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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『花咲家の旅』村山 早紀 




亡き妻との思い出の土地につかの間旅立つ祖父の木太郎、古い楠に守られた山で数奇な運命に生きる親戚をたずねるりら子、花に愛されたはにかみやの歌うたいの娘と出会う茉莉亜。
植物にまつわる不思議な力を持つ花咲家の人々の、六編の旅のものがたり。

『花咲家』シリーズも三巻目になりました。
今回はどのお話も全て「旅」がテーマ。夏の季節にもぴったり。
「迷いも悩みも、旅している間は、忘れよう」
文庫の帯のコピーが素敵。まさにその通り、この本を読んでいる間は、村山先生ワールドの優しく魅力的な異世界に、現実世界のあれこれをふっと忘れて完全にトリップ。
電車のおともの読書にいつも以上にぴったりでした。

前巻からすこし成長した三姉弟に再会。
特に桂くんの成長には目を見張るものがありました。
茉莉亜とりら子の性格の違う姉妹もやっぱりどちらも大好きで、彼女たちのまた新しい物語を読めて、とても嬉しい!

各話ごとに、すこし。
『浜辺にて』
木太郎おじいさんの思い出語りの中の琴絵さんが、まさに菫の花のようにすてきな女性で、読んでいて私までとりこになってしまいました。
昔の風早の街、古書店の店番の娘の元に通う若き日の木太郎さんの姿を思い浮かべると、なんというかものすごく絵になります。
琴絵さん、恋人より背が高いのを気にしてついつい猫背歩きになってしまったり、火照る頬を白いきれいな手でおさえてはにかむ仕草だったり、すべてのエピソードが初々しくかわいらしく読んでいて幸せ。
次から次にあふれだす思い出はとにかくすべてが幸せでロマンティックな一方で、ふと現実世界に戻ってきた木太郎さんの、浜辺での涙が、身を切られるように寂しくて悲しかった。孤独に涙を流す木太郎さんに、私までもらい泣きしてしまいました。
九州のレトロな香りのする街や旅館の描写もさりげなく良かったです。きっと旅館の食事は今も美味しい。になぐさめられました。


花の言葉が聞きたいと、花の心が知りたいと、君はいつもいっていたけれど、君自身が花だったんじゃないか。  (47頁)


花咲家の主が伴侶に贈る、目がくらむような最上の愛の言葉。

『茸の家』
猫の小雪が不幸なアクシデントで一人旅に放り出されてしまい、家に帰ろうと進む途中で出会った光の茸のおうち。そこに暮らすおばあさんと猫の丸子さん。
丸子さんが語るおばあさんとの絆がとてもあたたかくて優しくて素敵。ご縁だったんだな。
小雪がもらったごはんの風景が、このお家のものも、花咲家のものも、どれもほっこり美味しそうで幸せそうで、素敵だな。と思いました。

『潮騒浪漫』
草太郎お父さんがりら子と桂に語る、若き日に北欧で出会った奇妙な若者たちと彼らにまつわる植物と冒険の物語。
りら子視点での草太郎お父さんへのいらだちが、ああ、十代の女の子だなあ……となんだかとても微笑ましかった(笑)。知的で物静かで学者肌で格好いいイメージの草太郎さんなので。私の中では。
植物にまつわる闇の一部分がふっとつまびらかにされて、ひやっとくる物語でした。
あんな環境でそれでも自分にできるせいいっぱいの範囲で草太郎さんを助けようとした少女の姿がひどく印象に残りました。

『鎮守の森』
将来に迷いが生じて進めなくなってしまったりら子が、花咲家の親戚をたずねていく物語。
賢くて何もかもちゃきちゃき物事を進めていたりら子だって、迷い立ち尽くしてしまうことも、それは、あるよね。
幼い日のお母さんとの思い出に深くかかわるその理由を聞いていると、胸がきゅうっとします。なんていいこなんでしょう。
彼女を信頼し見守る花咲家の家族たちがあたたかくて良いですね。
そして楠夫さんのひょうひょうとした雰囲気と、りら子に親戚視点で優しく助言を与える姿、昔語りの中の彼の選択、後にりら子が訪ねた楠夫さんの家族の姿、すべてがあいまって、心に染み入ります。
帰らぬお父さんをずうっと信じ続けていた母と娘、ふたりを見守っていた植物たちの姿にも涙が。

『空を行く羽根』
茉莉亜さんが、花に愛されたはにかみやの歌姫・ゆすらさんと出会い、辛い過去を経てちぢこまっている彼女をそっと見守り後押しする物語。
一家の長女でカフェの主、お姉さんな茉莉亜さんやっぱり好きです!こんなに格好良く頼れる美人のお姉さん憧れです。物語がきゅっとしまります。
桂くんやりらちゃんの成長を優しく見守り、自分も含め冷静に姉弟の適性を観察し、自分のかつての夢を微笑んで振り返り、今後のことに思いを馳せたりする茉莉亜さん、とても好き。
そんな茉莉亜さんが出会ったゆすらさんがまた魅力的なお嬢さん。
山桜桃って前々から素敵な響きの花の名前だなあと思っていたのです。
茉莉亜さんや周囲が思っていた以上に過去の傷は根深くてなかなか立ち直れないゆすらさんの姿に心が痛みましたが、最後には彼女の「友人」達ががんばってくれました。
私も幼いころは同い年の友達ができずに祖父母の家の花や木が友達……みたいな面も少し持ち合わせていた過去があるので、花たちの好意が、本当に嬉しく感じられたというか。
適切なタイミングで忠告をくれた有城先生、彼の想いが報われる日が来るとよいなあ。今回のお話でよけいにお似合いだと思った茉莉亜さんと有城先生。
レストラン等々力の轟さんも良い人だな。茉莉亜さんとの関係も良い。シチュー美味しそうです。
(そしてゆすらさんが演じるという、故郷をなくしてさすらう歌うたいの妹王女様、という役どころが、『はるかな空の東』のナルに重なって、もうナルとしか思えない、という。笑)

『Good Luck』
中学生になった一家の末っ子桂くんの物語。
一冊を通して今回いちばん成長を感じたのは、この桂くんでした。
植物にまつわる花咲家の力もぐんと強くなっているようで、この先の成長が少し空恐ろしいとさえ。
でも心優しく勇敢で賢い桂くんだから、今のままで家族にかこまれある限りは、きっと大丈夫。困っている人の心をくみ取り寄り添いすっと助けられる最強の魔法使い(ちょっと違う?)になれるよ。そんな風に素直に思えた今回のお話でもありました。
先生と桂くんとの友情は、今後も続いていくんだろうな。

今回お気に入りは、『浜辺にて』『空を行く羽根』だったかな。
読んでいると、道端の小さな草や街路樹や塀をおおうつたの葉や、重たげにゆれる稲穂や畑のさといものつるりとした葉っぱにまで、私もささやかな祝福の力を分けてもらえるような、そんな気分になれました。現実世界に返ってきてもしばらくは花咲家の幸福な奇跡の力につつまれているかのよう。
叶うなら、木太郎おじいさんや草太郎おとうさんみたいに、三姉弟みんな、将来運命のひととめぐりあって恋に落ちて、やがては幸せな家庭を築いて、絆を受け継いでいってほしいなあ、と今回特に思ったのでした。


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カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀 

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