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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『契約結婚はじめました。~椿屋敷の偽夫婦~3』白川 紺子 




「椿屋敷」と呼ばれる一軒家に住む柊一と香澄は、訳あって結婚した「偽装夫婦」。
とはいえ仲睦まじい日常を営むふたりだが、香澄の元許嫁で兄妹のように育った晶紀が、椿屋敷の裏のアパート「すみれ荘」に突然引っ越してきた。彼の目的はもちろん——??


白川紺子さんの作品三か月連続刊行、これで最後の三作目。
『後宮の烏』も『下鴨アンティーク アリスの宝箱』もそれぞれ最高に私好みの良いお話でして、読んでいるひとときが幸せで、白川先生の作品世界はどんどん洗練され完成度が上がってゆくなあ……と満ち足りた思いでおりましたので、また間をあかずにもうひとつ新作を読むことができるなんて、素晴らしいのひとことです。ふふふ。
『契約結婚はじめました』のシリーズ三作目。
このシリーズも前回ちょっと気になる発言もあったりして、続きを読みたくて待ち遠しかったのです。うれしい!

セピア色がかったどこか懐かしい作品世界と若夫婦の仲睦まじい日常に、今回も読んでいて和みまくりました。
ささくれた心がじんわり癒されてゆく……幸せ。香澄さんの焼くケーキから漂う甘い香りの描写にまでふんわり癒されます。
やはり語り手が「家」というのがね、この作品の持ち味なんですよね。
どこかとぼけたというかユーモアのある語り口で、柊一さんと香澄さんを見守る距離感がちょうどよくて、どっしりゆるぎない落ち着き感は読んでいて安心できるし、このおだやかさがちょっと癖になりそう。
椿の花でいっぱいに彩られていて、その一方花の描写はほとんど椿ひとつのみという潔さも、やはりこの作品の持ち味。
良い感じに派手ではない、落ち着きのある凛とした空気が、オレンジ文庫らしくて、私はとても好き。

さて今回は、晶紀さんの引っ越しに伴い、主に柊一さんの心境の方で、大きな動きが。
こういう展開を待っていました!!盛り上がりました~!(心の中で叫ぶ)
私が思っていたより大人の男性ふたり、それはもうはっきりくっきり、火花を散らしてきましたねえ。
腹をくくった柊一さんの、これまでとは明らかに違うさりげなく積極的なアプローチ、そしてそれに戸惑い照れまくっている香澄さんのふたりのやりとりに、読んでいてときめいてしかたがなかったです。ふふふ。
前回までのやや煮えきらなかった柊一さんに若干心配していた私でしたが、彼は存外したたかでした。ちょっと安心。
一方の晶紀さんの方の愛情の深さと苦しみを思うと、心抉られるものがあるのですが。
あと今回は、すみれさんの過去の恋の物語が、印象的でとても良かったです。

『秘花』
プロローグ的な、みじかい秘め恋のエピソード。
柊一さんのご友人、なんというか、とても人柄のよい方だったなあ。
香澄さんと柊一さんの仲睦まじさを深いところまですっと見抜いて、ふたりへの祝福の言葉とにじみ出る親しみが、とても心地の良い方でした。
大学生時代の柊一さんって確かにちょっと想像がつかない。

『火宅の恋』
遠山氏と妻の恵麻さんの燃え上がるような炎の恋のエピソードが印象的でした。恵麻さんの方は実際に登場してすらいないのに、存在感がすごい。結婚していようがいまいが関係ないなんて言い切っちゃう、遠山氏の不遜だけど深く激しい愛がひしひし伝わってくる。彼女の前夫に関わる想いの翳の部分も。
そんなゲストの恋に重なり合わさるように、香澄さんを巡る男性ふたりのバトルも、燃えました(笑)。
日常の会話をすべて見聞きしている家視点だからこそかもしれませんが、柊一さんは嫉妬や香澄さんの一挙一動で機嫌を直したりそわそわしたり、案外分かりやすいなあ、といいますか。香澄さんの反応も込みで、なんて可愛らしく微笑ましいふたりなのでしょう。きゅんきゅんです。
困ったような、かなしいような、そんな瞳。嫉妬というより、無意識に切実に相手の心を求めて見捨てられるのをおびえるような柊一さんに、心をきゅっとつかまれてしまいました。
晶紀さんの血を吐くような言葉をきっかけに、柊一さんが自覚するとは。晶紀さんが切ないですが。
チェリーのタルトがおいしそうです。

『金魚は忘れない』
すみれさんの少年時代の恋の物語、美しくてちょっと切なくて、とても良かったです。
先生の渋い格好良さと優しさが染みる。この経験を経てこそ今のすみれさんがあるのだなあと、納得できるというか。
確かに出会ってすぐに結婚を決めるなんて、よくよく考えたらけっこう難しいですって!
それぞれ聞かれた香澄さんと柊一さんそれぞれの答えが、ふたりらしかったな。
というか、柊一さんはっきり言い切りましたね。やった!!(その割には香澄さんの想いに気づいていないのがやっぱりうかつなのですが……)
それにしても冒頭のケーキを焼く香澄さんの場面の幸福感といったら。その後の柊一さんとのやりとり、甘かった。びっくり!
「ケーキはオプションだと思うよ」「オプション」というふたりのやりとりが私のつぼにはまりました。

『すみれ荘にて 君はスピカ』
すみれ荘が語り手の番外編。
この下宿に住んでいる人達、皆それぞれいい感じに個性豊かで、親睦会の場面がにぎやかで楽しそうで良かったです。
それぞれの持ちよりのごはんでなんとなく人柄が現れてくるようなのもいい。マドレーヌも巻き寿司もカレーもみんなおいしそう。
そして檀君と廣田君の大学生男子の友情も良かったけれど、廣田君と遥ちゃんの組み合わせも私、とても好きだな。
あと十年くらい経ったら……年の差カップルということで……。
部屋のことはともかく廣田君は良い青年だなあとしみじみ思いました。
祖母と母親の間で苦しんでいる遥ちゃんがちょっと辛かった。

『ふたたび、椿屋敷』
鶏そぼろおいしそう~!!
香澄さんの誕生日を忘れていて晶紀さんにちょっと負けた気分になっている柊一さん、今回はうかつでした(笑)。
ふたりの仲睦まじさあふれるお話の締めで、ふくふくと幸福感いっぱいになりました。紫陽花いいですねえ。
「いまは椿の花が一番好きです」って、柊一さんには最高に嬉しいことばだろうなー。

香澄さんがまだ無邪気な感じだけど、お互い明らかに想いあっているのだから、近いうちに本当の夫婦になってほしいな。待ちわびています。
最初の約束にしばられた状況で、まじめな香澄さんが愛を受け入れるにはまだ段階がありそうで、もどかしいのですが。
それがふたりらしいといえばらしいのかな。

香澄さんが作るごはんやお菓子はもちろんのこと、いただき物やおやつに買ってきたお菓子なんかもいちいちすべてがおいしそうです。
お茶の時間に夫婦がふたりとも家にいて一緒に一服できるって、憧れますねえ。
もしかして「家」だからこそ、衣食住の細やかなところにまで目がいくのかしら。とか思ったり。

このシリーズもまた続きがとても楽しみです。
そして私はケーキを焼きたくなりました。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 白川紺子