの紅茶、きっとここのお店のですよね!林檎の松の香りの紅茶素敵です。
そしてひなぎくちゃんのうさぎさん帽子姿が、想像するともう可愛らしすぎて、想像するだけでもだえています(笑)。
贈り主の嬉しそうな描写にもほっこりです。
そしてラストは千草庵。心にくい演出です。
このお話の読後感が残っているうちに、日の出前の世界を歩いて堪能しておかなければなと思いました。
あと、最初のひなぎくのこたつ賛美、住人総出の豆まきの記録もほっこり幸せでお気に入りな場面でした。

『椿一輪』
こぐま座書店に泉屋書店、また素敵な響きの名前。きりっとした仕事人の世界をまたひとつ新しく読めて楽しかったです。
響呼さんの出張、作家ライフの描写がまた楽しい!図書館での講演と聞けばよけいに熱を入れて読んでしまいます。
(たぶん私がこの図書館にいるとしたら講演会前後に椅子を倉庫から出し入れしたりそんなポジションだな……と入り込みすぎてそんな空想にひたりつつ読む)
椿の花とストーブにあたる猫、鮮やかな色が切り取られた描写が印象的で、しんと切ない気分に。
響呼さんの苦心の作のサインの行方に、ほわんと、優しい気持ちになりました。

『見えない魔法』
携帯電話の開発に携わっていた青年の語りがとても興味深く、彼の朴訥とした人柄がまたとても好もしかったです。
私自身は高校一年生のころに携帯電話を買ってもらい三、四回買い替え十数年使い続けていた人間で、振り返れば携帯にはなんてお世話になってきた人生だったのだろう。この『竜宮ホテル』シリーズの二巻目を読み終えたころだって、普通にガラケー使ってたよなあ。確かにスマートフォンの時代がこんなにわっと広がるなんて、もちろん想像もできなかった。
時の流れのはやさを感じて私も一瞬めまいがしました。
彼の挫折がだから本当につらかったですが、白猫のおもちゃの幽霊さん、ああ、良かった。
帰ってきたあと出迎えてくれた家族の描写も好きでした。

『雪の精が踊る夜』
響呼さんと愛理さん、満ちる先生の友情が、とっても好きだなあ!と思いました。
優しすぎて親を嫌えずどんどん弱っていく愛理さんの姿はとても辛かったです。世の中って本当にやりきれないこといっぱいある。
あとひなぎくちゃんの秘密の魔法のお勉強、なんだかとても好きでした。(なかなか恐ろしい事態をひきおこしましたが……)
『天気の本』というタイトルでようかいの子ども向けのやさしい魔法のテキストって、とても私のつぼにはまりました(笑)。
美鈴さん、思っていたより明るく愉快な方で、優しく愛情深くて、ひなぎくとお話している姿にほっこり。最後の「お疲れ様です」が良かった(笑)。愛理さんの母親のエピソードと同時に美鈴さんのエピソードも辿れたのは救いでした。
そして草野先生と響呼さんが語らう場面。
竜宮ホテルにいれば、響呼さんの先祖からの力は、やすらうのかもしれない。響呼さん、ずっとここに住んでいいのかもしれない。
確かに響呼さんは、幸せを受け取れるだけの善行は、十分すぎるほど積んでいるよな、と、私も深々と頷きました。
響呼さんほど優しくお人好しの人なんて、そうそういないよ。彼女の少々斜に構えた一人称語りではすぐには分からないけれど。
「何よりも寅彦が悲しみます」の台詞、響呼さんが考えているのより百倍くらい深刻さがあるよねと、勝手に深読みして想像してにまにましていました。
ここであとひとつ気になるのが、草野先生の奥さま、寅彦さんのお母さまがどんな方だったのか。
普通の「ひと」であったのかどうかも謎に包まれていて。なにせ竜宮ホテルですからねえ。

さて今回の話で唯一・最大に物足りなかったのが、寅彦さんの出番が少ないー!!というところでした(笑)。
知的で穏やかでテリア犬のような寅彦さんが私は大好きですし、私がこのシリーズでいちばん愛しているのは、響呼さんと寅彦さんの初々しく奥ゆかしすぎるロマンスの進展だったりしましたので……。
寅彦さん、大好きな響呼先生をもっとちゃんと捕まえておかないと、この街や全国各地にたくさん存在しているであろう先生のファンに、いつかかっさらわれてしまうんじゃないかしら。
と、特に第三話を読んでいて、私は真剣に心配してしまったのでした。
響呼さん全然自覚してないし。
第一巻の幸せと不幸せの問答をしていた出会いから、ふたりはきっと知らず恋に落ちていたのだと、ホテルで暮らす間に無自覚に愛をはぐくんできていたのだと、私は信じています(笑)。
これ以上お似合いのふたりはいないよ~。
本当に、次巻こそは、初々しく奥ゆかしい二人のロマンスっぽいエピソードに、期待してます!!
いや、その前に、寅彦さん自身のまともな出番を、待っています(笑)。
安斎先生との出番では、忙しい日々にますます心労が増えそうで心配ではありますが……。


村山先生の今年のご予定も盛りだくさんな感じで、読者としてはとても楽しみですが、先生も、お身体大切に、お健やかにいらしてほしいなと、切に思ってあとがきまで読み終えました。

あと、ブログ感想に書き損ねていましたが、新装版『天空のミラクル』も、読みましたよ!



焼きたてラングドシャとアップルパイが夢のように美味しそうで、小学生の女の子たちの友情と、大切なものを守るため立ち上がった少女の勇気が、心に響きました。
こちらも、続きが読めるのを心待ちにしています。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀 

『かなりや荘浪漫 星めざす翼』村山 早紀 




『かなりや荘浪漫』シリーズ第二弾。
古い洋館アパートかなりや荘で、編集者の美月や元漫画家の幽霊・玲司に才能を見出され、漫画家の道を目指す茜音。
なかなか思うような漫画が描けずあせる茜音。その一方で、美月が復帰した編集部に、新しい動きがあり。
茜音とかなりや荘の住民たちの日常の物語にくわえ、茜音の母で小説家のましろが主役の番外編も収録。


村山早紀さんのオレンジ文庫シリーズ『かなりや荘浪漫』、第二巻。待ってました!わーい!
オレンジ文庫の中の私のお気に入りベスト三作のひとつです。

今回の表紙も、たそがれ時みたいな淡い光の色加減が、茜音と玲司の表情が、猫たちと漫画のお仕事道具が、素敵ですねえ。
この机、茜がここに座って一心に漫画を描いている様が、自然に想像できる。
そして本を開いての、登場人物紹介の頁の、みんな勢ぞろいでお茶会イラストが、かなりお気に入りです。
お茶のカップのお盆を持つ茜音と、ドーナツのお皿を持つカーレンが向かい合っていて、ふたりの表情やしぐさが楽しそうで可愛らしくてふふふ。テーブルのシュークリームやドーナツもおいしそう。
この場面でも玲司のちょっと物憂げで澄んだ表情が、良いのです。この表情を向けている対象はかたわらの茜音なのかどうなのか、はっきりと判断はできないあたりが、ね。

冒頭の、茜音作ハロウィンのかぼちゃシュークリームが素敵に美味しそうで、ユリカがうらやましい……。かぼちゃとシナモンの組み合わせは最強です。

さてものがたりは、村山早紀さん作品調のやわらかくて優しい救いの物語であると同時に、どうやら私が思っていた以上に、今後はがっつり漫画家お仕事ものになっていく感じ。
村山早紀さんと熱血漫画家お仕事ものの組み合わせって今まで想像したことなかったけれど、なんだかとってもわくわくします!
今回は名前のみ登場の、茜音の将来のライバル娘達が、とっても気になる私。
美月さんやあとがきで村山さんご自身も語っておられましたが、今後よきライバルであると同時に友人として仲良くしている様が、現時点でのほんのすこしの情報のみで、すでにうっすら想像できます。
女の子の友情もの、可愛らしい女の子が仲良くきゃっきゃっしているお話が大好物の私ですので、次の展開がとても楽しみ。

今回のお話でまず私の心に響いたのは、美月さんが復帰した編集部の、新しい雑誌の立ち上げ話、雑誌とネットの関わり合い、ネットの住人と読書の、新しい結びつき。などなど。
私は村山早紀さんご本人を日々Twitterでフォローさせていただいているので、その延長線上のような感覚で、編集長のお話を読ませていただいてました。
村山早紀さん作品の自然と人との関わり合いとか、こういう、今の世の厳しい現実をふまえた上での、それでも未来への希望や愛を感じられるご持論が、私はとても好きです。読んでいると私もまだまだこの世も捨てたもんじゃないなあと明るい気持ちになれる。
私がこうしてネットのすみっこで、愛する本の感想をぼそぼそ書いている行為も、ほんのちっぽけなものかもしれないけれど、「魔法」になれているのかしら。だとしたら、とてもとても嬉しく幸せなことです。なんて。

美月さん、ハードそうな職場ですが、イキイキ働いていらっしゃるなあ。格好いい。
同僚さんも、昔からのライバル編集者絵馬さんも、みんな仕事に一心で、皆さんが語る漫画家さんのお仕事ぶりもやっぱりとてもハードそうで、漫画を愛する私としては、これは一層心して読まないとなあ。とか思ったりしつつ。
美月さんにもなんとなく春の予感が?とか思ったり。(どきどき)
絵馬さんと美月さんの焼き鳥食べつつの語らいの場面も好きでした。同じ男性のことを今は二人笑って語り合えるふたり、いいな。
お仕事ばりばりできる女性ふたり、うう、容赦がなくて格好いいです。
絵馬さんのお身体のことは、ちょっと心配なのですが。

茜音の漫画『スターダスト』も、タイトルと文章でのあらすじから、ぎゅっと心がつかまれました。
確かに茜音が描く漫画なのだなあという。ヒロインが結婚した相手が音楽の教師で、ふたりで聴いたスターダスト、光が散るようなピアノの音、という描写に、惹かれました。
叶うならば、漫画のかたちで現実に茜音の漫画を読んでみたい……。

茜音と幽霊の青年玲司との関係性も、やはりとても好きです。
意外にデリカシーのない発言をする玲司が、茜音に機嫌を損ねられてちょっと途方に暮れている感じなのが、妙に可愛らしい。クールな天才漫画家青年という印象とのギャップが……。
ふたりで飛行船をながめる場面が、好きだなあ。
幽霊であることを悲壮感なくネタにする玲司、玲司を自然に受け止めてる茜音、心通わせ楽し気に会話するふたりが好きで、ほんのりふたりそれぞれ意識しているような描写もあったりして、玲司が幽霊でなければ、お似合いのふたりなのに。ううん。
茜音が悲しい想いをすることには、ならないといいなと思います。
それにしても玲司格好いいです。知的でおだやかな文学青年系ヒーロー大好きなのです……。

強面の男性住人のことだったり、ユリカと人気子役の少年とのささやかな交流だったり、どのエピソードもお気に入りでした。
ユリカと茜音の思い出の味あけび、ユリカが小遣いぎりぎりで買った銀座のお店のお土産シュークリームがまた夢のように美味しそうで。
シュークリーム食べたいです。カスタードクリームと生クリームたっぷりの、ひんやりやわらかな甘くて美味しいシュークリームを。

そして番外編『空から降る言葉』ましろさん主役のお話。
前巻を読んでいる限りでは困ったお母さんだなあ、と思っていたましろさん、その悪印象のいくらかは、ましろさん本人が意図して作っていたものだったのか……ましろさんの思っていた以上の覚悟に、茜音への確かな愛情に、胸がぎゅっとしめつけられました。
池袋の喫茶店、世話になった編集長、西新宿のホテルの人々との再会、そしてあのラストまでたどり着くことができて、本当に良かったです。本当にほっとしました。
村山早紀さんの作品に出てくるホテルって、どこも素敵で憧れてしまいます。
母娘の再会もかなってほしいし、父親の方も、きっかけさえあれば、上手くいくと、私は思うのですけれどね。
生きてさえいれば。玲司のことも思うと、本当に。
雪の化身か妖精さんのような浮世離れしたイメージだったましろさんが、今度は確かな母親の姿で、私の心の中にしっかり印象を残してくれました。良かった。
そしてましろさんの過去の辛いエピソードを読んでいると、今茜音をサポートする編集者が美月さんみたいなひとで、茜音を守ると誓いをたてているひとで、それはとても安心できることだなあ、と。

それにしてもシュークリームが美味しそうなので、やはり作者さんご自身も推奨されているとおり、美味しいシュークリームのご準備を、できれば。
村山早紀さん作品でシュークリームといえば、中学生のころ読んで以来心の隅っこに残っていた『やまんば娘、街へゆく』(『海馬亭通信』→感想)のふくらみそこねたシュークリームに生クリームをふわりと、とも重なり合って、一層魅惑の食べ物ですね、私にとって(笑)。


ここ一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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『コンビニたそがれ堂 神無月のころ』村山 早紀 




『コンビニたそがれ堂』シリーズ第五弾。
本当にほしいものがある人だけがたどり着ける不思議なコンビニ「たそがれ堂」。
神無月のころ、店長さんが不在のたそがれ堂の店番は、化け猫の少女ねここ。
青年が近所の聞く昔の美しい遊園地の物語、遺産相続で「幽霊屋敷」と噂される洋館をおばからゆずりうけた女性の物語、金木犀の咲くころのささやかであたたかな触れ合いの記憶——。
ちょっと怖くて懐かしくて優しい物語、全五編収録。


『コンビニたそがれ堂』ゆったりペースでのシリーズ第五弾。
今回のたそがれ堂は、「神無月」ということで、いつもの店長さんが不在。
代わりに店を守るのは、なんと、『奇跡の招待状』で登場した、化け猫少女のねここ!
ねここのお話大好きだったので、思いがけない形で再会できて、とても嬉しいです。わーい!

そして今回は表紙のイラストレーターさんもかわられていて。
ハロウィン柄の着物にエプロンをつけたねここが和風モダンでとても可愛らしいです。

今回の表紙に、私が最近ふっと思ったこと。
今までの『コンビニたそがれ堂』の私の中のイメージって、明るく淡い黄金色。でした。冬の昼下がりのひだまりみたいな。
シリーズ一巻目の表紙イラストみたいな感じの。
甘辛いお稲荷さんのお揚げの色、出汁をふくませことこと煮込まれたおでんの大根の色。
でも本当の「たそがれ」時って、もう少し、空は暗く深い色。なんですよね。私の中のイメージの話なんですけれど。
秋は日に日に暗くなるのが早くなってゆくので、帰り道の電車で「たそがれ色」に染まった外をぼうっと眺めながら本を読んでいて、なんとなくいろんなことを考えていました。

そんな風に考えた理由のあとひとつは、今回の『たそがれ堂』のお話の雰囲気。
ねここが店番をしているつながりなのでしょうか、シリーズ二作目の『奇跡の招待状』から直接連続しているような、いつもより闇がくっきり深い、異界にふとつながり連れ去られてしまうような、ちょっと怖い雰囲気が、読んでいて印象的だったのでした。
生者につながり想いを残す幽霊たちは、ひどく、『人魚姫』や『魔法の振り子』(どちらも『奇跡の招待状』収録の短編)をほうふつとさせるもので。
私は個人的にシリーズ既刊の中では『奇跡の招待状』がいちばん好きなので、ひやりとした読み心地も、とても、良かったです。
なかでも一番好きな『魔法の振り子』の薫子さんを見守り続ける薫くんの姿が、『三日月に乾杯』のあのにぎやかな人々の姿にも重なって、読み終えて、じわじわと胸にきました。

ちょっと斜にかまえててでも本来は人に愛されて育った猫、寂しがり屋できまぐれで、でも人間が大好きな女の子。
店にやってくる人たちへの視線がとてもねここらしくて、シリーズ特有のあたたかく優しい雰囲気はそのままで、そういうのも、良かったなあ。

『神無月のころ』
そんな感じで読んでいると、瑞穂ちゃんには、『雪うさぎの旅』を重ね合わせてしまう(笑)。
悲しい別離のお話だけど、淡く優しく可愛らしい小品。
空き地の隣にある小さな会社の若いお姉さんみたいなひとに、少しでも、近づきたい。

『幻の遊園地』
哲也さんと昭子さん、世代も生まれ育ちも全然違うのだけれど、ご近所つながりのふたりの交流が、とても好きだなと思いました。
昭子さんが語る過去の物語がきらきらあたたかくて美しくて夢のように素敵。風早の街は本当に魅力的です、こんな素敵な遊園地の記憶も内包していて。
ふたりの哲也さんつながりも、良い感じです。

『夏の終わりの幽霊屋敷』
廃墟のような古びた洋館を相続することになった翻訳家の女性がヒロイン。
まず「幽霊屋敷」とヒロインの名前の「真昼さん」の取り合わせが、秀逸。今回の本で私がいちばん気に入った部分は、ここかもしれない。
真昼さんという名前のひとを受け入れられるお屋敷は、たとえ廃墟のような幽霊付きであっても、悪いものじゃない。という安心感が、最初から心の中にありました。
怖がりな幽霊たちと遭遇し、自分自身の人生のこととか偉大な先輩でもあった叔母さんのこととか色々考えつつも、お屋敷と共存の道を選ぶ真昼さん。女性として共感して読めたのもあり、とても良かったです。
翻訳家としてのお仕事事情も、興味深く読みました。

『赤い林檎と金の川』
在心堂書店の斎藤さん再登場!
童話のような美しいタイトルではじまるふるさとの懐かしい物語、悲しい事故。
斎藤さんの過去にこんな物語があったとは。
最後のねここと凛子さんのひっそりした触れ合いに、ひやり、と。

『三日月に乾杯』
金木犀の香り漂う、父と娘の絆にほっこり涙する物語。でした。良いですねえ。
最後の方で、幽霊たちがあつまり語らいあう部分が、幽霊たちのあつまりなのに全然ホラーじゃなくて、優しくてあたたかくてとても好きでした。
特にファミレスの店員さんの女の子に想いをつげられないまま逝ってしまった青年のささやかなエピソードが、なんだろう、とても心に残りました。

金木犀の花が咲く頃に、もう一度読み返したい一冊になりました。


ここ連休中にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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『花咲家の旅』村山 早紀 




亡き妻との思い出の土地につかの間旅立つ祖父の木太郎、古い楠に守られた山で数奇な運命に生きる親戚をたずねるりら子、花に愛されたはにかみやの歌うたいの娘と出会う茉莉亜。
植物にまつわる不思議な力を持つ花咲家の人々の、六編の旅のものがたり。

『花咲家』シリーズも三巻目になりました。
今回はどのお話も全て「旅」がテーマ。夏の季節にもぴったり。
「迷いも悩みも、旅している間は、忘れよう」
文庫の帯のコピーが素敵。まさにその通り、この本を読んでいる間は、村山先生ワールドの優しく魅力的な異世界に、現実世界のあれこれをふっと忘れて完全にトリップ。
電車のおともの読書にいつも以上にぴったりでした。

前巻からすこし成長した三姉弟に再会。
特に桂くんの成長には目を見張るものがありました。
茉莉亜とりら子の性格の違う姉妹もやっぱりどちらも大好きで、彼女たちのまた新しい物語を読めて、とても嬉しい!

各話ごとに、すこし。
『浜辺にて』
木太郎おじいさんの思い出語りの中の琴絵さんが、まさに菫の花のようにすてきな女性で、読んでいて私までとりこになってしまいました。
昔の風早の街、古書店の店番の娘の元に通う若き日の木太郎さんの姿を思い浮かべると、なんというかものすごく絵になります。
琴絵さん、恋人より背が高いのを気にしてついつい猫背歩きになってしまったり、火照る頬を白いきれいな手でおさえてはにかむ仕草だったり、すべてのエピソードが初々しくかわいらしく読んでいて幸せ。
次から次にあふれだす思い出はとにかくすべてが幸せでロマンティックな一方で、ふと現実世界に戻ってきた木太郎さんの、浜辺での涙が、身を切られるように寂しくて悲しかった。孤独に涙を流す木太郎さんに、私までもらい泣きしてしまいました。
九州のレトロな香りのする街や旅館の描写もさりげなく良かったです。きっと旅館の食事は今も美味しい。になぐさめられました。


花の言葉が聞きたいと、花の心が知りたいと、君はいつもいっていたけれど、君自身が花だったんじゃないか。  (47頁)


花咲家の主が伴侶に贈る、目がくらむような最上の愛の言葉。

『茸の家』
猫の小雪が不幸なアクシデントで一人旅に放り出されてしまい、家に帰ろうと進む途中で出会った光の茸のおうち。そこに暮らすおばあさんと猫の丸子さん。
丸子さんが語るおばあさんとの絆がとてもあたたかくて優しくて素敵。ご縁だったんだな。
小雪がもらったごはんの風景が、このお家のものも、花咲家のものも、どれもほっこり美味しそうで幸せそうで、素敵だな。と思いました。

『潮騒浪漫』
草太郎お父さんがりら子と桂に語る、若き日に北欧で出会った奇妙な若者たちと彼らにまつわる植物と冒険の物語。
りら子視点での草太郎お父さんへのいらだちが、ああ、十代の女の子だなあ……となんだかとても微笑ましかった(笑)。知的で物静かで学者肌で格好いいイメージの草太郎さんなので。私の中では。
植物にまつわる闇の一部分がふっとつまびらかにされて、ひやっとくる物語でした。
あんな環境でそれでも自分にできるせいいっぱいの範囲で草太郎さんを助けようとした少女の姿がひどく印象に残りました。

『鎮守の森』
将来に迷いが生じて進めなくなってしまったりら子が、花咲家の親戚をたずねていく物語。
賢くて何もかもちゃきちゃき物事を進めていたりら子だって、迷い立ち尽くしてしまうことも、それは、あるよね。
幼い日のお母さんとの思い出に深くかかわるその理由を聞いていると、胸がきゅうっとします。なんていいこなんでしょう。
彼女を信頼し見守る花咲家の家族たちがあたたかくて良いですね。
そして楠夫さんのひょうひょうとした雰囲気と、りら子に親戚視点で優しく助言を与える姿、昔語りの中の彼の選択、後にりら子が訪ねた楠夫さんの家族の姿、すべてがあいまって、心に染み入ります。
帰らぬお父さんをずうっと信じ続けていた母と娘、ふたりを見守っていた植物たちの姿にも涙が。

『空を行く羽根』
茉莉亜さんが、花に愛されたはにかみやの歌姫・ゆすらさんと出会い、辛い過去を経てちぢこまっている彼女をそっと見守り後押しする物語。
一家の長女でカフェの主、お姉さんな茉莉亜さんやっぱり好きです!こんなに格好良く頼れる美人のお姉さん憧れです。物語がきゅっとしまります。
桂くんやりらちゃんの成長を優しく見守り、自分も含め冷静に姉弟の適性を観察し、自分のかつての夢を微笑んで振り返り、今後のことに思いを馳せたりする茉莉亜さん、とても好き。
そんな茉莉亜さんが出会ったゆすらさんがまた魅力的なお嬢さん。
山桜桃って前々から素敵な響きの花の名前だなあと思っていたのです。
茉莉亜さんや周囲が思っていた以上に過去の傷は根深くてなかなか立ち直れないゆすらさんの姿に心が痛みましたが、最後には彼女の「友人」達ががんばってくれました。
私も幼いころは同い年の友達ができずに祖父母の家の花や木が友達……みたいな面も少し持ち合わせていた過去があるので、花たちの好意が、本当に嬉しく感じられたというか。
適切なタイミングで忠告をくれた有城先生、彼の想いが報われる日が来るとよいなあ。今回のお話でよけいにお似合いだと思った茉莉亜さんと有城先生。
レストラン等々力の轟さんも良い人だな。茉莉亜さんとの関係も良い。シチュー美味しそうです。
(そしてゆすらさんが演じるという、故郷をなくしてさすらう歌うたいの妹王女様、という役どころが、『はるかな空の東』のナルに重なって、もうナルとしか思えない、という。笑)

『Good Luck』
中学生になった一家の末っ子桂くんの物語。
一冊を通して今回いちばん成長を感じたのは、この桂くんでした。
植物にまつわる花咲家の力もぐんと強くなっているようで、この先の成長が少し空恐ろしいとさえ。
でも心優しく勇敢で賢い桂くんだから、今のままで家族にかこまれある限りは、きっと大丈夫。困っている人の心をくみ取り寄り添いすっと助けられる最強の魔法使い(ちょっと違う?)になれるよ。そんな風に素直に思えた今回のお話でもありました。
先生と桂くんとの友情は、今後も続いていくんだろうな。

今回お気に入りは、『浜辺にて』『空を行く羽根』だったかな。
読んでいると、道端の小さな草や街路樹や塀をおおうつたの葉や、重たげにゆれる稲穂や畑のさといものつるりとした葉っぱにまで、私もささやかな祝福の力を分けてもらえるような、そんな気分になれました。現実世界に返ってきてもしばらくは花咲家の幸福な奇跡の力につつまれているかのよう。
叶うなら、木太郎おじいさんや草太郎おとうさんみたいに、三姉弟みんな、将来運命のひととめぐりあって恋に落ちて、やがては幸せな家庭を築いて、絆を受け継いでいってほしいなあ、と今回特に思ったのでした。


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