Admin   *   New entry   *   Up load   *   All archives

ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『倫敦千夜一夜物語 あなたの一冊、お貸しします。』久賀 理世 

倫敦千夜一夜物語 あなたの一冊、お貸しします。 (集英社オレンジ文庫)倫敦千夜一夜物語 あなたの一冊、お貸しします。 (集英社オレンジ文庫)
(2015/03/20)
久賀 理世

商品詳細を見る



19世紀末の英国。
ロンドン郊外の静かな町で、貸本屋「千夜一夜」を営むサラとアルフレッドの兄妹。
訳あって本来の身分を隠して暮らしているふたりの元に、ある日、「探してほしい本がある」という貴族の兄弟が現れて——。


3月のオレンジ文庫その二は、『英国マザーグース物語』の久賀理世さんの、ヴィクトリアン文学ミステリー。
表紙やあらすじや心惹かれるもので、これまたとても楽しみにしていました。

冒頭の「驕れる都の片隅に まどろむ~」の文章が、口ずさみたくなるようなリズムでこれからはじまるものがたりへの興味をとてもかきたててくれました。
アルフ・ライラ・ワ・ライラ「千夜一夜」という言葉の響きも美しい。

19世紀ヴィクトリア朝に、貸本屋、ルリユール、貴族の美しい兄妹、千夜一夜物語、日常の謎。
精緻に作りこまれた物語の設定と雰囲気に、読んでいてうっとり酔いしれました。
すごく好きでした。
久賀理世さん、いい作家さんだな。
一夜ごと、お話を少しずつ語っていたシェヘラザードのように、毎日の電車の中で少しずつ読み進めていたので、なんというかそういう臨場感みたいなのも楽しめた気がします。
基本連作短編形式で、少しずつゆっくり読んでいくにはぴったりでした。
ミステリアスで静かな夜の雰囲気。

訳あって身をひそめて暮らすサラとアルフレッドのふたりは、美貌と賢さと育ちの良さを兼ね備えていて欠けたところがなく、お互いを誰より愛し気遣いあう関係は麗しく、どこかつくりものめいた印象もあり。それがまた物語の雰囲気に合っているんですよね!
兄のアルフレッドが冴えた頭脳をもちいての探偵役。
妹のサラは、さながら生けるシェヘラザードのような、本の世界への美しい案内人、といった役どころ。
そこににじむサラの人柄、みずみずしい感性や素朴な優しさやぬくもりが、とても良い。

そしてそんな兄妹に関わることになったのは、三兄弟の長男坊・ヴィクター。育ちよく弟想いの優しい好青年!
サラとヴィクターの、お互いほんのり意識しあっているのに、色々な意味で、そう、色々な意味で、アルフレッド兄上に完全に負けている関係が、とても美味しいです!三人のやりとりは本当に楽しく微笑ましい。
こんなに非の打ちどころのない好青年なのに「忠犬」の役どころからどこまでも抜け出せないヴィクターが気の毒で応援したくなります(笑)。
でもなあ、現状やっぱり、アルフレッドの有能さと彼の妹への愛情には、ヴィクターは、まだまだ及ばないんですよねえ。
かつての寄宿学校でのファグの関係であったアルフレッドとヴィクターの関係も良かったです。優秀だけどクセのある先輩にふりまわされつつも素直に尊敬して慕うヴィクター良いですねえ。
彼の姿、やっぱり私にも、犬に見えるや(笑)。

ミステリーとしてもなかなか凝っていたと思います。(ミステリーの良しあしは詳しくない私にはあまり語れませんが……。)
謎解き的には、一話目二話目の日常の謎系のものが、ほっこりして後味もよく好みでした。
もとの物語(といっていいのか)よりも、白い犬と女の子の冒険の方が、私は読んでいて純粋に魅力的に思えて。民話伝承の解説の下りまで読んで、ものがたりって、おもしろいなあと。
「心がタイムスリップで旅してる」というサラの表現が、優しくてすごくステキだなと思いました。
あと『若草物語』!私も好きです!嬉しいなあ。四姉妹やローリーについて読書の感想を語るサラとヴィクターの場面も好きです。
ジョーとエイミーが仲たがいしてジョーが自分の心の闇に向き合う羽目になる、という印象的な場面が、謎ときにうまくからめられていて、どきりとしました。

三話目の謎は、シャーロック・ホームズや『新アラビア夜話』もからめられつつ、シビアな事件に足を突っ込むことに。
「自殺クラブ」のカードのお試しの場面や事件の真相のくだりには、真剣にぞくりとしました。
残酷な凶器になってしまった「言葉」を、自分を護ろうとしてくれたヴィクターにお礼を言うために使おう、というサラのラドフォードへの心の語りかけが救いでした。涙ぐみました。
サラとヴィクターの疑似師弟関係とか、重たくなりすぎない楽しみどころもありましたけどね!
「婚約者」と口に出してみたものの黙殺されてるヴィクター……。
兄妹の家を襲った悲劇にも関わり合いが出てきたようで、さて、どうなるか。

サラとアルフレッド兄妹の境遇も、表に見えているものがすべてではなく。
深窓の令嬢として息をひそめて暮らしてきたサラにとっては、今の兄との水入らずの暮らしが、何よりも幸せで。でも両親の死を思えば、それは言えないことで。
彼女のひそやかな心の屈折が、何より共感しやすかったです。
お日様のようにのびやかで優しいヴィクターと心を通わせたことは、彼女の心の救いになるんじゃないかな。
アルフレッド、さんざんヴィクターをけん制して彼の淡い想いにストッパーをかけていますが(笑)、心の奥ではヴィクターのことをお相手として認めてるんじゃないかしら、私はそう思いました。
もし本気でヴィクターを悪い虫として追い払いたいのなら、アルフレッドならもっとスマートにざっくり切り捨てるでしょう。
まだ今のままの彼では完全には任せられないから、(反応を面白がりつつ、)びしびし鍛えている時期?

ルリユールや本に関する小ネタのあれこれも楽しめました。読書好きにはたまらないですねえ。
ラウルとエリオットのおちびさんたちが、将来読書家に育つといいな。
それにしてもルリユールの道具が武器に最適だったとは……。

あとこのお話、出てくる食べものがどれもこれもさりげなく美味しそうで、大変心惹かれました。
スコーンにクランベリージャムとクロテッドクリーム、胃に優しいアイリッシュ・シチュー、ざっくり香ばしいフラップジャック、ヨーグルトが隠し味の鶏肉のカレー煮込みにナン風の平焼きパン、クリームタルト、焼きたてのジンジャーブレッドにたっぷりのホイップクリーム……。
『英国マザーグース物語』のミートパイやパーキンのときから思っていましたが、食べものを質感まできちんと美味しそうに描ける少女小説作家さんって、かなりポイント高いです。

サラの瞳の色の意味深な描写、マージさんが語らんとする昔話、兄妹を追いやった敵。
とても気になるところでお話が終わっているので、早くも続きが読みたくてしかたがないです。
続き、読めますよね?

『英国マザーグース物語』も大好きですが、このお話もとてもとても好きでした!
読書って本当に楽しい!と素直に満たされて本を閉じられる、そんなお話でした。
『英国マザーグース物語』が好きだった方には、まず間違いなくおすすめです。
あちらほど少女小説していないので(今のところ)、きらきらしたお話が苦手な方にも楽しめそうです。


一昨日、昨日と記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

関連記事

カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 久賀理世 

この記事に対するコメント

コメントの投稿
Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://hananomi691.blog10.fc2.com/tb.php/1448-5d5b434a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)