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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『蘇我の娘の古事記』周防 柳 




大化の改新~壬申の乱の時代。
蘇我氏の元国史の編纂にも携わってきた渡来人の船恵尺の家には、物語を愛する盲目の美しい娘コダマがいた。
彼女と兄のヤマドリは、動乱の時代の波にさらわれ巻き込まれつつも、父や周囲の人々に見守られ成長し絆を育んでゆく——。


『古事記』がいかに形作られ現代まで受け継がれてきたのかを辿る物語。
陰謀はびこる飛鳥時代の宮中を舞台に、作者さんがみずみずしく豊かな物語を広げてゆかれています。

古代史好きで、『古事記』にも親しみがある私としては、ものすごく面白かったです!!
このタイトルにぴんときたひとは、読んで損はないと思います。
コダマというひとりの娘が物語のメインで、彼女の出生の秘密、成長や恋のお話もとても素敵で、わくわくどきどきしました。
コダマとヤマドリの兄妹ふたりの絆と愛情が美しく真摯で泣ける。
そんな子供たちを秘密を抱えて見守る恵尺お父さんもまた良いのです。

この時代の出来事を、蘇我氏サイド、あるいは天智天皇&大友皇子サイドで見ることは私はあまりなかったので、新鮮でした。
この時代を生き抜くのって本当にサバイバルだな。
個人の感情だけで動いて、結果一族全体を危機にさらしてしまったらもう取り返しのつかない。そう考えると怖い……。
優しく穏やかな恵尺の苦労がしのばれました。

一方国史編纂に並々ならぬ情熱をかけて一生の業とする恵尺さん。
大化の改新時に、そうか、蝦夷はそういうことだったのか……とか思いました。
神さまの時代から伝説の大王の時代から各豪族たちの由来から、ある程度創作の物語を編むように作り上げてゆく様が、なんとも興味深く面白かったです。蘇我氏の成り立ちエピソードにそんな裏があったのかもとか想像するとたのしい。
さらに娘のコダマは、歴史の中の人々が、どんな風な性格でどんな風に生きて恋をしていたのか、隙間を埋めるような物語を愛し、興味深い昔語りを聞いては記憶してゆきます。
各章の合間合間に挿入される、古事記の中の各エピソードの元になっていると思われる昔語りも、親しみやすい語りで、語り手の主観も入っていたりして、なんだか新鮮!

兄と妹の恋、確かに印象的なエピソードが多いなと思いました。
確かにいとしいひとを「妹(いも)」と呼びますものね。
サホビコとサホヒメときくと真っ先に氷室冴子さんの『銀の海 金の大地』を思い浮かべてしまう私です。兄と大王の間で苦悩するサホヒメがかなしい。
そしてそれはヤマドリとコダマの兄妹の関係にも重なってゆく。
気持ちを通じ合わせることができたふたりの場面の幸福感に眩暈がするほどでした。
コダマに忠実で頼もしい小熊がいい。

ただし時代はさらにひとつ大きくうねり、コダマを守るため近江朝廷に忠実に尽くすヤマドリの身にも、暗雲が。
天智天皇と大海人皇子の仲はどちらが善悪とかなんか言い切れないけれど、大海人皇子も本当に食えないお人ですね。大友皇子サイドからみると、確かに、ちょっとなんだかなと思ってしまう……。
生まれ落ちた環境が不幸だったとしかいえない大友皇子。絶望的な状況でも客観的にものごとを見られて淡々とたたずんでいる姿は好感が持てました。
最後のヤマドリと大友皇子の会話の場面が泣けました。この人生、妻のために生きなかったことはないのです。というヤマドリのブレのない愛情、格好いい……すごく切ないけれど……。
そういえばかつて中大兄皇子がヤマドリとコダマを見逃したのは、自身と間人皇女のことを重ね合わせたのかしらとか、ちょっと思ったりしました。
そうそう、皇極天皇が抱えていた秘密にも、うなりました。確かにそういうことなら中大兄皇子があの凶行に及んだのも、説得力があります。

里の方で恵尺が受けた制裁のむごたらしさに言葉を失いました。
白萩の恨みもまた十分すぎるほどわかるんだよな……辛いよう。
子供達と忠実な小熊、大野の尼、そして大兄、頼れる人達がコダマにはいて、そしていずれ物語が彼女を生かして、悲しい中でも救われる思いでした。
大兄(道昭)、ヤマドリとはまた違う頼れる愛情たっぷりのお兄ちゃんで、素敵なんですよね!天武天皇に一矢報いた(?)場面は痛快でした。

このお話、主人公達に惨たらしい仕打ちをする人間でも完全な悪人という書かれ方をしている人がほぼいなくて(中臣鎌足の女性関係の悲しさはなんだかちょっと印象的だった)、そういうところも良かったなと。
だからこそ人が人を欺き命を奪っていく展開が、よけいにやるせなくも思えるのですが。

『古事記』の挿入エピソード、私が好きなコノハナサクヤヒメやヤマトタケルノミコトのものもあって、嬉しかったです。
そうそう、コノハナサクヤヒメの旦那さんの大王は勝手すぎるんですよ!!でも自分に自信がなかった人なんだよな~。語り手がバッサリ斬りつつフォローもしていてなんだか面白かった。
ヤマトタケルノミコトは、私にとってのもう一つの彼の物語、荻原規子さんの『白鳥異伝』を読んで、ようやく救われる思いがします。
たくさん出てくる地名の由来や誰々の子孫やそういうのが、むき出しの悲劇性をいくらか薄めているような気は、しますね。個人の主観ですが。

素敵な一冊でした。
作者さんの他作品もまたチェックしてみよう。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 周防柳 

『まるまるの毬』西條 奈加 




親子三代で菓子を商う麹町の「南星屋」は、 売り切れご免の繁盛店。
武家の身分を捨て、職人となった治兵衛を主に、娘のお永と孫のお君が看板娘として切り盛りするこの店には、他人に言えない秘密があった——。


はじめて読む作家さんのお話。
江戸時代のお菓子屋さん一家のものがたりでした。
書店で文庫が平積みされていて、表紙のそぼくであたたかみのあるお菓子のイラストになんとも心惹かれて、ずっと心の隅っこで気になっていた作品でした。
しばらく間をあけて、読了。

読みはじめるまで私、タイトルを『まるまるの「まり」』と勘違いしていたのですが、『まるまるの「いが」』でした。
まるまるのまりみたいな、表紙のお菓子みたいな、まあるくてやわらかであたたかい物語が最後まで続くものと思って読みすすめていきますと、確かに途中で「いが」がありました。
やるせなくて心にしみて痛くて涙するような「いが」なのですが、それでもやっぱり「まるまるのいが」であり、まあるくてやさしい愛に満ちた物語。なんですよね。

派手さはないのですが、お互いを真摯に思いやる家族の愛情の物語、と私は読みました。とても良かった。
清々しくふくふくとした幸福感のたちのぼってくる読後感でした。
お菓子の描写もやはり派手ではないのですがどの場面でもしみじみと味わい深くて魅力的。
読み終えて何日か経るごとに、ひたひたと余韻が心の中にわきあがってきて、これはブログにも少しばかり感想を書き残してゆこうかと。

主人公はお菓子職人の治兵衛さん。年配の男性です。朴訥と職人肌で家族思いのすてきなおじいさま。
最初は少々とっつきにくいかとも思ったのですが、描かれ方が良い感じに人間味あふれているといいますか、迷ったり心の弱い部分も書かれていて、男親のむつかしい心情もあったり、自然と感情移入できました。
お菓子が大好きでお菓子作りしか見えていないところも共感できました(笑)。
治兵衛さんの抱えるものは思っていたよりあまりに大きくて、この秘密がじわじわと物語の流れを変えてゆくことに。

治兵衛さんの娘のお永さん、孫娘のお君ちゃん。
穏やかで父の仕事を幼いころからずっと愛し支えてきたお永さんの、内に抱えた想いのお話『まるまるの毬』、彼女の激しい想いに胸をはっとつかれました。お永さんと治兵衛さんの大人同士の父娘の不器用な思いやりの情がいい。
あと母親に比べると勝気でちょっとわがままなところもあるお君ちゃん、正直最初のうちはお母さんの方が私は好みだったのですが、いやいやごめんなさい。
自分自身の幸せを置いておいても、まず一身に祖父達家族の平穏な暮らしを守り抜くことを望み、迷いなく行動を貫いたお君ちゃん、めっちゃいいこや……泣きました。
この辛く理不尽な経験が、結果的に彼女をここまで大人にしてしまったと思うと、切ないものがあるのですが。
それでもラストのお君ちゃんの姿が、きりりと凛々しく自分一人の足で立っている感じで、何も失っていない、といえるのがまぶしくて、ああ、何とも言えないものがありました。
母や祖父が思っていたより、お君ちゃんは大人でお日様みたいな強さを持っていて、それは彼女が愛情をたくさん与えられまっすぐに育てられてきたからこそのものなんだろうな、と。

随所で一家三人を陰ひなたに支えているのが、治兵衛さんの弟の石海さん。
豪放磊落なお坊さんで、兄弟住む世界を違えてもずっと仲良く菓子を食べつつ支え合っている関係が、なんだかいいな~。と素直に思えました。
各話読んでいって、お侍さんのおうちにも色々あるんだな、と当たり前のようなことを思いました。
治兵衛さん達の実家の人達の常にすっと筋がたっているストイックさ、厳しいのだけど柔軟さも忘れてはいない、深い愛情を底にたたえたありようは、好き。
翠之介君のエピソードもね、微笑ましかったけれど、お家の事情がやるせなかったです。お父さんも辛いな……。
河路様の実直でおごらない好青年っぷり、常識をわきまえてそうなひとなのに年の差身分差を越えて率直に想いを告げる若々しさがまた何とも言えずに素敵でときめきました。
治兵衛さんを招いた折の屋敷の梅の描写が印象的でした。
ふうう。それでもやっぱり切ないなあ。
身分を越えて自由を得たように一見思える治兵衛さんだけれど、それでもしがらみからは逃れきれない姿が、他の何人もの登場人物の姿にも重なり、切ない。

南星屋さんの各地の名物お菓子を日替わりで出してゆくというスタイルも、面白いです。
カスドースが現代に当てはめて考えてみても甘くてハイカラで贅沢の極みという感じで魅力的……。
兄弟の思い出の大鶉というお菓子の名前もいいなと思いました。
最後に治兵衛さんが必死に再現した「橘月」も、単なる希少品ではない手間と心遣いが丹念にかかったお菓子で、紐解いてゆくごとに治兵衛さん自身がかつて受け取っていた愛情もなんだかつたわってくるようで。

他の方の感想にもありましたが確かに『みをつくし料理帖』に少し重なるものがある。
お君ちゃんはちょっとお美緒さんみたい。境遇は違うのだけれど。
良いお話でした。
もし続きがあるなら読んでみたいなあ。
個人的には平戸のお菓子事情まで話を広げた続編をちょっと期待してしまいます。駄目でしょうか……。


この二週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 西條奈加 

『芙蓉千里』須賀 しのぶ 





時は明治大正、ところは満州。
「大陸一の売れっ子女郎になる」と自ら人買いに売り込んで哈爾賓に渡った少女・フミ。
この地でフミは、共に売られてきた少女タエと、妓楼・酔芙蓉の下働きとして働きはじめる。
いくつもの出会いと別れ、事件を経て、フミは天性の愛嬌と舞の才能を買われ、芸妓の道を歩むことに——。


去年『流血女神伝』シリーズにはまりにはまった須賀しのぶさんの描かれた歴史もの長編小説シリーズ。
この作品も、何年も前からずっと読みたくて気になっていたお話でした。
年末のベストブック記事で『流血女神伝』の感想に再び触れたのと、お正月の区切りの良さとで、積み本から一冊手に取って読みはじめてみました。

序盤入り込むまでに少々時間を有したのですが(慣れない漢字地名表記に手こずりまして……。)、徐々にエンジンがかかってきて、特にフミとタエがそれぞれの「夢の交換」をした姿に、惚れ込んでしまって。それからは一気読み。
頁数もお話の内容もかなりのボリュームがあり読み応えばつぐんで、読み終えた後は濃密な世界観にどっぷり。くらくらしました。

以下少しネタバレ感想ですので一応ご注意を。


なにかとしんどいばかりの境遇で、時に心の澱に囚われても、誇りを持って生き抜こうとする女性たちの姿が、とにかくまぶしく格好いい。のひとこと。まさに泥の中にいくつも花開く、清楚な大輪の花のようです。
すさまじいエネルギーが物語の中に内包されているというか、読んでいるとその熱気に充てられ私の心も熱く燃えているような。

まずはやはり主人公のフミ。
生まれ落ちた時から逆境続きだったフミが、本当の本当に自分自身の力で身をたてて大陸に渡り、舞の才能を、血のにじむような努力で磨き上げて運をつかみ取り、華やかな世界で花を咲かせていく姿が、なんて格好いいんだろう。
しなやかで強く誇り高い魂、清濁併せのむ彼女の努力の姿がすごい。
そしてフミの親友、可憐で芯のある美少女タエとの友情が、私は好きすぎる。
女郎になりたくないと泣きべそをかいていたタエが、フミとお互い感化されあってといいますか、どんどん化けてゆき、美貌と賢さを鳴り響かせ男をころころ手の内で転がすお職になっていく様が、ぞくぞくしました。
まさに小桜、紫桜。
年月を経てそれぞれの立場から「酔芙蓉」を背負って盛り立てていく親友二人、お互いの旦那のこととかたわいないことで肩を寄せ合い笑いあう二人の姿がもう、とてもとても好きだー!!!(ダブルヒロインもの大好き人間です。)
ときに互いに嫉妬したりマイナス面も含んでの友情がかえってリアルです。女の友情ってそれでこそという感じが。
文庫版の表紙イラストのふたりの表情がとてもイメージ通りです。
タエの歌で角兵衛獅子の舞をするフミ、というふたりが、やっぱりいちばん好き。

フミの前に現れるふたりの男性。豪華!
幼い日のフミを救い、ずっと彼女の心の支えになっていた初恋のひと、山村さん。
山村さんの荒削りな頼もしさ、優しさはたしかによろめきます……危険な香りが特に再会時にはぷんぷん漂ってきますが、そこも魅力の一部なんですよね。彼女と甘いひと時を過ごし、同時に計算し芙蓉を利用しようとしているところとか、なんか彼女がこんなに夢中になっているのなら仕方ないのかとか思ってしまう!あのロシア料理屋さんの雰囲気はとても素敵でした。
一方、芸妓芙蓉の前に現れたのは、華族の次男坊・黒谷さん。
育ちの良いお坊ちゃんという感じでちょっとヘタレなところはあれども、ある日の彼の過去の打ち明け話に、ぞくりときました。
私はどっちかというと黒谷さん好きです。個人的にフミと最終的に一緒になってほしいなと思いますが、たとえそれが叶わなかったとしても、彼には幸せになってほしい。
黒谷さんの不器用ででも誠実な想いが、報われるといいな。どういうかたちになるのか分からないけど。
黒谷さんに自分を惚れさせてみせると啖呵をきったフミが、格好良かったなあ。ふふふ。
この巻の最後、山村さんか黒谷さんか、どちらの道を選ぶか悩みに悩みぬくフミの姿には、はらはらどきどき。
彼女が積み重ねてきたものを経てこその選択が、良かったです。やっぱりどちらの道をとっても後悔するものですよね。
私も何だかこの場面のフミの台詞に心励まされました。

そしてくまさんことベリーエフ氏は貴重な和み系キャラでした。
あと小琳のくれた不器用さ優しさも好きでした!

フミの姉女郎たちの生きざまも色々壮絶。
美しく儚げで優しい蘭花ねえさん。彼女に憧れるフミには微笑ましくなり、そして彼女が隠していた覚悟には寒気がしました。どうしてこんな生き方しかできなかったんだろう。
粋で辛辣な物言いはするけれどフミとタエのふたりをちゃんと見守って励ましてくれていたお千代ねえさん、私も最高に格好いい方だと思いました。最後まで。泣きました。
お千代さんとおマサさんの人生を光と影とに違えてしまったものが、なんだか本当にやるせなくて胸がつまりました。
女郎として稼ぐ娘の人生に寄生して生きる両親のエピソード、えぐいな……。
ウメさんも女将さんもフミにとことんきびしかったみんなみんな、最後まで読んでいくと愛着がわいてくるというものでした。
あんなでもたしかに女将さんはみんなの「かあさん」だったんだなあ。と。

国と国との関係、政治的な駆け引き、知識不足の私が語ってもあれなので触れませんが、かっちりしていて読み応えありました。
おナツさんの人生のエピソードがまた印象的でした。
山村さんはどういう立場でどういう役割を担っているんだろう……。
京劇の彼らは、またフミと出会うことがあるのでしょうか。

はじめは慣れなかった独特の固有名詞の読みも、慣れてくるごとに響きも魅力に思えてくる不思議。
女郎たちの花の名前の響きが独特の艶っぽさを醸し出していてそれぞれの気性にしっくり馴染んでいるようで、良かった。
大きな河の流れの描写にも圧倒されました。

タエ主人公の『桜の夢を見ている』。
タエが魅せる美しく艶めいた夢にうっとりし、そしてドミトリーさんの不器用な純愛、恋人たちを襲った時代の試練、そして桜の花の結末に読んでいて涙があふれました。美しいお話でした。とても良かった。
タエ視点からの本編終了後のフミと黒谷さんたちのひとこまが読めたのも良かったです。
ただ、この流れだと、タエはこれで物語の表舞台からは離れるのかな。ちょっとそれは寂しいな……。

続きはこれから読みます。
またがつんと読み応えあるお話だと思うので、今からはらはらどきどきしています(笑)。
フミの恋は一体どうなっていくんでしょう!

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 須賀しのぶ 

『斜陽の国のルスダン』並木 陽 




13世紀グルジア。
天真爛漫だった王女ルスダンは、最愛の兄の死によって女王に即位。
東方から次々と襲い来るモンゴルとホラズムの脅威。廷臣たちの思惑。
そしてルーム・セルジュークから人質としてやってきた王子・ディミトリとの絶ちがたい絆。
「先見の明あるヨーロッパの防衛者」とも「美しく淫蕩な愚昧の女王」とも呼ばれた、一人の女性の素顔を描く。

こちらは同人誌の物語になります。
Twitterで偶然見かけて心惹かれ、ちょっと調べてみたら、アマゾンで購入できる!ということで、ぽちりと。

ヨーロッパで最初にモンゴルと戦った、グルジアの女王様・ルスダンの人生の物語。
ジャンルとしては世界史もの少女小説。
ふつうの文庫本よりはちょっと薄いご本です。
表紙のイラストが細部まで描きこみが素晴らしく美しいです。昔の装飾みたい。

ほとんどタイミングで購入したのですが、このお話、素晴らしく私好みでした!!
お国も時代もほとんど未知のジャンルでしたが、全然問題なく面白く読みました。
薔薇の妖精さんのような天真爛漫な美少女と、人質としてやってきた異国の美貌の王子様、密かにお互い想いあうふたり、一幅の絵のような光景にすでに心惹きつけられました。
歴史もの少女小説、最高です!!!
短いお話で、力強く歴史の流れを記録するための文章。みたいな印象を受けました。
さらりと流れてゆくキャラや出来事も多いのですが、それが一層想像をかきたれられるといいますか。

幸せで光り輝いていた時代から、外敵の容赦ない侵攻にさらされて、徐々に傾いていくグルジアの国の姿に、何とも言えない心地になりました。
ルスダンもディミトリも、グルジアの忠臣たちも、それぞれ精いっぱい頑張っているのに、どうしても上手く報われなくて、いつしかふたりの絆まで少しずつすれ違っていってしまっているのが、辛い。
誰が悪いというものでもなく、時代の容赦ない流れがグルジアという国をのみこんでゆくのが、ただただ切ない。
滅びへと傾いていく悲しい物語の中でも、だからこそというか、きらきら美しいエピソードが随所に散りばめられているのが、良かったですねえ。
ルスダンは優秀な女王というよりは、困難に途方に暮れ、悩み苦しみ決断を下し、激しくひとを愛し、厳しい時代に必死に生き抜いたひとりの生身の女性として、読むことができました。

読んでいて何より素敵だったのは、やはり、ルスダンとディミトリの夫婦のお互いへの愛と分かち難き絆でした。最後まで。
幼い日のお互い結ばれるのをあきらめていたころの無邪気な幸せな時代も良かったし、ルスダンの女王即位後味方の少ない中で支え合いつつ孤独に頑張る二人も良かったし、決裂してなおルスダンのためのディミトリの献身にも泣けましたし、もうとにかくすべてがいとおしかったです。

お祭りに抜け出してダンスを踊るルスダンとディミトリの場面がとても好きでした。松虫草の少女も。
プロローグのルスダンの選択の理由が分かったところで、また涙。
ラストも寂しいものでしたが、ふたりトビリシに帰ってきたんだなあ、とすとんと思える幸せで美しい場面でした。

脇役キャラの中では、ジャラルッディーンと腹心の書記官ナサウィーがお気に入りでした。
ディミトリが身を寄せたのがジャラルッディーンの下だったのは、確かに幸福だったのだなあと、彼が最後に贈った言葉でしみじみしました。

やはり世界史はあまり分かっていないんですが、モンゴルの台頭や十字軍といった細切れの世界史知識が、このグルジアという国の立場から見るとこういう風にうつるのか、とかいちいち新鮮な思いをして読んでいました。
イスラム教とキリスト教のお話も自然な流れで読めました。
あと作中存在感ばりばりだったルスダンの母女王・タマラの時代の物語が気になります!


ああ、なんだかとても良いものを読みました。満足。
出会いに感謝です。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪


カテゴリ: 歴史もの

タグ: 並木陽 

『紅霞後宮物語』雪村 花菜 




三十三歳の女軍人・関小玉は、かつての相棒にして今は皇帝となった男に頼まれ、なぜか後宮入り。そして一年後、なぜか皇后になってしまう。
いきなり夫婦になってしまった文林との関係に戸惑い、皇后としての地位に自らの価値をいまいち見いだせない小玉だが、持ち前の前向きさとおおらかさで、型破りな後宮暮らしをはじめる——。


富士見L文庫の新人さんのお話。中華風後宮もの。
かつくらで興味を持ちネットで色々評判を読んでいても面白そうで、ここのところずっと読んでみたかったのです。

少女小説風に華やかながら、線が鋭く甘さがさほどない表紙イラストが、このお話の雰囲気をとても良くあらわしてる。
特に女性よりむしろ男性に好かれるという皇帝の色気ある美貌が……(笑)。

小玉のざっくばらんな語り口がなかなか読みやすいなとぱらぱらめくり、しだいに面白くなってきて一気に読んでしまいました。
若干文章のあらは感じましたが、ほとんど気にならないほどにストーリーとキャラに勢いがあり引っ張っていかれました。
なんといっても小玉という女性が、とても魅力的なキャラクターなのです。
ざっくりとおおらかで快活で情にあつく、破天荒に行動しているようで実は賢く色々わきまえている。軍人としては天才。
年齢にふさわしい落ち着きも兼ね備えた小玉、格好良すぎる!

彼女のなんちゃって(?)後宮ライフは、後宮らしい陰湿な嫌がらせもさしてダメージにならない、というかそもそも嫌がらせとして認識もされない、あっけらかんとコミカルな感じで、読んでてとても痛快で楽しい。
女らしさが全くないかと言えばそんなこともなく、皇帝の三男を心をこめ世話し育て上げている様がこれまた素敵。赤子にも好かれるよいひとなんですよねえ。
年若いお嬢さんたちがぱたぱた小玉のファンになっていくのも納得の展開なのでした。
高飛車でやり手の皇女様とのエピソードが小玉らしすぎる。あの抱擁の場面がしんみり良かった。確かにこれは皇后にならなければ得られなかった再会ですね。親戚になってるしね(笑)。そして贈り物選びの心の行き届きようが素晴らしくて彼女の実力を痛感したのでした。
寵愛の謎を探りにきた李才人もあっさり陥落。彼女は確かにいい味方になってくれそうです。

けれども彼女はけして好きで後宮に来たわけではなく。文林の事情があるのだろうと後宮にい続けてはいるけれど、肝心の彼の説明は、歯切れが悪く。
文林という皇帝が、なんだかものすごくよくわからない人なんですよねえ!(話の筋には直接関係なさそうですが、彼が皇帝に即位した経緯もそもそもよくわからない。)
小玉への情だけは分かりやすく透けてみえるので、そこは可愛げあります。文林視点での語りを読んでいると、このままでは彼がちょっと不憫だな~。なんかだいたいは文林の方が良くないんじゃないかという気もするのですが……。
我が子や後宮の他の妃たちへの執着の薄さと、小玉への想いの温度差が、ここまで極端なひとも、珍しいんじゃないですかね。
小玉は小玉で、彼の想いに気づいていないわけではなく、ただ彼女自身今は気持ちを持っていないというし。
大人のこじらせた関係は難しいな!
小玉はそれでもそうなったらほだされるんじゃないですかね、という清喜の意見を、信じたいのですが、どうなんでしょう。
まあ、「皇帝」であるのだから。確かに、これは、重い。
そのあたりの悩みを、梅花の助言を経て、自分なりに答えをだして後宮で勤め上げていく決意をする小玉のくだりが、良かったです。割り切りすぎだよ小玉。彼女らしいけれど!
最後までまるで甘い展開にはなりませんでしたが、こういう大人のしがらみありのあれこれも、ふとしたところでときめいたり、面白かったです。
三十代過ぎの女性として人生を色々思い悩む小玉の姿は、年の近い私には特になかなか共感を得られるものでした。基本前向きな小玉、そこまで深刻には悩まないので湿っぽくはなりませんでしたしね。

小玉の弟分?で宦官になってしまった清喜に、小玉と文林の腹心の女官・梅花のふたりが、小玉と文林のことをそれぞれの立場でよく理解していて、たいへん良い仕事をしてくれていました。
その他脇役キャラも癖がつよい人が多くて面白い。馬屋のご老人が好きでした。
どこであっても覚悟を持ち凛と生きるひとは格好良いなと思いました。

私が今まで読んできた中華風小説の中では(本格的なものはほとんど読んでないけど)、一番、かの『後宮小説』に近い感じのお話だったなあと、読み終えて思いました。
このお話、どうやら続編も出るらしいと聞いたので、楽しみです。
文林、報われるといいんだけどな。


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タグ: 雪村花菜 

『夢も定かに』澤田 瞳子 




聖武天皇の治世。
故郷の阿波国から采女として仕えるために上京してきた十八歳の若子。
同室になったのは、しっかり者で賢い笠女、愛らしい容姿で数々の男性と浮き名を流す春世。
器量は十人並みで不器用、みずからに自信もない若子も、宮中で様々な出来事にもまれるうち、次第にたくましさを身に着けてゆく——。

聖武天皇の時代に宮中に仕えた田舎出身の采女三人娘がヒロイン。
ネット上で存在を知り設定に惹かれて手に取ってみました。

日本古代史&女の子の友情ものが大好きな私にはとても美味しい物語でした。
若子と笠女と春世、出身地も性格も特技も全然違う同室三人娘が、足並みが常にそろっているわけでもないのだけれど、協力し合い、陰謀うずまく後宮で生き抜いてゆく姿が、良かった。
深山くのえさんの少女小説シリーズ『かぎろひさやか』の世界だなあ。
宮中でお仕事をしていたごく普通の女の子たちがヒロインのお話ってあまりないので新鮮ですよね。とても楽しかったです!
後ろ盾もごくささやかな下級女官の身の上で、それゆえしがらみもなくある意味気楽なんですよね。彼女たち。
ロマンスは、『かぎろひさやか』よりは大人風味。でもロマンスはけしてメインではないのが良かった。女たちの絆の方がずっとずっと強い。
思っていたより読み心地はライト。天皇に仕える身分でも素は十代の娘たちの行動に、ときどき、ああ、若いなあ……と感じ入ったり(笑)。

はじめはすべてにおいて頼りなくいじけていた若子でしたが(まあ、妹の代わりに出仕した……という彼女の事情を考えれば無理ないな……)、色々な事件や陰謀に巻き込まれ、笠女や春世に助けられつつ、次第に後宮での自分の場所を、それなりに築き上げていく様が、良かった。
同室の娘その一。笠女。出身地が私の住まいと近くてとても親近感を覚えました(笑)。学問好きなのに女だからと正統に評価してもらえず必死に肩ひじ張っていた彼女も、ある心あるひととの出会いにより、道が開けることに。
同室の娘その二。春世。十七歳の少女にして藤原四家の麻呂の愛人で一児の母。すごいな!彼女の独特の優雅でけだるげな口調やしぐさが采女たちの中でもだいぶ異質な雰囲気で、男君たちとの関係についてもさばけていて、なんだか私は彼女が妙に好きでした。離れて暮らす息子の浜足くんに会いに行く話は浜足くん利発な少年だったけれど、ちょっと、切なかった。
この三人が、なんかすべてがばらばらなんですけど、嫌味な上司や同僚とのいさかいや仲間たちの危機に対し、協力し合う姿勢がしだいにしっくり馴染んできて、良いんですよね。

歴史上の有名人物もお話にしっかりからんできてそちらも楽しめました。
お妃様や皇女様達の権力争いはやはりしんどそう……鶯事件の井上内親王が不憫で凛としたものをもっていて好きでした。彼女のこの先の人生をなんとなく知っている身には複雑だなあ……。
麻呂の愛人である春世の姿を普段見ている若子が、ああいう選択をするとは、意外でした。流されただけと言えばそうなのかもですが。
房前氏、確かに冷徹な権力者でありながらものごとの道理をきちんと持っていて、格好良かったです。淡い好意も分かります。

ラスト、のっぴきらならない危機に追い込まれてしまった同僚を、若子が女の絆を優先させきっぱりと守り抜く場面は、良かった。
春世も、最後に安らげる人を見いだせて、あの結末になってしまったのは切ないけれど、春世にはそれを同情するのは似合わない。かなあ。

読了後にネットで検索してみると、若子、笠女、春世、それぞれのその後の人生がほのかに辿れるのも、心憎い演出でした。
年月が経っても、特に若子と笠女あたりはときどき会っては親交を深めていたんじゃないかな。そしてときどきは、春世もお忍びで上京してきてお互いの近況話で盛り上がっていたんじゃないかな。想像してみる。

歴史もの少女小説好きさんには、特に楽しめるお話ではないでしょうか。おすすめです。


昨日それぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 澤田瞳子