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『螺旋時空のラビリンス』 辻村 七子 

螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)
(2015/02/20)
辻村 七子

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時間遡行機『アリスの鏡』が開発された、近未来の世界。
喪われた美術品を、過去から盗み出す「泥棒」を職とするルフ。
彼が所属する会社から命じられたのは、自分と同じ泥棒ながら、至宝インペリアル・イースターエッグを盗み出して19世紀フランスに逃亡した娘・フォースを連れ戻すこと。
しかしフォースは19世紀で、高級娼婦『椿姫』ことマリー・デュプレシになりすまして華やかに暮らし、しかも不治の病をわずらっていた。
エッグを返して未来に帰ることをかたくなに拒むマリーの真意がさっぱり分からないルフ。しかし彼女の病は確実に進行しており——。


オレンジ文庫の2月の新刊。
2014年度のコバルトロマン大賞の受賞作を改題、加筆修正した作品のようです。

19世紀フランスの社交界、椿姫、タイムスリップ、心惹かれる設定の数々。これは読むしかないでしょう!
発売日前に公開された表紙イラストも、美しくて物憂げな雰囲気がとても素敵で、書店でみかけてすぐにお買い上げしてきました。

何か、何か感想を書こうとすると、すべてネタばれになってしまう気がして!語れない!
しかし、とても良かったです。
時間遡行のからくりなど、なかなか理解しきれないところも多かったですが、強烈にひきこまれるものがありました。
ケルスティン・ギア作『時間旅行者の系譜』シリーズの設定を、数段階、シリアス目に進めたような印象を持ちました。

残酷な「迷宮」の中で、マリーに捧げるルフの献身が、マリーのからだをはっての覚悟が、読み進めるごとに、だんだん胸にせまってきて、心がきゅうっとしました。
恋というには、ただお互いの存在が唯一無二で、かけがえのないもので。
ふたりきりの閉じた世界での終わらない時間が、ある意味ひどく甘美なものでもあり。
ルフが知るところの賢くてちょっと生意気な娘フォース・マリー、娼婦らしく婀娜な雰囲気をかもしだしたりはかなく楚々とした印象になったり、彼女の真意の読めなさも手伝って、つかみどころがなく、そこもまた魅力的でした。

当時のパリの街の、華やかで影のある描写が素敵です。荒廃した近未来の、堕ちた雰囲気と重なり合っている部分もあり、切なくて、でもまだ未来に比べると純朴で健康的。
フロックコートで紳士的に身をかためてタイムスリップしたり、おかっぱ娘だった彼女がのばした髪をゆるくまいて絹の衣服で登場したり、ささやかなタイムスリップ描写が美味しいです。
マリーの音楽教師としてやとわれるかたちになったルフが、マリーのために弾くピアノの描写、どの場面でも好きでした。
脇役キャラも善人悪人含めて皆いきいきと魅力的です。
マリーを慕って献身的に仕えるローズの素朴な思いやり、友情が心に染み入りました。
クレマンスもまあ分かりやすくて憎めないひとですよね。

このあらすじと設定と表紙にぴんときたひとは、読んで損はないと思います。おすすめ!


そして以下は、明らかなネタばれあり感想です。追記にたたみます。

幾度もの同じ時間の「ループ」、「ロスト」消されていった仲間たち、洗脳されて抜かれていく記憶。
真実のからくりが明かされていくにつれ、ぞっとするものがありました。
はじめはなんだかんだ言って職務に忠実だったルフが、騙されていたことに気づきはじめ、それでも信じたくてしがみつき続け……でもやはりごまかしきれなくなって。
泥棒、探偵をへて、やがてこの時代に生きる決意をし、マリーの黒子として、すべてを捧げて支え続けるようになっていくルフ。何人ものルフ。狂ったような時の繰り返しに心はすり切れていって。
はたから見ているとひどくゆがんでいて不気味なのですが、マリーのために生きることをきめた(何人もの)彼の姿は、それまでとくらべてとても幸せそうで。心をうたれました。
ノルマンディーへの旅行、林檎の花が健康的に美しくてちょっと涙が出そうに優しい場面でした。娼婦と貴族の御曹司との絵にかいたような恋、という枠式からは逃れられていないものの。

あとは、リュカとアンヌマリー、フェリックス、「本当の名前」を思い出した場面も、良かった。
アンヌマリーの無邪気な少女時代が少しのぞけて良かったです。
タイタニックの場面も切なくて美味しい。フェリックスのヴァイオリンをせがむリュカとアンヌマリーも良いなあ。誠実な人柄が伝わってきます。

アルフレードとリュカの対峙と暴かれていく真実、リュカとアンヌマリーふたりの決死の戦いの場面、どきどきしました。
覚悟を決めたリュカが本当に格好良くてぞくぞくしました。
アルフレードとジャバウォック社の鬼畜っぷりはそれはもう突き抜けていて、胸が悪くなりました。マリーの病の真実とかね。
最初の歴史オタク学者っぷりは嫌いじゃなかったので、よけいに、なんか、応えました。

すべてがおわってまっさらになったあとの、ふたり。
リュカのピアノで記憶を取り戻してゆくくだりがこのふたりらしくてとても好きでした。
そしてハッピーエンド!すてき!運命との戦いに、ひとまず勝利したふたりの姿に涙。
今まで恋愛モードになるのを意識的に避け続け「高級娼婦」であり続けてきた賢いマリーが、はじめてみせたささいなこだわりとか気遣いが、当たり前の普通の女の子のもので、それがとても愛おしく、幸福でした。
エッグと薄味のオムレツのささやかな描写にほっこり。

若干分かりづらいところもある物語でしたが、語れないとか言っときながら、結局ここまで色々語りたくなるくらいに、私好みストレートでした。
(お気に入りの某オンライン小説と近しいものを感じるというのも大きい)
欲を言えば挿絵とあとがきがほしかった(苦笑)。
ロマン大賞受賞作品は、できればコバルト文庫で読みたかったかな、というのが、個人的な思いでしたが。
でも、コバルト文庫の枠を外したからこその、この物語だったのかもしれませんね。
とにかく、読んでよかったです。
作者さんの次回の作品も楽しみ。

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カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 辻村七子 

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