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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田 篤弘  

それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)
(2009/09)
吉田 篤弘

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路面電車が走る町に越してきた「オーリィ」さんこと大里青年は、商店街のはずれのサンドイッチ店「トロワ」のサンドイッチを食べてその味に魅せられる。
「トロワ」の店主の安藤さんとその息子のリツ君、アパートの大家さんのマダム、隣町の映画館「月舟シネマ」のポップコーン売り、銀幕の女優、映画館でみかける緑色の帽子の婦人。
何人もの人たちの人生がゆっくり交錯しあう物語の中で、青年は「トロワ」のサンドイッチに合うスープの研究に没頭する――。


吉田篤弘さん、初読み作家さんのお話。
『それからはスープのことばかり考えて暮らした』というタイトルがとても魅力的で、もうずっと前から気になっていた作品です。
食いしん坊人間的にも、タイトルの響きのうつくしさ的にも、惹かれずにはいられないではありませんか(笑)。

実際に読みはじめてみると、これがまた、期待を裏切らない、すてきな小説でした。
日本には違いないのだけれど、どこか異国情緒ただよう固有名詞や空気に、不器用だけれど優しい人たち、ゆっくりやさしく流れていく時間。
読んでいて、とても居心地がいいといったらいいのか、そんな小説でした。
ドラマチックな展開とかほとんどないのですが、この静かさこそが、貴重なものに感じました。

主人公のオーリィ君を取り巻く人たちのやりとり、距離感が、とってもいいなあと思いました。
特にオーリィ君が「トロワ」で働くことになるまでの、オーリィ君と安藤さん、プラスリツ君の、誤解まじりの不器用すぎるやりとりが、上手く言えないんですけれどとても好きなのです。
冗談抜きでコミュニケーションが不器用な安藤さんの姿に、やっぱり人付き合いが苦手な私自身のこと、大丈夫だよー、と静かに肯定してもらっているような心地がして。
安藤さんとリツ君の親子の距離感も、ちょっとでこぼこしているけれど、いいな。リツ君、いいこだな。携帯のメールの文面の几帳面さとか、特に。
サンドイッチ職人としての安藤さんは、静かにきりっとした雰囲気で、これまた上手く調和している。

大家さんのマダムも、そしてあおいさんも、とても素敵な女性。
特にあおいさんとオーリィ君の邂逅の場面は、この作品の中でもかなりの「動」の部分で、オーリィ君もだいぶ上がってる感じで……そんな場面でも、やっぱり静かで上品な空気のまま、流れていきました。
時と場所をこえて巡り会えた、想いを寄せる女性。ロマンティックです。
特にその後どうなる訳でもなく、スープの作り方を教わって、ごはんをたべて、言葉を重ねて。
二人共にいる場面は、あったかい、冬のおひさまの金色の光を溶かした空気に包まれているような、そんなおだやかさ、幸福な感じがしました。(←できあがったスープのイメージが混じっているのかも)
そして、このお話の中でなんといっても良かったのが、出てくるサンドイッチやスープ、食べ物が、本当に美味しそうで魅力的だったこと。
私が一番惹かれたのは、序盤でオーリィ君が美味しさに瞠目した、じゃがいもサラダのサンドイッチ。

とにかく、非常においしいもの。
しいて言えば――本当にしいて言えば――本物の栗を練ってつくられたモンブラン・ケーキのクリーム。
いや、あれほど甘くはなく、もっと歯応えがある。 (20頁)

モンブラン・ケーキのクリーム、なんて、こんな素敵な表現はじめてです。

あと例えば、じゃがいもの入ったスペイン風オムレツ、ゆるめに溶いたケチャップをさっと塗ってパンにはさむ、このオムレツサンドも、すっごく美味しそう。
で、読んでいるときに、実際に作ってしまいました(笑)。
私はじゃがいものかわりに冷蔵庫に残っていたかぼちゃとしめじとかに缶で作ったし、早朝ばたばた作って安藤さんの手のかけられたサンドイッチとは程遠いものでしたけれど、本の中のサンドイッチのイメージと相まって、いつもより美味しく気分よく食べられました。
これはまだ簡単に再現できたけれど、じゃがいものサラダのサンドイッチの方は、いったいどうやって作るんだろう?
『活字倶楽部』のバックナンバーに、ちょうど再現コーナーがあったのですが、うーん私はベーコンとか生クリームとかはなしの方向でいきたいんですよね……って、実際に作るかどうか、わかりませんけれど(笑)。甘くねっとりしたさつまいもとかすこし混ぜたら、イメージに近くなるのかしら。サラダというからには、やっぱりマヨネーズ味にはしたくて、でもマヨネーズが強くなってもだめだよなあ……ふふふ、こういうの考えるの、楽しいですねえ。

あおいさんとオーリィ君の、「名なしのスープ」も、読んでいて美味しさが、力強く伝わってくる感じでした。
正直いつもそこまで気を入れてスープを作っていないので、美味しいスープ、サンドイッチに合うスープ、また私も突き詰めていきたいなあ。
だって私、サンドイッチもパンも、スープも大好きなんですもん。
美味しいパン屋さんでサンドイッチを買ってきて、合わせる飲み物がインスタントのカップスープ、手軽で悪くないけれど、できればもうちょっと、美味しいスープがほしいなあと、思う時ってありますあります。
風邪をひいたオーリィ君にマダムが差し入れてくれたあの場面のスープも、優しさと美味しさが染み渡ってくるようで、好きでした。
食べ物にまつわる、家族の昔の思い出話とかも、読んでいて心地よかったです。スープもいいけどシチューという響きもいいですね。
「グレーテル」のロールパンや、夜鳴きそばも、魅力的な食べ物でした。
ところで「トロワ」でサンドイッチに使っているパンは、どこから仕入れているんだろう。とか、細かなところが気になったり。

私もタイトル通り、「スープのことばかり考えて暮らし」ていけたらある意味理想だなーとか、ふんわり淡い夢心地で、そっと頁を閉じました。
この作品、舞台が同じ作品などもあるようで、また読んでみたいと思います。

図書館でみかけた単行本の方の表紙も、私、好きなのです。

それからはスープのことばかり考えて暮らしたそれからはスープのことばかり考えて暮らした
(2006/08)
吉田 篤弘

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昨日それぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: 日常のお話

タグ: 吉田篤弘 

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