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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『オークブリッジ邸の笑わない貴婦人 新人メイドと秘密の写真』太田 紫織 




派遣家政婦・21歳の愛川鈴佳に舞い込んできた仕事の依頼は、老婦人の生涯の夢のお手伝い。
旭川近郊の十九世紀英国を再現したお屋敷で、鈴佳は「メイドのアイリーン・メイディ」として雇われることに。
メイドの労働は辛いし気難しい奥様の世話も大変だけど、執事のユーリさん、料理人のミセス・ウィスタリア、農家のスミス夫人達と共に「十九世紀の英国」で働く生活に、鈴佳は次第に馴染んでゆく——。

北海道の地で、家政婦の仕事をしているヒロインが、ヴィクトリア朝を完全に再現したお屋敷で、時代に忠実なメイドさんとして働くことになるおはなし。
設定がなかなか見かけないもので面白そうだと思い、ヴィクトリア朝ものがもともと好きだったのもあり、手に取ってみました。

屋敷の関係者たちの名前にはじまり生活の細部にまで、ヴィクトリア朝を徹底的に貫き通す姿勢に、読んでいて感心。
奥さまやユーリさんがかけている覚悟は並大抵ではない。ごっこ遊びだなんて、茶化してしまうには、あまりに真摯で。
アイリーンのメイドのお仕事も、ほぼ完璧にヴィクトリア朝そのものを再現したもの。
現代日本人の鈴佳の視点から見て、メイドの仕事って本当に過酷なものだったんだなあと、しみじみ……。
隅々まで屋敷をぴかぴかに磨き上げて、奥様の呼び出しがあれば仕事の途中でもすっ飛んでって、食事もヴィクトリア朝のものを完璧に再現して。水汲みお風呂や衣服の手入れや自分の身の回りのこともすべてやらなきゃいけないのが特に辛そう。

それでもヒロインの鈴佳は真面目で勤勉な娘で、若くても優秀な家政婦で、与えられた環境に必死についていき、次第に「アイリーン」としてのもう一つの生活に、愛着を持つように。
アイリーンと、奥様の孫で執事役のユーリさん、この生真面目お堅い働き者コンビが、とても私好みで良いものでした。
はじめはビジネスライクな関係だった二人が、お互いの仕事ぶりや仕事にささげる情熱に次第に抱く様になった信頼の情が、快い。
アイリーンの監督役として厳しくとりつくしまもなかったユーリさんが、少しずつ優しさを見せるようになっていく様が、良いですね!

奥様も、気難しくてそんな些細なところまでヴィクトリア朝を完璧に再現しなくてもいいんじゃ……と読んでいて正直何度も思ったのですが、アイリーンがはじめは反発しつつも、奥様に次第に敬愛の情を抱いていくので。
最後の章の奥様の秘めた過去まで触れると、素敵な方だなあと思いました。
孫のユーリさんやエドワード様にここまで夢に協力してもらえるほど慕われているおばあさま、なんですよね。
気難しくて厳しい女性は、どこか『魔女は月曜日に嘘をつく』の杠葉さんに通ずるものが。
鈴佳も堅苦しい性格しているので、ある意味同じ雰囲気なんですけどね。

ユーリさんの弟の放蕩青年エドワード様とか、反発心を抱いても不思議でないキャラだと思うのですが、彼は不思議に憎めない。ときに堅苦しい人間関係をすんなり解きほぐしてしまえる名人でした。
スミス夫人も、料理人のミセス・ウィスタリアも、皆いいひとだなあ。
奥様を敬愛しつつ鈴佳自身のことも親身に気にかけてくれる大人の女性たちの存在は心強いものがありました。

北海道の地だからというのもあるのかもですが、アイリーンたちが作るヴィクトリア朝料理の数々がどれも素晴らしく魅力的で、食い意地がはった私にはたまらなかったです(笑)。
一番最初にアイリーンが作っていた「ベーコンエッグ」——アスパラベーコンとチーズをはさんだクランペットにオランデーソース、の朝食メニューから、美味しそうでどきどきしていました。
「ウミガメのスープ」にはうなってしまいましたが(笑)。そういえばモックチェリーパイは私も美味しそうだと思ってた。
ローリー・ポーリー・プディングも!本当に作るんですね!
とはいえアイリーンひとりで家事回りすべてしょいこむのはとてもきつそうだったので、ミセス・ウィスタリアが来てくれるようになって、本当にほっとしました。
休日に鈴佳とユーリさんのふたりで出かけたジェラート屋さんのジェラートも、美味しさがしみじみ伝わってきました。
ポテトスノーやポテトスコーンや煮豆やかぼちゃや、ほくほくした食べ物が大好物でそれを鈴佳に指摘されて憮然としているユーリさんがとても可愛い(笑)。

奥様の昔の写真のことで、せっかくこつこつ築き上げてきていた絆がいったん崩壊してしまい、どうなることかと思いましたが。
ユーリさんのなりふり構わぬ仲介により、かえって鈴佳と奥様の心の距離が縮まるきっかけとなって、良かったなと思いました。
人との距離感のはかり方って難しいことですよね。鈴佳のしたことと奥様の気持ちもそれぞれわかるし、ミセス・ウィスタリアの身の上話込みアドバイスも良かったです。
新しいメイド仲間エミリーも、なんだかんだ憎めない性格してるしなー。
みんなそろってひとつの「家族」のようで、厳しくも秩序が保たれ温かみのあるお屋敷の雰囲気が、とても素敵だなと思いました。

自宅に戻ってきていた鈴佳を連れ戻しに説得にきたユーリさんの必死さがとても好もしく、あとミセス・ウィスタリアやスミス夫人にもさりげなく応援されていたり、ユーリさんと鈴佳のふたりのほのめかし程度のロマンスがとても好きです!
厳格で優秀な執事と働き者の若いメイドのロマンスとか絶対美味しいです。
しかも何気に十歳くらい?年の差ものだし。
ふたりの今後の進展が気になるところです。

かなり個人的ヒットの作品で、堪能しました。
続きが出るのかどうかはちょっと分からないですが、アイリーンとユーリさんの今後と、あと今のオークブリッジ屋敷の生活の終わりのときまでは、見届けたいなあという気持ちがあります。
設定が特殊で若干読む人を選ぶお話かもしれませんが、ヴィクトリア朝もの好きさんには特に、おすすめしたい。


ここ一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: 日常のお話

タグ: 太田紫織 

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