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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『灯籠』うえむら ちか 

灯籠 (ハヤカワ文庫JA)灯籠 (ハヤカワ文庫JA)
(2012/06/08)
うえむらちか

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舞台は広島、夏の季節。
交通事故で両親を亡くした少女・灯(ともり)。
盆の頃、自分の背丈よりも大きな盆灯籠を手に、両親の墓へと向かっていた灯は、不思議な雰囲気をまとった青年・正造と出会う。
両親を亡くした孤独感をぬくもりで癒してくれた正造を灯は慕い、それから毎年盆の時期だけ、ふたりは逢瀬を重ねてゆくのだが……。


読書メーターでふと存在を知り、片山若子さんの表紙イラストと「恋は幼くして死の匂い」帯の紹介文に心惹かれ、手に取ってみた一冊。
灯視点で夏の不思議な逢瀬がつづられる表題作と、もうひとりの少年視点から物語をつづる後編の、二話構成。
薄手の本で文章もかたくなくて、さらりと読めました。
広島の方言が会話でふんだんに使われていて、雰囲気ありました。

表題作は、天涯孤独の身となってしまった少女と、盆の時期にだけ姿を現せる正体不明の青年の、互いの孤独を優しく埋める逢瀬から、年月が経つごとにもっと激しい感情が育ってゆき……そんな切ない夏の恋物語。
読書メーターの方でも書かれていましたが、緑川ゆきさんの『蛍火の杜へ』をまず思い浮かべるストーリーだなあ。特に灯が中学生になった年の会話がそんな感じでした。
けれど、あちらよりもずっと、暗い闇の香りがするお話でした。死の香りというか。
両親をいっぺんに亡くして、周りの人に馴染めなくなり孤独感をずっと引きずり続ける灯の姿が、読んでいて痛々しかったです。
そんな彼女にただひとり楽しく優しいひとときを与えてくれる正造が、彼女にとって唯一無二の存在になってゆくことが、よく分かる。(同時に正造との交流を大切にするあまりに普通の人と異質の空気を年ごとに醸しだしてゆく灯の姿がますます切なく痛い……)
ハンカチのエピソードが好きです。
正造の正体も、読んでいくごとになんとなく推測はついていたのですが、その推測以上に辛かったな。
でも、お互いに出逢えて、共に時間を過ごしたからこそ、真っ暗闇だった世界に再び光を取り戻せた、世界が愛しく思えるようになった……そんなラストにたどり着けて、切ない中でも、うん、ほっとしました。
「お盆くらいは帰ってきんさいよ」――別れてから、最後の灯の台詞が好き。
盆灯籠、全く馴染みのないものでしたが、表紙イラストのこれのことね!読んでいてイメージしやすかったです。

次のお話『ララバイ』は、そんな灯のことを見つめ続けていた少年・清水視点からの追憶のエピソード。
恋物語としては、むしろこちらの方が好きかもしれない。清水のけして報われない、一途な恋心が胸にダイレクトに迫ってきました。
複雑な家庭事情、母親のことで家を飛び出して、そこから灯のピアノに続いてゆくエピソードが、好きです。(そういえば灯の父親の職業は……戻って確認。)
清水くん視点からの灯は、ひたすらまぶしく美しくきらきらしていて、叶わぬ恋と分かっていても、読んでいてうらやましかった。
一話目を読んでいた時より灯がずっと普通の女の子で、やや意外な感じも(笑)。

この第二話を読んでから気づく、物語全体の構成の仕掛け。
あれ、この語りはこのひとだったのか!……という種明かしもありましたが、それより何より、彼女はあのあと結局どうなったのだろう……?まさか、例のいじめ?
正直、すごいもやもやが残るラストでした(笑)。
でもこの曖昧さも、物語の儚く幻想的な雰囲気にマッチしていて、良いといえばいいのかもしれない。

文章、読みやすくはあるけれどちょっとこなれていない感じで、物語としても、うーん、もうひと押しが欲しかったよなあ、と正直思いました。
けれどもこのお話、うん、上手く言えないんですけれど、曖昧さもすべて含めて、嫌いじゃないです。私はこういうの、けっこう好きです。
幻想的でほの暗く切ない雰囲気に、読み終えて、しばしぽーっとひたっていました。
夏の闇の濃さを肌で感じる。
ラブストーリーであると同時に、親子の情がしみじみ染みるお話だなあとも感じました。灯の母親の思い出も、清水の母親と弟の場面も、印象的でした。
今後に期待の作者さんかもですねえ。


昨日それぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪
コメントも、嬉しいです!ありがとうございましたー!返信、少々お待ちください。

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カテゴリ: ファンタジー(和風)

タグ: うえむらちか 

この記事に対するコメント

ネタバレです。未読の方は読まないで下さい。

amazonの高評価のレビューや賛否両論の読書メーターの感想を読んで果たしてどちらなのかと興味がわき私も読んでみました。私は気に入りました。素直に面白かったし、惹きつける文章で一気に読み終えました。読後感が好きでした。
否定的な人の感想は1話目だけでいいとか、最後が解らないとか、全体に埋められているしかけに気付かないとか、読みきれていないだけだと思います。
まだまだ新人作家なのでこなれていないところも見受けられますが、でも美しい文章に浸り、とてもせつない気持ちにさせられました。
「彼女はあのあと結局どうなったのだろう……?」灯のことですか?屋上にずーととらわれているショーコのこと?
私の解釈では正造の正体はもちろんですが、灯は実は両親と共に交通事故で亡くなっていて、自分では死んだと思わずに霊のまま成長、愛を得て成仏したんだと思います。トイレのいじめの場面でも誰とも会話がないし、学校でも誰ともふれあいがない。ショーコなら彼女も屋上で自殺した霊ということは屋上に上がってきた女性教師が言っていますね。
なにより、最初の8ページに「いつも人と違うものを視てきた」と書いてあるのです。それが頭にあったので私はわかりやすかったです。
広島の盆灯籠も諸事情により最近少なくなってきました。初めて見た時は不謹慎ながらもきれいだと思いました。こんなきれいな墓なら霊も戻ってくるだろうと。昔は火もつけて本当にきれいだった。映像化したらきれいだろうなと思います。
ながながと申し訳ありません。時々ブログも読ませていただいています。

URL | 風鈴 #Cv2s2L.A
2012/08/06 13:19 * 編集 *

Re: ネタバレです。未読の方は読まないで下さい。

>風鈴さん
コメントありがとうございます。

どうも、こんにちは!丁寧なコメントをいただきまして本当にありがとうございました。
返信少々おまたせしてしまいました……。

ええと、私はアマゾンのレビューは基本的にほとんど読んでいないのですが、確かに読書メーターの感想、賛否両論でしたよね。気になりますよね(笑)。
風鈴さんもこのお話、お気に召されたということで!記事の通り、私もです。
なんというかこう、上手く言葉で言い表せない類の魅力があるなあと。これが好きな人はとても好き。そんな作品かなあと。
美しい文章、読後の切ない余韻……コメントに書いていただいている感想、はい、同感です!!

「彼女のあの後」……私がこの記事を書いていた時に頭においていたのは、灯の方でした。
私は風鈴さんの解釈とは違う風に読んでいたので、感想を読ませていただいて、幽霊、そういうふうに読めるのか!ととても新鮮に思い感心してしまいました。とても読み込んでらっしゃいますね!すごいです。
私もまた風鈴さんの解釈を胸に、もう一度読み返してみたいなと思いました。
ショーコの正体も。私は正直灯の正体の方に気を取られていて、彼女の描写はさらっとしか読んでいなかったので……(笑)。

そして広島の盆灯籠、ご覧になられたことがあるのですね。
本当に美しい眺めなのでしょうね……私もいつかこの目で見てみたい、改めてそう思いました。

ブログもときどき読んでいただけているとか。わあ、なんだか至らぬところばっかりでお恥ずかしい……(苦笑)。
でもとてもありがたいです。皆さまに読んでいただけているからこそ、ブログをこうして書き続けていられます。ほんと。

URL | fallclover #SvKcs0as
2012/08/09 15:44 * 編集 *

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