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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『恋をし恋ひば かんなり草紙』深山 くのえ 




両親を亡くし財産も失い、今は女房仕えをしてひっそりと暮らしている、元大納言家の娘・沙羅。
ある日の夜、女御の飼い猫に付き添いひとり庭を眺めていた沙羅の前に、宿直装束姿の男が現れる。
沙羅に話しかけてきた彼の名は、かつての許嫁のもので——。


深山くのえさんの新作。平安時代もの!!
発売前からとても楽しみにしていました。

久しぶりに安定の深山くのえさん少女小説を堪能できました。
薄幸の健気な女の子が恋をして幸せをつかむまでの、しっとり雅な王道ラブロマンス。
う~ん、これぞ深山くのえさん。やっぱり良いんですよね。うっとり。

話がそれますが、ちなみに、少女小説とは。
この前の『皇妃エリザベートのしくじり人生やり直し』でも思いましたが、レーベルがなんとかは私にはよくわからないので、実際に私が読んでみて少女小説だと思ったら、少女小説だと思うことにしました。
(まあ、コバルト文庫とかルルル文庫とかに比べると、主人公の年齢は若干高めかな。あのエリザベートも特殊な身の上だったし)

なんといっても平安時代のお話の作りや各種設定、雰囲気がとてもしっかりしていて格調が高くて、安心して物語にひたれるのが良かったです。
これは安定の深山さん作品クオリティ。
序盤、月夜にヒロインとヒーローが出会う場面、猫の鳴き声、緊迫したふたりの距離感。ひっそり静かな宮中の空気の余韻のようなものが、文字の間からさらさら零れ落ちてくるかのよう。
女御たちの実家や登場人物達の身分や諸々の固有名詞が、全く違和感なくすうっと馴染んで読めるのって、なかなかすごいと思うんです。雅やかな雰囲気にうっとり。
それでいて読みやすい文章でさらさらと楽しめます。

沙羅は主を亡くし没落した大納言家の姫君で、従姉妹の女御の女房として静かに暮らしています。
基本受け身で全てにおいて控えめな彼女で、元気いっぱいのヒロインがお好きであれば正直物足りないかと思うのですが、平安時代に生きる高貴な姫君として考えるなら、むしろとてもしっくり馴染むと思います。
彼女が内に持つ優しさと寂しさにきゅっとなります。
猫がいちばん懐いているところに彼女の人柄がうかがえます。(名前のイメージ通りというか、ヒロインのもうひとりの騎士みたいな素敵な猫様です)
最初頑なに拒み全てを諦めていた沙羅が、朝蔭の情熱と優しさに少しずつ心を開き、恋に落ちてゆく様が、王道ながら素敵です。
控えめな中にも芯はしっかり譲れないものを持ってるのが随所で垣間見えるの、いいですよね。

ヒーローの朝蔭も、最初は育ちのいい貴公子と思っていたのが、主に父親の事で、彼なりに影を背負って生きてきたことがだんだんわかってくるのが、良かったです。
沙羅に語る以上に沙羅のことを昔から想っていて、でもそれを沙羅に必要以上には語らない。彼女への心遣いゆえ。
彼のこういうところがとても好きです。
拒み続ける沙羅にも、強引にならない程度にぐいぐい押していく彼のアプローチはなかなかときめきました。分かりやすいんだけどスマートで、全然嫌味じゃないんですよねえ。
三日通っての通例をきちんと守るところとか、わあ、『落窪物語』の世界ですね!!
ちなみに恋愛が進む段階も『落窪物語』っぽいです。
こういう各種設定がいかにも平安時代にありそうなものばかりなのがひとつひとつ心にくい。
従者の好郷も結構いい性格をしつつも有能で主思いでお気に入り。

ちなみに沙羅と朝蔭が結ばれるまでの障害に、朝蔭の父が勝手に決めた他所の姫との縁談があるのですが、そちらの姫には想いあった恋人がきちんと存在していて、朝蔭はそちらのふたりの恋の後押しまで(ついでに)やってのけていました。
さりげなく書かれているけれど朝蔭、かなり有能じゃない?
そしてできればこちらの恋人達のエピソードももう少し読みたかったな。

実はすべての元凶だったといえなくもない朝蔭の父親は、いわゆる「心がない」お人。
何を言っても心に全く響かない、愛も思いやりも全くない、真っ黒。
朝蔭はこんな父親の下よくこんなにまっすぐに育ったな……いや、むしろだからこその心に染みる優しさを持ち合わせるようになったのかな。彼にとっては初恋の姫への想いが、相当に救いだったのではないか。
彼が父と本格的に対立し一歩も引かない姿勢を見せた場面、格好良かったです。
そしてお母様もついに一矢報いました。彼女もこれまでの人生でどれだけ辛い思いをしてきたのか……想像すると辛すぎる。
そんな妻子の行動を全部沙羅に押し付けて呪いの言葉を吐きに来たのは、最低でしたが。
あんなことをあんなふうに言われたら、どんな気丈な女性であっても心折れますよ……。

火事の事もありどうなるかと思いましたが、ハッピーエンドに落ち着いて、良かったです。
沙羅も沙羅なりにものすごく頑張ったと思います。そこであきらめちゃだめだ!と私も思いましたが(笑)。でも繰り返すけど朝蔭の父にあんな風に言われた後では心が折れて捨て鉢になるのも仕方ない……。
朝蔭が読者の信頼に足る誠実な愛を持つ青年で、本当に良かったです。

沙羅が女房仕えをしている梅壺の女御のところは、女御様も女房仲間達も、穏やかで落ち着きがある雰囲気で、なんだか居心地が良いですね。
子供は可愛い姫宮で、世継ぎの皇子争いとも無縁で女主人が特に野心を持っておらず、親が健在で経済的にも特に困っておらず。これくらいのお妃様が、宮中ではいちばん幸せに心穏やかに過ごせるのかなあと、ちょっと思ったりしました。
キラキラした表舞台にたったり、国母になったりするのが幸せとは限らないよね。ほんと。
こういう、設定が比較的穏やか~なところも、大人風味な少女小説ならではなのかもしれません。

平安時代に普通に存在して平安時代の貴族の少女達が自然に感情移入できるのは、むしろこういう大人しいお姫様がヒロイン設定の恋物語なんじゃないかな、と読んでいて想像しちょっと楽しくなりました。
欲を言うならこの内容でもう少し巻数をかけてじっくり色々なエピソードを味わいつつふたりのロマンスを追いたかったな。
とはいえ一話できれいにまとまった良きロマンスでした。
深山くのえさん、今後もぜひこのようなかたちで平安時代もの(に限らず)少女小説を書いていただきたいなあ。
読書メーターの感想欄を拝見している限り、同じように考えている古参のファンは結構たくさんいる気がします。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 深山くのえ 

『皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし』江本 マシメサ 



オーストリア皇妃エリザベートは暗殺者の凶刃に倒れ六十年の生涯を閉じ、亡霊となってハプスブルク家の終焉を見届ける。
ところが気が付くと、一回目の人生の記憶を持ったまま、六歳の少女の時代に逆戻りしていた。
今度の人生は不幸な道を歩みたくないエリザベートは、運命の分岐点だったフランツ・ヨーゼフとの出会いを回避し見初められることのないよう、一転してガリ勉少女になることに——。


江本マシメサさんが描かれた、かの有名なエリザベートがヒロインの少女小説。
歴史もの少女小説が大好きな私は、新刊情報で目にしてから、読めるのをとても楽しみにしていました。
宵マチさんの表紙が甘くて繊細でロマンティックでいかにも少女小説で素敵です。

いやあ、王道パターンの少女小説って楽しいですねえ!!!
なんかひさしぶりにしみじみそう思いました。
(二見サラ文庫がいわゆる少女小説レーベルなのかは分からないですが、私がこの本を読んだ感じでは、中の挿絵がない以外はほぼ百パーセント少女小説)

今はやりの悪役令嬢転生ものと歴史もの少女小説の融合といいますか。
これまで考えたことなかったけれど、確かにこの二つは相性良さそう。
これに江本マシメサさん作品の持ち味がほどよくミックスされて、とても私好みの作品になっておりました。

序盤で語られる一回目の人生の回想が辛かった。とても辛かった。
そんな記憶を持ったまま、バイエルンでのびのびと育った少女時代に時が巻き戻ったエリザベート(シシィ)、心の傷は自然と家族の愛情で癒され、一度目の人生の不幸を回避すべく、決意して行動します。
お勉強をして武芸も身に着けることで、陛下に見初められるような少女にならないようにしよう!と。
そんなので上手くいくのか?と若干思わないでもなかったのですが、がんばってお勉強して知識を身に着けて、世界情勢を自分自身できちんと考えられるようになったシシィの姿は、読んでいてとても好感が持てました。
真面目に頑張る賢い女の子は私の好みストレートです。はい。
そんなシシィは、一回目の人生で何がハプスブルク家の不幸の原因だったのか、色々な面から考えることができるようになり、回避策も色々思いつきます。

そして最大の転換点である陛下との結婚だけは避けようと、頑張るシシィ。
まあしかしそこは運命といいますか、結局少し違う形ではあるものの、ふたりは出逢ってしまいます。
その年のプリンセスらしさはなくとも、真摯に相手のための実際的なアドバイスをするシシィ。いやこれはこれで相手の心に残っちゃうよね……。
なんかこの、知識と経験を兼ね備えた賢い娘でありながらも、恋愛の駆け引きを分かっておらず、それどころか相手に無意識に好意を抱いていて幸せになってほしいという思いが根っこにあるような、色々詰めが甘いアンバランスなシシィが、ひどく魅力的で可愛い。
なんというかシシィは、前世でも、陛下の事をちゃんと心から想っていたんだろうな。と。
そしてこんなシシィに陛下が心を奪われるのも必然というか。
ふたりは文通を続けていくことに。(文通はいいのねシシィ。結局距離が縮まっていくんじゃないの?とか色々読みながら突っ込むのがちょっとたのしいです)

特に良かったのが、知識を身に着けることで、姑ゾフィーの前世での厳しい態度には理由があったのだと、シシィが気づいたところでした。
ゾフィーさま、最初のうちこそ冷たかったけれど、シシィの賢さに触れるうちに、かえって彼女こそが皇妃にふさわしい、と考えるようになってゆくのです。この展開良いですね。
私そもそも江本マシメサさん作品のお姑さんポジションの女性が、いつも大好きなんです。みんな面倒くさい性格と深い愛情を持っていて、何とも言えない味があって。
そんな作者様のゾフィーが愛すべき女性だったのは必然でした。
ゾフィーとシシィの母のルドウィーカの間にある姉妹の複雑な感情もなんか良かったです。

バイエルンの王太子の少年ルートヴィヒのお世話係になるシシィ。聡明で甘えん坊のルートヴィヒとシシィが本当の姉弟みたいで可愛い。
再会した陛下の気持ちは、案の定……ですよね。そうなりますよね!ふふっ。
シシィのために街でお菓子を買い求める陛下が実に可愛いです。
真面目で堅物な青年の恋心は重い。シシィを忘れられるわけもなかった陛下も、王道パターンできゅんときました。
ルートヴィヒやゾフィー達、最終的には家族たちにも見守られながら(お父様意外と強かった)、シシィ達は収まるべきところに収まりました。
いかにも少女小説なハッピーエンドで良いものです。
なんというか、今世のシシィと陛下なら、確かな知識と愛情を持っているし、何があっても幸せには暮らしていけるんじゃないかな。と自然にそう思えました。

シシィの家族たちも愛情深いだけでなく、妙な(笑)味があって良かったです。
年頃の娘相手に、結婚生活についてそれぞれ辛辣な意見を述べるお父様とお母様がなかなか好きです。なんだかんだいっていい夫婦なように思える。
あとヘレーネお姉様に秘密を打ち明けるとは思わなかった。そして打ち明けられたお姉様の妹への真摯なアドバイスが良かったです。
結婚さえすればハッピーエンドではないってシシィがすでに分かってるところが、読んでいてほどよくリアリティがあるんですよね。
我が身の事を真摯に案じられた陛下の弟君達も、これはシシィに惚れ込んじゃいますよね。無邪気なのは罪だな……。

あとこのお話の読みどころは、ウィーンのカフェめぐり!!美味しそうなお菓子の数々!!!
ゲルストナーのスミレのシャーベット、ゼリーでかためた苺のケーキ「エルドベール・スフレトルテ」、「黄金の小屋根のチョコレート」、生クリームたっぷりのコーヒーに五層のチョコレートケーキにチーズケーキに……。どうしましょう、ものすごくケーキを食べたくなってきました。
少女のエリザベートに詳細なケーキのレポートの手紙を送ってくる陛下が健気で可愛いではありませんか。
ウィーンやバイエルンや色んな地域の描写がさらりとあるのも興味深くて、図書館でウィーンのガイドブックを借りてきて読みこんでしまいました。

私はもともとエリザベート皇妃やこの辺の世界史にそんなに詳しくないのでほぼ気にならなかったですが、あくまで少女小説なので、展開とかはゆるーく楽しむのが良いかと思います。
歴史におけるこうだったらいいのに、実はこういう真実だったら面白いのに、と好きに色々想像を膨らませられるの、歴史もの少女小説の醍醐味だと思います。
あ、須賀しのぶさんの『帝冠の恋』を読み返したくなってきました。(これもまた良き歴史もの少女小説です。ゾフィーがヒロイン)

江本マシメサさん、もっとこんな感じの少女小説書いてくださらないかしら。

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 江本マシメサ 

『親王殿下のパティシエール』篠原 悠希 




舞台は清王朝の中国。
華人移民の母とフランス人の父を持つマリー・趙は、ひょんなことから皇帝の十七皇子である永璘と出会い、北京の彼の屋敷の厨房で働くことに。
男性ばかりで食文化も故郷のフランスとは全く異なる御膳房で、皇子をとりまく家庭や宮廷の駆け引きの中、パティシエール見習いの年若い娘マリーは今日もかけずりまわる――。


書店で見かけて気になった一冊。
フランス人と華人のハーフの娘さんがパティシエールとして清国で菓子つくりに励む物語という設定、あとかわいらしい表紙イラストに惹かれ、これは読むしかない!と。
清王朝が舞台のお話ってほぼ読んだことないな~というのにも心惹かれまして。
フランス革命と時代がかぶっているのですね。そうか。なるほど。(←世界史全く詳しくない)

中国の文化習俗や宮廷の仕組みがかっちり読みやすく描かれていてストーリーも真っすぐでキャラクターも個性豊かで魅力的で、読んでいてとても楽しかったです。
期待のお菓子も美味しそう。
男性しかいない閉鎖的なお屋敷の厨房にとつぜんあらわれた、外国人で経験も足りない年若い女性のマリーは、最初から異分子もいいところ。
そんな中で、頑張り屋で度胸があってほどよくしたたかなマリーがくるくる働く姿は、読んでいて気持ちがいい。
けっこう向こう見ずで思い切ったことを何度もやらかすので、そのたびにハラハラドキドキさせられましたが。ふう、心臓に悪い(笑)。
なんだかんだ同室の使用人の娘さんたちや厨房の上司や同僚たちとも少しずつなじんでその場の一員となっていく様が、すごいなマリー。よくやったよ。(ひやひや)

直接の上司と同僚達がわりと柔軟なタイプで、マリーを締め出すことなく異国のお菓子にみんな興味津々でさりげなく手伝ったりしてくれるの、よかったです。いい職場環境大事。一番胃が痛いのは上司の高厨師ではないでしょうか。
第一話の小梅さんのそっけなくも頼りになるところがとても好きでした。ちょっと切ないエピソードになってしまいましたが。彼女とマリーのやりとりが心にしみました。
皇子にはすでに三人のお妃さまがいて、マリーはいやがおうなしに三人ともに関わり合いを持つことに。
奥さんが三人ってこの世界の中では少ない方だと思うのですが、三人だけでもすでに色々難しいバランスがあり、対立もあり。
キョンシーの誤解は笑っちゃいそうだけど笑い事じゃないですよね……。気味悪いのもわからないじゃないな。
お姫様とは今後普通に仲良くなれる、かな。甘いお菓子はだれでも幸せになれますよ。

このお話のヒーロー(たぶん)の永璘皇子は最終話になるまで直接登場してこなかったのですが、うん、やっぱりお屋敷の主人が帰ってくると全然違いますね。
私がこの作品の中でいちばんときめいたのは、マリーと永璘皇子の関係性でした。
いや、ロマンスの雰囲気はほぼまったくないんですけどね。根っからの庶民育ちでさばけた性格のマリーは最初からお妃になってやっかいな権力抗争にまきこまれたいなんてかけらも思ってないし。
それでも永璘皇子は、明らかにマリーを、誰よりも特別扱いしている。ある意味正妃様よりも。
皇子の距離が近い側近がマリーを誰より丁重に扱っているのからもわかります。
旅の中で出会った自由の象徴みたいな存在なのと、貴重な異国の職人(見習い)なのと、兄と妹みたいな、家族みたいな存在なのかな~と。二人のやり取りに流れる独特の気安い親しみのある距離感が、とても好きだな~、ときゅんきゅんしてしまったのでした。
でも正妃様が気付いたささいな違和感、これきっと永璘皇子も何かつかんでいるんですよね。マリーの出自に何かあるとすると、マリーの特別扱いはほかに何かシリアスな理由があるのかもしれないですね。どきどき。
しかし永璘皇子の性格がいまいちつかみきれない。道理がわからない人物ではないことは確かですが。
倹約家で気難しいお兄さんとの攻防もハラハラドキドキでした。マリーのお菓子美味しかったんですよね。

お菓子つくりももちろんとても楽しかったです!
当然ながら清国にはフランス菓子を作るための材料も道具も設備も全然そろっておらず、マリーは苦労します。
オーブンがなかったら確かに焼き加減の調節がすっごく難しいですね。工夫と練習をかさねて雲彩蛋餅乾(ビスキュイ・ア・ラ・キュイエール)を最後に作り上げたマリー、すごいです。正妃様命名のお菓子の名前がとても美しいなあ。
素朴な焼餅(ガレットもどき)やカリンを煮詰めて固めたお菓子も美味しそう。
医食同根の思想があって高貴な人でも絵にかいたような豪勢な食事をしているわけではなく、料理人が「砂糖のとり過ぎはよくない」とメニューを立てるときちゃんと考えているの、お国柄だなあと新鮮な感じがしました。
点心局ということで、塩味の点心も甘味もひとつの局で担当して作っているというのも、おもしろいです。
いつかクロワッサンやマカロンなんかもお屋敷で食べられるようになると、いいですよねえ。(読んでいる私がうっとり)

チェンバロが得意なマリーの良き相談相手・アミヨーさんの存在も、お話のポイント。
キリスト教信仰は日本人の私が考えるよりずっとマリーにとっては大事なもので、それだけにこれからのマリーの身の振り方にどうかかわってくるのか、ちょっと気がかりですね。
アミヨーさん最初に思っていた人の好い老修道士というだけではないですね、きっと。
永璘皇子もマリーも、まだ語られていない秘密の部分がそれぞれたくさんありそう。
思えば肉親と婚約者、故国をすべて失って皇子について異国に出ていくしかなかったマリーはなかなかしんどい身の上なんですよね……明るいマリーなのであまりしめっぽくはならないのですが。

これはおそらく続きも出ますよね?楽しみにしています。
少女小説読み人間なので、今はロマンスに縁遠いマリーがいつか誰かに恋する日がくるのか、そういうのも気になります。やっぱり占いの結果も気になりますし。
永璘皇子とお屋敷の人々の今後も気になります。(親王にその後なられるんですよね?おそらく。ネットでちょっと調べてみました)


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪


カテゴリ: 歴史もの

タグ: 篠原悠希 

『亥子ころころ』西條 奈加 




南星屋は、武家出身の職人・治兵衛を主に、娘のお永、孫娘のお君の三人で営む小さな菓子屋。
全国各地の銘菓を作る一風変わった菓子屋で、手ごろな値と味の良さで繁盛する菓子屋だが、ある日治兵衛が手を痛め、粉をこねるのもままならぬ事態に。
そんな折、店の前に雲平という男が行き倒れていた。聞けば京より来たらしいが、何か問題を抱えているようで―。


『まるまるの毬』の続編です。
このお話大好きなので、続編が読めたらいいなあとずうっと思っていました。
最近この続刊の存在を知り、やった~!!!飛び上がるほど喜びました。

治兵衛さんにお永さんにお君ちゃん、南星堂の家族三人の元気な姿を再び物語でおがめて、とても嬉しく幸せでした。
やはり人生辛いこともままならないこともたくさんあるのだけれど、家族や親しい人達の互いへの思いやりや優しさ、治兵衛さん達がこしらえるお菓子のふくふくと美味しさが伝わってくる描写、穏やかで丁寧で優しい語り口、そういうものにくるまれて、じんわり心に染み入ります。
毎日少しずつ読み進めていて、とても心が癒されました。幸せです。
語り手の治兵衛さんの娘と孫への愛情や菓子作りへの情熱がしみじみ伝わってくるのが良いのです。

治兵衛さんが手を怪我してちょっと気落ちしていた折に、新しく南星堂にやってきた渡りの職人・雲平さん。
雲平さんもまた読めば読むほどじわじわと染み出てくる人柄の良さで、丁寧で確かな職人の腕、ストイックな立ち居振る舞い、うーん、全てが格好いいです。
治兵衛さんと雲平さんが一緒に菓子を作っている姿が良かった。
この歳になっても職人として新しい技を盗みたいと研鑽を怠らない治兵衛さんの姿勢がまた良い。
そしてなんだかお互いワクワク楽しそうではありませんか(笑)。
時には菓子の記録の生き字引・お永さんやお君ちゃんも加えて菓子の相談をする姿が、読んでいてこちらも楽しくなってきます。
相変わらずしょっちゅうやってくる治兵衛さんの弟・石海さんもまたいい味出してます。
最初は雲平さんのこと気に食わなかったけれど彼の作るお菓子に文句もつけられず不承不承認めてるような感じが、読んでいておかしい。有事には非常に頼りになりますしねえ。

雲平さんにとって兄弟同然の菓子職人・亥之吉さんの行方を追いつつ、物語は進んでゆきます。
雲平さんにいちばんに惚れ込んでいるのは治兵衛さんな気がしますが(笑)、彼の存在によって、別な方向から、波紋が。
常に控えめで自分の感情を率直には語らないお永さんの、隠しきれない態度ににじむ想いに、なんだか打たれてしまいました。
大店のおかみさんが訪ねてきた場面での彼女の態度、明らかに普通じゃなかったですし。
娘のお君ちゃんが母の秘めた想いを察してもどかしく思っている様が、いいな。お母さん思いのいいこだなあ。
そして前夫の修蔵さんの気持ちも複雑でした。自分の過去のあやまちゆえ責めることもできないのが、辛いです。
治兵衛さんと収蔵さんふたりの話し合いの場面が好き。このふたりは今でも義父と息子なのだなあと感じました。
最終的にはああいう風に気持ちの折り合いをつけたお永さんですが、実際のところはどれほどの想いだったのだろうか。
旅話が楽しかったというのも確かに大きいとは思うけれど。
治兵衛さんと雲平さん、旅に生きる菓子職人で本質的に似ているだけに、お永さんが惹かれるのは分かるなあと、私でも思ってしまいますものねえ。

お君ちゃんの方も、今度こそ幸せな恋をしてもらいたいのだけれどな。
彼女は明るく朗らかで人の気持ちを汲み取るのが上手で、シリアスな場面でも彼女がいるとぱっと明るくなるし笑顔になれるので、本当に得難いいい娘さんだと思います。
前巻の辛いところから、よくぞここまで立ち直ったと思います。内面にはまだ傷を抱えているのでしょうが。
また思わぬところから、彼女に想いを寄せる男性が。
お殿さまは真面目で誠実で想いを隠し切れていない若さが可愛くすらあって、お君ちゃんのこときっと大事にしてくれると確信できるのだけれど。でもやっぱりお武家様と一緒になるのはしんどいよね……。どうしたものか。お永さんの娘を思うからこその断り文句が染みました。
お君ちゃんの方は彼の事を兄のようには思っていても、きっと明確には意識していないのが、救いなのかなんなのか。
(でも笑いたいときに笑っちゃいけないって、お君ちゃんみたいな子にはすっごいストレスだと思います)
あ~、でもこのふたりはそうはいってもお似合いだとも思うので、上手くいってほしい気持ちも、正直、あります。

そして亥之吉さんの事件の真相もつまびらかに。
若様とお父様、それぞれ辛い気持ちをずうっと抱えていたのだな。豪放磊落な趣味人の祖父を持って苦労したであろうお家の事情も読んでいてやるせなかった。
ようやく表れてくれた亥之吉さんがまた穏やかで柔和なお人柄で、若様が慕っていたのも納得でした。
兄と弟、実際のところそう遠くない場所で、それぞれの新しい居場所を見つけていたのだなあと思うと、ご縁というか、しみじみしてしまいました。
今回の一件は少しずつのすれ違いが重なっていたのが大きかったかな。
紐解いてみれば皆自分の気持ちを伝えるのにひどく不器用なだけの良い人達で、救われる思いがしました。
そろばん勘定が得意なお父様は今ではそれなりにお家を切り盛りしているようで、それもなんだかほっとしました。

読んでいて美味しそうで魅力的なお菓子が次々に登場してくるのが、たまらないですねやっぱり。
なが餅や関の戸や、知っているお菓子が出てきたのも読んでいて嬉しかったです。
関の戸ってたまにいただく小さな上品な和菓子っていうイメージでしたが、改めて読むと確かにかなりの手間がかかった高級品だよなあ。今度から心して味わおう。
なんといっても最後の白の亥の子餅の美しさに心打たれました。銀杏と紅葉が透けて見えるなんて素敵。
あと葛焼きもちょっと気になる。栗尽くしも素敵ですねえ。
若殿様が持ってきたお塩を使っての塩味饅頭のしょっぱさも、切なかった。
最初に雲平さんに振るまわれた小豆汁も身体に染み渡る美味しさがよくよく伝わってきました。

雲平さんも亥之吉さんもひとまず落ち着きどころがあって、さて今後の南星堂の三人はどういう道を歩むのか。
できればまた続きを読みたく思います。ぜひぜひ!!!


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 西條奈加 

『花だより みをつくし料理帖 特別巻』髙田 郁 




澪が大坂に戻ったのち、文政五年の春から翌年初午にかけての物語。
つる家の店主・種市と店の面々の様子が描かれた表題作、澪のかつての想い人・小野寺数馬とその奥方・乙緒の暮らしぶりが描かれた『涼風あり』含め、四編の番外編を収録。
シリーズ完結後の登場人物のその後の奮闘と幸せとを料理がつなぐ、待望の特別巻。


『みをつくし料理帖』シリーズ完結から四年後、今になってまさかの嬉しいシリーズ特別巻でした。
事前情報などまったくノーチェックでして、Twitterで情報が回ってきたときはびっくり仰天で、五度見ぐらいしてしまった。
シリーズが完結してからもう四年の年月が過ぎていたなんて。それにも驚かされてしまいました。

ということでほぼ四年ぶりにこのシリーズにふれるわけで、正直設定など色々あやふやになっている部分もあり大丈夫かしら……と思いつつも、お話が気になって仕方ないので、復習で既刊を読み返す暇も惜しく、読みはじめてみる。
……いざ読みはじめてみたら、そんなことちっとも気にならなかったです。
みをつくしの主要登場人物達、あのひとやあのひとたちに、久しぶりに再会できて、懐かしさやいとおしさに、読んでいて胸がいっぱいになりました。
ああ、みんながみんな現状くもりなく幸福というわけではなく、特に最後のお話の試練はしんどかったけれど、でもみんな元気で笑顔で生きていて、個性と人の良さと各自の持ち味はそのままで、大切な人と寄り添いあって生きていて、ほんとうによかった。
おかえりなさい!!!
ひとことでいえば、そんな気持ちに。
このシリーズのメインであるお料理ももちろんしっかり楽しめました。この時代の町の普段のお献立がまたたまらなくなつかしい。
贅沢な材料を使う訳でなくても、時間と手間をじっくりかけてていねいに作られるお料理の、美味しそうなこと。読んでいてふくふくと幸せな気分にひたれました。

それでは各話ごとに感想を。
『花だより 愛し浅利佃煮』
種市さんを主役に、シリーズ完結後のつる家で働く人達とその周辺の人々の姿を描いたお話。
このお話がいちばん明るく楽しいお話で、かつにぎやかでいちばん同窓会っぽかったです。
種市さんの澪ちゃんへの並々ならぬ愛情が心にしみいりました。
種市さんの心境を考えると気の毒だったのですが。気落ちしているひとがいればすぐに気づいて労わる周囲の皆が相変わらずでやっぱり心が温かくなりました。
個人的にはふきちゃんと健坊、太一君の成長がやっぱり印象的でうれしかったかな。
そしてりうさんがやっぱり最高でした。彼女のやることなすことが粋で、惚れ惚れしてしまいます。
まさかの種市さんとりうさん、坂村堂さんと清右衛門先生の、澪さんに会いに行こう!!の珍道中。
この時代の庶民の旅の雰囲気も味わえて楽しかったです。
そして種市さんの苦しみも溶けてひと息……というところで、オチにずっこけました。やっぱり気の毒。
種市さんの愛情が込められた浅蜊佃煮の握り飯が非常に美味しそうで、この本を読んでいる間私のお弁当にはかかさず浅蜊の時雨煮が入っていました。とさ。
清右衛門先生みたいな気が短いひねくれた男の人が実際に身近にいたら絶対私は苦手なのですが、でも先生やっぱり嫌いになれないんですよねえ。分かりづらい優しさがつぼにはまってしまいます。

『涼風あり その名は岡太夫』
小松原様こと小野寺数馬氏と、その妻乙緒さんの日常生活のひとこま。
ちょっぴり変わった性格で周囲に誤解されやすそうな乙緒さんですが、何とも言えない独特の味があるお人柄というか、私は読めば読むほど彼女が好きになっていきました。
無表情な母を全力で素直に慕う悠馬くんがまた可愛らしい。
なんというか、飄々としている数馬さんとは、お似合いの夫婦だなと思いました。
言葉足らずですれ違ってしまったけれど、お菓子で心を通わせられて、良かったです。
たしかに「岡太夫」ってややこしい成り立ちのお菓子だな……りつさんの愛情が余韻に残って良かった。
そして早帆さんは相変わらず早帆さんだなと思いました。彼女はむしろ変わらずにいてくれて良かったなと思ってしまった(笑)。
乙緒さんの辛い時に美味しいお菓子を送ってくれるおとうさんも、そのお菓子がちょっと気になる重光さんも、お武家のひともやっぱりみんないいひとだな。ほっとしてしまった。

『秋燕 明日の唐汁』
大坂に戻り生家の淡路橋高麗屋を再建した野江ちゃんのお話。
大坂の地で澪ちゃんと野江ちゃんが仲良く助け合って生きていて、読んでいる私もなんだかとっても幸せです。本当に良かった!!
野江ちゃんと又さんの出会いから始まる二人の絆のお話が、まさか今になって読めるとは。ぐっと胸に来ました。
又さんといえば寡黙だけど心優しい腕の確かな料理人というイメージが真っ先に出てくる私なので、なんだか、圧倒されました。彼が纏っていたそこはかとない凄みの空気にも納得がいったといいますか。
辛く苦しい過去と揺れる女ごころで苦しむ野江ちゃん、そして彼女のすべてを包み込む辰蔵さんの謙虚で大きな愛情に、打たれました。
おからの唐汁とは究極に素朴な料理に思えるけれど、あたたかくて優しい美味しさが伝わってくるようです。

『月の船を漕ぐ 病知らず』
ラストは澪と源斉先生のエピソード。
しかしこのお話が今回一番辛かった。やはり人生辛いことに終わりはなく次から次へとやってくるものだな……。
源斉先生と澪がひたすら真面目に誠実に努力しているからこその苦しみだと分かるので、一層辛い。
旦那さんがお医者様で奥さんがひとつの店の料理人というのは、たしかにものすごく大変だと思いました。
お互いの仕事を理解し尊重して暮らしているふたりがすごい。すごいけれど、たしかにしんどいときには一層しんどい……。
源斉先生にごはんを食べてもらえない澪の苦しみが本当につらかったけれど、お姑さんからもらったお味噌のレシピで、見失っていたものを見出した澪ちゃん、それからの彼女の頑張りと、そんな妻の姿を見てひとつの答えを見つけた源斉先生、良かったな。本当に良かったな。涙が出てきました。
お味噌を作る過程って具体的にあまり分かっていなかったので新鮮でした。思っていたより時間かからず作れるんだな。
そして東西のお味噌の違いで色々創意工夫をめぐらす姿こそ、澪ちゃんという感じがして、ふたりが元気になって、本当に良かった。
澪ちゃんと源斉先生のふたりの間に流れる空気は本当に穏やかで優しくて、そのまんまで夫婦になってるふたりが、ふたりらしくていいなと思ったのでした。
辛い時にお互い支え合い励まし合う澪ちゃんと野江ちゃんの友情も、また、しみじみ尊い。

澪と野江のふたりの人生を変えたかつての大坂の水害、病など、今のご時世特に全く他人事ではなくて、胸にせまってきました。
私ごときでは何のふさわしいことばも見つからずに情けなく歯がゆくてしかたないのですが、今回の新刊を読み、一層、平凡な日常がなんて尊いものなのか、感じ入らずにいられなかったです。
……なんというか、やっぱりうまいこと書けないのだけれど。

りうさんのラストの瓦版も、高田先生自ら描かれたという帯イラストも、最後までとっても素敵で、心が満ちたりました。
みをつくし料理帖シリーズファンの方は、ぜひぜひ今回の特別編も、手に取って読んでみてくださいませ。
おススメです!!


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カテゴリ: 歴史もの

タグ: 高田郁 

『蘇我の娘の古事記』周防 柳 




大化の改新~壬申の乱の時代。
蘇我氏の元国史の編纂にも携わってきた渡来人の船恵尺の家には、物語を愛する盲目の美しい娘コダマがいた。
彼女と兄のヤマドリは、動乱の時代の波にさらわれ巻き込まれつつも、父や周囲の人々に見守られ成長し絆を育んでゆく——。


『古事記』がいかに形作られ現代まで受け継がれてきたのかを辿る物語。
陰謀はびこる飛鳥時代の宮中を舞台に、作者さんがみずみずしく豊かな物語を広げてゆかれています。

古代史好きで、『古事記』にも親しみがある私としては、ものすごく面白かったです!!
このタイトルにぴんときたひとは、読んで損はないと思います。
コダマというひとりの娘が物語のメインで、彼女の出生の秘密、成長や恋のお話もとても素敵で、わくわくどきどきしました。
コダマとヤマドリの兄妹ふたりの絆と愛情が美しく真摯で泣ける。
そんな子供たちを秘密を抱えて見守る恵尺お父さんもまた良いのです。

この時代の出来事を、蘇我氏サイド、あるいは天智天皇&大友皇子サイドで見ることは私はあまりなかったので、新鮮でした。
この時代を生き抜くのって本当にサバイバルだな。
個人の感情だけで動いて、結果一族全体を危機にさらしてしまったらもう取り返しのつかない。そう考えると怖い……。
優しく穏やかな恵尺の苦労がしのばれました。

一方国史編纂に並々ならぬ情熱をかけて一生の業とする恵尺さん。
大化の改新時に、そうか、蝦夷はそういうことだったのか……とか思いました。
神さまの時代から伝説の大王の時代から各豪族たちの由来から、ある程度創作の物語を編むように作り上げてゆく様が、なんとも興味深く面白かったです。蘇我氏の成り立ちエピソードにそんな裏があったのかもとか想像するとたのしい。
さらに娘のコダマは、歴史の中の人々が、どんな風な性格でどんな風に生きて恋をしていたのか、隙間を埋めるような物語を愛し、興味深い昔語りを聞いては記憶してゆきます。
各章の合間合間に挿入される、古事記の中の各エピソードの元になっていると思われる昔語りも、親しみやすい語りで、語り手の主観も入っていたりして、なんだか新鮮!

兄と妹の恋、確かに印象的なエピソードが多いなと思いました。
確かにいとしいひとを「妹(いも)」と呼びますものね。
サホビコとサホヒメときくと真っ先に氷室冴子さんの『銀の海 金の大地』を思い浮かべてしまう私です。兄と大王の間で苦悩するサホヒメがかなしい。
そしてそれはヤマドリとコダマの兄妹の関係にも重なってゆく。
気持ちを通じ合わせることができたふたりの場面の幸福感に眩暈がするほどでした。
コダマに忠実で頼もしい小熊がいい。

ただし時代はさらにひとつ大きくうねり、コダマを守るため近江朝廷に忠実に尽くすヤマドリの身にも、暗雲が。
天智天皇と大海人皇子の仲はどちらが善悪とかなんか言い切れないけれど、大海人皇子も本当に食えないお人ですね。大友皇子サイドからみると、確かに、ちょっとなんだかなと思ってしまう……。
生まれ落ちた環境が不幸だったとしかいえない大友皇子。絶望的な状況でも客観的にものごとを見られて淡々とたたずんでいる姿は好感が持てました。
最後のヤマドリと大友皇子の会話の場面が泣けました。この人生、妻のために生きなかったことはないのです。というヤマドリのブレのない愛情、格好いい……すごく切ないけれど……。
そういえばかつて中大兄皇子がヤマドリとコダマを見逃したのは、自身と間人皇女のことを重ね合わせたのかしらとか、ちょっと思ったりしました。
そうそう、皇極天皇が抱えていた秘密にも、うなりました。確かにそういうことなら中大兄皇子があの凶行に及んだのも、説得力があります。

里の方で恵尺が受けた制裁のむごたらしさに言葉を失いました。
白萩の恨みもまた十分すぎるほどわかるんだよな……辛いよう。
子供達と忠実な小熊、大野の尼、そして大兄、頼れる人達がコダマにはいて、そしていずれ物語が彼女を生かして、悲しい中でも救われる思いでした。
大兄(道昭)、ヤマドリとはまた違う頼れる愛情たっぷりのお兄ちゃんで、素敵なんですよね!天武天皇に一矢報いた(?)場面は痛快でした。

このお話、主人公達に惨たらしい仕打ちをする人間でも完全な悪人という書かれ方をしている人がほぼいなくて(中臣鎌足の女性関係の悲しさはなんだかちょっと印象的だった)、そういうところも良かったなと。
だからこそ人が人を欺き命を奪っていく展開が、よけいにやるせなくも思えるのですが。

『古事記』の挿入エピソード、私が好きなコノハナサクヤヒメやヤマトタケルノミコトのものもあって、嬉しかったです。
そうそう、コノハナサクヤヒメの旦那さんの大王は勝手すぎるんですよ!!でも自分に自信がなかった人なんだよな~。語り手がバッサリ斬りつつフォローもしていてなんだか面白かった。
ヤマトタケルノミコトは、私にとってのもう一つの彼の物語、荻原規子さんの『白鳥異伝』を読んで、ようやく救われる思いがします。
たくさん出てくる地名の由来や誰々の子孫やそういうのが、むき出しの悲劇性をいくらか薄めているような気は、しますね。個人の主観ですが。

素敵な一冊でした。
作者さんの他作品もまたチェックしてみよう。


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