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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『百貨の魔法』村山 早紀 




風早の街の老舗百貨店・星野百貨店。
時代の波に抗しきれず閉店の噂もささやかれる中で、従業員たちは今日も店頭に立ち続ける。
願いをかなえてくれる「白い猫」と人々の夢がきらめく美しい物語。

村山早紀さんの新作『百貨の魔法』
『桜風堂ものがたり』の姉妹作、今回は銀河堂書店が入っている星野百貨店がメインのものがたりということで、読めるのを楽しみにしてきました。
読んでから感想を書くまでにちょっと間があいてしまい、細かいところを色々忘れかけてしまているのですが、それでもひとかけらでも感想を残しておきたくて。

実際に本を手に取り装丁の美しさにため息が漏れました。
瑠璃色というのか青色の表紙カバーも素敵ですし、カバーを外して百貨店の包装紙風のイラストがちりばめられている本体もまた素敵。
しかし実際にこの表紙の真価をみたのは、ラストまで物語を読み終えてから。
作中に出てきた一つ一つのモチーフが合わさりこの一枚の絵でひとつの世界が完成されていて、その素晴らしさに感服するほかありません。
可愛らしくて品があってお洒落で、まさに私のイメージするあこがれの百貨店。
ネイルか香水のびんを振りかけてキラキラした夜空をいっぱいに満たしたみたいな。

実際に読んでみても、今回も期待を全く裏切られない、とてもとても素敵な物語でした。
夜空の星のきらめきが、星に照らされた海の飛沫が、読んでいると心の中に静かにさらさらと広がってゆくような。
美しくて優しい読み心地でした。
あまりに心地よくて読み終えるのがもったいなくなるくらい。あえて何日かかけて、少しずつゆっくり読んでいました。
星野百貨店というだけあって、イメージは夜が似合う。
別に暗いという訳ではなくさんさんとした明るいお日様に照らされた百貨店もしっくり馴染むのですが、やはりちょっと静かで落ち着いた夜のイメージなんですよねえ。夢と現の境目といいますか。

百貨店で働く人達が順番に語り手を担う、連作短編集。
『桜風堂ものがたり』は主人公が男性の一整さんでしたが、比べてこちらの『百貨の魔法』は、女性の語り手が多く、よりフェミニンといいますか。ふんわり可愛らしくお洒落なイメージ。

何より心地よかったのは、星野百貨店の店員さんたちの職場や自分の仕事、お客様への姿勢。
内に百貨店の将来など不安を持ってはいても、仕事にはつねに真摯で誠実で、誇りを持って自らの役割をまっとうしていて、星野百貨店を愛していて、なによりお客様の満足、笑顔を大切にしていて。
読んでいるこちらも深い充足感を得られました。
皆の姿を読んでいると、ああ、私も自分のお仕事頑張らないとな、と、ごく自然と励まされました。

「魔法の白い猫」が作中何度もモチーフとして登場してきて、噂の新人コンシェルジュさんの謎めいた正体とは?というのも相まって、ファンタジーちっくな読み心地もまた、村山早紀先生のお話ならでは。
私自身もちょっと信じちゃいました(笑)。
でもこれも、まさに大人のためのおとぎ話、夢の物語。
皆の現実的で誠実な途方もない努力と想いの積み重ねが作り上げた、それがあってこそ導かれた奇跡なのだもの。夢を見てもいいじゃないですか。
ものがたりの世界の中なのだから。
と、『桜風堂ものがたり』を読んでいた時も確か似た感じに思っていたな。

ほろ苦い夢、叶えられなかった夢、色々な夢の記憶がありましたが、格好悪くなんか全然なく、これまでの人生を誠実に生きてきた人たちの夢はみんな美しく星みたいにまたたいている。
白い猫との絡め方が絶妙なんですよね。
あと思ったのは、百貨店の物語であると同時に、従業員たちそれぞれの家族の物語でもあったな、と。

『空を泳ぐ鯨』
いさなさん、というお名前の響きがまず素敵です。
エレベーターガールという職務にぴったり、星野百貨店へようこそ、館内は~~みたいな、まずはご案内の一話、そんなイメージでした。
結子さんといさなさんの邂逅の場面がお気に入り。村山先生が描かれる結子さんみたいな女性キャラクターが私はとても好きです。
サクラとテディベアのエピソードもほろ苦さも含みつつ柔らかで優しいお話で素敵。

『シンデレラの階段』
テナントの靴屋の咲子さんの物語。百貨店とテナントだとまた立場がちょっと違っていて、でも咲子さんたちも星野百貨店の一員であり百貨店を愛していて、やっぱり、いいな。
シンデレラ・ウィングの可愛らしくキラキラしたイメージがとても好き。杏さんの最後のメッセージに涙。
今靴屋さんとして誇りを持って働いている咲子さんも、やっぱり格好いいし輝いています。

『夏の木馬』
宝飾品フロアというと私はほとんど近寄ったことがなく遠くからそっと憧れのまなざしを注ぐのみなのですが、健吾さんのお母様への想いと相まって、なんとも美しく切なく、それでいてあたたかな愛情に満ちた、素敵なエピソードでした。
人として親として弱くてダメなところもあったけれど、美しくて息子を彼女なりに愛していたお母様、とても印象深く心に刺さりました。
屋上で食べたソフトクリームで寒くなる、という下りがリアルで私もぞわっときました。

『精霊の鏡』
一花さん、というお名前の響きがまた素敵でそれだけで好きになったのに、実際に読んでみても可愛らしく奥ゆかしい女性で仕事への姿勢も凛としていて、やっぱり私好みだったのでした。
そんな彼女の絵への複雑な思いと、偶然が導いた出会い、なにより淡い恋のはじまり。このお話私とても好きです~!!
雨にふられた花火大会、浴衣、なんだかこのちょっと残念だけど一緒に楽しんじゃえ、という仲間意識は、百貨店の従業員側だからこそかな、と思いました。Torinekoさんの好青年っぷりもいい。
併せて美容部のお化粧の魔法も込みで。いちばんロマンティックではなやかなエピソードだったかな。
みほさん側の語りも印象深かった。

『百貨の魔法』
最後に明かされていく結子さんサイドの物語。
途中でなんとなくうっすら感じるものもありましたが、そういうことだったのね。という。
お父さんもお母さんもひとりの人間で、上手くいかないことはあって、どうしようもなかったんだろうな。
おじいさんもまり子さんも、もちろん結子さんも、読みこむごとに皆、愛おしかったです。
うむむ、あんまりうまくまとめられないので、このくらいで。

私の場合ですが、「星野百貨店」は、地元のターミナル駅にある百貨店と、名駅にある「星野書店」の二つのお店が重なり合ったイメージなのです。
どちらのお店も十年以上ずっとお付き合いさせてもらっているお店で、特に地元の百貨店のそんなに大きくはなく新しくもないけどいつもぴかぴか磨かれて店員さん達のサービスも素敵なあのお店と星野百貨店のイメージはけっこう重なり合っていて、読んでから百貨店にあるお気に入りのカフェでひとりまったりお茶しつつ、浸っていました。

また一冊、心から大好きな物語にめぐりあえました。


十一月に入ってからそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀