Admin   *   New entry   *   Up load   *   All archives

ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『黒猫の刹那あるいは卒論指導』森 晶麿 

黒猫の刹那あるいは卒論指導 (ハヤカワ文庫JA)黒猫の刹那あるいは卒論指導 (ハヤカワ文庫JA)
(2013/11/07)
森晶麿

商品詳細を見る



『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の三年前。
大学の美学科に在籍する「私」は先の見えない進路と卒業論文に悩む日々。
そんな折、唐草教授のゼミにて、いつも黒いスーツ、無愛想だが恐ろしく頭の切れる男子学生と出会う。
ある事件に巻き込まれたのを最初のきっかけに、彼と話をするようになり、美学とポオに関する「卒論指導」を受けることになるのだが。


少し前にシリーズまとめ読みしてすっかりはまりこんだ『黒猫』シリーズ、ちょうどいいタイミングで短編集が出ました!
しかも黒猫と付き人の過去、出会いから距離を縮めていくまでの物語って、まさに読みたかった部分そのものじゃありませんか。これはもう、買うしかないでしょう(笑)。
最初から文庫版ということで、手に取りやすくて嬉しい。

丹地陽子さんのステキな表紙も健在でとっても嬉しいです!
黒猫も付き人も顔立ちなど現在よりやや幼くて、面映ゆい気持ちになりました。
現在に比べるとスーツを完全には着こなしきれてない黒猫が可愛い。
あと付き人の髪も、本文に忠実に描かれていて、読み終えた後見返して、思わずにまにま(笑)。


さて本の中身は、黒猫と付き人の出会いから時系列順に話が進んでいく連作短編形式。ちょうど一巻目と構成が似ていました。
プロローグとエピローグのみが現在(というか黒猫と付き人、言葉通りの関係であった時期)で、エピソードのからみ加減がまた絶妙でした。
美学的要素は、相変わらず初読では正直何のことやら……みたいな部分も多かったのですが、まあ適当に斜め読みしつつ(笑)。やはり一話一話読んだ後の余韻が美しくほんのりしていて、読み進めていくごとに、うっとりでした。ひんやりしているんだけど優しいこの感じが、いいなあ、もう!
もう私はほとんどラブロマンスとして読んでいます(笑)。

ひとまず一話ごとに感想を書いてみます。
『数寄のフモール』
ふたりがはじめて言葉を交わした、とある恋愛騒動に巻き込まれる物語。
杏奈さんがミナモさんとはまた違った風に独特に魅力的な娘さんでした。彼女の想い人は、そちらでしたか……。静かな激しさにぞわっときました。相手の返しがエレガント。
とある脇役の方の意外な(?)秘密も明らかに。

『水と船の戯れ』

「君は、自分の研究対象に愛される自信があるか?」(83頁)

今回の短編集の中でいちばんのお気に入りがこのお話。やっぱり私、シリアスな事件がからんでくるお話よりは、こういう純粋に美学素材メインの謎解きのお話の方が好きだな。
佳代さんと千代さんの付き人の即興の物語、黒猫の解釈で、全然違うように活き活きと描写がうかんできたのが、読んでいてぱあっと鮮やかで、感心してしまいました。
付き人のこと、ある部分では本人以上に深く理解していて本人に的確なアドバイスを与えてしまえるくらいなのに、ほんの一部、付き人の初恋の相手、まったく誤解していてあらぬ想像をしている黒猫が、なんだかちょっとかわいい。(ちなみに私も一読目では誤解していました。)
でも恋のライバルがこっちだと、黒猫は、ある意味とっても苦労しそう……。付き人って彼への愛に関しては、シリーズ通して全然ゆるがないんですもん。
ここの部分だけは、付き人が自分の心のうちだけで、黒猫にささやかに勝ち誇って、ふふふと笑っているみたい。
浅草、お江戸な雰囲気も、このシリーズにしては新鮮でよかったです。
あとは、ぜんざい抹茶パフェに思わず吹き出してしまいました。やっぱり!
「抹茶は日本のエスプレッソです」と返す付き人も良かったです。

『複製は赤く色づく』
鶏も美学講義の対象になるのか……。
まだ付き人の呼び方が「黒猫クン」でなかなか呼び捨てできない微妙な時期で距離感の違いが微笑ましい。
大人の人たちのそれぞれの恋心が印象的でした。
あかね色が美しい。

『追憶と追尾』
付き人が祖母に会いに行くことからはじまる奇妙な物語。
うーん、やっぱり付き人は美人さんなんだと思いました(笑)。
そんな簡単によく知らないひとについていってもいいのかー、と私でも思いましたが、案の定。
助けに来た黒猫がすごく有能で格好いいなと思いました。そして確かに、普通はなかなかそこまでしないですよね……それだけ彼は付き人のことを日頃から気にかけているということですよね。
それにしても普通に黒猫の家にいって普通に食事している付き人ちゃんがこの時点で健在……。たけのこの煮物の場面は、読んでいるこちらがちょっと恥ずかしかったですよ。
ラストの黒猫の洗練しきれていない優しさに、きゅんときました。

『象られた心臓』
さりげなくバスローブ姿をさらしている付き人ちゃんと「バスローブが似合う」とかなんとか言ってる黒猫の距離が……絶妙でたまらない。
事件はちょっと毒が入ってましたが、最後のあたりのふたりの夜の会話の静かな甘さで上手いこと中和されてました。

『最後の一壜』
とある女性をめぐって男性二人、少々不穏な感じになりつつも、最後には友情が残った、というのが、いいな。
「もう少しだけ歩いて帰ろうか、モントレゾール君」なんて、どこまで深読みしていいのやら、黒猫くん(笑)。

『プロローグ&エピローグ』
三年前から黒猫も付き人も成長したと思いましたが、お互いの距離感としては、そう進んではいないかな……まあやっぱりこのくらいの距離感の時期がいい、というのも、分かるんですが!(それでも進展がほしいと思ってしまうのが正直なところです……。)
付き人の振り袖姿をかわいいなあと思っているのであろう黒猫の内心を深読みしては微笑ましくなったり。
「一万分の一くらいは今日の内に叶えておかないと、君の願い全部は年内に成就しそうにないからね」という黒猫の台詞がどういう意味なのか、ずっと考えているんですけれど、どうなんでしょう?

巻末のインタビュー、「好ましい距離にあれば、それが恋なんじゃないでしょうか」(316頁)の一文が、心に残りました。
そしてこのシリーズ、まだ続きが読めるようで、嬉しいなあ!

できれば卒業論文を書いていた学生時代に読めるとよかったのに……とかちょっと残念に思いつつ、ロマンティックな読書のひとときを過ごせて、とても満足でした。


ここ一週間くらいの間にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

関連記事

カテゴリ: ミステリー・日常の謎系

タグ: 森晶麿 

この記事に対するコメント

コメントの投稿
Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://hananomi691.blog10.fc2.com/tb.php/1301-cd2e3567
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)