Admin   *   New entry   *   Up load   *   All archives

ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『はるか遠く、彼方の君へ』安澄 加奈 

はるか遠く、彼方の君へ (一般書)はるか遠く、彼方の君へ (一般書)
(2014/05/07)
安澄 加奈

商品詳細を見る



京都へ修学旅行に出かけていた高校生・夕鷹は、博物館で剣を目にして気を失い、気づけば炎の上がる見知らぬ地に出ていた。
そこは源平合戦ただ中の一の谷。同じくタイムスリップしていたらしい現代の高校生、遠矢、華月と共に、源義経の一行に拾われる。
平家物語の記憶を辿り、元の世界に帰るために三種の神器を密かに探しつつ、一行と共に戦の旅に出かける三人。
人の命があまりにはかなく散ってしまう世の中で、現代日本で生まれ育った三人はそれぞれもがき苦しみ、やがて心から大切なものを得る——。

『いまはむかし』の竹取の物語の作家さん、安澄加奈さんの新作は、源平時代へのタイムスリップもの青春成長小説でした。
『いまはむかし』が好きだったのと、タイムスリップ!しかも平家物語の世界!青春もの!というあらすじにつられたのとで、読んでみることに。

正直、ものすごく期待して読み始めたわけではなかったのですが……、いやいやいや、途中からすっごく面白くなってきました!とても良いお話でした!読んで良かった!
高校生の源平時代へのタイムスリップものというと、『君の名残を』がまっさきに思い浮かびましたが、こっちの作品はいくぶん若者向け、女性向けでライト。
とはいえ、読みごたえは十分にありました。戦のむごたらしさ、人を傷つけることへの苦悩など、読んでいて胸がえぐられました。
『平家物語』の壇ノ浦の場面は、やっぱり涙があふれました。
そんな試練の旅の中、幾度も壁にぶち当たりつつ、大切な存在を見出して、それぞれ成長していく夕鷹、遠矢、華月の三人の姿が、とても尊くて、読んでいて心地よかったです。
現代人の三人の若者との交流、まったく違う価値観に触れて、義経や静たちも、また別の世界を見出し、成長していきます。

以下、ちょっとネタバレ混じりの感想になっていると思うので、ご注意を。

なんといっても、キャラクターが皆、愛着を持てて良かったです。現代日本の高校生三人組も、義経も静も、弁慶も宗高もその他脇役キャラに至るまで。

現代の家庭でもしんどい境遇で生きてきて、戦乱の世の中でも現代に帰ることに価値を見出せないような子だった夕鷹が、やがて心から愛する存在を見出し、人との交流を進んでおこなうようになっていく様が、読んでいて胸があつくなりました。
何をするにも無気力で、こんな子がタイムスリップなんてどうなるんだよ……と最初ははげしく不安に思ったものでしたが、彼の生い立ちが徐々に明らかになり、色々……、気が付いたら、ひたすらに、夕鷹が本当の幸せをつかめるよう、祈りながらページをめくっていた私でした。
華月と遠矢のふたりが、周りの人たちが、次第に夕鷹の良さを認めて厳しく鍛えたり話をしたり、広がっていく輪が、あたたかくて。友情が嬉しくて。

次、夕鷹とは違い、医者の家で生まれ育った真面目な優等生、遠矢。
いい子ではあるもののなんだかすかした優等生っぽさが抜けなかった彼は、義経の屋敷で偶然に出会った、病がちの若くて高貴な女人・美弥姫との出会いで、まるでべつな風に変わり、凛々しく優しく頼りがいのある男に成長していきます。
このふたりの恋が、もう本当に素直に幸せで、まわりの空気がおだやかにきらきらしていて、とても素敵でした。
「宗一さん」美弥姫だけの呼び名が、甘くてとくべつな気持ちにあふれていて、たまらなかったです。
一度は未来への約束を交わしたふたりだっただけに、ふたりの恋の結末が、せつなくって。もう。
美弥姫の約束を胸になんとか立ち上がった遠矢が、またひとまわり、大きく見えたのでした。
夕鷹と華月に比べて体術はいまいち……でしたが、平家物語の世界にいちばん知識があったのは彼で、常に冷静な皆の助言役として頼りになる子でした。

三人目の紅一点、弓が得意な勝気な女子高生、華月。
優しく穏やかな大人の男性・宗高に憧れめいた淡い想いを抱きつつ、彼女もまた、源平の世と現代日本の人間の意識のあまりの違いに、ひどく苦しむことになりました。
宗高、格好いいんですよねえ。うーん、罪作りだな……。
男子二人組に何かと細やかに世話をやいたり身を案じたり、基本的にはさっぱりした気性の、心優しい女の子で、私はとても好きなヒロインでした。
歴史上の例の超有名な場面、格好良かったです。信頼と気遣いが格好良かった。
髪型の違いのやりとりに、きゅんきゅんしました。

あと、この時代での主役キャラ・義経。
人を惹きつける源氏の御曹司で気さくで、人間らしくて、現代人の読者の私にも、とても好感を持てる義経でした。
あえていうならば、荻原規子さんの『白鳥遺伝』の小俱那に、ちょっと近いかな。みたいな。
静に惚れ込んでいるのに、彼女がなかなかなついてくれずにちょっとふてくされている様が、可愛くもありました(笑)。
彼の秘密がまた予想外で切なかったです。
内気で可憐でちょっと気の弱い白拍子の少女・静もまた、好きな女の子でしたよ!
現代の高校生三人組といちばん近くで接して、いちばん影響を受け、与えたのは、ある意味静じゃないかなあ。
華月とセットでいる姿がお気に入りでした。かわいい女の子ふたりはやっぱり場が華やぎます。
彼女の舞の描写は魅力的でした。
彼女が戦いの内で、次第に身に着けていった強さもまた、何とも言えずに素敵なものでした。
義経と静のふたりならば、これから先の艱難辛苦の果てにも、皆がラストで想像して未来まで、きっと、辿りつけると、信じてる。
弁慶も継信・忠信兄弟も、平家の教経も、読んでいるうちに愛着が。

悲劇の歴史は変えられるのか。変えることは許されるのか。
この問題に頭を悩ませつつ戦に同行する三人。時折三人に延ばされる不可解な手。
若さですべてをなし得るほど甘くはない世の中なんでしょうけれど、でもこの作品を読んでいると、この若さ、みずみずしさ、柔軟な精神が、友情が、恋が、もう本当に良いなあ!!と、心から思わせてくれるのでした。
うん、あまり上手く言い表せないのですが、とてもいいなあと、私は思いました。ひたひた感動しました。
時代考証もきっちりされていて、(ゆるゆる)平家物語ファンとしても、とても楽しめました。

ラストも心に残る素敵なもので、良かったー!特に彼の真っ直ぐな告白(一足飛び?笑)に、おねえさんは涙ぐんでしまいました。
そして美弥姫との再会の約束が、どうか、果たされますよう。

『いまはむかし』の読者的にはおやという小エピソードもあったりしました。何かつながりがある……のでしょうか。気になる。

はい、冒険あり友情ありロマンスあり、歴史ものとしても楽しめる、素敵な青春もの小説でした。
『いまはむかし』もとても良かったけれど、私はこちらの方が好き。
おすすめです。


ここ何日かに拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

関連記事

カテゴリ: 歴史もの

タグ: 安澄加奈 

この記事に対するコメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

 |  #
2014/08/11 23:21 * 編集 *

Re: 台風、そちらは大丈夫ですか?

> コメントありがとうございます。

こんにちは♪こちらこそ、はじめまして♪
返信が遅くなってごめんなさいです。
台風も、ご心配いただいていたようで、本当にありがとうございます。
おかげさまで何事もなく家にこもって読書とネットしていました(あれ)

村山早紀さんの『カフェかもめ亭』に似ているとは、最高の褒め言葉です!
そんな風に感じていただけているのなら、とても嬉しいです。本当にありがとうございます!
ブログを作った当初は『カフェかもめ亭』読んでいなかったので厳密に真似したわけではないのですが、このタイトルから、少なからぬ影響を受けていたことは、確かです。
私の理想の書き手(語り手)は、広海さんですよ(笑)。

野村美月さんに荻原紀子さんに村山早紀さんに……みんな大好きな作家さんです。あら嬉しいです。
本の食べ物の記事も、なんとか続けていきたい……です。
貴女さまのように、楽しみに待っていただいている方の存在がある限り、書きますよ~。

お返事お待たせしてしまって本当にごめんなさいね。
それでは、良い読書を~♪

URL | fallclover #SvKcs0as
2014/08/16 20:14 * 編集 *

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

 |  #
2014/12/01 18:22 * 編集 *

Re: タイトルなし

>再びのコメントどうもありがとうございます。

いえいえそんな、タイムラグのことなんかはお気になさらず。
私のほうも、今度は寒さのせいでますますPCに向かう時間が減ってしまってなかなかブログをいじれずの毎日です。
おーなり由子さんは、文章のセンスがとてもいいなあと思う作家さんです。
実はきちんと本を一冊読んだことがないので、おススメもいただいたことですし、今度読んでみます!!

本当に急に真冬並みの寒さになってきましたね……。
私が住んでいるところはただ寒いだけですが、雪の影響が出ている地域は大変そうだなあと思ってテレビとか見ています。
でも、そう、もうすぐクリスマスですよ♪

お時間に余裕があるときいつでも全然大丈夫ですので、またぜひぜひお越しくださいませ♪

URL | fallclover #SvKcs0as
2014/12/07 11:17 * 編集 *

コメントの投稿
Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://hananomi691.blog10.fc2.com/tb.php/1365-38246283
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)