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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『鎌倉香房メモリーズ 2』阿部 暁子 




人の心の動きを香りとして感じることができる香乃。
幼い日に出会った老婦人の七夕の記憶、今は亡き祖父が祖母に贈った世界でたったひとつの香り、夏の鎌倉の地を舞台にゆるりと紡がれてゆく、香りにまつわるミステリー風味ものがたりの数々。

『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ、現時点で刊行されていた二巻目もさっそく読みました。
あじさいと七夕飾りと空の青がさわやかで心地よい表紙ですね。
主役二人の着物姿もよく映えていて素敵。

一巻目も面白かったですが、この二巻目は物語に深みが増して、さらに良かった。もう、とっても良かった。
香りにまつわる人情物語は切なくほろ苦く響き、それでも人の優しさが心にほろりと残る読後感がなんとも心地よい。
前巻ではやや少なく感じた「香り」そのものエピソードや豆知識なども今回は豊富で楽しめました。
香乃の祖母の三春さんの重たい過去話と、祖父の銀二さんとの馴れ初めエピソードが深く染み入りました。
雪弥さんという人間の過去や背景も少しずつ見えてきて、なんともいえない荒涼としたものを感じる。
そしてなにより、内気で奥手な香乃ちゃんと、皮肉屋さんで対人関係は根っこが不器用なままの雪弥さんのもどかしく愛おしい関係が、もう、読んでいて最高にときめくのです。
このふたりのじれじれと、表にはっきりとは出さないお互いを思いあう気持ちの深さだけで、ごはん何杯でも食べられそうです。
お気に入りの場面を何度も読み返しこうして感想を書くために色々思い返しているだけでうっとり浸っています。

『星の川を渡って』
香乃ちゃんと雪弥さんが七夕の飾りつけ準備をしている場面から物語は過去に飛び、出会ったばかりの小学生だったふたりが、祖父母の知己の老婦人・タマ子さんと出会い交流を深めてゆくエピソード。
戦争が引き裂いた、若く幸せだった夫婦の悲しく苦しい記憶。
おもてに見えている境遇だけでも辛く切ないけれども、真実がすべて見えてから、それでも今は柔和に微笑んでいるタマ子さんの姿に、胸がつまりました。とてもやりきれない。タマ子さんのことをそれでも心から慕い行動してくれている人たちが各所にいて、心救われる思いがします。
香乃のことばをもとに銀二さんが作りだした香りのエピソードがとても粋でやさしくて良かったです。
そして小学生時代の「香乃ちゃん」と「雪弥ちゃん」のふたりがもう、お互いを呼び合う呼び名からして可愛らしくて、ふたりの仲睦まじさにきゅんきゅんでした。賢く弁は立つけどまだ皮肉屋さんではなく人見知りで無口な雪弥ちゃんが新鮮(笑)。
香乃が自分の体質のことを告白した時の、雪弥さんの「答え」が本当に彼らしくて、やさしい微笑みなんてレアなものも拝めましたし、心温もりました。
ちいさなふたりは本当に七夕のカササギさんにふさわしかった。
夏のスイカジュースが美味しそうでした。

『あなたとずっと』
祖母の三春さんの実家・香道の宗家で催される香会に、香乃と雪弥さんもあわせたずねていく物語。
香道、香会の世界の描写が素人目になかなか本格的で、そちらの世界をちらりと垣間見ることができて楽しかったです。
菖蒲御前のゆかりの、確かに何か思わせぶり。
事情ありげだったイツキさん、何かを隠している風だった三春さん。不穏な空気に緊張しながらも。
追い詰められたイツキさんが頼った理由でもあった、三春お祖母さんの過去のお話が想像以上に重たくて。最後まで三春さんを許さなかったというお父さんに、胸にずしりときました。
そしてそれでも三春さんに求婚した銀二さんのふたりのやりとりの場面がまたとても良くてきゅんとしました。お父さまがつけたという「三春」の名前をもとに香りを作るなんて心憎い。
三春さんの弟君がおだやかそうな方ながらにまた曲者。
香乃ちゃんの人生、そういう道もありなのか。と愕然としました。
香乃ちゃんより先にすっぱり断る雪弥さん、格好良かったけれど、そういうのは確かに「彼氏」的な立ち位置のひとじゃないと言っちゃだめなんじゃないのか、とかなんかちょっともやもやしつつ。
そしてこのふたりの過去に、何年もの断絶があったとは、知らなかった。
再び交わした約束が、香乃がここで思っていたよりずっと深いものであった。というのが後に分かる流れが良かったです。

『祈りのケーキ』
チヨちゃんと高橋君、前巻のお気に入りキャラが再登場で嬉しいお話でした。
思ったんですけど内気でおとなしいヒロインの親友役が、ヒロインと同じレベルで内気で変わっている女の子、という設定は意外とないですよね。リボンを結んだ阿弥陀様のプレゼントをお互い普通にかわしている女子高校生がなかなかすごい。フレンチトーストでお昼という今どきの女子高校生だなーという部分もきちんとありつつ。
そして思いがけないところからまたかわった人が登場した!
和馬さん、色々不気味なほど調べ上げてきていて香乃への接し方も乱暴で、最初はうさんくさく少々反感を覚えたのですが、うん、悪い人じゃないね。雪弥さんの毒舌がさく裂していて愉快でした。
めぐみちゃんのお母さん、ひとまず本当に良かったです。

香乃ちゃんの「なにかしてやってほしいことはありませんか?」から続く雪弥さんとのやりとりの場面がいとおしくて大好きです。
人はどうしたって一人では生きられなくて、自分の醜さに傷つき他人も傷つけても、それと同時に誰かを愛し慈しもうとする。誰しもがゆらぎを持っていて。
香りが読める体質で生きてきた香乃ちゃんならではの語りが、現実の人間関係にささくれだっていた私の心にも染み入りました。

『亡き人に捧げる祈り』
この巻の一話目から登場していた宮大工の貞臣さんの、これまた切なくほろ苦く優しい物語。
貞臣さんのぶっきらぼうだけど優しい人柄が心に染み入りました。
茅子さんも貞臣さんも、なんて優しくて不器用な人なんだろう。香乃の姉みたいな茅子さんの役どころも良かったです。
ひとりで途方に暮れていた香乃に八つ橋を手に声をかけた雪弥さん、お約束のグッドタイミングでした。
貞臣さんを説得に来たはずなのに口調が微妙に嫌みったらしい雪弥さんに思わず苦笑してしまい、でも雪弥さんらしいし、貞臣さんにはちゃんと伝わってるんだろうな。そばに香乃ちゃんがいるならば、ちょうどよいくらいかも。
ケンカ仲間のようなでもお互い家族ぐるみで心配し合ってる三春お祖母ちゃんと貞臣さんの関係も良いですね。

過去からつながる追憶、切ないお話が多めだった二巻目。香乃の祖父の銀二さんのふしぎに明るく優しい人柄が印象的で好きでした。香乃と雪弥さんのまわりにいた大人たちの優しいまなざしにも心温もりました。
香乃と雪弥さん、あと一押しと言う感じもするんですけどねえ!
ついつい比べてしまう『下鴨アンティーク』よりは主役カップルの年回りが近く、高校生と大学生の恋愛は自然に成立すると思うのですが、どうなのでしょう。
雪弥さんの生い立ちと彼の抱える劣等感が、ストッパーになってるのかもしれないな、と思ったり。
恋に思い悩む香乃ちゃんの味方ですので、第二話での雪弥さんの台詞に、責任を持ってもらいたいかな(笑)。
香乃の両親の方のエピソードも読んでみたいなと思います。


昨日記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 阿部暁子 

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