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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『説得』夕月 櫻 

去年の年末にたいへん私好みのオンライン小説を見つけましたので、これはぜひとも感想に残しておきたく。

説得夕月櫻さん

すでに婚期を逃した権大納言家の二の姫・結子(ゆうこ)。
派手好みの家族の影でひっそりと過ごす彼女の心の内には、八年前に散ってしまった忘れられない恋の思い出が。
そんな彼女の元に訪れた、思いがけない再会とは——。
ジェイン・オースティン作『説得』を平安時代に舞台を移して書かれている翻案ものなのだそうです。

古典的ラブコメ・ジェイン・オースティン作品の、平安ものアレンジ小説!そんな素敵な作品が、なろうさんに存在していたとは!
『説得』原作もちょうど去年に読了したばかり、これはもう読むしかないでしょう。

しみじみと落ち着いた美しい文章に、平安時代のていねいな時代描写に、原作を自然にたどり紡がれてゆく、男女のもどかしくときめく恋絵巻。
一応うっすら先のストーリー展開は頭にあるはずなのに、読みはじめたら先が気になって気になって。
途中でやめられなくなり一気読みしてしまったのでした。素晴らしき満足感。
ヒロインの結子さんに完全に感情移入してしまい、辛い別れの場面では私の胸もつぶれそうになり、雅嗣さんの一挙一動で心かき乱されて、うわあ、なにこの面白いお話!

しとやかで控えめで心優しい結子さんも、気取らず誠実な貴公子雅嗣さんも、ヒロインとヒーローがものすごく私好みストレート。
原作の『説得』よりも皮肉っぽさがひかえめな感じがして(でもそういう毒もちゃんと各所に残っているところがまた魅力)、純なふたりの八年越しのロマンスとして楽しめました。
桜の宴のふたりの出会いの場面の描写が夢のようにしっとり美しくて印象的で、特にお気に入りです。
奥ゆかしく距離を縮めていくふたりの姿の描写もとてもとても素敵。
雅嗣さんの飾り気ない実直な態度と、ひかえめな結子さんが彼の人柄に心許し深窓のお姫さまのたしなみをちょっと超えて距離を縮めていく。十代の娘と青年の、うれしはずかしな胸のときめきが、もう、たまらない!
だからこそ、一度のお別れの場面は本気で胸をえぐられましたとも。
原作でもキーパーソンである逸子さまの「説得」。良いお方なんです。結子の家族とは比べ物にならない良いお方なんですけれども!
雅嗣の身分のあれこれは、読んでいてちょっと『源氏物語』の夕霧を思い出しました。
雅嗣の方から見ても、結子さんの方から見ても、辛すぎる。

そして八年後の第二章。
新キャラも登場し、無邪気な若さで雅嗣を慕う若菜の君に心乱される結子さんでしたが。
すれ違い誤解を繰り返し、さんざん遠回りしながらも、もう一度ふたりの心が近づいていく様が、またていねいにつづられていて、もどかしいことこの上なかったのですが、とても読み応えありました。
一章目の時点ではまだ頼りなげだった茅野が、すっかり結子さんの腹心の頼もしい女房として活躍していて嬉しく思いました。
見目麗しく愛想よく結子さんに近づいてくる貴公子の存在にじっとりしつつも、最後は胸がすかっとしました。
あの恋文の場面がまた秀逸です。雪の再会に涙。

結子さんの家族のあの微妙な感じとか、お父上に近づいてくるあやしげな女とか、妹姫と結婚しなんだかんだうまくやってる旦那さんとその実家の良き人々とか、若菜の君の恋の顛末とか、原作にとても自然になぞらえられていて、読んでいてとっても楽しかったです。
なんだかんだいっても困ったさんでも家族には違いない、やれやれーな雰囲気が味なんですよね。
原作に忠実に、でもきちんとこの作品オリジナルの良さもきちんと感じられました。
上にも書きましたが、原作より若干マイルドで純情なロマンスになっていて、読んでいて気持ちよくときめくことができました。
結子さんもですが、雅嗣さん本当に一途で実直でたまらない……。
そういう人物設定がとても自然でよくよく考えられているんだなあと伝わってきます。

ふたりの恋を見守る結子さんの乳母や茅野、雅嗣さんの従者の康清、といった脇役サイドも良かったです!
康清さんや茅野にも、今後のロマンスを期待したいところ……(私が勝手に想像しているだけです)

平安時代の風俗の専門用語について、ていねいな注釈がつけられているのも素晴らしいです。
重ねの色目を具体的に想像できると雅な雰囲気が一層増してとても良いです。
和歌の使われ方もお上手です。くちなしの歌のやりとりとかどちらの視点からもていねいに書かれていて美味しい。

平安時代もの、ジェイン・オースティン作品、しっとり落ち着いたラブロマンス、なにかにピンと来た方には一押しの作品です。
作者さんの別作品もちょっと影のある素敵な平安ものロマンスで良かったです~。


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カテゴリ: オンライン小説

タグ: 夕月櫻 

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