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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『契約結婚はじめました~椿屋敷の偽夫婦~』白川 紺子 




寿町四丁目にある通称「椿屋敷」に住む柊一は、若いのに隠居暮らしをしているようだと「若隠居」と呼ばれている。
そんな彼のもとに嫁いできたのは、十九歳の香澄。
新婚で仲睦まじいふたりの間には、しかし秘密が。
ふたりは利害の一致から結婚をした、いわゆる「偽装夫婦」なのである——。

白川紺子さんのオレンジ文庫の新作。
最近白川紺子さんの新刊がハイペースで刊行されている気がして、こんなに贅沢していて良いのでしょうか……(笑)。
ブログに感想を書くには至っていないのですが、コバルト文庫の方の作品もほぼすべて読んでいます。好きです!

今回のこのお話も、とてもとても素敵な一冊でした。読んでいてほこほこと幸せになれる物語。
『下鴨アンティーク』とも通ずるものがある、コバルト文庫よりも上品な少しお姉さん向け少女小説、といった風情。
白川さんが書かれる少女小説と一般文芸の境目のような、ロマンティックさのさじ加減が、私の中で絶妙にぴたりとはまるのです。読んでいてたまらないですよ~きゅんきゅんです。
契約結婚、年の差カップル、伝統のあるおうちの家族の愛の物語、私好みの要素が満載なのも素晴らしい。
椿屋敷というだけあり、椿の花の薀蓄話が各話ごとにふんだんに語られているのも、安定の白川紺子さんタッチでロマンティックで素敵でした。
あと若妻の香澄さんが作るご飯やお菓子の類が全部おいしそうです!(重要)

読みはじめてみると、物語の語り手が「椿屋敷」という「家」だった!という、なかなか衝撃的な出だし(笑)。
今までほぼ読んだことがない設定で、新鮮味があって良かったです。
椿屋敷にとって、柊一は先祖代々見守っている、頭が切れる穏やかでちょっと感情が読めない青年で、香澄さんはそんな彼に嫁いできたばかりの気立てがよく優しい奥さんで、まるで親戚や家族のようなあたたかでちょっととぼけたような感じが読んでいて心地よかった。
表紙の淡いタッチの椿の花々とたたずむ若夫婦の雰囲気がほのぼのあたたかくノスタルジックで、そういうイメージにぴったり。

そんな見守りモードで語られる、柊一さんと香澄さんの偽装夫婦ならではの(?)安定した仲睦まじい生活と距離感、そこからお互い少しずつ気持ちに色がついてゆく様が、読んでいてもう甘酸っぱくてたまらなかったです!
くるくるよく働き柊一さんに尽くす新妻・香澄さんが可愛すぎて、ずっと読み続けて見守っていたい。穏やかで優しくて周囲の人たちにも慕われている柊一さんもいい旦那さんだ。
そんなふたりそれぞれに、偽装結婚に至った複雑な事情の影が、見え隠れしつつなのも、気になりつつ。
こんなに頭が切れるのに女心と自分自身の気持ちには疎い柊一さんが、途中ものすごくじれったくなりつつも!(笑)、おさまりのよいラストで良かったです。

『水曜日の魔女』
茉優ちゃんいじましくていいこだな……。姉妹の関係って、大人になっても、確かにこういうことあるよねっと読んでいて思いました。離れていた方が上手くいくことがあるというのも分かる。
ママレード入りマフィンや鶏の南蛮漬けがおいしそう。「疲れた時にはお酢を使ったものを」と香澄さんの心遣いにきゅんとしました。

『月の光』
在りし日の恋人たちの思い出を高校生のふたりと柊一たち夫婦で紐解いてゆく……という流れが少し切なさ苦さも混じりつつロマンティック。奈穂ちゃんの複雑な想いや後悔がぐっと胸に迫りました。由紀也君もいいこだな。
香澄さんが頑張ったタルトタタンが美味しそうで私も食べたくなってきました。


栗きんとんとモンブランくらい違います、とわかるようなわからないような喩えをする。
「どっちが栗きんとんでどっちがモンブラン?」
「わたしは栗きんとんの方が好きですね」
そういう話ではないような。
「ふうん、僕も栗きんとんが好きだな」

121頁のこの会話がなんだかとってもときめきます……!!


『花いくさ』
香澄さんの婚約者襲来!自体は意外とあっさり解決(?)しましたが、「花いくさ」親友ふたりの結婚騒動は、なかなかシビア。
「仲がよかろうとよくなかろうと、離れられない間柄」というのは、なんか、なんとなく、分かる。
椿がカギになっていた幼い日の想いが明らかになる場面が、表面的な騒動の奥から深く美しい色がじわじわとにじみ出てきたかのような、ぐっとくるものがありました。みんなそれぞれ辛くて苦しくて切ない。
歩美さんが香澄さん達のお鍋に救われた場面も印象的で、分かるわかる。彼女も吹っ切れたようで本当に良かった。
あと絢さんがいろいろ格好良すぎました。エッグノッグもおいしそうだなあ。

『追憶の椿』
笙子さんの急襲、若夫婦に暗雲が。
笙子さんはかなり強烈なおばさんでしたが、彼女はどことなく『赤毛のアンシリーズ』のマリラを思わせるものがあって、なんだか、読んでいて不思議な親しみが。いつも無条件で優しかったマシュウは違い、厳しく現実的で頑固だけれど人一倍情が深く、不器用ながらにアンに愛情を注ぎ続けたマリラ。香澄の複雑な気持ちも分かるし色々ありましたが、最終的にはあのかたちで落ち着いて、良かったな。
柊一さんの女心の分からなさはちょっと致命的でした(苦笑)。香澄さんも強く出られないからもどかしいこと!
檀くんと柊一さんの間の複雑な想いも、そういうことか……。ううん、こちらもどちらの気持ちも分かるし、やるせない。そんな確執があってなお現在お互い仲良くしているこのふたりがいいなあ。
電話でのやり取りから香澄さんがいなくなって寂しい柊一さんの姿から、色々もどかしい。
あとラスト、笙子さんと晶紀さんが主に柊一さんにちくちく嫌味めいたことを口にしている場面に笑っちゃいましたし、端々に香澄さんへの愛を感じて、きゅんとしました。
晶紀さん、婚約者であった香澄さんがこういうことになってあっさり引き下がりそのままか……と思いきや、実は長期戦の心づもりだったのか?あ、侮れない……。
まあこの煮えきらない柊一さんをたきつけるには、これくらいずけずけ言ってもらえるくらいでちょうどよかったんじゃないかしら、と思いました(笑)。
檀君の千鳥屋のどらやきのお土産にもほっこり。

『すみれ荘にて』
番外編。
うわああ、檀君頑張れ……!!
彼も想いが報われてほしいな。

もっとこの若夫婦を見守っていたいですし、周囲の人たちのことも気になりますし、柊一さん自身の仕事の話も具体的に読んでみたいですし(なんだか今回ほとんど具体的に語られていないような)、できれば続きが読みたいです。読めると嬉しいなあ。
ひとまず来月は『下鴨アンティーク』の新刊が読めるとのこと、今からたいへん待ち遠しいです。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 白川紺子 

『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~ 2』青木 祐子 




天天コーポレーション本社経理部の森若沙名子さん、多くの領収書を処理する彼女には、社内の色々な人間関係が見えてくる。
必要以上のことは期待せず、されず、精神的にも経済的にも「イーブン」でいることを大切にする沙名子は、他人の面倒ごとには関わりたくないのだけれど、ときには巻き込まれることも。
有能な経理女子の目線から見るお仕事小説第二弾。


『これは経費で落ちません!』の続編が出ました~!
最近の青木先生の作品の中ではいちばんのお気に入りだったので、とても嬉しいです。

実際に読んでみても、二巻目も期待を裏切らない面白さ。
いやあもう、森若さんがとにかく格好良いです。惚れ惚れ。
いかなるときでも冷静沈着有能、自分のポリシーを崩さない森若さんが今回も健在。彼女の仕事ぶりや冷静な人間観察、内心での突っ込みなどなど、読んでいて小気味よい。たのしい!
別に正しさや正義を振りかざしているわけではなく自分にとっての「イーブン」を保ちたいという彼女のスタイルが読んでいてリアルに共感できる。
なんだかんだいって沙名子さん、結局お人好しですし。だからこそ内心色々悩んでいるわけで。

マニキュアや香水をたしなんでいたりお洒落には気を使っていたり、女性らしい部分もしっかり持っていて時と場所を踏まえてちゃんと楽しんでいるのも、優秀さの一部という感じでますます惚れ込んでしまいます。
好きなものは好きだとはっきり自分を持っていて躊躇いなく楽しめる姿勢が憧れなんだな~。
自分の食事のサイクルも基本的にきっちり管理していてちょっとやそっとでは崩したくない森若さんのスタイルもいい。私もここまで徹底できたら理想だな(笑)。
でも私が何よりわかるわかる!と思ったのは、お弁当のおかずにブロッコリーと人参のグラッセを作ろうとして、考えすぎて、結局ほうれん草とコーンの和え物を作ってしまった、という下り(笑)。そのメニューの具体的なチョイスが分かりすぎてもう。

彼女の優秀さには程遠い私ではあるけれど、職場のあれこれ、わかるわかる~と何度も頷き笑ってしまいました。
女性の集団の訳の分からなさ。ほんとうに。
ちょうど電車の中で読んでいた時、遠からずなことでへこんでいたので、森若さんが陥った事態にものすごく共感してちょっと笑って心がだいぶ軽く楽になりました。感謝です。
結局きれいに白黒ついて解決したわけではなく、それでもいつの間にか改善されている、なんとなくもやっとしたものが残るこの加減が絶妙にリアルで、わかるわかる!(笑)

織子さんや山崎さんの件は、ああ~そういう人もいるんだな、みたいな感じで読みました。
山崎さんてっきり美月さんに気があるのかと思っていたら全然違った。というか太陽にちょっと意地悪かなとも思っていたけれどやっぱり違ってた。
織子さんはその後沙名子さんを微妙な立場から救おうともしてくれたわけで、悪い人じゃなく。というかそんな完全な悪人はこのお話には出てこないですね。皆癖があるし欠点もあるし時に気の迷いも起こしたり色々あるけれど、結局のところは普通のいいひと。そこは安心して読めるかな。

いちばん読み応えがあったのが経理部の同僚・勇太郎さんと友人のお話。
しかしいちばん重たい話でもありました。これだけはうやむやではすまされない。
辛いな……うーん。
というか勇太郎さんと沙名子さんの同類同士の信頼関係、お互いの仕事のやり方やひととなりはもう知り尽くしているみたいな感じが、なんというかすごい。格好良すぎ。

そんな沙名子さんと勇太郎さん含め、今回特に、経理部の四人の信頼関係が好きだったな~と実感したのが、再び真夕ちゃん視点のエピローグ。
沙名子さんにちょっかいを出している(と思われている)太陽に、三人ともが牽制っぽい態度を取っているのが、読んでいて笑えました。
三人とも沙名子さんのことが大好きで心配なんですよね。愛を感じます。愛(笑)。
「勇太郎が社内で認めている女性は沙名子だけである」という真夕ちゃんの見解も、うなずいてしまう。たぶん沙名子さん以外のひとにとっては勇さんはすごくとっつきづらい怖いひとなんだろうな……。
今回も沙名子さんの後輩真夕ちゃんはお気に入りキャラでした。彼女の仕事への姿勢もまた素敵だと思う。私もせめてこうはありたい……。

太陽も、一巻目の時点では正直どうかなーと思ってましたが(何様)、沙名子さんのことが本当に大好きで健気にアプローチをかけていて本当の彼女をちゃんと理解して大事にしたいという気持ちは伝わってきて、好感度がわりと上がりました(笑)。
こんなきっちりかっちりした沙名子さんだからこそ、太陽みたいな明るくあまりものごとを悩まないひとは、お似合いなのかもな、という気がしてきました。
あまり空気は読めないけれど沙名子さんの心を要所要所でふわりと軽くしていく太陽に、沙名子さんが自分のペースを乱されいらっとしつつも、だんだんほだされていっている感じなのが、可愛らしい。
ま、沙名子さんに完全に釣り合うためには、太陽にはもっと頑張ってほしいなーと思うのが、まだまだ正直なところですが。(なんて上から目線……それだけ沙名子さんが好きなのです、お許しを。笑)
勇さんと沙名子さんではどれだけ同僚として相性がよくても恋愛には発展しないでしょうけれど(たぶん)、あのふたりに負けないくらいの、また違う信頼関係を築けるようにがんばってほしいな、と、ついつい思っちゃいます。

読んでいてくすりと笑って元気になれる、素敵なお仕事小説でした。
三巻目も出ると嬉しいな!

(沙名子さん愛用の香水に、グリーン・ノートのポプリをついつい連想してしまい、『あなたに眠る花の香』を再読していたり。)

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 青木祐子 

『鎌倉香房メモリーズ 5』阿部 暁子 




花月香房にようやく戻ってきた雪弥。
彼との距離に戸惑う香乃だが、そんなふたりと花月香房には、香りにまつわる謎が今日もぽつりぽつりと持ち込まれる。
祖母の古い友人が持ち込んだ香木、行方不明になった仏像、源氏香で書かれた暗号。
雪弥と共に、親しい人に関わる謎を紐解いてゆく香乃が、やがて見出すものは——。

『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ第五弾にして完結巻。
表紙の桜と、満開の笑顔で手をつないでいるふたりのイラストが、美しくて幸せいっぱいで、ただ眺めているだけで心が満たされます。
実際に読みはじめても、最初から最後まで、とにかくすべてが愛おしくて。
満ち足りた気持ちで読み終えることができました。
香乃ちゃんと雪弥さん、良かった。本当に良かったです。

前巻で辛い別離のときを乗り越えた香乃ちゃんと雪弥さんのふたりは、何があってももうお互いの手を放すことはけしてないだろうなと、ある意味安心して読み進めることができました。
相変わらずのスローペースさにもう!ともどかしくなりつつも、ふたりらしかったです。
ほんのときたま、想いが目に見えるかたちであらわれるときめきポイントが挿入されていて。
あまりの奥ゆかしさとかわいらしさにどぎまぎしたり、ちょっとおかしくて笑ってしまったり。やっぱりそのすべてが幸せで。
ふたりを見守る三春さんや友人達の姿にもまたあたたかく優しい気持ちになれました。

ひとはどうしても強く正しくばかりは生きられなくて、弱い心に逃げたり迷い間違えて後悔してばっかりだけれど、そういう部分もすべて否定せずに優しくくるみこんでくれるこの物語の持つ空気が、やっぱり本当に大好きで愛おしいなあと思いました。
おどおど内気でやっぱりちょっと世間からずれてる香乃ちゃんが内に持つ懐深さや優しさにもう私は感動を覚えずにいられない……!!

お香についての小ネタ、鎌倉の街の描写、今回は仏像や茶道のことや、色々なうんちくもさらりと楽しく読めて満足。


さて、ここからはネタばれありの感想語りです。


『花守の送り歌』
三春さんと桜子さんの女学校時代からの因縁のバトルに笑いました。たじたじになっている若者ふたりがおかしい。
そうは言うものの話を聞いてみるとお互いちゃんと認め合いはしているようで。桜子さんのとことん素直じゃないところが愛おしいなあと思いました。ふふふ。過去エピソードの三春さんがいかにも三春さんです。
桜子さんの秘め恋は薄々感じ取れるものではありましたが。切ない。歌が切ない。
あと花野さんと桜子さんのふたりのエピソードも、迷い苦しむ花野さんが道を見出していく過程がいかにもこのシリーズらしくて、とても良かったなあと思いました。
あと香木ができるまでの過程のエピソードが印象的で。傷ついてこそ人に愛される香りを生み出すとは。いいな。
ラストの雪弥さんの「お手をどうぞ」がさらりと格好良くてときめきました……!香乃ちゃん可愛すぎですよね。めろめろですよね!

『蓮のつぼみが開くとき』
もうもう、香乃ちゃんとチヨちゃんのふたりの友情が可愛すぎて最高でした……!!
雪弥さんにぽそぽそ嫌味を言い続けるチヨちゃんと何も言い返せない雪弥さんのふたりの図が新鮮(笑)。
チヨちゃん本当に香乃ちゃんのこと大好きね。でも香乃ちゃんと出会い友情を結ぶまでのことを知ると納得もしました。お互いがお互いに出会えて本当に良かったな~。としみじみしました。
女子会でアイスクリームの交換して「香乃ちゃん……」「チヨちゃん……」とお決まりの手に手を取り合い永遠の友情を誓い合うふたりの姿を思い浮かべるだけで可愛くてじたばたしてしまいます。
あとチヨちゃんのお兄さん、ずっと密かに気になっていました。なんというか自由なおひとで、でも読むごとに実は思慮深くて家族思いのいいひとだなあ、とじわじわ好感が。
ひいおじいちゃんのエピソードも胸がぎゅうっと痛みましたが、良かった。チヨちゃんと理久さんたち一家の家族愛も、香乃ちゃんの葛藤とそれを解きほぐす雪弥さんも、すべて。
伊助さんのお茶目なところがとても素敵だなときゅんとしました。ひいおばあちゃんと結ばれるまでのエピソードも良い。

『小さなあなたに祝福を』
なんだか懐かしいなあ……!響己さんお元気そうで安心しました。エカテリーナも。
そしてひな人形の贈り主の正体に、ほっこり。
響己さんの奥さんのナナさんのお人柄が格好良くて惚れ惚れしてしまいました(笑)。
しらすピザにプリンが食べたくなってきました。

『ふたり、手をつないで』
最終話、高橋さんだー!やっぱり高橋さんが出てきてくれると嬉しいです。
結局最終巻まで「(自称)親友」の(自称)が取れないところが、不憫すぎる高橋さん……。プレゼントのことをうっかり当人にばらしてしまい、青ざめて催眠術をかけている高橋さんと、素直に必死に忘れようとしている香乃ちゃんの場面が可愛くておかしくて笑える……。
シノヤさんとクレアのエピソードと源氏香の暗号がとても上手く絡められていて、ロマンティックできゅんきゅんしました。
お寺めぐりでちょっと格好つけたり気遣ったりするシノヤさんが一大学生としてとても等身大で、恋に落ちた姿がとても可愛く映りました。でも彼の葛藤も分かるんですよね。
その暗号が次から次へと人の手を渡り、それを解き明かしたひとが、そうつながるのか!
なんというか、このシリーズのこれまでのいくつものひとのつながりを順にたどっていっているようで、最終話らしくていいなと思いました。鎌倉市民の味方・みずきさんが最後まで格好良すぎます(笑)。
各務さんは、実際に登場してきて香乃たちと言葉を交わす姿を見ていると、なんというか。普通のいい人だな。と。
過去にああいう経験をした彼だからこそ、シノヤさんにああいう風に背中を押すことができたのだろうし。
複雑な思いはあるのでしょうが、けして彼を嫌ってはいない雪弥さん、そんな雪弥さんをシンプルに肯定する香乃ちゃん。なんだか、良かったな。思っていたより優しい人間関係に、ほっとしました。
和馬さんの気持ちも分かるしね。素直じゃないなーこのひとも……。
香乃ちゃんの、最後の最後の自己肯定の場面も、ここまでたどり着けたのが、良かったなと。
最後の香乃ちゃんと雪弥さんのやりとりも最高でしたね!
それは確かに香乃ちゃんみたいな奥手の女子高生には、はっきり言わないと伝わらないよ~。
(そして殿岡君みたいな存在もいることを、雪弥さんはもう少し危機感を持っていた方がいい……。)
でもこれからこのふたりはずっと、けして手を離さずに、共に未来を歩んでいくんだろうな。
何の疑いもなく、信じて安心して頁を閉じられるのが、私もとても幸せだな。と思いました。
雪弥さんのことだから、今からとっても堅実な未来計画を、頭の中で組み立てていそうです。

綺麗にまとまって完結していますが、これで終わりとはなんだかちょっと寂しくもあるのが正直なところだったりします。
なんといっても心残りはチヨちゃん。チヨちゃんがお婿さんを迎えるまでのエピソードは、ぜひ読んでみたい。
高橋さんが若干いい雰囲気なのかしら。二話目の冒頭、そもそも理久さん、高橋さんのこと偵察に来ていたんですよね。(多分)
うーん、スピンオフ集一巻くらい出ませんかね……。和馬さんとみずきさんの過去エピソードなんかも(怖いもの見たさで)ちょっと読んでみたい。

桜のほころび始める季節にふさわしい、幸せで元気を取り戻せる読書のひと時を過ごせました。
素敵なシリーズに出会えた奇跡に、あらためて、感謝。


ここ二週間くらい?それぞれの記事に拍手くださった皆さま方、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 阿部暁子 

『下鴨アンティーク 雪花の約束』白川 紺子 




京都下鴨の地で、祖母からいわくつきの着物の管理を引き継いだ女子高生の鹿乃。
ある日野々宮家を訪ねてきたのは、見知らぬ男性。幼馴染の女性の祖母が、鹿乃の祖母に着物を預けていたのだという。
蔵から取り出した着物には、斜めに横切るような鮮やかな赤い糸。ところがまばたきする間に、その糸は切れてしまい……?


『下鴨アンティーク』シリーズ第五弾。
新刊が出るのを楽しみに、このところの日々をなんとか生き抜いていました。嬉しい!!
「恋のつぼみが花開く」と意味深な帯と井上のきあさんの花と雪のイラストが美しい表紙。
どきどきしながら手に取って読みはじめました。
ちなみにフェアのしおりは井上のきあさんでした。猫とオレンジが軽やかでとても可愛らしい。

季節ぴったり初冬の物語。本編三話に、高校時代の良鷹が主役の過去編一話。
この『下鴨アンティーク』シリーズ、巻が進むごとに、各種描写やキャラクターや世界観が馴染み洗練され深みを増してゆき、読んでいて幸福感いっぱいです。
特に、季節ごとの星空や夕焼けの描写の美しさに、心が打ち震えました。

物語の世界がいとおしくて読み終えるのが勿体なくて、でも続きは気になるので読み進めないわけにはいかず、途中まで読んではふと手をとめて窓の外をながめては物語の世界にぼんやりひたって反芻し、また続きを読み進める。
そういう読み方ができる小説に、また一作、出会えたという幸せ感。
鹿乃たちの馴染みのあるしたわしい方言にそっとくるまれつつ。

鹿乃と慧の関係が、明らかに前巻から一歩進みました。
主に慧さんの方が鹿乃への想いを自覚したことへの躊躇い、戸惑いが。
想い人のぎこちない態度に不安に揺れる十代の少女の鹿乃の心と、幼いころから知っている少女を女性として意識してしまった社会人の慧の躊躇い。
今の年齢の私にはどちらの気持ちもいくらかは分かるので、読んでいて非常にもどかしく、同時に心ときめいて仕方なかったです。
お互いを自分より大事にいつくしみあう、それまでずっと一緒にいた年月の積み重ねも感じられる関係は、そのままで。(あえて、そのままであろうと努力していて。)
ふたりの愛情の形が尊いです。
ドラマティックというと違うんだけれど、ひっそり静かな熱が確かに横たわっていて。
まあ、浮世離れしているとはいえ現代日本が舞台のこの作品において、特にヒロインがまだ女子高校生ですし、この年齢差はかなりのネックになるだろうなとは、前々から思っていましたが……。
そしてあのラストに一気に色々持って行かれましたね!そしてそこで終わるのかー!!!(叫ぶ)

『星の糸』
「思うに、運命の赤い糸というのは、切れてからが本番なのだ。」(6頁)名言ですね。
名古屋から野々宮家を訪ねてきた幼馴染の男女二人に女性の亡き祖母の恋話、ギリシア神話のペルセポネとアリアドネ、糸巻と切れてしまった赤い糸。ロマンティックなエピソード満載でそれぞれのパーツがしっくり調和していて、今回のお話の中で特にお気に入りかも。
竣太さんの人の良さとちょっと子どもっぽいところが読んでいてどんどん好きになっていきました。同い年だという良鷹と慧それぞれとのコミュニケーションがそれぞれ違っていて面白かった。
志織さん本人は登場してみると思っていたよりしっかりしたひとで、竣太さんと志織さんそれぞれ性格を把握し尽くして付き合っていて、なんだかとてもいいなと思いました。
竣太さんがおじいさん仕込みで星座にとても詳しいのもギャップがあって良い。幸せになってほしいものです。
アリアドネとテセウス、ディオニュソスの神話は、そういえば星座の秋の本の中でも特にお気に入りでした。
テセウスがひどすぎるけれど、そのあとディオニュソスと幸せになれたのであれば、それで。
そんなギリシア神話の葡萄も取り入れて着物を合わせる鹿乃ちゃんのセンスが心にくい。
志織さんのおばあさまの愛情も染み入るように伝わってきます。
良鷹さんのスパイシーチキンカレーも非常に美味しそうです。誰か作ってくれないかな……。鹿乃用のまろやかなカレーのエピソードにもほっこり。

どこかさびしげな空だが、その静謐さは、爛熟した星の輝きが露となってふってきそうな夏の夜空と、天を冷たく燃やし尽くしそうな爛々とした星で満ちる冬の夜空との間に、ひっそりと息をつける風情がある。 (82頁)

ここの一文すごくすごく好き。

『赤ずきんをさがして』
幼い自分を捨てて男の元に走っていってしまった母を許せない女性。母が遺した着物への複雑な思い。
影のあるエピソードと赤い色がどこまでも鮮やかに印象に残りました。
寿々子さんと慧さんはどちらも過去に凍り付いてしまった自分の親へのわだかまりをどうしても消せなくて。そんなだったから寿々子さんが今回桃太郎の着物の帯でいくらか折り合いがつけられて、それを見守っていた慧の方でもまた、気持ちの変化があったということかな。
母に捨てられたという赤ずきんちゃんのエピソードがちょっとぞくりとしました。

このお話でとても良かったのは、ラストで栗ご飯を作っている鹿乃と、そんな彼女を手伝いつつ見つめる慧の独白。

自分の好きなものよりも、相手の好きなものが真っ先に思い浮かんで、それを作ってくれようとするひとが己にいるということの大きさを、考えていた。
それはけしてありふれたことではない。 (133頁)

本当にそうだと思いました。
栗ご飯なんて、恐ろしく手間がかかるけれど手間の分だけ最高に美味しいお料理の象徴みたいなものだしな……。
慧さんがこういう風に物事を考えられる人で良かったなともまたしみじみ思いました。
良鷹を交えての夕飯のやりとりが微笑ましくていとおしくて、この幸福感がこれからもずっと損なわれずにあればいいのに。
ツナと大根の炒め物も白和えもおいしそうです。

『雪花の約束』
静かに空から降り積もる雪の結晶の美しいイメージがなんとも秀逸な物語。
そこにからめられた夫婦の約束が、悲しいけれどなんてロマンティック。
親しい人だからこそ、大事なことを聞けないままで、誤解したまま。って、本当によくあることだなと思いました。
鹿乃が「雪みたいな子」って、分かるなあ。人のことを否定せずにうけとめられる子。
ミルクココアの場面がとても好きでした。ココアにはやっぱり牛乳でなければってすごくよくわかる。というか絶望的な顔をする鹿乃ちゃんが可愛すぎる……。

しかし、春野さんは、なんなのでしょうねえ。
春野さん自身も自分の気持ちを分かっていないのか。
菅谷さんみたいな友人がいるんだし、悪い人じゃないんだろうけれどなあ。(梨々子ちゃんにちょっかいは出さないでおいてほしいけれど……。)
鹿乃に好きな人がいるというのを誤解したままで、それでも鹿乃が向かったお茶会が気になって様子見に行ってしまう慧さんの矛盾っぷりがなんとももどかしくときめきます。結果的に大正解でしたが。(ただしアップルパイ自体はすごく美味しそう……。)
手をつなぐ場面のふたりのそれぞれの心境の変化も。
そのあとで風邪をひいてしまった鹿乃ちゃんへの慧さん、良鷹さんそれぞれの過保護っぷりにほんわかしてしまいました。
こんなに丁寧に良鷹さんが料理をするのは、鹿乃が風邪をひいたときくらいだ、とかちょっとらしすぎて笑えました。

鹿乃とふたりで父と対峙し、ひとつの段階を超えた慧さん。
静かに気持ちを殺した慧さんに、鹿乃のまっすぐな告白。
うわーうわーなんでここでページが切れているんでしょう。
お互い想いあっていることは明らかな二人ですが、このタイミングでこの告白は正直どう転ぶか不安……どきどき。

『子犬と魔女のワルツ』
高校生良鷹視点が新鮮。おにいちゃん大好きな幼い鹿乃が可愛らしいこと!
祖父母と兄妹の四人家族の生活風景が、胸がきゅうっとなるほど愛情深くて幸せで。
照子さんと子犬の物語は、不思議で寂しくて切なかったです。
カサブランカの花の華やかなイメージの影に、何とも言えない寂しさが。
鹿乃が今も昔も良鷹の陽だまりで太陽なのだ、というのは十二分に伝わってきました。お祖母ちゃんが心配するのも分かる……(笑)。
あと良鷹に親切で素直な真帆ちゃん。新鮮(笑)!

一緒に買い物している姿を若夫婦と言われて笑えなくなってしまった慧さんですが、夕ご飯を手伝いあいつつ一緒に作っている姿とか、本物の若夫婦以上に夫婦らしいと思うのは、私だけだろうか……。
このふたりが一緒にご飯を作っている場面の幸福感はたとえようもないです。なんていうことのない日常の家庭料理の献立が、また。
それに、あんなに鹿乃を溺愛していて過保護な良鷹さんが、明らかに鹿乃を想っている慧さんをけして邪魔せず見守っているにとどめているということは、良鷹さんは親友と妹がそういうことになるのを、認めてるってことなんですよね?
つまり、おにいちゃんという最大の難関は、もうすでに超えているということなんじゃないですかね?(笑)
ということで、この難しい年の差カップルの行方も、最終的にはまあなんとかなるんじゃないかなあと、ちょっと楽観的な気分になったりもするのでした。
うん。なんにせよ、鹿乃ちゃんがあんまり辛い思いをしないようにしてほしいな。

ミルクココアや栗ご飯やアップルパイに加え、お祖母ちゃんのマドレーヌや鹿乃ちゃんのお土産クッキー、食べ物がどれもこれも美味しそうで物語に効果的に用いられていて、読んでいてうなってしまうのでした。

幸せな読書でした。続きがとてもとても待ち遠しいです。

カテゴリ: オレンジ文庫

『鎌倉香房メモリーズ 4』阿部 暁子 




花月香房のアルバイトを辞め、香乃の前から姿を消した雪弥。
真意を知りたい香乃だが、積極的に動くこともできずに落ち込んでいた。
そんな中、香乃は同級生の家でもある寺のクリスマス会に参加することになり、そこから思いがけない人間模様に触れることに——。

前巻のラストで起こった事件が衝撃的すぎた『鎌倉香房メモリーズ』の4巻目。
春夏秋と続いて今回は冬の物語でした。
げみさんの表紙が雪の寒色系で香乃の着物姿も見事に調和していて美しいです。うっとり。
距離を隔ててひとり背を向けている雪弥さんの構図が寂しい。

やはりというべきか、雪弥さんの生い立ちの事情は重くて辛いもので、読んでいてひりひりしました。
頑なに心を閉ざし遠ざかろうとする彼に、彼の周囲で心配する人々の心を必死に届けた香乃ちゃんが、今回もう本当に頑張った!
引っ込み思案でおどおどしているけど、底抜けにお人好しでいつも人の気持ちを慮る、いざというときには肝が据わっていて大胆な行動も辞さない香乃ちゃんには、何人もの人々が救われているのだなと。
香乃の特殊能力を抜きにしても彼女の人柄はたぐいまれです。ちょっと感動してしまいます。
シリアスな場面でもなんかちょっとずれているのも彼女の味ですね。
そしてそんな香乃の隣にはやっぱり、冷静沈着で頭が恐ろしく回る、毒舌家だけど根は心優しい雪弥さんが、いてくれないと!

雪弥さんのお話と並行して語られる、香乃の同級生・殿岡くんと彼の母親のふみ先生のお話も、かなりシリアスで切ないお話でしたが、香乃ちゃんと雪弥さんとその周囲の人々のあたたかさに、救われました。
あと高橋君とチヨちゃんの友情がそれぞれ素敵すぎて胸がきゅうっとしました。

『五文字の言葉と遠ざかるひと』
雪弥さんと連絡が取れなくなり落ち込む香乃ちゃんに、とにかく、高橋君とチヨちゃんの友情が、染み入りました。
「かば野郎」は最高ですよ、チヨちゃん。叫んだあとささっと隠れる動作も可愛すぎる……。
読めば読むほど似た者同士の、内気で古風でちんまり可愛らしくて情にあつい香乃ちゃんとチヨちゃんの親友二人が好きすぎます。
57頁あたりのふたりの恋バナ的やりとりがもう本当にかわいい!
こうチヨちゃんにずけずけ冷静に分析されると、雪弥さんもただのヘタレさんですね。おかしかったです。
チヨちゃんにクイズでびしびししごかれる高橋さんの図もつぼにはまりました。本当にいいひとだな高橋さん。
チヨちゃんにしては強気だなと思っていたら、そんな放蕩者のおにいさんがいたんですね……。なんか、らしいです。
そしてお寺さんの息子の殿岡君が登場。うわあ、このタイミングで何気に手ごわそうなライバルが出現した!
(といっても香乃ちゃんの気持ちが揺らぐわけもないのですが。)
もっとストーリー的にライバルっぽく書かれるのかなあと思っていたら、まあ実際はあっさりしていたのですが、何も書かれていないけれど、雪弥さんは気が気じゃなかったと思います。「アキラさん」の名前だけであんなに嫉妬した雪弥さんだからさ……。

『クリスマスと丘の上の家』
お寺でのクリスマス会もなんだかにぎわいが伝わってきて良かったです。
ふみ先生は雰囲気から本当に素敵な方で、私も読んでいるだけでファンになってしまいそう。
あきらさんも元気そうで良かった。
あとみずきさんと和馬氏と香乃ちゃんのお食事会、みずきさんと和馬さんの力関係が読んでいて面白すぎました。
「私は鎌倉市民の味方なの」と去り際の台詞が格好良すぎる。
というか和馬さんはいったい過去に何をやらかしているんだ……。まあ、ふざけているだけではない複雑な事情がどっちにもありそうですね。
そのあと香乃が会った宗一郎さん。思っていたより普通の孫をいつくしむおじいさんだったかな。
雪弥さんにつらく当たったという上のお兄さんも、和馬さんも、この家の人々は、私が思っていたよりはきちんと血の通った、プライドが高くて不器用かもしれないけど情けを解するひとたちで、雪弥さんのことを案じていて、それがこのシリーズらしくもあり、読んでいて少しほっとしました。
雪弥さんの過去の事件を知って、今あなたはどう思っていますか?と聞かれた香乃ちゃんの大真面目な返しが、すごく好きだなあ。香乃ちゃんだなあ。

『罪と毒』
ついに雪弥さんのところへ一大決心して訪ねていき、正面切って切り込んでいった香乃ちゃん。
言った!よく言ったよ香乃ちゃん!
雪弥さんが心に抱えていた闇は、おじいさんが語った話よりも一層深くて、心がえぐれましたが(お母さんが絡むと一層辛い……)、全然ひるまない香乃ちゃんがとても良かった。あの弁が立つ雪弥さんが香乃ちゃんに最後までのまれっ放しでしたもん。
「雪弥さんがちょっと腹黒くて秘密主義で隠していることたくさんあることくらい、小学生の頃から知ってるよ」にはちょっと笑えました。人の良い香乃ちゃんでもそんなに昔から気づいていたのか……。
彼が、花月香房から姿を消した、本当の本当の理由に、彼の香りの息苦しさ悲しさに、胸が詰まりました。
十和子さんではないけれど、雪弥さんが、香乃ちゃんのことを、どれだけ大切に想っているのか、見せつけられて。
そして香乃と雪弥さんのラストの場面が尊くて、ああ、良かったです。
ここで反復横飛びが出てくるのは確かにちょっと意味が分からなくはある……(笑)。

『約束と冬の終わり』
お正月の咲楽家の人々がにぎやかで楽しそうで良かったです。
香乃が両親と和解できたのは本当に良かったな。お父さんもお母さんもなんだか妙に味があって、ああ、香乃ちゃんの親なんだなあとなんとなく納得できてしまうのが、おかしかったです。姉とは百八十度違う強気なマイペース少女香凛ちゃんもやっぱり好き!
雪弥さんが笑顔でいられるのなら、たとえそれが私の側でなくても構わないという香乃ちゃんの信頼の形が、なんて素敵なんだろう。
この二人はお互いのことを、「恋愛関係」というくくりを超越しているように思えるくらいに、大事なんだなあ。
そしてラスト。ようやくふたり、あるべき姿に帰ってこれたのだなとしみじみしました。
良かった。本当に良かったです。安心しました。
香乃ちゃんに完全に押し負けててどんどん譲歩していく雪弥さんというのが新鮮です……(笑)。
ふみ先生の事件のことも、雪弥さんと香乃ちゃんが協力し合って事情を紐解いてゆくといういつもの形で進んでいって、雪弥さん本当に頼もしいなと改めて思いました。
ふみ先生も辛いし、殿岡君とお父さんも辛い。
手紙の偽りに最初は罪の意識を抱いていなかったというのがリアル。そう、私もそういうことある。
最後のお父さんの飾らないけれど実直な告白に、救われました。
それにしても香乃ちゃんのお祖父ちゃんは、ありとあらゆるところで大活躍しているな!
彼が過去にどれほど人さまのこんがらがった事情を解きほぐしてきたことか。三春さんがベタ惚れなわけですね。
樒の毒という素材がこのシリーズらしく丁寧に素材として使われていて、寒々しくならず、悲しくて切ないんだけれどどの場面でもほんのり人のぬくもりを失わないでいるのが、いいですね。

春夏秋冬で物語は完結するのかもとちょっと思っていましたが、たぶんまだ続編でますよね。ね?
雪弥さんの実父がまだ不気味にそびえたっているので、次は彼にスポットが当たるのでしょうか。
もうどんなことがあっても香乃ちゃんと雪弥さんはお互い手を放すことはないだろうなと、安心してみていられるのが、嬉しい。
(個人的にはもうちょっと恋愛色が強くなってもいいのですよ……笑。)

今年の初夏にちょうど鎌倉に旅行に出かけたのですが、読んでいるとあちらこちらでかの地の記憶が「生きた」ので、一層物語を楽しめたような気がして、良かったです。


昨日それぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 阿部暁子 

『下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ』白川 紺子 




京都下鴨の地で、亡き祖母から、蔵にある「いわくつき」の着物や帯の管理を引き継いだ、高校生の鹿乃。
ある日鹿乃は喫茶店店主の満寿から、自身の両親の過去の話を聞かされる。鹿乃は稲妻が描かれた帯を手掛かりに、幼い日に亡くなった両親の馴れ初めを辿ってゆく。
また、蔵から出した枯れ菊の着物が、慧の過去に関わりを持つ品であることを知り——。

『下鴨アンティーク』もシリーズ四巻目です。
タイトルが表す通りに秋の季節の物語。
「神無月」の「マイ・フェア・レディ」というタイトルの組み合わせも斬新、かつ品よくロマンティックでときめきますし、井上のきあさんの表紙イラストも相変わらず秀逸。
物語を最後まで読んでから改めて表紙を眺めると、物語に出てきた印象的なモチーフが組み合わされているのがよくわかり、二度美味しいです。

今回は、野々宮家の過去の物語をひと世代ごとに紐解いてゆくような、そんな面白さがありました。
各時代の風俗、野々宮家の事情、登場人物の性格、人間関係、それぞれちょっとずつ違うのを読み比べるのも面白い。
でもやっぱりどの世代の人々も素敵な方ばかりで、ロマンスのエピソードも素敵で、読んでいてなんとも微笑ましく幸せな気持ちになれました。野々宮家への愛がいっそう深まりました(笑)。(もちろん鹿乃たち世代も含む)
鹿乃の血のつながりのある人々、というのがみんなどこか納得できる、おっとり品よく心優しく、いざとなると大胆な行動にでることをためらわない人たち(笑)。

加えてこれまで深く語られなかった慧の家族の物語も。印象的でした。
その過程で、鹿乃と慧の関係にもゆらぎが生じ、進展が。どきどきしました。春野さんもひっそり暗躍していますし!のっそり見守っていてくれる良鷹お兄ちゃんもまたナイス。
鹿乃の友人ふたりや満寿さんも、相変わらずいい味だしてくれています。みんな大好きです!

星の桔梗、矢と雷、菊、兎、アンティーク着物や小物遣いは相変わらず素敵ですし、はんなり訛りのある会話文、地の文共々、読んでいて慕わしくて心地よく、今回も心まるごとどっぷりひたって癒されました。
あとやっぱり作品内にさりげなく登場する家庭料理やお菓子がどれも心ひかれるものばかり。
冷しゃぶにきのこのパスタ、喫茶店のチーズケーキ、親子丼ぶり、金平糖、みんな美味しそうです!

『星の花をあなたに』
雑誌の方で既読。
残暑のころ、零れ落ちる星の花、白と紫の桔梗、凛と咲く花の姿。イメージが涼しやかで非常に美しい。
鹿乃と慧と春野さんが連れ立って出かけた、お寺さんの紅葉前の緑と桔梗の場面の描写のうつくしさも、とても好きでした。静謐な空気が漂ってきて。
絢子お嬢さんと桔梗の花の君との、淡く切なく優しい想い。
絢子さんの桔梗の着物の美しさで、二人のひそやかな恋の美しさを愛でるのが、良いのでしょう。
それでも絢子さんの結婚生活も、はじまりはひどかったかもしれないけれど、きっと次第に優しさが芽生えて幸せだったのだと、私は想像しています。久二さんの方もしかり。
絢子さんに関わるご婦人方、富江さんキミさんと鹿乃のそれぞれの会話場面もお気に入りでした。
年配の女性の方言交じりの口調が、読んでいてなんだか私の亡き祖母に重なって、胸がいっぱいに。
そしてなにげなく息ぴったりにご飯を作る鹿乃と慧のふたりがやっぱり良いです。冷しゃぶ涼し気でおいしそう。

『稲妻と金平糖』
鹿乃のご両親の過去の物語。
千鶴さんと慶介さんの年齢や立場が、鹿乃たちと重なりを感じつつも、性格はかなり違ったようで、芙二子さんも交えて微笑ましかったです。(それにしても「慶ちゃん」にはどきっとしました……。当時を知る人はよけいに鹿乃達に重ね合わせちゃうんじゃないかしら、これは。)
育ちの良い世間知らずのぼんぼん慶介さんが、千鶴さんにつれなく扱われ落ち込んだり好意が全然伝わっていなかったり、不憫で可愛らしかったです。
そりゃあ、あの一筋縄では全然いかないご両親に頭を押さえつけられ(?)育てられたら、こんな息子になるのかなあ。母親に言い負かされ続ける慶介さんがまた不憫。
ドライブの運転のていねいさと千鶴さんをかばう姿の格好良さにどきりとしつつ。
稲妻の帯の物語は怖そうなイメージに反して幸せに満ちたもので、金平糖の甘さも相まって、なんともこそばゆく幸せな物語としてしあがっていて、素敵でした。
お父さんが鹿乃ちゃんを溺愛して息子にまで嫉妬していたなんてエピソードもあり、鹿乃が両親に確かに愛されていたのだと実感できたのが、また良かったです。
(そして千鶴さんが私自身と同郷だと知りいっそう親近感が。)

『神無月のマイ・フェア・レディ』
文化祭を楽しむ友人三人組が楽しそうでかわいらしい。
枯れ菊の着物から、つながる先は、慧の過去の物語。
『マイ・フェア・レディ』の原作では、イライザ達は結ばれなかったのだというのは知らなくて、びっくりしました。
『平家物語』の祇王と仏御前の物語も重なり、男と女の大人のままならない愛情が切なく響きます。
慧の過去についてひとり辿り、真実をたぐりよせていく鹿乃の姿に、ちょっとどきどき。良鷹お兄ちゃんがそばで見守っていてくれたので、そこは安心感がありましたが。
着物を渡した貴和子さんのさっぱりした潔い女の感情が、枯れ菊でありながら美しいという着物のイメージに重なり合って、切ないけれども美しいなと思いました。
慧の過去のどうしようもない傷が苦しくて、そして抱きしめ合う慧と鹿乃の姿がこれまでの関係とは明らかに変わっていて、どきどき引きこまれました。
まだそこで引いちゃいますか、慧さんは。もどかしいけれど、歳の差とか考えると、無理ないかなと言う気も……。
それまでと明らかに違う抱擁に、未知の感情を知りざわめく鹿乃。春野さんがさらに爆弾発言を。
春野さんの鹿乃ちゃんへの想いの程度がいまひとつ読めなくて、うーんどうなんでしょう。

『兎のおつかい』
最後の物語はちょっと箸休め的な。
鹿乃の曾祖母・汐子さんと、曽祖父・信篤さんの、馴れ初めエピソードでした。
兎のモチーフが可愛らしく効果的に使われていて、育ちよくまっすぐな気性で内に繊細さも秘めた汐子さんとのんびり知的な美青年信篤さんが、行動を共にするごとに距離を縮めてゆく様も初々しく微笑ましく、ふたりが関わった若夫婦のいざこざも最後には修復できたし、後味よく幸せな物語で、良かった。
特に最後のお互いへのストレートな告白にきゅんきゅんしました。
ふたりが食べていた洋食屋のチキンカツレツがおいしそう!

この野々宮家の愛の歴史の物語に、若き文学研究者の慧さん、そして骨董屋の娘真帆さんの名前が、いつか組み込まれるのは、色々な意味でとても自然だと今回思いましたし、そんな日がいつかやってくると信じています。

そういえば、この本を購入した書店では、『下鴨アンティーク』シリーズの小冊子がついていまして。
『アリスと紫式部』の導入部のまんがが、少女まんがチックでとても可愛らしかったです。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

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