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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『下鴨アンティーク 暁の恋』白川 紺子 




慧に想いを告げてから関係がぎくしゃくしてしまっている鹿乃。
そんななか、知人に紹介されたのは、蔵の着物に関わりを持つ青年。
彼の大伯母の椿の振袖を蔵から出してきた鹿乃だったが、描かれた椿がすべて落花してしまい——。

『下鴨アンティーク』の新刊を心の支えに最近は生きてきました。
うーん、やっぱりめっちゃ好きやね!何度も読み返しては、ずっと世界に浸りきっていました。
お着物や花や古典文学やひとつひとつのモチーフのロマンティックさやしっとり優雅で美しく流れるような文章、はんなりやわらかく響く方言、京都のたたずまい、そして少しずつ表に出てきた鹿乃と慧のロマンス。すべてがいとおしくてたまらないです。
物語のモチーフを一つのイラストに美しく収め描かれている表紙イラストもやはり秀逸。


ではでは、以下はネタばれもありの感想になります。


前巻がとても気になるところで終わっていた今回。
読み終えて、鹿乃ちゃん、良かった。もう本当に良かった。ほっとしました。
あのラストからまあこうなってしまいますよね、と薄々思ってはいた展開で、鹿乃ちゃん辛すぎるし慧の気持ちも分かるしで、読んでいて痛々しくて見ていられなかったのですが、いやあ、良かったです。
鹿乃と慧の恋の行方が今回のお話のメインで、あと今回際立っていたのは、普段ぐうたらな良鷹お兄ちゃんの活躍っぷり。
良鷹がどれほど鹿乃を大切にしていて彼女の幸せを願っているのかひしひしと伝わってきました。
あと鹿乃のお友達の梨々子ちゃんと奈緒ちゃん、慧のお父さん田村教授、恋敵であるはずの春野さんまで、みんなが鹿乃と慧の関係が上手くいくよう後押ししている感じがして、こんなにたくさんのひとたちがふたりを見守っているというところにも、頼もしく心があたたかくなりました。

不思議な着物をめぐる三つのお話が、すべて、鹿乃と慧の現在の難しい状況とどこか重なるものになっていて。
喜びも苦しみも内包し実ったロマンスを解き明かしていくごとに、ふたりの心や関係も少しずつ変化してゆき……というお話の構成も、素敵でした。
あと今回ますます、鹿乃ちゃんは周囲の手を借りつつもあくまで自分自身で着物のことに取り組み解決していて、確かに鹿乃ちゃんが蔵の管理人、巫女姫だというのも、納得というか、しっくり馴染んできているように思いました。
皆が鹿乃ちゃんに不思議と心を開き胸の内を打ち明けるのも、彼女の資質なんでしょうね。

『椿心中』
慧の返事にやわらかく微笑んだ鹿乃の場面が辛くてやりきれなかった。
そして「だって、生きてるやん」「慧ちゃんは生きてるし、死んでないんやから泣くことやないと思う」(58頁)の鹿乃の台詞が、胸にずしりとくる。鹿乃のために泣いてくれる友人二人の姿に私も泣けました。
満寿さんのたまごいろにかがやく海老ピラフもやっぱりとてもおいしそう。
「あたたかい料理というのは、どうしてこう、ひと噛みごとに胸の内側に染みこんでくるのだろう。」(57頁)
心中のお話は穏やかならず、古代神話の悲恋物語とも重なって、重たくて辛かった。
でもだからこそ、椿を祝福のものと変えたのが素晴らしく、稜一さんと紗枝さんのふたりが前向きな気持ちになれたようなのも嬉しく、そんなふたりに瀧子さんがこれからは力になってくれるだろうということが、心強い。
掛け算の愛、いいですね。鹿乃ちゃんらしい。
良鷹と鹿乃がドーナッツを食べている場面も好きでした。ドーナツとココアがおいしそうでよろめきました。
慧がなぞらえた『椿姫』の一節も胸を打ちました。
最愛の妹を慧に取られたと十年前からずっと拗ねていたらしい良鷹お兄ちゃんが気の毒で可愛かった(笑)。

『月を隠して懐に』
おさるさんがかわいい。
笛の先生と年下の奥様の恋のエピソードを辿り、自身の恋とも重ね合わせて、という鹿乃ちゃんの姿が印象的でした。
慧が母親の実家へ出かけ不在というのもあり、良鷹が本当に大活躍でいったいどうしたんでしょう(失礼)。
確かに、両親と祖父母を喪い一番つらさを抱えているのは、良鷹なんだろうな、と思いました。
鹿乃の髪をゆったり着物をきせかけたりする良鷹さんのかいがいしさといったらもう。
鹿乃さえいてくれればそれでいい、というのがね。泣けますよね。
真帆さんレシピのマヨネーズ入り玉子サンドがやっぱりおいしそうです。あの良鷹が気にいってまた食べたいというのだから相当ですよね。
そして慧が鹿乃の想いを受け入れられなかった原因のひとつは、両親の姿を見てきていたからこそだったのか。
田村先生と慧の旅館にて会話の場面も好きでした。
鹿乃のお守りを心のよすがにしている慧の姿にもぐっとくる。

『暁の恋』
梨々子ちゃんと奈緒ちゃん、良鷹お兄ちゃんが煮えきらない慧ちゃんをそれぞれたきつけにくる場面が好きだー(笑)。
春野さんも、最後までやっぱりよくわからないお人だったけれど、こうなってみるとなんだか気の毒だなあ。
最初は特に本気でもなく鹿乃にちょっかいを出していたけれど、そのうち本気で鹿乃に惹かれたということだったんだろうか。
カイロをふたつ持っていたところが、なんか、春野さん好きだなと思いました。
慧ちゃんの飾り気のないまっすぐな告白と、慧への気持ちは絶対に譲れないと腹をくくった鹿乃のふたり、本当に良かったです。ううう。
美根子さんと和泉式部と梅の帯のエピソードも良かったな。和泉式部の伝説って面白いですね。はるみさんも素敵な女性だなと思いました。
草餅と牡蠣フライが食べたくなってくる(笑)。ツナと白菜の玉子とじどんぶりも想像するとおいしそう!
最後のふたりデートの場面が可愛らしくて幸せすぎました。花尽くしの着物を着て初めてのデート記念に押し花を作ろうかという鹿乃ちゃんが可愛すぎて、それは慧ちゃんもめろめろでしょうと納得でした(笑)。
それにしてもさすがにここでプロポーズが来るとは思わず、早!
でもここで結婚の言葉が出てくるのもなんだかこのシリーズらしいし、生真面目で古風な慧ちゃんらしいし、なによりこれまで同居していて一緒に台所に立ち料理を作っていた鹿乃ちゃんと慧ちゃんはもう恋人を通り越して若夫婦的な空気をまとっていたし、うん、良いんじゃないでしょうか。
鹿乃ちゃんが幸せならば。
「おまえは地面に落ちてるものを拾うのが好きなんだな」
「地面が近いから、目に入るんや。慧ちゃんは地面が遠いから気づかへんのやろ」
なんて241頁のなんでもないやりとりもお気に入りです。

『羊は二度駆ける』
良鷹と真帆さんのお話。良鷹メインのお話はやはり気持ちブラックというか救われないお話が多いかな。白露が格好良かった。
ううん、鹿乃ちゃんが慧とつきあいだして喪失感に囚われている良鷹がなんか報われなくて気の毒だな……。
良鷹のシスコンっぷりが改めてひしひし伝わってきますね。確かに高校二年生でつきあっている彼女に「妹の方が大事」とためらいもなく言ってしまうような人は間違いなく重度のシスコンですよね。
良鷹も真帆さんも、自分たちの関係について、恋愛ではないと迷いもせず否定しているけれど、私は良鷹さんと真帆さんのふたりの組み合わせがとても好きなので、ふたりで幸せになれるといいのになあ、とどうしても思ってしまう。
でもまあ、そもそも良鷹には友人が慧くらいしかいないということだったので、そう思えば今回の真帆さんのラストの台詞は大進歩なのかもしれない(笑)。
さばさばしていて賢くて弁の立つ真帆さんは、良鷹の影のある部分を上手く吹き飛ばして場面を明るくしてくれてる気がして、そういう意味でも相性がよいと思うのですが。
良鷹のビーフシチューが最後に最大の美味しそうな場面でした。

とても幸せな読書のひとときでした。ごちそうさまでした!
きれいにお話がまとまっていて、これで完結とか……ではないですよね。そうですよね?
続きもとても楽しみにしています。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 白川紺子