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『陸と千星 世界を配る少年と別荘の少女』野村 美月 

陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女 (ファミ通文庫)陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女 (ファミ通文庫)
(2014/06/30)
野村美月

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両親の離婚話が出ている中、夏休みを親戚のものだった別荘で過ごしにひとりで訪れた千星。
家をあけたまま帰らない母親を持ち、生活費のために新聞配達のアルバイトを続ける陸。
泣けない少女と笑えない少年、違うかたちで孤独を抱えたふたりが、出会う。
切なくて繊細でいとおしい、ひと夏のふたりの物語。


かれは一体だれでしょう
太陽をなくしたりするなんて
かれは一体だれでしょう
なぞの手紙を書くなんて
かれは一体だれでしょう
こころがとけていくなんて


野村美月さんと竹岡美穂さんのコンビで書かれた、中学三年生の女の子と男の子の、「恋」と言い切るにはあまりに淡く奥ゆかしい、ひと夏の交流の物語。
あらすじと竹岡美穂さんのイラストを見つけた時から、「これは絶対読まなければならない!」と直感し(笑)、書店で新刊が並ぶのを待ち、お買い上げしてまいりました。

夏休み、別荘のワンピースの女の子、ボーイミーツガール、切ない初恋の物語。
ストレートに王道をゆく物語です。
この作家さんコンビでこの設定を書かれるなら絶対に面白いに違いない!……との期待は、読んでみて、ええ、まったく裏切られませんでした。
確かにストレートに王道なので、意外性のある展開とか一切なく、予想通りのせつない結末でしたが、だからこそ!の良さを十二分に味わうことができました。
初読時よりむしろ、もう一度読み返していた時の方が、良さを実感できたように思います。ふたりのやりとりのひとつひとつが愛おしくてじわじわきました。

まずヒロインの千星ちゃんが、日々の暮らしのささやかなことに積極的に喜びを見出して微笑む女の子で、まるで『赤毛のアン』や『少女パレアナ』みたいな古き少女小説のヒロインみたいで、こういう女の子、大好きです!
ワンピースに黒髪ロングヘアに麦わら帽子、プラス別荘のお嬢様、設定もクラシカルでかなり私の好みストライク。
おとなしくて内気で、なかなか自分の思い通りに行動できずにあとからもっとこうすればよかった……と落ち込む姿も、共感しつついじらしく可愛らしいのです。
竹岡美穂さんのイラストのぱっちり黒い瞳、浮かべる微笑みの甘さがたまらないです。

対するヒーローの陸くんは、育児放棄も同然の母親を持ち、新聞配達のアルバイトをこなし、唯一好きな絵を描くことも満足にできない日々をおくる男の子。
ひたむきに絵を描く不愛想な少年、という設定もまた、ストイックでよいものでした。

千星ちゃんも陸くんも、それぞれの意味で悲しすぎる家庭環境で育っている子ですが、ピュアですれてなくて優しい心の持ち主で。自分の気持ちは常に押し殺していて。読んでいる私の心が痛かったです。
ふたりは実際にはお互いの境遇を全然知らなくて、お互いのことを、家族に恵まれた幸せな生活を送っているんだろうな……と想像しているわけですが、お互いが幸せなら、自分もまた救われる、と思っている姿が、いじましい。
あまりにもピュアでよいこたちで、かえって現実味が薄くて、作り物めいた雰囲気に一役買っている気がしますが、これはまあ、こういう美しさが良さという物語なので。

そんなふたりが麦わら帽子の出会いから(この出会いがまた王道パターンで素敵)、陸くんが別荘に朝刊を配達するタイミングで、毎朝顔を合わせ、短いあいさつもかわすようになっていきます。
初々しく奥ゆかしいやりとりがとても愛おしいです。
夏の早朝の澄んだ空気、刷りたての新聞のほのかなあたたかさ、私も通勤の時間の都合で毎日5時くらいに起きているので、こういうのの良さがすごくわかる、と共感できました。

陸くんの届けてくれた新聞だから、というはじまりから、新聞を毎日ていねいに読み、実際の生活にも実践して彩りを添える千星ちゃんの姿も素敵でした。
「世界を配る少年」って言葉通りで、よいタイトルだなあと思います。
果物やケーキやクロワッサンや、なんでも凍らせてみると意外に美味しい!と実験していた千星ちゃんの影響で、私自身もつられて最近ケーキやクッキーをなんでも冷凍庫に入れて、毎日少しずつおやつにかじってます。うだるような暑い日の終わりには嬉しいおやつです、実際(笑)。

お互いにとって特に辛かった夜の次の朝、少し遅れた時間のふたりの逢瀬が、まるで奇跡のように輝いていて幸せ感があって、言葉は少なくても胸がいっぱいになりました。
あとはやはり、別れの日の、はじめてのささやかな逢瀬。月と星を映しこんだ沼の美しさ、はじめての涙と笑顔の愛おしさ。

千星ちゃんの世話をひと夏別荘でうけおってくれていた家政婦の安藤さんはとても優しく良い方で、物語が優しくなって、良かったです。安藤さんが作るご飯はお洒落で栄養バランスもとれていていかにも女の子好みで、読んでいてうらやましいくらいでした。
陸くんの学校サイドでの涼加ちゃんも、ちょっとやり方が失敗しちゃってたけど、嫌いではなかったです。
あまりに世界が違っていて、お互い比べられないのが、どちらの女の子にとっても、切ないな、と思いました。

別荘の前の住人であったしおりさんの過去のロマンスも、うまい具合にお話に重なり合わさっていて、ロマンティックで素敵でした。
このあたりの構成の妙は、さすが野村美月さん。
岡本かの子さんの小説、読んでみたいな、これは。
竹岡美穂さんのカラー口絵と引用されていた詩の取り合わせもまた、美しくてふたりの表情が良くて、うっとりでした。

ラスト、別れた後のふたりの生活も相変わらずのようで、心が痛みましたが……、陸くんの「約束」が挿絵込みでとてもとても素敵で、じんわりとした余韻を持って、読み終えることができました。
願わくは、ふたりの未来に、少しでも多くの幸せを。
さらに、できるならば、ふたりの再会を、いつか。
読み切りで続きがない分、好きな風に、そのあとのふたりを想像で補おうと思います。
うん、きっと信じてます。

竹岡美穂さんの挿絵はやっぱり本当に素晴らしいです。
どこまでもピュアで透明で繊細で美しくて、野村さんの文章と相まって心が洗われる思いです。
黒ぶちめがねの千星ちゃんの絵のギャップがよいですね♪

夏に読みたい切なくピュアな恋の物語、またひとつ、私の中でストックが増えました。

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カテゴリ: 日常のお話

タグ: 野村美月 

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