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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『東京すみっこごはん 雷親父とオムライス』成田 名璃子 




年齢も職業も異なる人々が集い手作り料理を食べる共同台所「すみっこごはん」。
夢をあきらめかけた専門学校生、妻を亡くしたがんこな老人、勉強ひとすじの小学生。今日も誰かが誰かとご飯を作り、みんな一緒に食べてゆく。
そんなすみっこごはんが、街の再開発の対象地区に含まれているとのうわさが。
すみっこごはん解散の危機に、常連の皆は動揺する——。

『東京すみっこごはん』シリーズ第二弾。
一巻目のお話がとても好きだったので、続編が出てくれて嬉しいです。
あざやかな黄緑色に食材に作品のキャラクターたちに、可愛らしくていかにもおいしそうな、眺めているだけでちょっと元気がでそうな表紙がやはり良い。

現代日本で生きる人々が内に抱える辛さや寂しさが、ふくふくとおいしそうな家庭料理で、そっとほぐされていく様がいいなあと思いました。
田上さんや金子さん、柿本さん、丸山さん、楓ちゃんに純也くん、奈央さん、前作のレギュラーメンバーも引き続きすみっこごはんでご飯を作り食べていて、なんだかほっと安心できる風景でした。
柿本さんの渋柿対応もよきスパイス。
素人が、レシピの通りにひとつひとつの手順を踏んで、みんなの協力も得つつ、ていねいに作っていくお料理。
すみっこごはんに集う人々の優しさも相まって、読んでいると、疲れた体と心にしみいるよう。癒されました。
(なんだかこの辺『甘々と稲妻』というまんがに通ずるものがあるような)
あとごはんの描写が、ほんとうに!おいしそうで!
唐揚げも筑前煮もハンバーグもミートローフもおいしそうでしたが、今回の私的ベストは、なんといってもオムライスでした。

『本物の唐揚げみたいに』
沙也さんの何をやっても上手くいかない辛い立場が読んでいてひりひりとせまってきてこちらも息苦しくなりました。
金子さんの料理人として、年上としての沙也さんへのアドバイスが、素敵だったな、と思いました。
現実にはやっぱりたしかな未来は見いだせないままでも、それでも友情が再び結びついたのは、良かった。
揚げたてジューシー唐揚げはなにかの魔法がかかっているみたいですね!
沙也さんと金子さんがちょっといい雰囲気かなとか思ったけれど、そこまでには至らないのか。惜しい。(?)

『失われた筑前煮を求めて』
章タイトルがはまっていてお気に入り。
私も筑前煮、大好きなんですよねえ。そして私も絶対に母の味と同じに作れない……。
癖がある頑固なご老人有村さん。すみっこごはんに行って、はじめはまあ案の定あれこれぶつかっても、意外にみんな有村さんのこと嫌っていなくて、すっと馴染んでいっている感じなのが、良かった。なんだかんだいいひとなんですよね。
おじいちゃんっこの楓ちゃんと有村さんのペアがいい。
亡き奥さん・初恵さんのことを、本当の本当に大切に愛していたんだろうなというのが端々から伝わってくるのも、良かった。
「ちょちょいのちょい、ですのよ」という初恵さんの台詞が今にも聞こえてきそうな。
隠し味の種明かしとその理由にまた胸の奥がつんとしました。

『雷親父とオムライス』
『失われた筑前煮を求めて』と連続したお話。
勉強漬け、危険を排除した安心な食品漬け、でがんじがらめなんだけれど当人はそれをあたりまえと思っている秀樹くん。読んでいてなんだかな……と思いつつ。本人はとても素直で賢いよいこで、すみっこごはんのみんなとの交流も楽しそうで、良かった。
特に有村さんと秀樹くんの関係がいいですねえ。有村さんの悪い笑顔……。
純也君も交えての「おでかけ」がとても楽しそうで、その後のお別れが、悲しくて切なくて仕方がなかったです。
楓ちゃんと純也君の気持ちも辛い。
秀樹君が有村さんと一緒に作る「オムライス」の場面がすっごく美味しそうで楽しそうで、私もオムライス食べたい!
お肉に小麦粉をまぶすとか、レンジでバターライスを作るとか、さりげない一工夫が光ってる。これくらいなら次に自分でも試せそう。
最後にたまごをえいやっとひっくり返した田上さんが最高に格好良かったです!!

『ミートローフへの招待状』
前作からのレギュラーメンバーのひとり・主婦の田上さんが主役のエピソードで締めくくり。
再開発の件ですみっこごはんにもスパイが?疑惑の中、旦那さんと二人でミステリー仕立てで調査をしていく田上さん、頼もしくて輝いてました。ここの夫婦も仲良さげで憧れてしまいます。
田上さんがすみっこごはんの常連になっていった理由もさりげなく書かれていて。
田上さんが作る家庭料理はふくふくあたたかくてたっぷりしていて本当に美味しそうですよ。
スパイの正体は、なんとなくこのひとかなあ……と思っていた通りでした。
でも確かに、常連さん一人一人がそれなりに怪しい要素を備えていて、ちょっと焦っちゃいましたよ(笑)。
有村さんの息子さんに確かに父の血を感じる部分があって、楽しい気分になったり。
ミートローフも手毬寿司も手間暇かけて作った豪華な家庭料理でしめくくり。最後には明るい話題も出て、優しい気持ちでページを閉じることができました。


ここ最近の食べ物系小説のなかでも、かなりお気に入りの作品です。おすすめ。
暑さや忙しさにへとへとになった心がこの作品でだいぶ癒されまるくなりました。


ここ一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 成田名璃子 

『がらくた屋と月の夜話』谷 瑞恵 




OLのつき子さんがある日道に迷いたどり着いたのは、老人が営む奇妙な骨董品屋。
そこはがらくたの品ひとつひとつに秘められた「物語」を売る店だという。
河嶋骨董店に落とし物を探しに通うようになったつき子は、がらくたとそこに関わる人々の不器用で優しい物語に触れていき——。

谷瑞恵さんの単行本、現代日本が舞台。
月と夜の世界で、古い品々(ブロカント)がそれぞれの秘める物語を語り、現実の人間達の物語も重なり合ってゆく、独特の世界が読み進めるごとに素敵で、途中からすっかりはまりこんでしまいました。
苦い過去もふっとほどけて心安らぐエピソードとして結ばれていく、谷瑞恵さん作品の心地よさよ。
つき子さんの大人な淡い恋もゆっくりと育ってゆき、ロマンティックな世界観にうっとり。
タイトルもですが、千夜一夜物語を思わせる物語のつくり。
私の脳内でずっと流れていたのは、NHKのみんなのうたの『月のワルツ』でした。
夜の闇や千夜一夜物語がひめるほの暗さ、残酷さ、そういう要素も物語の中には確かにあるのですが、読んでいて不思議とそういうのは表に出てこない。柔らかくてぼんやり白い霞の世界にすべてのものがくるみこまれているかのような。
一見がらくた扱いされてしまうブロカントの品でも、ここにいれば何より大切で価値のあるものなのよ、ここにいてもいいのよ、と柔らかく肯定されているかのような。
お人好しで何物も否定せず偏見の目でみず、澄んだ優しいまなざしを注ぐつき子さんは、とびきり素敵なシェヘラザードでした。(主な語り手は厳密にはつき子さんではないのですが……。)

『タイムテーブル』
最初のころはそれでもうさんくさく思えた河嶋老人、作業着姿の天地さん。
未亡人と旅したタイムテーブルの物語にそれでも惹かれてしまいました。

『白い糸のジュエリー』
つき子の友人・成美さんと彼女のお母様の間にあるわだかまりと、美しいレース。
メヘレンレースなんてはじめて聞きました。レース職人の娘と母親、幸いの鳥のモチーフ、少女小説好きにはたまらないエピソードだなあ!

『特等席の彼女』
天地さんの職場の工業高校に通う梨香ちゃんがしんどい境遇で必死にあがいていて。
彼女の思い出の椅子とおいしそうなナポリタンに心をぎゅっとつかまされました。
お友達って本当に切実で難しい。つき子さんとぎこちなく交流している梨香さんが良かった。つき子さんのお人好しさに頭がさがる……。
赤ん坊と子猫を救ったチャーチチェアのお話もじんわり心温もってとても良かった。

『未来からのドッグタグ』
ドッグタグが語った男の運命。一度は姿を消した男を待ち続け「おかえりなさい」と出迎えた妻の場面に涙ぐみました。
天地さんの事情がますます複雑に重たく思えてくる。

『夜のトワエモア』
つき子さんが探し求めていた指輪がようやく見つかり、今度はつき子さん自身が自分の物語をかたる。
指輪がつないでいたあまりに思いがけない縁に、天地さんの感謝に、胸がきゅうっとしました。
つき子さんの過去の苦い記憶もすっかり書き換えられて、なんて幸せな指輪なんだろう。トワエモアという言葉の響きも素敵。
つき子さんとのりちゃんの会話も好きでした。つき子さんの美質をきちんと理解し接してくれるひとで本当に良かった。

『角ウサギの夢』
天地さんと河嶋老人、天地さんの母親の過去の物語がついに。
皆不器用で優しくて、偽物かもしれなくても愛情は本物だったのだと思う。天地さんが育ってきた境遇は辛いな……。
ヴォルペルティンガーなんてはじめて存在を知りました。なんか『伯爵と妖精』シリーズの世界観を思い出します!
キスをめぐるつき子さんと天地さんの会話が微笑ましすぎました。

つき子さんと、ぶっきらぼうで付き合いづらいけど心根は優しい天地さん、読みこむごとにお似合いです。
ふたりで鈴カステラとか抹茶ケーキとかお茶している場面が和んでお気に入りでした。
まるい鈴カステラひとつまで物語を内包しているかのような、不思議なおとぎ話風作品世界でした。

現代の働く女性のための少女小説、みたいな。とても素敵なお話でした。
『伯爵と妖精』シリーズまた読み返したくなってきたなー(笑)。

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 谷瑞恵 

『ぶたぶたの甘いもの』矢崎 存美 




町の小さな稲荷神社の参道にたたずむ「和菓子処しみず」は、知る人ぞ知る人気の和菓子屋さん。
ちょっと風変わりな職人さんがこしらえる春夏秋冬の和菓子はどれも絶品で——。

『ぶたぶたさん』シリーズの今回の新刊は、和菓子屋さんでした。
食べ物がメイン素材のぶたぶたさんシリーズは最高なのです。

ぶたぶたさんの存在そのもの、ぶたぶたさんの日常至るところの細やかな心遣い、出てくる美味しそうな食べ物の数々に、ほんわりゆるく和み癒されて、ちょっと疲れ気味の通勤の電車のおともなんかには理想的でした。
文庫本の中でもスリムな形状をしていて持ち運びやすいのも良い。
形状といえば、今回の表紙の優しい桜色、ぶたぶたさんそのもののようで和みますねえ~。
和菓子の中にぶたぶたさんの顔のおまんじゅう?がさりげなくまじっているのも楽しい。

感想も、食べ物の話しかしてませんので、ご了承ください(笑)。

『お狐さまと私』
ぶたぶたさんイコールお狐様にしてしまう発想が面白い!
ゴマ餡のゴマ団子と普通のゴマ団子、二種類ともあるのが良いなあ~。ゴマ大好きな私にはかなりポイント高い。
焼きそばもちょっと独特で後をひきそうな美味しさ。桜茶もおいしそう。
あと和菓子屋さんのおでんというのに私は心惹かれます。
某百貨店の和風甘味処のランチメニューにおでんと季節のおこわのセットというのがあって、私はかなりのお気に入りだったのですが、いつの間にかお店が撤退してて幻の味となってしまったのを、読んでいて思い出したり。
ぶたぶたさん作のお菓子なら、こんなに大量に食べても、幸せな満腹感に包まれそう。

『夏祭りの一日』
地元の夏祭りに飛び入りで参加してしまうワクワク感がよくて、今回のお話の中で一番のお気に入りはこれです。
ふつうの新社会人の青年が主人公で、なんかこの創太さんの平凡な人の良さが、読んでいて快かったです。
創太さんのお気に入り海苔団子が甘味は薄そうだけど美味しそうで心惹かれる。時間がたっても柔らかな美味しさが伝わってくる~。
お祭りのくるくるお好み焼きも焼きたてあつあつでおいしそうです。水ようかんに水出しのお茶も涼しげでおいしそう。
ちょっと恋の予感がするのもお気に入り。

『コーヒーを一緒に』
夫を亡くした悲しみが癒えぬままにしみずにやってきた美智子さんの物語。すこししんみり。
栗きんとんと美味しい水でつくるコーヒーの取り合わせがよく美味しそうで優しさがじんわり伝わってきました。

『昨日と今日の間』
ちょっとほろ苦いテイストの家族の物語。
ぶたぶたさんの存在はこういうお話では特に最高級の癒しなのです。彼の大人な心遣いがという意味でね。
麹の香りの甘酒と味噌おでん、あたたかな食べ物の描写に私の心もほっこり。

『春のお茶会』
幼稚園で野点茶会を催すとは、風流!
でもやっぱり園児たちにはお茶は苦いですよね。子どもたちの様々な反応が微笑ましかったです。
ぶたぶたさんの娘さんも久しぶりに登場で相変わらずのマイペースさにほっと和みました。
八重桜も菜の花しぐれも想像しただけで春の味が口いっぱいに広がってきそうでとても素敵です。
平和で仲良しな家族のひとこまにほんわか。

読んでいると美味しい和菓子で一服したくなります。
近所にこんな地域密着型の和菓子処があったら、日常の幸せがひとさじ増えるなあ。うらやましくなっちゃいました。
ぶたぶたさんシリーズ、来年も新刊楽しみにしています♪


カテゴリ: 日常のお話

タグ: 矢崎存美 

『サクラダリセット』シリーズ 河野 裕 




住民の半数が何らかの特殊能力を持つ街・咲良田。
記憶保持の能力を持つ浅井ケイと、リセット——三日間世界の時間を巻き戻すことができる春埼美空のふたりは、高校では奉仕クラブという、能力に関わる問題を処理しているクラブに所属している。
ケイと春埼はお互いの能力を合わせて「時間を巻き戻し」、さまざまな問題ごとを処理し、咲良田の異能をあつかう組織「管理局」とも深くかかわっていく。
猫を救いたい少女の心のうちは。未来を見る女性「魔女」が待ち焦がれたものは。ケイと春埼の中学時代の同級生であった少女・相麻菫の意図とは。
日常に少し不思議を溶かし込んだ世界でつむがれる、繊細で優しい学園青春ものシリーズ。


異能を持つ人々が繰り広げる日常の延長線上の学園青春ものライトノベル『サクラダリセット』シリーズ全7巻。
ネット上の評判でシリーズを知り、ずっと読んでみたいと思いつつ、何年か積み本になっていました。
ふと一巻、二巻と手に取って読みはじめると、じわじわとこの世界のとりこになり、このたび最終巻まで読み切ることができました。

淡々と、遠くから舞台劇を眺めているかのような、距離感のあるところでつむがれている物語。という印象。
ちょっと独特の世界観と文体で、一気にだだだっと読んでしまうというよりは、何日も少しずつ、時間をかけて、静かにゆっくり味わっていきたい系の物語でした。
ガラスのように透明で繊細で「つくりもの」であることをあえて際立たせているような、咲良田の街の雰囲気が、素敵だな。

時間と記憶の異能の物語って、私、大好きです。
「リセット」の仕組み自体はシンプルなのですが、それを実際にどのように動かして、時を変えてゆくのかがなかなか理解しづらく、何度もの繰り返しに次第に頭の中がごっちゃになってきて、でもとても面白かった!
ケイくんは高校生とはちょっと信じがたいほど老成した態度を持つ男の子で、理屈っぽくて、彼の正義のために、「リセット」を傍らの春埼さんに指示する。
ケイくんと春埼さんのお互い誰より信頼し合い大切に思っている関係が、シリーズが進むごとに背景なども交え伝わってきて、時に遠回りしているふたりの姿がもどかしくていとおしくて仕方なかったです。

ケイとの出会いの時点では淡々と無機質な少女だった春埼さんが、二年を経て少しずつ表情豊かになり、成長してゆき、ケイへの信頼と、それとは少しちがう思いをしだいに育ててゆき揺れ戸惑う姿が、もう本当に可愛らしくて!
私の今までの読書人生の中で振り返っても、(特に初期の)春埼さんはかなりの変わり者だと思いますが、そんな不器用で純粋で優しい春埼さんが大好きです。
ショートヘアも可愛いけれど、昔のなみなみロングヘア姿もものすごーく可愛い。

ケイの方から向ける春埼への想いも、シリーズを読み進めるごとにじわじわきいてきて。
女の子には基本誰にでも優しく紳士的なケイだけど、春埼に関しての台詞は、ときどき驚異的に甘くて一途で、愛に満ちていて、不意打ちにときめいて仕方なかったです。
私はこのシリーズ、ロマンスもありの物語なのか、読みはじめる前、読みはじめてみてもいまいち自信がもてなかったりしたのですが……ふふふ。堪能しました。
(あくまで淡く、精神的なものではあるのですが。時間遡行ものはほんのひとさじのロマンスのエッセンスでやはり最高にときめきます)
ふたりでシュークリームやサンドイッチや、いろんなごはんを食べている場面が、印象的でしたね。
あ、お弁当のやりとりがすごく私お気に入りでした。

「貴方が二人いれば、答えはとても簡単だったのに」
「そんなの、無意味だよ」
決まっている。
——もしも僕が二人いたなら、二人ともが君といたいと願うだけだ。 (7巻358頁)

相麻菫さんという「野良猫みたいな女の子」が謎めいた登場をし、暗躍しているのですが、後半パートを読んでいくにつれ、彼女のシンプルでひたむきな想いに、言葉に表せないものを感じました。胸が痛かった。
限りなく優しくて残酷な言葉をはくケイですが、菫さんのためにどこまでもなんでもやりぬくケイも、また彼らしくて。
トマトとヨーグルトのチキンカレーがつながってゆく流れが良かった。菫さんはこのためにいかほどの労力をかけたのだろう。途方もなく……。

本当はシリーズ一巻一巻について語りたい感想いっぱいあるんですが、終わりそうにない。(シリーズ読み切った後に書く感想は毎回難しい……書きたいことありすぎる!まとまらない!)
他の登場人物では、ケイと普通に友情を築き上げている中野くんの存在が、良かった。野ノ尾さんと春埼さんの友情も良いね。野ノ尾さんの四巻目の月と猫と少年の短編が、すごく好き。
春埼とケイが学園祭で主役をはり劇をするシチュエーションも良かったです。ふたりは普通の学校生活の中では公認カップル扱いなんだろうか……とか想像をふくらませたり。欲を言えばもっと劇のエピソードほしかったかな。
ケイが最終巻で故郷に再会する場面も印象的でじわじわっと涙が。
四巻目のショートショート『ある日の春埼さん』も可愛い春埼さんを堪能できて大好き。お見舞い菓子の躊躇いとその後のメールが本当に微笑ましく。

ケイは本当に高校生であることが信じられない大人びた少年だけど、彼が語る優しさ、正義には、確かに何か青さや若さ、幼さのようなものを感じる。
でもそれがかえって年相応で、彼と関わり協力関係になってゆく少年少女のひとりひとりの結びつきも自然で、青春ものだなあ、若いっていいなあ……(しみじみ)という、うまく言えないですがそういうアンバランスな読み心地も、この作品の魅力なんだろうな。
二巻目の時点ではケイに反発するばかりだった岡絵里さんが、最終話で彼への印象を変化させていたのが、なんか、印象的でした。
管理局の大人側からの物語の視点があったのも、バランス的に良かった。
大人サイドでは、猫屋敷のおじいさんと津島先生が好き。索引さんには共感を覚える。
結局は、悪人がだれ一人いない、優しい人たちが誰かの幸福を願って行動を起こすのがすべての物語で、つくりものの世界はもろくて優しさで包み込まなければすぐ壊れてしまいそうで、だからこそ美しくて。
それがよいのでしょう。

やはり色々努力してみても感想が上手くまとまらないですが、この物語を読むことができて、とても幸せでした。
鉛筆描き風?イラストも素敵で繊細で優しい物語によく合っていて、各巻堪能しました。美しい猫みたいな春埼さんかわいい!
最終巻の表紙のケイと春埼、最後の頁の仲間たちと共に歩むふたりの姿が、仲睦まじく素敵すぎます。




ここ数日にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 河野裕 

『東京すみっこごはん』成田 名璃子 




商店街の片隅にたたずむ古ぼけた一軒家「すみっこごはん」。
そこは年齢も職業も異なる人々が集い、くじ引き当番で料理を作って共に食べる、いわゆる共同台所。
いじめに悩む女子高生、婚活にはげむOL、人生を見失ったタイ人の青年、家族へのひみつを抱えた公務員男性。
ちょっと訳ありの人々がすみっこごはんにたどり着き、レシピノートに沿った家庭料理を作り食卓を囲み織りなす、美味しい物語。


初読み作家さんのお話。
連作短編形式の、一風変わったご飯どころ、「すみっこごはん」に関わる人々のものがたり。
プロの料理人ではない人々がくじびき当番で料理を作り、その日集まったメンバーに料理をふるまう。たとえ料理が美味しくなくても、文句は言わない。
ネット上で見かけて、すみっこごはんの面白そうなシステムや、可愛らしく味のある表紙イラストにひかれて、手に取ってみました。

丁寧にひとつひとつの手順を踏んで作られる家庭料理は美味しそうであたたかな魅力に満ちていて、楓ちゃんや奈央さんやジェップさんたちの立場に共感し胸がえぐられて、人の優しさがしみる。
読んでいて元気になれる物語で、とても良かったです。
最近読んだお料理もの小説の中でもかなり上位レベルでお気に入り。
なんてことない、大きな事件も起こらない、日常を綴った連作短編集なのですが、読むごとに物語の世界の中にすっぽりはまり込んでしまい、続きが気になって気になって。
心に欠けたものを、寂しさを抱えた人たちが、料理でゆっくりゆっくり再生していく様が、とても良い。
きれいな優しさだけでない、そこはかとない意地の悪さ、毒も、ひっくるめて良い味になっていました。
「すみっこごはん」なんて、ちょっといじけたような、日陰者のような、でもなんとなく愛らしい響きをもつ名前も、素敵だと思うのでした。

『いい味だしてる女の子』
いじめと家族関係に悩む女子高生・楓ちゃんの物語から。
楓ちゃんを取り巻くいじめの陰湿さが読んでいて辛い。胸が冷たく凍っていくようでした。
今どきの高校生のネット上のお付き合いは、私にはいまいち具体的に想像できないんですが、なんか途方もなく大変そう……・。
彼女がたどり着いた「すみっこごはん」、最初のクリームコロッケの描写が美味しそうで私も落ちてしまいました。
田上さんとの魚のつぼぬきも、丸山さんとのお味噌汁修行も、良いね。お出汁の取り方の丁寧な描写に私も勉強になりました。
おじいちゃんとも誤解を解けて分かりあえて、本当に良かった。
いい味だしてる女の子って、タイトルが良いです。

『婚活ハンバーグ』
結婚にご縁がないことに日々悩むOL・奈央さんの物語。
彼女のネット婚活ライフが具体的に描かれていて、なるほど、こういう世界なのか……。
今の私自身といちばん立場が近い奈央さんなので、いちばん共感して読めたかな。
手順通りにきちんとこねて作ったハンバーグのおいしそうなこと!
優し気でいざというとき支えてくれる一斗さん、お似合いだと思ったのですが、駄目なのか。幸せそうなんだけどな。
奈央さん御用達のお惣菜屋さんの弁当おかずがまた実に美味しそうで。こんなお店があったらいいのにな。

『団欒の肉じゃが』
タイ人留学生のジェップ君と、すみっこごはんの嫌われ役(?)柿本さんの奇妙な交流。
ジェップ君の現状の空虚さがまたよく伝わってきて辛い。
絵描きを目指す啓馬くんへの複雑な感情も、ああ、分かるな。
柿本さんとジェップ君の関係性がひねりがあって面白いです。
味が染み染みていく肉じゃがと、彼の故郷のチャプチャイが重なり合って、肉じゃがおいしいですよね~。
ジェップジュニアとの付き合いって考え方が面白いです。

『アラ還おやじのパスタ』
穏やかで料理上手な男性ですみっこごはんの常連さん・公務員の丸山さんの物語。
すみっこごはんの成り立ち、秘密がとうとう明かされるお話でもあり。
ゆうたんさんのブログ、奥さんのことも、そういうことだったのか!ナポリタンに秘めた丸山さんの気持ちにぐっときました。
これまでお話に登場してきた人々の人間関係がぴたりぴたりとはまっていく様、予定調和と言えばそうなのかもですが、こういうの私は大好きです。お母さんの想いをこういうかたちでついに受け取れた彼女、良かったねえ。
渋柿柿本さんが、読みこむごとに味のあるひとで、嫌いにはなりきれなくて、面白いですね。

手書きの「レシピノート」がもうひとつの物語の主役という、設定も私好みなんだなと思います。
小手鞠るいさんの『お菓子の本の旅』みたいな感じ。
レンジが意外と活用されていたり。
最後まで読むと、レシピノート作者の娘への愛情が切なくていとおしくて。

続きがもしも読めるなら、田上さんや金子さん主役のお話も読んでみたい。
楓ちゃんや奈央さんの恋の行方も気がかりです。
読みたいなあ。どうかしら。

読んでいてお腹の底から元気になれるような、おなかがすく物語。おすすめです。

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 成田名璃子 

『スープのささやき ゲストハウスわすれな荘』有間 カオル 




東京山谷のゲストハウス「わすれな荘」で、千花が暮らすようになって半年。
わすれな荘に新しくやってきたスペイン人の娘バネッサ。千花は初対面の彼女になぜか敵意を感じてとまどうのだが……。
初恋の苦い記憶、故郷への想い、それぞれ胸に抱えるものを持ち、今日もわすれな荘のメンバーは食卓をかこむ。

『ゲストハウスわすれな荘』、続編が出ました!
本屋さんで見つけた時うれしくて思わず微笑みました。
最近の美味しいもの小説の中で、個人的に、かなり、お気に入りの作品なのです。
読みやすい文章でつむがれる日常ほのぼの優しい系ストーリー、ひとつひとつの物語のなにげないパーツが、今の私に、ぴたりぴたりと、実にうまくはまるのです。
そこからじわじわと物語が染み入ってくる。

二巻目では、お話の語り手が千花以外にも広がって、色々な視点から「わすれな荘」の日常を眺めることができたのが、良かった。
今回の前半パートの主役は、スペインからの留学生娘・バネッサ。
かなり強烈な登場をしてはじめは千花に敵意すら向けていて、どうしたどうした……と千花視点で不安になったのですが、彼女の気持ちは、あまりにも分かりやすくあっけらかんとしていて。
自分の燃え上がる恋心そのままに押せ押せモード、まっすぐすぎていっそ心地よい。
ひとまず、千花とは初期段階で誤解がとけて仲良くなれた感じだったので、良かった(笑)。
翔太さん立場だとものすごく疲れそうだと思いましたが(苦笑)。
「男の内臓をわしづかみ!」作戦の下バネッサが作った白いガスパチョや本場のカルボナーラや、目にしたことはあるメニューながらちょっと物珍しくて楽しかったです。
からまわってたりもどかしさにうなってたり、それでも大好きな人に美味しいものを食べてもらいたい、バネッサの恋心のスパイスも効いていて。

同時進行で千花の方も、ままならない片思いを持てあましていました。
彼女の場合、思いの対象は、イラストの世界、だったのですが。
千花は千花で今回も清々しく恋愛モードにならないので、これはこれでかえって好印象ですね。
バネッサとはかなわぬ想いに悩む娘同士で共感めいたものも持ってたりして、そういうのも良かった。
千花の場合は、やっぱり今回の流れみたいに、日々のこつこつ地道な積み重ねの延長線上に……、そういうのがいちばん似合うなあと思いました。千花は真面目に頑張れるのが一番の強みだと思う。
バネッサの熱血や千花の真面目さを、適度にクールダウンしてくれるのが、ぐうたら橋島オーナーの、それでもきらりと光るアドバイスだったり。
翔太さんの面倒見のよさにも本当に頭が下がりますね。相変わらず翔太さんと橋島オーナー、たまに留学生クオンの突っ込みのバランスが面白い。
ビックマムの悩める二人へのアドバイスも、素敵でした。

続く四話目からは、千花から物語が少し離れて、まずは留学生スディールとクオンのふたりが、成り行きで一日子守り体験をすることになってしまったお話。
赤ん坊のお世話でだんだん透けて見えてきたスディールとクオンの性格の違いがおもしろかった。
クオン、意外と適当で調子がいいひとだったんだな……前巻からちょっとイメージ変わっちゃった(笑)。
そして真面目に手を抜かないスディールの株がかなり上がりました。
江美さんが最後にタッパーにつめてきてくれた故郷の味、あったかくて優しくて読んでいても心温もりました。
確かにここに、お国を超えて、人のつながりができあがったんだなあ。

最後の五話目は、今までとまた趣をかえて、橋島オーナーの、山谷での少年時代の物語。
白玉団子の初恋の記憶。
読んでいて、なんともやるせなくて切なく苦い気持ちでいっぱいになりました。今の日本、私自身の境遇とも重ね合わせずにはいられずに。
最後に残された『赤毛のアン』一冊の重みが、ほんとうにほんとうに、じわじわときました。
そして視点は現在の橋島オーナーに戻り、「風の民」を見守り続けるかつての少年の姿に、ほうっと息をつき、読了。
翔太さんも、旅に生きる人なんだな。
翔太さんは、いつまでわすれな荘にとどまっていてくれるんだろう。彼との別れは、たまらなく寂しいだろうなあ。

お国柄漂う美味しいお料理、あたたかい、押しつけがましくはない優しさ、山谷の街の描写、留学生たちの日常、色々なものがゆったり溶け合ってひとつの物語になっている様は、確かに表紙イラストのように美味しいスープの一皿のようだなあと、読み終えて感じました。
一巻目みたいな登場人物勢ぞろい!のイラストもよかったけれど、こちらのイラストも、この物語らしいな。

また続編が出てくれると嬉しいです。千花のお仕事奮闘記も、もっと見守っていたい。


ここ一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 有間カオル