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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『薔薇に雨 孤高の王子に捧げる初恋』東堂 燦 




精霊を行使し不思議な現象を起こす「彩霊術」。
誰もが当たり前に使えるその術を、ファラは生まれながらに使えなかった。
それでも努力で学院へ進学し、優秀な成績をおさめていたファラだったが、彼女を待っていたのは、彩霊術を使えない者を卒業させるわけにはいかない、という無情な判断。
途方にくれるファラだったが、そのとき同じ学院に在籍するサーリヤ王子が、恩師の縁から指導役を引き受けてくれるとの話が舞い込んできて——。

一昨年に出ていたコバルト文庫の新人さんのデビュー作。
新年、少女が主役のロマンスあり物語をとにかく読みたい気分で、こちらの文庫を手に取ってみました。

タイトルと四位広猫さんの表紙イラストのイメージそのままの、ロマンティックで美しい素敵な少女小説でした。
アラビアン風世界をつむぎだす言葉の響きが独特で、しっとり濡れたような清らかな美しさ。読んでいてひたってしまいました。
ものすごく私好みでした。なんでもっと早く読まなかったんだろう!
若干世界観や設定に説明不足かなと思うところもあったのですが、あえて語られないミステリアスさも味のうちかなあ、と思わせるものもあって。
雰囲気を楽しむタイプの少女小説かもしれない。

孤独で後ろ向きで、真面目な優等生の少女ファラが、サーリヤ王子のまっすぐな気性に接し、徐々に心を許し惹かれてゆく様が、とても好もしかったです。
自分はいやしい人間だと頑なに思い続けるファラ、心痛むのですが、彼女の境遇を思えばこんな感じになるのも無理ないよなあ。
(ちょっとしか出てこなかったファラの兄君ひどい……。こんなに愛らしい少女が自分を慕ってくれて、そりゃ可愛らしかっただろうな、可愛がっていたんだろうなと想像するとさらにあっさり態度を変えた彼へ憤りが……。)
あくまで貶めるのは自分自身のみで、どんなに傷つけられ追い詰められても他人のことはけして憎まないファラが、切なくていじらしくて胸がぎゅっとなりました。彼女の孤独な嘆きがひりひりしみてきて。
いつしか私もサーリヤ王子やハキーム師たちと一緒になって、ファラはこんなにいいこだよ!お願いだから信じて、自分で自分を痛めつけないで、と、本の中に向かって語りかけたい思いでいっぱいに。
足りない部分を埋めるためにひたすら真面目に勉学にはげむ姿、自分自身で身をたてるしかないという覚悟も私好みのヒロイン。
真面目で自己評価が低すぎてサーリヤ王子のさりげない好意をことごとくスルーしてしまうのもご愛敬……(苦笑)。
実はけっこう大食漢なところもギャップがあってかわいい。

お相手のサーリヤ王子がまた誠実で心根の優しい貴公子で、彼がファラの心をほどいてゆく様にほっこりして。
サーリヤ王子とファラのふたりきりの場面に流れる空気が優しく澄んでいて良いですね。
サーリヤの瞳の色を指摘して真実があらわされ青ざめるファラの場面で、対するサーリヤの態度や言葉が、静かに深くて優しくて心に響きました。ここの瞳の色の描写の使われ方お上手だな。好きです。
幼馴染の宰相の息子イルファーンとの掛け合いも楽しくて良かったです。サーリヤ王子に足りない明るい愛想の良さを補ってくれるイルファーン、良いお友達で臣下でした。場も明るくなりました。ファラへの気遣いもサーリヤ王子と違う方面からサポートしてくれてるのが良い。

ルト師が善人なのか悪人なのかなかなか読めない立ち位置。
ファラにとって痛いことばかり言うルト師、軽薄で不真面目で色々怪しげなのですが、不思議とファラは彼に心を許し続けているし、ルト師はファラを真摯に心配している。
嫌いになりきれないひとだったなあ、最後まで。
ライバル役のお嬢様マリカも、ファラに意地悪し続けていて、やめてあげて……!と思うのですが、彼女には彼女なりの事情もあるんですね。陰湿な性格はしてないマリカもまた、やはり嫌いにはなりきれなかった。
最後には少しでもわかりあえて、良かった。
ふたりともそうはいっても、やってることはけっこうひどかったですけどね(笑)。
ファラが最後に微笑んでいるので、なんかまあ、もうそれでいいかなあ。と。
ときおり挿入されるファラのそばの「影」の真実が、すぐ分かりそうに思えてなかなかはっきりとは分からなくて、どきどきしました。
そういうことだったのか。

物語終盤の「夜に降る雨が好き」というファラの台詞から、雨乞いの場面に至るまでの描写がなんとも美しくて、心に優しく染み入る雨に、うっとりため息。
薔薇の花冠も、ファラの祈りも、儀式役をゆずったマリカのふるまいや妬心に至るまで、美しい舞台装置の一部なのでは、と思わせる。

四位広猫さんの甘く華がある美麗イラストが物語にとても良く合っていて、うっとり眺めていました。
まさに「薔薇の君」なファラのたたずまいがたまらないです。猫のような大きな瞳でうったえかけてくる微笑みや愁いの表情がとても良い。サーリヤ王子も格好いい!装束の描きこみも細部までていねいで幸せでした。

彩霊術の詳細とか、精霊王と王家の関わりとか、サーリヤの家族とか、ファラのおうちの事情やファラの生い立ちの詳細とか、あとファラとサーリヤ王子のその後!とか、もっと色々深く知りたかったなあ。
この内容で膨らませてあと一巻分くらい読みたかった!すっきりきれいにまとまったお話ではあるのですけれどね。

しみじみとロマンティックを堪能しました。満足。
作者さんの別作品も読んでみたいなと思います!

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カテゴリ: コバルト文庫

タグ: 東堂燦   

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