Admin   *   New entry   *   Up load   *   All archives

ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『思い出のとき修理します』谷 瑞恵  

思い出のとき修理します (集英社文庫 た 81-1)思い出のとき修理します (集英社文庫 た 81-1)
(2012/09/20)
谷 瑞恵

商品詳細を見る



仕事にも恋にも疲れ、都会を離れた美容師の明里。
引越し先は、小学生のころに、理容店を営んでいた祖父母と夏休みを一度だけ過ごした、思い出の商店街。
思い出の中よりずいぶん寂しくなってしまっていた商店街、再び住むことになった祖父母の店のご近所で明里は、奇妙なプレートを飾った店を見つける。
実は時計店だったその店を営む青年・秀司と知り合い、商店街で起こるすこし不思議な事件に共に何度か巻き込まれる内に、ふたりの距離はすこしずつ、縮まってゆく。
けれども明里も秀司も、それぞれ過去に秘密を抱えていて――。


コバルト文庫のヴィクトリア朝長編ロマン『伯爵と妖精』シリーズでお馴染み、谷瑞恵さんの新作は、現代日本が舞台のお話でした。
あらすじが私好みっぽかったのももちろんですが、やはり谷瑞恵さんの一般小説作品、というのに一番心をひかれて、手にとってみました。
表紙を開いて、著者紹介……そういえば谷瑞恵さん、三重県出身の作家さんでしたね(笑)。

中身を実際に読んでいくと、セピア色がかった、優しい雰囲気のお話でした。
連作短編形式で、それぞれのお話で起こるちょっぴり不思議な事件を、ヒロインの明里さんとヒーローの「時計屋さん」こと秀司さん(プラス、秀司さんの弟分的存在?の不思議少年太一くん)が、協力しながら解決してゆく……みたいな感じで進行していくスタイル。
主役二人の年齢は二十代後半でそれなりに苦労してきた社会人で、やっぱり少女小説っぽいきらきら感はほとんどなく、なんというか、落ち着いた大人のメルヘンみたいな感じでした。

あ、でも読んでいると、ヒロインとヒーローのなにげない仕草、心中語、会話のリズム等など、「ああ、伯爵と妖精だ、谷瑞恵さんだ……」みたいに、至るところで感じました(笑)。
そりゃ考えてみれば、シリーズ文庫三十冊分を何年も追いかけて読んできているんだから、馴染んでくるのも自然かなあ(笑)。

明里さんと「ヘアーサロン由井」の老夫妻の関係、商店街の人たちとの交流が、過去も現在もすべて含めて、優しくて温かくてとてもいいなあ、と読んでいていちばんに思ったことでした。
おばあちゃんが、孫娘の明里さんの存在を喜び、かわいがり世話焼きしたい気持ちがよく伝わってきて、こちらまで心がぽかぽかしてきました。
この辺詳しく書こうとするとネタばれなので無理にぼかしますが……(笑)、実際のところの人間関係以上に、ひと夏の思い出に肉親の愛情がこめられていて、こういうある意味メルヘンな人間関係、あってもいいよねえ、うんうん頷きたくなりました。
幼さ故に誤解して、悲しい思い出になってしまっていたことも、今ならば、解きほぐせる。
お母さんの方の真意も愛情も確かに分かって、ほっとしました。

明里さんと「時計屋さん」のロマンス要素は、思っていたよりひかえめだったかな……でもやっぱり素敵でときめきました。
時計屋さんが、とにかくいつも優しくて笑顔で親切で、根っからの癒し系なのです~!
どうしてこんなに明里に最初からフレンドリーで優しいのだろう……とはじめはちょっと不思議なほどでしたが、後半まで読み進めていくと、ああ、そういうことかあ。分かってみると、直接は書かれていない彼の気持ちが、なんとも甘酸っぱくてかわいく思えました。
最後まで呼び方が「時計屋さん」のままなのも、どこかメルヘンな雰囲気に一役かってて、いいんじゃないでしょうか!時計職人のお仕事も、これもメルヘンですよねえ。

商店街の樣も、読んでいくと、最初に明里さんが感じたほど寂れていたわけでもなく。形は変えつつも、今もお客さんのためにひっそり息づいているお店がいくつもあって、良かったです。編み物教室をする手芸屋さんとか好き。
塗り絵やおそろいのドレスや、細々としたアイテムのひとつひとつが商店街と関わりのあるもので、こういうのも、いいな。

各話ごとに少し書いてみます。
『黒い猫のパパ』
パパ、パパ……猫の呼び方が可愛らしい(笑)。
明里さんが花嫁さんに美容師としておめかししてあげる場面が、好きでした。

『茜色のワンピース』
このお話、好きです。
デートして思い出を再現してほしい…と老婦人のハルエさんに頼まれた、明里と秀司さん。
現在のふたりのデートもくすぐったく甘酸っぱかったけれど、それ以上に、重ね合わされた思い出の中の恋人同士のエピソードが、すごく素敵でした。ハルエさんの「あの人」の格好いいこと!すれちがいと誤解に胸が痛み、彼の想いの深さにきゅんとして、そのあとしんみりしました。

『季節はずれの日傘』
水色の日傘に子ブタの人形にツインテールの女の子、モチーフが印象深いお話でした。
夫人の日傘が濡れていたのは、なぜかしら。

『光をなくした時計師』
タイトル通り、「時計屋さん」の過去が明らかになるお話。
お兄さんの最後の思いが伝わって、よかったなあ。
真由子さんは、もう少しお話にからんできてもよかったかもしれないなと思ったり。
ラストで髪を切る明里、それに続くふたりの場面が、読んでいてなんとも満ち足りて幸せでした。

『虹色の忘れ物』
お話の最初からずっとかすかな違和感があった明里さんの事情が、ようやく明かされるお話。
色の分からない花は虹色に塗る、という小学生の明里さんの感性が、素敵だと思いました。話の筋に関係あるようなないような(笑)。
すれ違いでふられちゃう時計屋さんがちょっとかわいそうでした……あんなにこんなに尽くしてきてるのに(苦笑)。その後色々あって、上手く収まってよかったよかった。
美容師として活躍する明里さん、というのも、できればもっと読みたかったなと思いました。

話は変わりますが、そういえば私、「あかり」という女性の名前が昔から好きで、思い入れがあって。意味とか、響きとか。
物語に出てくるたび、個人的に嬉しくなって、お気に入りになる率も高い気がします。(最近読んだ作品なら、磯谷友紀さんの『本屋の森のあかり』のヒロインのあかりさんとか。)
今回のお話の明里さんは、闇にとごっていた「時計屋さん」の過去を優しく照らし出して、未来への道をそっと指し示した「あかり」そのものだったのかなあ……なんて、上手く表せませんが、そんな感じのことを、読み終えてひとり頷いていたのでした。

なんだかんだで明里たちをずっと結びつけていた太一くん、彼の正体の結局のところや、ふたりのその後や、もう少し色々読みたかったかなあ。
と思いつつ、まあ、明かされなかった謎はすべて、優しい謎のままでいいのかもね。
ふんわりした気持ちで、頁を閉じました。


谷瑞恵さんの作品、最後の山場を迎えている『伯爵と妖精』シリーズも楽しみだし、今回のように新作も読めるなら、これも楽しみですね。
(でも正直今のところはやっぱり『伯爵と妖精』シリーズの続きをいちばんに読みたいです。笑)


一昨日と昨日にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

関連記事

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 谷瑞恵 

この記事に対するコメント

はじめまして!

「思い出のとき修理します」の感想検索でお邪魔させてもらいました☆
私も伯爵と妖精やヴィクロテ、赤毛のアンや荻原規子作品、今日も明日もや天狗の子など大好きで、レビュー楽しく読ませてもらいました!

伯妖の新刊レビューなど書かれたら即読みたいので、リンク貼らせてもらってもよろしいですか^^?
これからもがんばってください!

URL | あめりこ #-
2012/10/30 01:58 * 編集 *

Re: はじめまして!

>あめりこさん
コメントありがとうございます。

どうも、こちらこそ、はじめまして♪
せっかくうれしいコメントをいただいたのに、返信がこんなに遅くなってしまい……大変申し訳ありませんでした……。

『思い出のとき修理します』、良かったですよね~。
あめりこさんの感想も、読ませていただきました♪
そうそう、読み終えてからもう一度再読すると、秀司さんがずっと好きだった相手となんとかして接点を作ろうと努力してるのが読み取れて、微笑ましいですよね……!(笑)きゅんときました。

そしてブログのリンクの件、もちろん大丈夫です!とてもありがたく光栄です。
たくさん好きなお話が重なっていて、嬉しいです~。
また色々な小説、漫画のお話ができると嬉しいです♪
こちらこそ、よろしくお願いします。

URL | fallclover #SvKcs0as
2012/11/08 19:30 * 編集 *

コメントの投稿
Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://hananomi691.blog10.fc2.com/tb.php/1155-414d1973
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)