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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~ 3』青木 祐子 




天天コーポレーションの経理課一筋28歳の森若さん。
仕事とプライベートはきっちり分けたい彼女だが、ここ最近はややペースを乱されがち。
そんな沙名子さんの日常は今日も賑やか。
仕事熱心だけど周りから浮いている契約社員、逃げ癖ありの困った社員、社内のトラブルにはからずも首を突っ込む羽目になる沙名子さんだが——。


『これは経費で落ちません!』シリーズ第三弾。
作中ではクリスマスも近づき黒タイツの森若さんでした。

いやーこのお話ますます面白いですね!!!
とにかくもう沙名子さんが最高です。
今回も不本意ながら冷静沈着に社内のトラブル処理に大活躍で、キレッキレで、仕事もできるし、本当に格好いいです。
私から見ると何歳も年下なのに、きらきら尊敬と憧れのまなざしを送ってしまいます(笑)。
通勤の電車の中で読んでいるとほんとうにたのしく元気になれる。

相変わらず社内のトラブル(未満なものもあり)は、すっぱり綺麗に解決するでもなくもやもやっとしたものも残るのですが、そこがかえってリアルで共感して読める。
もやもやしているのに読んでいてすっごくスカッとして気持ちいいんですよね~!
このあたりの塩梅が絶妙です。
やはり登場人物のキャラクターと心理描写がものすごくお上手だからでしょうか。さすが青木先生。
沙名子さんの内心の突っ込みが毎回面白く共感大でうんうんうなずきまくってます。
二巻三巻と重ねるごとに、キャラクターがしっくり馴染んで、きてますます面白くなってきたように思います!!

私生活でもきっちり完璧なペースを築いている森若さんですが、太陽のことでペースを乱されがちで、そのことにイライラしつつも受け入れている彼女が、一方でものすごく可愛らしい。
沙名子さん本当に太陽のこと好きで恋しているんですねえ。いいですねえ~ふふふ。
太陽も、相変わらずお調子者で軽いノリですが、すごく一途で健気だし、沙名子さんの独特なペースをそのまま受け入れて尊重しているし、だんだん私の中で好感度が上がってきました。
「太陽さん」「沙名子さん」名前でさん付けで呼び合っているふたりがふたりらしくて好きです。

あと沙名子さんの後輩真夕ちゃんも沙名子さんと別のレベルで共感できて沙名子さんを理解して尊敬している感じも好感度大きい。
やはり経理部員のお互いの信頼関係が好きだな~。トラブルがあった際のみんなの一致団結っぷりが良かったです。

順番に簡単に感想を書いてゆくと、まずは派遣社員の千晶さん。
これもまたデリケートな問題ですね……。千晶さんと自分を比べて落ち込んでいる真夕ちゃんのことをフォローしている沙名子さんの場面が好きでした。いやでも難しいな。
次に馬垣さん。この人はちょっと嫌だなー!!
やばいことがあったら逃げたくなるという心理はたしかにすごくわかるけれど、こうして物語として客観的に読むと、駄目さが俄然あらわになって、自分自身は本当に気をつけよう……と改めて思えました(笑)。
自分にミスが多いことを自覚していてこつこつフォローと努力を惜しまない真夕ちゃんの姿が好きです。
そして山崎さんが思っていたより曲者でした。
太陽視点の休日のトラブル話、沙名子さんの名探偵っぷりがすごすぎる。沙名子さんならそういうこともあるだろうと思えてしまう辺りが沙名子さんのすごいところだな(笑)。さんまの塩焼き→さんまの煮物になる下りが好き。でもやっぱり塩焼きが美味しいんですよねえ。
最後の由香利さんのお話は、落としどころが思っていたより深刻じゃなくてほっとしました。吹っ切れたようで良かったです。
婚活パーティーの場面は、ちょっと『恋のドレスと舞踏会の青』の舞踏会の場面を思い浮かべてしまいました。
バーンズ姉妹はあれからちゃんと幸せな生活を送っているかなあ。
沙名子さんと由香利さん双方に趣味仲間ができたみたいで沙名子さんの気持ちも分からないでもないけれど微笑ましい。


「——ありがと」
戻ってきた太陽へ向かって、沙名子は言った。
「何が?」
わたしを好きになってくれて。
「この間のマグカップ」     (84頁)

沙名子さん可愛い……!!(じたばた)


エピローグの真夕ちゃん視点も、沙名子さん視点とはまた別な風に社内の人間関係をのぞきみることができて、面白くて好きです。
千晶さんの態度が人によって違うのはやっぱり若干もやっとするな。馬垣さんも。
経理部の新人さん、ラストに登場しただけでもうかなり強烈なので、これからどうなっていくのか非常に気になります。
あと太陽が他でもない沙名子さんの恋人(ですよね)と、真夕ちゃんはいつ気づくのかな~。

あ、あと勇太郎さんはやっぱりか……!と由香利さんのお話の最後の方を読んでいて思いました。
そして沙名子さんのスルーが完璧すぎて、沙名子さんらしく、いや経理部女子らしくて、ずっこけました。
勇さんと沙名子さんならそれはもう沙名子さんも自分のペースを乱されることもなくお互い分かりあえて完璧なパートナー関係を作れそうではありますが、沙名子さんが好きなのが太陽である以上はしょうがない。というかやっぱり沙名子さんの恋人としては太陽ぐらいのゆるくて明るいタイプの方が良い気もしますし。
でも勇太郎さん今後、沙名子さん以外の女性を見つけることなんてできないんじゃなかろうか……と今から心配だ。デリケートなひとですし。
とかなんとか色々思ってしまい、個人的にはこの巻でいちばん盛り上がったのって何気にこの場面だったりしたのでした。
もしかしたら勇太郎さん単純にクリスマスの有給休暇の話題だったという可能性もあるけれど。
なんで私がここでこんなに盛り上がるのかって、(成立すれば)年の差カップルだからっていうのもあるかもしれないな。(つまりものすごく好み)

読んでいて笑って元気になれるお話でした。大満足♪
そして『舞踏会の青』を思い浮かべてしまったこともあり、『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』を久しぶりに読み返したい気分です。
青木先生の描かれるお仕事ができる女子が私は大好きなのですよねえ。と今回改めて思いました。
クリスやパメラといい『ベリーカルテット』のシャノンといい。


ここ一週間にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 青木祐子 

『下鴨アンティーク 暁の恋』白川 紺子 




慧に想いを告げてから関係がぎくしゃくしてしまっている鹿乃。
そんななか、知人に紹介されたのは、蔵の着物に関わりを持つ青年。
彼の大伯母の椿の振袖を蔵から出してきた鹿乃だったが、描かれた椿がすべて落花してしまい——。

『下鴨アンティーク』の新刊を心の支えに最近は生きてきました。
うーん、やっぱりめっちゃ好きやね!何度も読み返しては、ずっと世界に浸りきっていました。
お着物や花や古典文学やひとつひとつのモチーフのロマンティックさやしっとり優雅で美しく流れるような文章、はんなりやわらかく響く方言、京都のたたずまい、そして少しずつ表に出てきた鹿乃と慧のロマンス。すべてがいとおしくてたまらないです。
物語のモチーフを一つのイラストに美しく収め描かれている表紙イラストもやはり秀逸。


ではでは、以下はネタばれもありの感想になります。


前巻がとても気になるところで終わっていた今回。
読み終えて、鹿乃ちゃん、良かった。もう本当に良かった。ほっとしました。
あのラストからまあこうなってしまいますよね、と薄々思ってはいた展開で、鹿乃ちゃん辛すぎるし慧の気持ちも分かるしで、読んでいて痛々しくて見ていられなかったのですが、いやあ、良かったです。
鹿乃と慧の恋の行方が今回のお話のメインで、あと今回際立っていたのは、普段ぐうたらな良鷹お兄ちゃんの活躍っぷり。
良鷹がどれほど鹿乃を大切にしていて彼女の幸せを願っているのかひしひしと伝わってきました。
あと鹿乃のお友達の梨々子ちゃんと奈緒ちゃん、慧のお父さん田村教授、恋敵であるはずの春野さんまで、みんなが鹿乃と慧の関係が上手くいくよう後押ししている感じがして、こんなにたくさんのひとたちがふたりを見守っているというところにも、頼もしく心があたたかくなりました。

不思議な着物をめぐる三つのお話が、すべて、鹿乃と慧の現在の難しい状況とどこか重なるものになっていて。
喜びも苦しみも内包し実ったロマンスを解き明かしていくごとに、ふたりの心や関係も少しずつ変化してゆき……というお話の構成も、素敵でした。
あと今回ますます、鹿乃ちゃんは周囲の手を借りつつもあくまで自分自身で着物のことに取り組み解決していて、確かに鹿乃ちゃんが蔵の管理人、巫女姫だというのも、納得というか、しっくり馴染んできているように思いました。
皆が鹿乃ちゃんに不思議と心を開き胸の内を打ち明けるのも、彼女の資質なんでしょうね。

『椿心中』
慧の返事にやわらかく微笑んだ鹿乃の場面が辛くてやりきれなかった。
そして「だって、生きてるやん」「慧ちゃんは生きてるし、死んでないんやから泣くことやないと思う」(58頁)の鹿乃の台詞が、胸にずしりとくる。鹿乃のために泣いてくれる友人二人の姿に私も泣けました。
満寿さんのたまごいろにかがやく海老ピラフもやっぱりとてもおいしそう。
「あたたかい料理というのは、どうしてこう、ひと噛みごとに胸の内側に染みこんでくるのだろう。」(57頁)
心中のお話は穏やかならず、古代神話の悲恋物語とも重なって、重たくて辛かった。
でもだからこそ、椿を祝福のものと変えたのが素晴らしく、稜一さんと紗枝さんのふたりが前向きな気持ちになれたようなのも嬉しく、そんなふたりに瀧子さんがこれからは力になってくれるだろうということが、心強い。
掛け算の愛、いいですね。鹿乃ちゃんらしい。
良鷹と鹿乃がドーナッツを食べている場面も好きでした。ドーナツとココアがおいしそうでよろめきました。
慧がなぞらえた『椿姫』の一節も胸を打ちました。
最愛の妹を慧に取られたと十年前からずっと拗ねていたらしい良鷹お兄ちゃんが気の毒で可愛かった(笑)。

『月を隠して懐に』
おさるさんがかわいい。
笛の先生と年下の奥様の恋のエピソードを辿り、自身の恋とも重ね合わせて、という鹿乃ちゃんの姿が印象的でした。
慧が母親の実家へ出かけ不在というのもあり、良鷹が本当に大活躍でいったいどうしたんでしょう(失礼)。
確かに、両親と祖父母を喪い一番つらさを抱えているのは、良鷹なんだろうな、と思いました。
鹿乃の髪をゆったり着物をきせかけたりする良鷹さんのかいがいしさといったらもう。
鹿乃さえいてくれればそれでいい、というのがね。泣けますよね。
真帆さんレシピのマヨネーズ入り玉子サンドがやっぱりおいしそうです。あの良鷹が気にいってまた食べたいというのだから相当ですよね。
そして慧が鹿乃の想いを受け入れられなかった原因のひとつは、両親の姿を見てきていたからこそだったのか。
田村先生と慧の旅館にて会話の場面も好きでした。
鹿乃のお守りを心のよすがにしている慧の姿にもぐっとくる。

『暁の恋』
梨々子ちゃんと奈緒ちゃん、良鷹お兄ちゃんが煮えきらない慧ちゃんをそれぞれたきつけにくる場面が好きだー(笑)。
春野さんも、最後までやっぱりよくわからないお人だったけれど、こうなってみるとなんだか気の毒だなあ。
最初は特に本気でもなく鹿乃にちょっかいを出していたけれど、そのうち本気で鹿乃に惹かれたということだったんだろうか。
カイロをふたつ持っていたところが、なんか、春野さん好きだなと思いました。
慧ちゃんの飾り気のないまっすぐな告白と、慧への気持ちは絶対に譲れないと腹をくくった鹿乃のふたり、本当に良かったです。ううう。
美根子さんと和泉式部と梅の帯のエピソードも良かったな。和泉式部の伝説って面白いですね。はるみさんも素敵な女性だなと思いました。
草餅と牡蠣フライが食べたくなってくる(笑)。ツナと白菜の玉子とじどんぶりも想像するとおいしそう!
最後のふたりデートの場面が可愛らしくて幸せすぎました。花尽くしの着物を着て初めてのデート記念に押し花を作ろうかという鹿乃ちゃんが可愛すぎて、それは慧ちゃんもめろめろでしょうと納得でした(笑)。
それにしてもさすがにここでプロポーズが来るとは思わず、早!
でもここで結婚の言葉が出てくるのもなんだかこのシリーズらしいし、生真面目で古風な慧ちゃんらしいし、なによりこれまで同居していて一緒に台所に立ち料理を作っていた鹿乃ちゃんと慧ちゃんはもう恋人を通り越して若夫婦的な空気をまとっていたし、うん、良いんじゃないでしょうか。
鹿乃ちゃんが幸せならば。
「おまえは地面に落ちてるものを拾うのが好きなんだな」
「地面が近いから、目に入るんや。慧ちゃんは地面が遠いから気づかへんのやろ」
なんて241頁のなんでもないやりとりもお気に入りです。

『羊は二度駆ける』
良鷹と真帆さんのお話。良鷹メインのお話はやはり気持ちブラックというか救われないお話が多いかな。白露が格好良かった。
ううん、鹿乃ちゃんが慧とつきあいだして喪失感に囚われている良鷹がなんか報われなくて気の毒だな……。
良鷹のシスコンっぷりが改めてひしひし伝わってきますね。確かに高校二年生でつきあっている彼女に「妹の方が大事」とためらいもなく言ってしまうような人は間違いなく重度のシスコンですよね。
良鷹も真帆さんも、自分たちの関係について、恋愛ではないと迷いもせず否定しているけれど、私は良鷹さんと真帆さんのふたりの組み合わせがとても好きなので、ふたりで幸せになれるといいのになあ、とどうしても思ってしまう。
でもまあ、そもそも良鷹には友人が慧くらいしかいないということだったので、そう思えば今回の真帆さんのラストの台詞は大進歩なのかもしれない(笑)。
さばさばしていて賢くて弁の立つ真帆さんは、良鷹の影のある部分を上手く吹き飛ばして場面を明るくしてくれてる気がして、そういう意味でも相性がよいと思うのですが。
良鷹のビーフシチューが最後に最大の美味しそうな場面でした。

とても幸せな読書のひとときでした。ごちそうさまでした!
きれいにお話がまとまっていて、これで完結とか……ではないですよね。そうですよね?
続きもとても楽しみにしています。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 白川紺子 

『契約結婚はじめました~椿屋敷の偽夫婦~』白川 紺子 




寿町四丁目にある通称「椿屋敷」に住む柊一は、若いのに隠居暮らしをしているようだと「若隠居」と呼ばれている。
そんな彼のもとに嫁いできたのは、十九歳の香澄。
新婚で仲睦まじいふたりの間には、しかし秘密が。
ふたりは利害の一致から結婚をした、いわゆる「偽装夫婦」なのである——。

白川紺子さんのオレンジ文庫の新作。
最近白川紺子さんの新刊がハイペースで刊行されている気がして、こんなに贅沢していて良いのでしょうか……(笑)。
ブログに感想を書くには至っていないのですが、コバルト文庫の方の作品もほぼすべて読んでいます。好きです!

今回のこのお話も、とてもとても素敵な一冊でした。読んでいてほこほこと幸せになれる物語。
『下鴨アンティーク』とも通ずるものがある、コバルト文庫よりも上品な少しお姉さん向け少女小説、といった風情。
白川さんが書かれる少女小説と一般文芸の境目のような、ロマンティックさのさじ加減が、私の中で絶妙にぴたりとはまるのです。読んでいてたまらないですよ~きゅんきゅんです。
契約結婚、年の差カップル、伝統のあるおうちの家族の愛の物語、私好みの要素が満載なのも素晴らしい。
椿屋敷というだけあり、椿の花の薀蓄話が各話ごとにふんだんに語られているのも、安定の白川紺子さんタッチでロマンティックで素敵でした。
あと若妻の香澄さんが作るご飯やお菓子の類が全部おいしそうです!(重要)

読みはじめてみると、物語の語り手が「椿屋敷」という「家」だった!という、なかなか衝撃的な出だし(笑)。
今までほぼ読んだことがない設定で、新鮮味があって良かったです。
椿屋敷にとって、柊一は先祖代々見守っている、頭が切れる穏やかでちょっと感情が読めない青年で、香澄さんはそんな彼に嫁いできたばかりの気立てがよく優しい奥さんで、まるで親戚や家族のようなあたたかでちょっととぼけたような感じが読んでいて心地よかった。
表紙の淡いタッチの椿の花々とたたずむ若夫婦の雰囲気がほのぼのあたたかくノスタルジックで、そういうイメージにぴったり。

そんな見守りモードで語られる、柊一さんと香澄さんの偽装夫婦ならではの(?)安定した仲睦まじい生活と距離感、そこからお互い少しずつ気持ちに色がついてゆく様が、読んでいてもう甘酸っぱくてたまらなかったです!
くるくるよく働き柊一さんに尽くす新妻・香澄さんが可愛すぎて、ずっと読み続けて見守っていたい。穏やかで優しくて周囲の人たちにも慕われている柊一さんもいい旦那さんだ。
そんなふたりそれぞれに、偽装結婚に至った複雑な事情の影が、見え隠れしつつなのも、気になりつつ。
こんなに頭が切れるのに女心と自分自身の気持ちには疎い柊一さんが、途中ものすごくじれったくなりつつも!(笑)、おさまりのよいラストで良かったです。

『水曜日の魔女』
茉優ちゃんいじましくていいこだな……。姉妹の関係って、大人になっても、確かにこういうことあるよねっと読んでいて思いました。離れていた方が上手くいくことがあるというのも分かる。
ママレード入りマフィンや鶏の南蛮漬けがおいしそう。「疲れた時にはお酢を使ったものを」と香澄さんの心遣いにきゅんとしました。

『月の光』
在りし日の恋人たちの思い出を高校生のふたりと柊一たち夫婦で紐解いてゆく……という流れが少し切なさ苦さも混じりつつロマンティック。奈穂ちゃんの複雑な想いや後悔がぐっと胸に迫りました。由紀也君もいいこだな。
香澄さんが頑張ったタルトタタンが美味しそうで私も食べたくなってきました。


栗きんとんとモンブランくらい違います、とわかるようなわからないような喩えをする。
「どっちが栗きんとんでどっちがモンブラン?」
「わたしは栗きんとんの方が好きですね」
そういう話ではないような。
「ふうん、僕も栗きんとんが好きだな」

121頁のこの会話がなんだかとってもときめきます……!!


『花いくさ』
香澄さんの婚約者襲来!自体は意外とあっさり解決(?)しましたが、「花いくさ」親友ふたりの結婚騒動は、なかなかシビア。
「仲がよかろうとよくなかろうと、離れられない間柄」というのは、なんか、なんとなく、分かる。
椿がカギになっていた幼い日の想いが明らかになる場面が、表面的な騒動の奥から深く美しい色がじわじわとにじみ出てきたかのような、ぐっとくるものがありました。みんなそれぞれ辛くて苦しくて切ない。
歩美さんが香澄さん達のお鍋に救われた場面も印象的で、分かるわかる。彼女も吹っ切れたようで本当に良かった。
あと絢さんがいろいろ格好良すぎました。エッグノッグもおいしそうだなあ。

『追憶の椿』
笙子さんの急襲、若夫婦に暗雲が。
笙子さんはかなり強烈なおばさんでしたが、彼女はどことなく『赤毛のアンシリーズ』のマリラを思わせるものがあって、なんだか、読んでいて不思議な親しみが。いつも無条件で優しかったマシュウは違い、厳しく現実的で頑固だけれど人一倍情が深く、不器用ながらにアンに愛情を注ぎ続けたマリラ。香澄の複雑な気持ちも分かるし色々ありましたが、最終的にはあのかたちで落ち着いて、良かったな。
柊一さんの女心の分からなさはちょっと致命的でした(苦笑)。香澄さんも強く出られないからもどかしいこと!
檀くんと柊一さんの間の複雑な想いも、そういうことか……。ううん、こちらもどちらの気持ちも分かるし、やるせない。そんな確執があってなお現在お互い仲良くしているこのふたりがいいなあ。
電話でのやり取りから香澄さんがいなくなって寂しい柊一さんの姿から、色々もどかしい。
あとラスト、笙子さんと晶紀さんが主に柊一さんにちくちく嫌味めいたことを口にしている場面に笑っちゃいましたし、端々に香澄さんへの愛を感じて、きゅんとしました。
晶紀さん、婚約者であった香澄さんがこういうことになってあっさり引き下がりそのままか……と思いきや、実は長期戦の心づもりだったのか?あ、侮れない……。
まあこの煮えきらない柊一さんをたきつけるには、これくらいずけずけ言ってもらえるくらいでちょうどよかったんじゃないかしら、と思いました(笑)。
檀君の千鳥屋のどらやきのお土産にもほっこり。

『すみれ荘にて』
番外編。
うわああ、檀君頑張れ……!!
彼も想いが報われてほしいな。

もっとこの若夫婦を見守っていたいですし、周囲の人たちのことも気になりますし、柊一さん自身の仕事の話も具体的に読んでみたいですし(なんだか今回ほとんど具体的に語られていないような)、できれば続きが読みたいです。読めると嬉しいなあ。
ひとまず来月は『下鴨アンティーク』の新刊が読めるとのこと、今からたいへん待ち遠しいです。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 白川紺子 

『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~ 2』青木 祐子 




天天コーポレーション本社経理部の森若沙名子さん、多くの領収書を処理する彼女には、社内の色々な人間関係が見えてくる。
必要以上のことは期待せず、されず、精神的にも経済的にも「イーブン」でいることを大切にする沙名子は、他人の面倒ごとには関わりたくないのだけれど、ときには巻き込まれることも。
有能な経理女子の目線から見るお仕事小説第二弾。


『これは経費で落ちません!』の続編が出ました~!
最近の青木先生の作品の中ではいちばんのお気に入りだったので、とても嬉しいです。

実際に読んでみても、二巻目も期待を裏切らない面白さ。
いやあもう、森若さんがとにかく格好良いです。惚れ惚れ。
いかなるときでも冷静沈着有能、自分のポリシーを崩さない森若さんが今回も健在。彼女の仕事ぶりや冷静な人間観察、内心での突っ込みなどなど、読んでいて小気味よい。たのしい!
別に正しさや正義を振りかざしているわけではなく自分にとっての「イーブン」を保ちたいという彼女のスタイルが読んでいてリアルに共感できる。
なんだかんだいって沙名子さん、結局お人好しですし。だからこそ内心色々悩んでいるわけで。

マニキュアや香水をたしなんでいたりお洒落には気を使っていたり、女性らしい部分もしっかり持っていて時と場所を踏まえてちゃんと楽しんでいるのも、優秀さの一部という感じでますます惚れ込んでしまいます。
好きなものは好きだとはっきり自分を持っていて躊躇いなく楽しめる姿勢が憧れなんだな~。
自分の食事のサイクルも基本的にきっちり管理していてちょっとやそっとでは崩したくない森若さんのスタイルもいい。私もここまで徹底できたら理想だな(笑)。
でも私が何よりわかるわかる!と思ったのは、お弁当のおかずにブロッコリーと人参のグラッセを作ろうとして、考えすぎて、結局ほうれん草とコーンの和え物を作ってしまった、という下り(笑)。そのメニューの具体的なチョイスが分かりすぎてもう。

彼女の優秀さには程遠い私ではあるけれど、職場のあれこれ、わかるわかる~と何度も頷き笑ってしまいました。
女性の集団の訳の分からなさ。ほんとうに。
ちょうど電車の中で読んでいた時、遠からずなことでへこんでいたので、森若さんが陥った事態にものすごく共感してちょっと笑って心がだいぶ軽く楽になりました。感謝です。
結局きれいに白黒ついて解決したわけではなく、それでもいつの間にか改善されている、なんとなくもやっとしたものが残るこの加減が絶妙にリアルで、わかるわかる!(笑)

織子さんや山崎さんの件は、ああ~そういう人もいるんだな、みたいな感じで読みました。
山崎さんてっきり美月さんに気があるのかと思っていたら全然違った。というか太陽にちょっと意地悪かなとも思っていたけれどやっぱり違ってた。
織子さんはその後沙名子さんを微妙な立場から救おうともしてくれたわけで、悪い人じゃなく。というかそんな完全な悪人はこのお話には出てこないですね。皆癖があるし欠点もあるし時に気の迷いも起こしたり色々あるけれど、結局のところは普通のいいひと。そこは安心して読めるかな。

いちばん読み応えがあったのが経理部の同僚・勇太郎さんと友人のお話。
しかしいちばん重たい話でもありました。これだけはうやむやではすまされない。
辛いな……うーん。
というか勇太郎さんと沙名子さんの同類同士の信頼関係、お互いの仕事のやり方やひととなりはもう知り尽くしているみたいな感じが、なんというかすごい。格好良すぎ。

そんな沙名子さんと勇太郎さん含め、今回特に、経理部の四人の信頼関係が好きだったな~と実感したのが、再び真夕ちゃん視点のエピローグ。
沙名子さんにちょっかいを出している(と思われている)太陽に、三人ともが牽制っぽい態度を取っているのが、読んでいて笑えました。
三人とも沙名子さんのことが大好きで心配なんですよね。愛を感じます。愛(笑)。
「勇太郎が社内で認めている女性は沙名子だけである」という真夕ちゃんの見解も、うなずいてしまう。たぶん沙名子さん以外のひとにとっては勇さんはすごくとっつきづらい怖いひとなんだろうな……。
今回も沙名子さんの後輩真夕ちゃんはお気に入りキャラでした。彼女の仕事への姿勢もまた素敵だと思う。私もせめてこうはありたい……。

太陽も、一巻目の時点では正直どうかなーと思ってましたが(何様)、沙名子さんのことが本当に大好きで健気にアプローチをかけていて本当の彼女をちゃんと理解して大事にしたいという気持ちは伝わってきて、好感度がわりと上がりました(笑)。
こんなきっちりかっちりした沙名子さんだからこそ、太陽みたいな明るくあまりものごとを悩まないひとは、お似合いなのかもな、という気がしてきました。
あまり空気は読めないけれど沙名子さんの心を要所要所でふわりと軽くしていく太陽に、沙名子さんが自分のペースを乱されいらっとしつつも、だんだんほだされていっている感じなのが、可愛らしい。
ま、沙名子さんに完全に釣り合うためには、太陽にはもっと頑張ってほしいなーと思うのが、まだまだ正直なところですが。(なんて上から目線……それだけ沙名子さんが好きなのです、お許しを。笑)
勇さんと沙名子さんではどれだけ同僚として相性がよくても恋愛には発展しないでしょうけれど(たぶん)、あのふたりに負けないくらいの、また違う信頼関係を築けるようにがんばってほしいな、と、ついつい思っちゃいます。

読んでいてくすりと笑って元気になれる、素敵なお仕事小説でした。
三巻目も出ると嬉しいな!

(沙名子さん愛用の香水に、グリーン・ノートのポプリをついつい連想してしまい、『あなたに眠る花の香』を再読していたり。)

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 青木祐子 

『鎌倉香房メモリーズ 5』阿部 暁子 




花月香房にようやく戻ってきた雪弥。
彼との距離に戸惑う香乃だが、そんなふたりと花月香房には、香りにまつわる謎が今日もぽつりぽつりと持ち込まれる。
祖母の古い友人が持ち込んだ香木、行方不明になった仏像、源氏香で書かれた暗号。
雪弥と共に、親しい人に関わる謎を紐解いてゆく香乃が、やがて見出すものは——。

『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ第五弾にして完結巻。
表紙の桜と、満開の笑顔で手をつないでいるふたりのイラストが、美しくて幸せいっぱいで、ただ眺めているだけで心が満たされます。
実際に読みはじめても、最初から最後まで、とにかくすべてが愛おしくて。
満ち足りた気持ちで読み終えることができました。
香乃ちゃんと雪弥さん、良かった。本当に良かったです。

前巻で辛い別離のときを乗り越えた香乃ちゃんと雪弥さんのふたりは、何があってももうお互いの手を放すことはけしてないだろうなと、ある意味安心して読み進めることができました。
相変わらずのスローペースさにもう!ともどかしくなりつつも、ふたりらしかったです。
ほんのときたま、想いが目に見えるかたちであらわれるときめきポイントが挿入されていて。
あまりの奥ゆかしさとかわいらしさにどぎまぎしたり、ちょっとおかしくて笑ってしまったり。やっぱりそのすべてが幸せで。
ふたりを見守る三春さんや友人達の姿にもまたあたたかく優しい気持ちになれました。

ひとはどうしても強く正しくばかりは生きられなくて、弱い心に逃げたり迷い間違えて後悔してばっかりだけれど、そういう部分もすべて否定せずに優しくくるみこんでくれるこの物語の持つ空気が、やっぱり本当に大好きで愛おしいなあと思いました。
おどおど内気でやっぱりちょっと世間からずれてる香乃ちゃんが内に持つ懐深さや優しさにもう私は感動を覚えずにいられない……!!

お香についての小ネタ、鎌倉の街の描写、今回は仏像や茶道のことや、色々なうんちくもさらりと楽しく読めて満足。


さて、ここからはネタばれありの感想語りです。


『花守の送り歌』
三春さんと桜子さんの女学校時代からの因縁のバトルに笑いました。たじたじになっている若者ふたりがおかしい。
そうは言うものの話を聞いてみるとお互いちゃんと認め合いはしているようで。桜子さんのとことん素直じゃないところが愛おしいなあと思いました。ふふふ。過去エピソードの三春さんがいかにも三春さんです。
桜子さんの秘め恋は薄々感じ取れるものではありましたが。切ない。歌が切ない。
あと花野さんと桜子さんのふたりのエピソードも、迷い苦しむ花野さんが道を見出していく過程がいかにもこのシリーズらしくて、とても良かったなあと思いました。
あと香木ができるまでの過程のエピソードが印象的で。傷ついてこそ人に愛される香りを生み出すとは。いいな。
ラストの雪弥さんの「お手をどうぞ」がさらりと格好良くてときめきました……!香乃ちゃん可愛すぎですよね。めろめろですよね!

『蓮のつぼみが開くとき』
もうもう、香乃ちゃんとチヨちゃんのふたりの友情が可愛すぎて最高でした……!!
雪弥さんにぽそぽそ嫌味を言い続けるチヨちゃんと何も言い返せない雪弥さんのふたりの図が新鮮(笑)。
チヨちゃん本当に香乃ちゃんのこと大好きね。でも香乃ちゃんと出会い友情を結ぶまでのことを知ると納得もしました。お互いがお互いに出会えて本当に良かったな~。としみじみしました。
女子会でアイスクリームの交換して「香乃ちゃん……」「チヨちゃん……」とお決まりの手に手を取り合い永遠の友情を誓い合うふたりの姿を思い浮かべるだけで可愛くてじたばたしてしまいます。
あとチヨちゃんのお兄さん、ずっと密かに気になっていました。なんというか自由なおひとで、でも読むごとに実は思慮深くて家族思いのいいひとだなあ、とじわじわ好感が。
ひいおじいちゃんのエピソードも胸がぎゅうっと痛みましたが、良かった。チヨちゃんと理久さんたち一家の家族愛も、香乃ちゃんの葛藤とそれを解きほぐす雪弥さんも、すべて。
伊助さんのお茶目なところがとても素敵だなときゅんとしました。ひいおばあちゃんと結ばれるまでのエピソードも良い。

『小さなあなたに祝福を』
なんだか懐かしいなあ……!響己さんお元気そうで安心しました。エカテリーナも。
そしてひな人形の贈り主の正体に、ほっこり。
響己さんの奥さんのナナさんのお人柄が格好良くて惚れ惚れしてしまいました(笑)。
しらすピザにプリンが食べたくなってきました。

『ふたり、手をつないで』
最終話、高橋さんだー!やっぱり高橋さんが出てきてくれると嬉しいです。
結局最終巻まで「(自称)親友」の(自称)が取れないところが、不憫すぎる高橋さん……。プレゼントのことをうっかり当人にばらしてしまい、青ざめて催眠術をかけている高橋さんと、素直に必死に忘れようとしている香乃ちゃんの場面が可愛くておかしくて笑える……。
シノヤさんとクレアのエピソードと源氏香の暗号がとても上手く絡められていて、ロマンティックできゅんきゅんしました。
お寺めぐりでちょっと格好つけたり気遣ったりするシノヤさんが一大学生としてとても等身大で、恋に落ちた姿がとても可愛く映りました。でも彼の葛藤も分かるんですよね。
その暗号が次から次へと人の手を渡り、それを解き明かしたひとが、そうつながるのか!
なんというか、このシリーズのこれまでのいくつものひとのつながりを順にたどっていっているようで、最終話らしくていいなと思いました。鎌倉市民の味方・みずきさんが最後まで格好良すぎます(笑)。
各務さんは、実際に登場してきて香乃たちと言葉を交わす姿を見ていると、なんというか。普通のいい人だな。と。
過去にああいう経験をした彼だからこそ、シノヤさんにああいう風に背中を押すことができたのだろうし。
複雑な思いはあるのでしょうが、けして彼を嫌ってはいない雪弥さん、そんな雪弥さんをシンプルに肯定する香乃ちゃん。なんだか、良かったな。思っていたより優しい人間関係に、ほっとしました。
和馬さんの気持ちも分かるしね。素直じゃないなーこのひとも……。
香乃ちゃんの、最後の最後の自己肯定の場面も、ここまでたどり着けたのが、良かったなと。
最後の香乃ちゃんと雪弥さんのやりとりも最高でしたね!
それは確かに香乃ちゃんみたいな奥手の女子高生には、はっきり言わないと伝わらないよ~。
(そして殿岡君みたいな存在もいることを、雪弥さんはもう少し危機感を持っていた方がいい……。)
でもこれからこのふたりはずっと、けして手を離さずに、共に未来を歩んでいくんだろうな。
何の疑いもなく、信じて安心して頁を閉じられるのが、私もとても幸せだな。と思いました。
雪弥さんのことだから、今からとっても堅実な未来計画を、頭の中で組み立てていそうです。

綺麗にまとまって完結していますが、これで終わりとはなんだかちょっと寂しくもあるのが正直なところだったりします。
なんといっても心残りはチヨちゃん。チヨちゃんがお婿さんを迎えるまでのエピソードは、ぜひ読んでみたい。
高橋さんが若干いい雰囲気なのかしら。二話目の冒頭、そもそも理久さん、高橋さんのこと偵察に来ていたんですよね。(多分)
うーん、スピンオフ集一巻くらい出ませんかね……。和馬さんとみずきさんの過去エピソードなんかも(怖いもの見たさで)ちょっと読んでみたい。

桜のほころび始める季節にふさわしい、幸せで元気を取り戻せる読書のひと時を過ごせました。
素敵なシリーズに出会えた奇跡に、あらためて、感謝。


ここ二週間くらい?それぞれの記事に拍手くださった皆さま方、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 阿部暁子 

『下鴨アンティーク 雪花の約束』白川 紺子 




京都下鴨の地で、祖母からいわくつきの着物の管理を引き継いだ女子高生の鹿乃。
ある日野々宮家を訪ねてきたのは、見知らぬ男性。幼馴染の女性の祖母が、鹿乃の祖母に着物を預けていたのだという。
蔵から取り出した着物には、斜めに横切るような鮮やかな赤い糸。ところがまばたきする間に、その糸は切れてしまい……?


『下鴨アンティーク』シリーズ第五弾。
新刊が出るのを楽しみに、このところの日々をなんとか生き抜いていました。嬉しい!!
「恋のつぼみが花開く」と意味深な帯と井上のきあさんの花と雪のイラストが美しい表紙。
どきどきしながら手に取って読みはじめました。
ちなみにフェアのしおりは井上のきあさんでした。猫とオレンジが軽やかでとても可愛らしい。

季節ぴったり初冬の物語。本編三話に、高校時代の良鷹が主役の過去編一話。
この『下鴨アンティーク』シリーズ、巻が進むごとに、各種描写やキャラクターや世界観が馴染み洗練され深みを増してゆき、読んでいて幸福感いっぱいです。
特に、季節ごとの星空や夕焼けの描写の美しさに、心が打ち震えました。

物語の世界がいとおしくて読み終えるのが勿体なくて、でも続きは気になるので読み進めないわけにはいかず、途中まで読んではふと手をとめて窓の外をながめては物語の世界にぼんやりひたって反芻し、また続きを読み進める。
そういう読み方ができる小説に、また一作、出会えたという幸せ感。
鹿乃たちの馴染みのあるしたわしい方言にそっとくるまれつつ。

鹿乃と慧の関係が、明らかに前巻から一歩進みました。
主に慧さんの方が鹿乃への想いを自覚したことへの躊躇い、戸惑いが。
想い人のぎこちない態度に不安に揺れる十代の少女の鹿乃の心と、幼いころから知っている少女を女性として意識してしまった社会人の慧の躊躇い。
今の年齢の私にはどちらの気持ちもいくらかは分かるので、読んでいて非常にもどかしく、同時に心ときめいて仕方なかったです。
お互いを自分より大事にいつくしみあう、それまでずっと一緒にいた年月の積み重ねも感じられる関係は、そのままで。(あえて、そのままであろうと努力していて。)
ふたりの愛情の形が尊いです。
ドラマティックというと違うんだけれど、ひっそり静かな熱が確かに横たわっていて。
まあ、浮世離れしているとはいえ現代日本が舞台のこの作品において、特にヒロインがまだ女子高校生ですし、この年齢差はかなりのネックになるだろうなとは、前々から思っていましたが……。
そしてあのラストに一気に色々持って行かれましたね!そしてそこで終わるのかー!!!(叫ぶ)

『星の糸』
「思うに、運命の赤い糸というのは、切れてからが本番なのだ。」(6頁)名言ですね。
名古屋から野々宮家を訪ねてきた幼馴染の男女二人に女性の亡き祖母の恋話、ギリシア神話のペルセポネとアリアドネ、糸巻と切れてしまった赤い糸。ロマンティックなエピソード満載でそれぞれのパーツがしっくり調和していて、今回のお話の中で特にお気に入りかも。
竣太さんの人の良さとちょっと子どもっぽいところが読んでいてどんどん好きになっていきました。同い年だという良鷹と慧それぞれとのコミュニケーションがそれぞれ違っていて面白かった。
志織さん本人は登場してみると思っていたよりしっかりしたひとで、竣太さんと志織さんそれぞれ性格を把握し尽くして付き合っていて、なんだかとてもいいなと思いました。
竣太さんがおじいさん仕込みで星座にとても詳しいのもギャップがあって良い。幸せになってほしいものです。
アリアドネとテセウス、ディオニュソスの神話は、そういえば星座の秋の本の中でも特にお気に入りでした。
テセウスがひどすぎるけれど、そのあとディオニュソスと幸せになれたのであれば、それで。
そんなギリシア神話の葡萄も取り入れて着物を合わせる鹿乃ちゃんのセンスが心にくい。
志織さんのおばあさまの愛情も染み入るように伝わってきます。
良鷹さんのスパイシーチキンカレーも非常に美味しそうです。誰か作ってくれないかな……。鹿乃用のまろやかなカレーのエピソードにもほっこり。

どこかさびしげな空だが、その静謐さは、爛熟した星の輝きが露となってふってきそうな夏の夜空と、天を冷たく燃やし尽くしそうな爛々とした星で満ちる冬の夜空との間に、ひっそりと息をつける風情がある。 (82頁)

ここの一文すごくすごく好き。

『赤ずきんをさがして』
幼い自分を捨てて男の元に走っていってしまった母を許せない女性。母が遺した着物への複雑な思い。
影のあるエピソードと赤い色がどこまでも鮮やかに印象に残りました。
寿々子さんと慧さんはどちらも過去に凍り付いてしまった自分の親へのわだかまりをどうしても消せなくて。そんなだったから寿々子さんが今回桃太郎の着物の帯でいくらか折り合いがつけられて、それを見守っていた慧の方でもまた、気持ちの変化があったということかな。
母に捨てられたという赤ずきんちゃんのエピソードがちょっとぞくりとしました。

このお話でとても良かったのは、ラストで栗ご飯を作っている鹿乃と、そんな彼女を手伝いつつ見つめる慧の独白。

自分の好きなものよりも、相手の好きなものが真っ先に思い浮かんで、それを作ってくれようとするひとが己にいるということの大きさを、考えていた。
それはけしてありふれたことではない。 (133頁)

本当にそうだと思いました。
栗ご飯なんて、恐ろしく手間がかかるけれど手間の分だけ最高に美味しいお料理の象徴みたいなものだしな……。
慧さんがこういう風に物事を考えられる人で良かったなともまたしみじみ思いました。
良鷹を交えての夕飯のやりとりが微笑ましくていとおしくて、この幸福感がこれからもずっと損なわれずにあればいいのに。
ツナと大根の炒め物も白和えもおいしそうです。

『雪花の約束』
静かに空から降り積もる雪の結晶の美しいイメージがなんとも秀逸な物語。
そこにからめられた夫婦の約束が、悲しいけれどなんてロマンティック。
親しい人だからこそ、大事なことを聞けないままで、誤解したまま。って、本当によくあることだなと思いました。
鹿乃が「雪みたいな子」って、分かるなあ。人のことを否定せずにうけとめられる子。
ミルクココアの場面がとても好きでした。ココアにはやっぱり牛乳でなければってすごくよくわかる。というか絶望的な顔をする鹿乃ちゃんが可愛すぎる……。

しかし、春野さんは、なんなのでしょうねえ。
春野さん自身も自分の気持ちを分かっていないのか。
菅谷さんみたいな友人がいるんだし、悪い人じゃないんだろうけれどなあ。(梨々子ちゃんにちょっかいは出さないでおいてほしいけれど……。)
鹿乃に好きな人がいるというのを誤解したままで、それでも鹿乃が向かったお茶会が気になって様子見に行ってしまう慧さんの矛盾っぷりがなんとももどかしくときめきます。結果的に大正解でしたが。(ただしアップルパイ自体はすごく美味しそう……。)
手をつなぐ場面のふたりのそれぞれの心境の変化も。
そのあとで風邪をひいてしまった鹿乃ちゃんへの慧さん、良鷹さんそれぞれの過保護っぷりにほんわかしてしまいました。
こんなに丁寧に良鷹さんが料理をするのは、鹿乃が風邪をひいたときくらいだ、とかちょっとらしすぎて笑えました。

鹿乃とふたりで父と対峙し、ひとつの段階を超えた慧さん。
静かに気持ちを殺した慧さんに、鹿乃のまっすぐな告白。
うわーうわーなんでここでページが切れているんでしょう。
お互い想いあっていることは明らかな二人ですが、このタイミングでこの告白は正直どう転ぶか不安……どきどき。

『子犬と魔女のワルツ』
高校生良鷹視点が新鮮。おにいちゃん大好きな幼い鹿乃が可愛らしいこと!
祖父母と兄妹の四人家族の生活風景が、胸がきゅうっとなるほど愛情深くて幸せで。
照子さんと子犬の物語は、不思議で寂しくて切なかったです。
カサブランカの花の華やかなイメージの影に、何とも言えない寂しさが。
鹿乃が今も昔も良鷹の陽だまりで太陽なのだ、というのは十二分に伝わってきました。お祖母ちゃんが心配するのも分かる……(笑)。
あと良鷹に親切で素直な真帆ちゃん。新鮮(笑)!

一緒に買い物している姿を若夫婦と言われて笑えなくなってしまった慧さんですが、夕ご飯を手伝いあいつつ一緒に作っている姿とか、本物の若夫婦以上に夫婦らしいと思うのは、私だけだろうか……。
このふたりが一緒にご飯を作っている場面の幸福感はたとえようもないです。なんていうことのない日常の家庭料理の献立が、また。
それに、あんなに鹿乃を溺愛していて過保護な良鷹さんが、明らかに鹿乃を想っている慧さんをけして邪魔せず見守っているにとどめているということは、良鷹さんは親友と妹がそういうことになるのを、認めてるってことなんですよね?
つまり、おにいちゃんという最大の難関は、もうすでに超えているということなんじゃないですかね?(笑)
ということで、この難しい年の差カップルの行方も、最終的にはまあなんとかなるんじゃないかなあと、ちょっと楽観的な気分になったりもするのでした。
うん。なんにせよ、鹿乃ちゃんがあんまり辛い思いをしないようにしてほしいな。

ミルクココアや栗ご飯やアップルパイに加え、お祖母ちゃんのマドレーヌや鹿乃ちゃんのお土産クッキー、食べ物がどれもこれも美味しそうで物語に効果的に用いられていて、読んでいてうなってしまうのでした。

幸せな読書でした。続きがとてもとても待ち遠しいです。

カテゴリ: オレンジ文庫