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『アルジャン・カレール 革命の英雄、或いは女王の菓子職人』上下 野村 美月 

アルジャン・カレール -革命の英雄、或いは女王の菓子職人-〈上〉 (ファミ通文庫)アルジャン・カレール -革命の英雄、或いは女王の菓子職人-〈上〉 (ファミ通文庫)
(2014/10/30)
野村 美月

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アルジャン・カレール -革命の英雄、或いは女王の菓子職人-〈下〉 (ファミ通文庫)アルジャン・カレール -革命の英雄、或いは女王の菓子職人-〈下〉 (ファミ通文庫)
(2014/10/30)
野村 美月

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革命とその後の混乱を経て、若き女王ロクサーヌが即位し、平和を取り戻したフロリア国。
フロリアの王都パリゼの隅で、劇作家の青年・オーギュストは小さな菓子屋を見つける。
店主のアルジャンは不愛想かつ只ならぬ雰囲気の青年で、オーギュストは不信感を抱くのだが、彼が作る菓子はどれも今まで目にしたことも味わったこともない絶品で——。
「将軍の銀の猟犬」と呼ばれた革命時の英雄、後に菓子職人になった青年と、彼が生涯仕えた賢き女王。ふたりの出会いからはじまる、ヒストリカル・ファンタジー。


野村美月さんが去年上下巻で書かれた、軍人あがりながら菓子職人の道を選んだ青年アルジャンと、アルジャンの周りでにぎやかにわいわいやってるひとたちと、アルジャンのただひとりの主・フロリア国の女王陛下・マリー・ロクサーヌの物語。
はじめはがっつり歴史ものかと思っていたのですが、読んでみるとむしろ野村美月さんの創作の方がメインで、でもところどころモデルになった国やキャラクターやエピソードを彷彿とさせる要素もあり。
歴史ものとしても異世界ファンタジーものとしても二重に楽しみどころがあり、美味しかったです(笑)。
とはいえ世界史さっぱり詳しくない私、がっつり史実に忠実に書かれてないこれくらいの方が、気軽に読めて個人的には良かった気がします。野村美月さんワールドはさすがの安定感ですしね。
「アルジャン?アントナム・カレームがモデルかな?」くらいは、お菓子大好き、お菓子のレシピの本も大好き人間の私は思いついたんですが、でもアントナム・カレームについて、それ以上のことなんて覚えてなかったですし。
ま、とにかく、お菓子職人がメイン!若く賢く美しい女王様!となれば、飛びつく私です。

実は去年上巻を読んで、なんとなく下巻まで進まないまま積み本になっていまして。
今年になってから下巻を読みはじめたら、これがもう、楽しくて夢中になってしまいました!
いえ、上巻だけでもとても面白く好きだったのですけれど。とにかく下巻の話の流れはたいへん私好みでした。
アルジャンとロクサーヌの関係において、ファミ通文庫ではありますが、少女小説と言っても十分通ると思われるお話でした。直接的に甘い場面があったわけでもなかったのですが、匂わせ方が心憎い。とってもきゅんきゅんでした。

お話の始まりは、さえない劇作家の青年・オーギュストくんが、アルジャンの菓子屋を訪ねたときから。
お人好しで単純でおせっかいで憎めないオーギュストくんと、不愛想でクールなアルジャンのふたりの温度差ばりばりのやりとりが、コミカルで微笑ましかったです。
店番の少女のニノンも素直でかわいくていいこで、彼らの美味しいお菓子にあふれた日常パートは、明るく楽しめました。
アルジャンの手で生み出される芸術的な菓子の数々に皆が感嘆している姿がたのしい。薔薇のエクレールにプラリーヌに、食べたい!
修道女に恋をしたオーギュストくんの話はなんか気の毒で痛々しく……。がんばれオーギュスト!カヌレって、ふしぎなお菓子ですよね。

そんなほのぼのした平和な日常話を読んだ後に、上巻の最後の、アルジャンとロクサーヌの革命時の出会いからの物語を読むと、いったん叩き落されたどん底から立ち上がったロクサーヌが目指した理想の国、彼女がまさに今王宮で体をはって維持している国……そういうのが分かって、ぐっとくるものがありました。
ロクサーヌの強さ、したたかさが、色々なものを飲み込んで悲惨な過去を笑顔で懐かしげに語れるところが、読んでいてとても格好良くしびれます。
ロクサーヌにほだされていき、自らの夢を彼女の道に見出したアルジャンの姿も、とても良い。
夫婦って、夫婦って!と、タイトルで思いながら読んでましたが、上巻を最後まで読むと、言葉通りの関係よりも、ずっと尊くいとおしいものに思えてくる、そんな素敵なアルジャンとロクサーヌでした。

ロクサーヌがお話の合間にアルジャンとお茶の時間をもうけている場面が好き。
ロクサーヌのお菓子語りは、まるで文学少女シリーズの遠子先輩の文学語りのようで、愛にあふれていてほとばしるような乙女要素が。
薔薇の香りとかプラリネとかメレンゲとかシャンパンとかふだん口にする類の菓子とはちょっと離れた雰囲気で、そこがファンタジーで現実味が薄いんですよね。
そういうのが読んでいてとても快く、野村美月さんの乙女チック趣味が、私はやっぱり大好きだなあと思いました。
何よりも大切な「姫さん」の癒しのために、いちばんの状態でいちばんのデザートを提供する、アルジャンの想いの伝え方がすごく好きだな!
薔薇のお菓子って、何よりロクサーヌのイメージそのままです。華やかで高貴で魅了されずにいられない。

下巻では、シュゼット姫のエピソードが、切なくてほろりときました。
アルジャンが作ったアーモンドのお花のケーキが、素朴であたたかく優しい心をこれ以上ないほど表現していて、読んでいるとその味わいが舌に感じられそうで、挿絵込みでとても良い場面でした。
そして将軍のマロングラッセのお話。栗が、ケーキやお菓子の主役級どころか、貧しい日の食べ物として語られているのが、読んでいて新鮮。
それにしても手間がかかっているお菓子ですね。将軍のほんのすこしのユーモアをのぞけたようで、華はなくともよいお話でした。
そしてアミティエの、ほろ苦いチョコケーキとクリームの味わいの重なり合わせの描写も、絶妙!オーギュストの報われない友情(?)に、少しはアルジャンからのこたえがあって、良かったねえ(笑)。

そしていちばんの読みどころが、クライスラー会議の躍る菓子職人。
不利な状況から巻き返しをはからんとする女王ロクサーヌのぎりぎりの立場を、夢のような美味しい菓子で絶妙にサポートしつづけるアルジャン、ふたり力を合わせての戦いに、読んでいてはらはらどきどき、手に汗をにぎりました。
次から次へと出てくるお菓子がほんっとうに魅力的で美味しそうでしてね!
じわじわと美味しい菓子に懐柔されていく要人たちの姿には、胸がすく思いでした。
狡猾な敵をなんとか出し抜いてのアルジャンの締めくくりの渾身のお菓子での演出は、目をそらせぬほどのものでした。
いちばん気になるのは、干しぶどうのクグロフにたっぷりラム酒をきかせてクリームとともに味わう、ババ・オ・ラム。

すべてが終わってからのふたりのカスタードクリームとメレンゲ菓子の場面のやりとりに、きゅんとしました!

あとエピローグ。ニノンもオーギュストもあれから頑張ったようです。何より。
(個人的にはニノンとオーギュストが将来的にお似合いだったんだけどなとか思ったり)
あとは、ロクサーヌとアルジャンのふたりのことでも、意味深な描写があったりして。
はっきりとは書かれていないがゆえにいくらでも想像をふくらませられる、とても心地よく素敵なラストでした♪

読んでいるとお菓子を食べたくてしかたがなくなってくる、そしてお菓子だけでない甘さもほんのり楽しめる、素敵な物語でした。
平和な世界で、甘く美味しいお菓子を好きに口にできる暮らしって、本当に幸せですね。
上下巻完結で読みやすいのも良いです。


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カテゴリ: ファンタジー(西洋風)

タグ: 野村美月 

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