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『扉守 潮ノ道の旅人』光原 百合 

扉守 潮ノ道の旅人 (文春文庫)扉守 潮ノ道の旅人 (文春文庫)
(2012/08/03)
光原 百合

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女子大生・由布がアルバイトをする伯母の店の中には、古い井戸がある。この水を飲んでおけば、ふるさとにもう一度、帰って来られると教えられた由布。そして彼女は話の通り、ひとつの不思議を目の当たりにする――。(『帰去来の井戸』)
瀬戸の海と山に囲まれた町・潮ノ道を巡る、七つの小さな奇跡の物語。


光原百合さんが「潮ノ道」という町を舞台に書かれた、現代ファンタジー連作短編集。
「潮ノ道」のモデルは、光原さんご自身の故郷・尾道なのだそうです。
ずっと気になっていた作品で、最近文庫化されたのをいい機会だと思い、手にとって読んでみました。

言葉や文章のひとつひとつ丁寧に優しくつむがれる物語、静かで幻想的な雰囲気。
不思議な出来事が次々に起こり、イメージはどちらかというと夜でひんやりとしているのですが、(ごく一部を除き)怖いお話ではまったくなく、読んでいると温かく切なく優しい気持ちがいっぱいに沸き起こってきました。
不思議の連作短編集ということで、以前読んだ『銀の犬』(感想→こちら)のイメージに近かったですが、あちらに比べると、現代日本が舞台になっているからか、読んでいてより馴染みやすかったかな。(『銀の犬』のケルトの幻想的な雰囲気もたまらなく好きでしたけどね!)
このお話は、村山早紀さんの『コンビニたそがれ堂』シリーズや恩田陸さんの『光の帝国』と、ちょっと似たものがあるかなーと感じました。

この「潮ノ道」という町、本当に愛されているのだなあというのが、読んでいて伝わって来るのが、好きでした。
確かに私も、一度も行ったことがない場所のはずなのに、懐かしい気持ちになりました。
作者さんの故郷の尾道に、実際に行ってみたくなりました。
いいですね、故郷。
ああ、私にも文才があればなあ、自分の故郷から、こんなふうに魅力的なお話を紡ぎだすのですが(笑)。

少し不思議な力を持つ人間だったり完全な不思議の存在だったり、目立たずひっそりと潮ノ町を訪れる(住んでいる)キャラクターたちが、皆魅力的で。
とっつきにくいのかというとそうでもなく、皆どこかお茶目で普通に長所・短所もふんだんに持ち合わせていて、親しみを持って読んでいけました。
各話ごと、町に暮らす様々な年齢の女性たちと、そんな不思議系キャラクターとの触れ合いが、どれも素敵なものでした。
不思議なものでもおっとりほんわり受け止めている印象のある町全体の雰囲気もなんだかいいです。

各話ごとに、ごく簡単に感想を書いてみます。
『帰去来の井戸』
実は最初の何頁かはお話の世界にすんなり入って行けなくて少し苦労したのですが(笑)、入り込めてしまえば、しんみりと温かい、いいお話でした。
雁木とか、町の中にあるのを想像すると、面白いなあ。

『天の音、地の声』
劇団「天音」と不思議な洋館のお話。
このお話好きです。なんといっても、主人公の小学生の女の子・美咲ちゃんと、劇団員のサクヤさんとの関係が、ほのぼのあったかくてとてもいいです。
性別不明な美貌のサクヤさん、この頃どういう訳か、男優さんでもいいなあ、という気がしてきた……なんてあたりの美咲ちゃんが、すごく可愛い。淡い初恋でしょうか?(笑)劇の才能は類まれだけど素では子どもっぽいサクヤさんもまた可愛くってですね!
「天音」の舞台の場面も、演じる描写がいきいきとしててとても魅力的でした。
ぱたぱたさんが名前込みで可愛いのです。過去のエピソードは切なかったですけれど。
あ、美咲ちゃんのご両親の劇鑑賞をめぐるやりとりも面白かった(笑)。

『扉守』
「セルベル」の店主の青年が、独特の役割と雰囲気で印象に残りました。
雪乃さんと例の存在のあれこれは、雪乃さんの気持ちもすごく分かっただけに、はらはらしました。
無事に解決できて、ラストの友情がほんわりしていて、ああ、ほっとしました。

『桜絵師』
桜の花、花の絵が、美しくて切なくて愛おしさにあふれるお話でした。
早紀さんが絵の中で出会った青年との触れ合い、そして絵師さんとの触れ合いがとても良くて、交わす会話が心に響きました。読んでいてほろりときました。

「この絵の中が美しいのは、君たちのいるところと別天地だからじゃない。
あの絵描きさんが、美しい現実の世界を愛情込めて写しとったからだってこと」 (161頁)

シリアスな話をしていたかと思えば、桜餅をめぐってささやかにケンカしてたりする行雲さんと了斎さんがお茶目でよかったです(笑)。

『写想家』
祥江さんが抱えていたものが予想以上に激しくて、ちょっとぐさっときました……。でもこの菊川さんのキャラがまた独特で、セルベルの店主との会話もテンポよくて、読後感も重たくはなくて良かったです。
ホットケーキ、確かに子どもにとっては何より重要ごとだったのかもしれないよね。
祥江さんたちの友情が今の私にはなんだかとてもリアルでした。

『旅の編み人』
編み物職人のあらくねさんが、良い性格してる~。読んでいる分には好きだけれど、実際にはお付き合いしたくない(笑)。友香さんはお人好しだなあ……。
大切に一生懸命に編んだものに心が宿るって、確かにすごくありそうな感じがします。
あと、「坂道パイ」が何気に美味しそうです。抹茶餡って珍しくないですか?心惹かれる(笑)。

『ピアニシモより小さな祈り』
このお話もとても好きでした。
天才肌で内と外の顔が違いすぎるピアニスト・零さんと、調律師の柊さん、のコンビがとても魅力的。彼らに振り回される静音さんは大変そうだけど、直接関われる彼女の立場がうらやましくもあります。
最後の連弾、美しい音楽の奔流のような場面が読んでいて本当に素敵でした。
スカボロー・フェアが、理由もわからないままに戦に赴いて戦い、死んでゆく兵士が、昔の恋人に愛を伝えたいと願う歌……という部分が、特に印象に残りました。
『銀の犬』でも出てきたスカボロー・フェア、何度聴いても好きです。

全話読んでみて、私が特に好きだったのは『天の音、地の声』『桜絵師』『ピアニシモより小さな祈り』でした。
なかでも天音のお芝居と零さんのピアノが読んでいて素敵すぎて……ああ、私も本の世界の中に入って鑑賞したいです。
あと、ちゃっかり全話通して登場していた了斎さん、うさん臭いけれど何気に有能なお坊さんで、いいキャラしてました。町で不思議と現実の世界を上手く結びけていたのは、このひとの存在だったのかなー。
そして、こんなひとの奥さんをずっとやってきた梅香夫人の苦労がしのばれます(笑)。

読んだあとに改めて丹地陽子さんの表紙を見ていると、お話に出てきたキャラクターが雰囲気よく描かれていたりして、とてもいいなあ。
夜の深い色と淡い桜色の取り合わせが美しいです。
丹地陽子さん、『イオニアの風』(感想→こちら)の表紙イラストの方でもあったのですね。
あちらはギリシア神話でまた全然雰囲気が違ってて、でもどちらも作品世界にぴったりで、素晴らしいですねえ。うっとり。


光原百合さんの書かれるファンタジーは、やっぱりとても私好みだなあ。しみじみ。
今回のお話や『イオニアの風』『銀の犬』の続編も、読めるのならぜひ読んでみたいです。いつまでも待っています!


昨日記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: ファンタジー(和風)

タグ: 光原百合 

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