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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『黒猫の回帰あるいは千夜航路』森 晶麿 




『黒猫』シリーズ第六弾。
パリで大規模な事故が発生したとのニュース、付き人は黒猫の安否を気遣う。
イタリアでふたりの距離は一度縮まったものの、黒猫との距離は、日常に戻れば遠くぎこちないものに。
後輩の戸影が持ち込んだ、ペルシア絨毯で失踪した教授の謎。人形作家と懐かしい人との再会。
美学にからめたふたりの謎解きが再びはじまる——。


『黒猫』シリーズの新刊!
文庫落ちを待たずに単行本を買って読んでいる、私にしてはかなり珍しいシリーズです。
だって待ちきれないんですもの。

幾千の夜を超えての、「回帰」。確かにタイトルの通りの物語であったと、ラストまで読んで感じました。

このシリーズ独特の、少しひんやりして美しくて知的な物語が、たまらないですね~。
一巻目にこれまた「帰ってきた」みたいに連作短編形式で、色々なお話の詰め合わせを楽しむことができたのが、良かったです。
美学講義の部分は相変わらず難しげなのですが、黒猫の語り方が上手なので、読んでいると私もなんとなくわかった気分になり、共に感嘆できるのが、良いですね(笑)。

黒猫のかたわらに付き人がいる、それが日常として、物語が進んでいくかたちに戻ってきたのが、嬉しい。
一巻目のふたりから、遠回りし時間を経て、時に手が離れつつも並んで歩き続け、この関係にようやくたどりついたのだと思うと、言葉にあらわしがたい充足感。

博士研究員になった付き人の成長が、前巻よりもさらにいくつもの場面で実感できて、嬉しくなったり。
前巻においてたしかに縮まった黒猫と付き人の関係。もうお互い意識せずに気楽に付き合えていたころには戻れず、かえってぎこちなく遠ざかったような付き人の心の焦燥感が、読んでいてとてももどかしかったり。

『空とぶ絨毯』
アラビアン・ナイトなモチーフと、男の苦悩に寄り添う妻の愛情と、ペルシア絨毯の世界と、パリの事故のざわざわ感。
色々な要素が調和していて夜の大人のおとぎ話、純愛の物語で、とても私好みでした。
駆けずり回る付き人に奇跡のように届いた声。なんてずるいタイミング!(笑)
黒猫がこんなかたちでするりと以前の日常に戻ってくることになるとは思っていなかったので、とても嬉しかった。
唐草教授がいて、戸影君が付き人のかたわらで頑張っていて、キャンパスには学生や教職員や関わりのある人々がいて。
大学の日常の物語のかたちが、好き。
付き人はさらりと流しているけど、苺オ・レをスプーンでひとくち……甘い!

『独裁とイリュージョン』
ミナモさんとはまたお懐かしい(笑)。彼女の性格と口調で非常勤講師をやっているというのがなんかまたしっくりきます。
ミナモさんが黒猫になぞかけをして、そこからの黒猫の返し、ミナモさんの想いの向かう先、ミナモさんらしい愛の物語でした。
人形師の愛も、からくりが解ければ、純粋でシンプルなもので、ふたりお似合いだと感じました。最後のお互い気持ちを通じ合わせた場面に垣間見えたミナモさんの愛情深さがとても好きでした!
一瞬空気になってしまった戸影君が非常に哀れでした(笑)。でも付き人の近くにずっといたのは彼なんだよな。一緒に雑用している場面の気安いやりとりも好きでした。付き人のメガネはたしかにツボですね……。

『戯曲のない夜の表現技法』
女優の卵の娘と、彼女を見出した劇作家の紳士の物語。ふたりの関係性がとても素敵で切なくて良かったです。
何もかもがかけ離れていて重ならない(と、お互い思い込んでいる)ふたりが、少しずつ惹かれあいときに揺らいでいる様が、もう。
鞍坂氏が最後に残したものに涙。岸田さんもいい仕事してました。
キャンディ売りの娘というそれだけのシチュエーションがとてもはまっていて美味しい。

『笑いのセラピー』
黒猫の姉の冷花さんが語り手の異色作。
小学生の黒猫だ……!理屈っぽくて頭の回転が速すぎるのはやっぱりだけど、今より脇が甘くて姉には逆らえない彼が、非常に新鮮で楽しかったです。
笑いのセラピーと言うタイトルの割にはシビアな事件となりひやりとしましたが、それでも収まるべきところに収まったのは確かみたいで、良かったです。
冷花さん視点から見る付き人の人となりがとても素敵で、やっぱりこのふたり、客観的に見て恋愛に不器用すぎますね……そこが好きです。

『男と箱と最後の晩餐』
オイスタークリームソースのお肉がものすごく!おいしそうです。
そしてそっと幕を下ろした、幸福でせつない恋の物語。
黒猫が食べていたぶどうのパフェがまた美味しそうでした。
ドレスをめぐるやりとりで拗ねる付き人に「君が大人になったのさ」という黒猫の台詞にどきどき。

『涙のアルゴリズム』
新しい音楽の試みに隠された、冷静沈着な荒畑教授の愛情に、私もほろりときました。
弓月氏の態度も種を明かされてしまえば納得のいくもので。不器用な彼を包み込む愛情がまたよい。
おかあさまのことで不安に揺れる付き人、でも黒猫には上手く伝えられなくて。
そんな彼女に帰宅後黒猫が贈った愛情のひとときがとても素敵で心にしみいりました。
ラテスト教授。そうか。寂しくなりました……。
ここでもパフェとバニラアイスのあれこれが甘くてちょっとやられました。なぜ付き人はスルーしているんだ。

最終話~エピローグにかけての、黒猫と付き人のやりとり。
今までのすべてがこのやりとりに持っていかれたかのような読後感!
黒猫と付き人、ようやくここまで。鍵をわたすときの黒猫のまなざしにやられてしまいました。

愛するものと、死と別れと。時間と。
そんなモチーフが多く、黒猫と付き人の関係にもどこかで重なり合うものがあり、構成が心にくく、堪能しました。

そしてこの作品、作者さんと絵師さんによる、クイズ正解者への特典プレゼントがおこなわれていまして。
あまりの甘さと完成度の高いおまけに読んでいてひっくり返りそうになりました。悶絶です。
期限があるようですので、ご希望の方は早めにチェックされると良いと思います!
黒猫の回帰あるいは千夜航路』飼い主様向け特典クイズのお知らせ

この特典の話の感想もちょっと書かせていただいてもよいでしょうか……。
追記に反転文字で書かせていただきます。久しぶりに使ったな。

この甘い二人の断片集を読んで、本編を読み返してこそ、ふたりがふたり、帰ってきたんだなあ。
お互いが、お互いの帰る場所になったんだな。
と、しみじみ胸がいっぱいになったのでした。
あああ、なんか全然上手く書き表せない。
こんなに素敵でロマンティックな小説なのに。

『ゆっくり読む』の幼い付き人と母親の図書館へのおでかけと、更級日記と源氏物語。
これだけでも素敵な読書のお話でしたが、最後の『紙音』とこんなかたちでつながっているとは!
こんな場面でも読書をしている付き人とそれにひとり感じ入る黒猫があまりにふたりらしすぎて……。

多分初の黒猫視点の物語がいくつか。美味しすぎます。
彼の視点からながめる付き人の魅力がたまらないですね。
冷花お姉さんの話もあり、今回黒猫という人物について、かなり実際の人間として肉付けがされたような感じがあります。

このお話が届いた夜は時間がなかったのでじっくりは読んでいなかったのですが、ぱらぱら眺めているだけでココアの甘さにやられてどうしてもココアが飲みたくなり、カフェのココアを堪能してきました。生クリームも添えられていて完璧!
確かに何か「夜の魔法」という表現がぴたりと。

薔薇、酔芙蓉を買う黒猫のエピソードも良い。テレイドスコープのお店とカレーの出来具合を冷静に指摘する黒猫が相変わらずでおかしい。

ふたりの本名についてもちらりと言及があって、気になりつつもときめきます!
愛する人にしか名前を明かさなかった時代の雰囲気とも重なり合うというか。

丹地陽子さんのイラスト、電車の中で寄りかかり合い眠っているふたりがいちばん好きです。
あと喪服とお寿司の組み合わせがすごい……色々な意味ですごい。美味しいです。
付き人ちゃんの着せ替えごっこも戸影くんとの四コマ劇場も子ども時代の読書も、みんな好きです。
幸せです。ごちそうさまでした。
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カテゴリ: ミステリー・日常の謎系

タグ: 森晶麿 

この記事に対するコメント

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 |  #
2016/06/27 19:45 * 編集 *

Re: 初めまして

>6月27日にコメントくださった方へ

こんにちは!こちらこそ、はじめまして♪
返信が遅くなってしまってたいへん失礼しました……(汗)
失礼だなんて、そんな、とんでもないです。
ていねいな共感のコメントをいただけて、とても嬉しく幸せです。

黒猫と付き人の関係、いいですよね~!私も同じく端々に目をきらりと光らせつつ読んでいます(笑)。
特典クイズ、期間限定でしたものね……。
私も全然違う他作品にタイミング遅くはまって、単行本未収録の短編の存在を知ったときとか、絶望の涙を流したことも幾度か……状況は同じではありませんが切ないですよね。
こちらの森先生は、私が未読の新作いくつかも、やっぱり期間限定で読者特典サービスみたいなことをされているようなので、定期的にチェックしてみると良いのかもしれません。

日暮旅人さんシリーズもお好きなのですね。このシリーズも大好きなので嬉しいです♪
ぜひぜひ、またいつでもお気軽にコメントつけにいらしてくださいませ~。大歓迎です♪

URL | ゆり #SvKcs0as
2016/07/02 20:04 * 編集 *

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