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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『鎌倉香房メモリーズ 3』阿部 暁子 




鎌倉を舞台に、人の心の動きを「香り」で感じることができる香乃とそのまわりの人々の物語。季節は秋に。
ある日の雪弥さんのおかしな態度に首をかしげる香乃、雪弥さんの親友高橋さんの思いがけない秘密。
にぎやかな文化祭、思いがけずに広がる人のつながり。そして香乃自身のとまっていた過去も、静かに動きはじめる。
香乃と雪弥の関係も、少しずつ、変化が。


楽しみにしていました!『鎌倉香房メモリーズ』の新刊。
春夏と続いてきて今回の物語は秋。
紅葉の鮮やかであたたかな色味の表紙が風情もたっぷりでとても素敵です。
お着物姿の香乃と雪弥さんが今回もしっくり馴染んでいて微笑ましく幸せな表紙。

美しくどこか物寂しい季節の秋。
澄んだ悲しさと苦さと優しさとぬくもりと、上手く言葉にあらわせない色々な感情が複雑にまじりあい、物語も一層深みを増してきていて、堪能しました。とても良かったです。
高橋さん、雪弥さん、そして香乃、それぞれの家族の事情にぐいっと深く踏み込んでいった感じ。
香乃と雪弥さんの関係もますます微笑ましく心ときめいてしかたなかったです!
恋、家族愛、友情、どれもとても素敵でした。

『拝啓 忘れえぬ人』
序盤の雪弥さんが確かにおかしな感じで、微妙に不安だったのですが。
理由を聞いたら逆にほのぼの優しい気持ちになれました。彼のためにそこまで動揺してしまえる雪弥さんがいとおしいですよ。
高橋さんの秘密は正直思いもよらないものでした。
けっこう複雑な境遇で育ったのをまるで感じさせない高橋さんののほほんとした根の明るさが本当に得難いものに思えます。
そしてそんな風に彼を育てた高橋家のひとびとの、表面的なもののみでない優しさあたたかさ。とても素敵です。家族と似ているところを確かに感じる、というのがね。
妹さんがお兄さんにささげるあまりに切実な愛情と、遠い我が子への手探り不器用な愛情、合わさってきて胸が詰まって苦しくなりました。
高橋さんと雪弥さんの友情も、こういう展開の後には一層得難いものに思えます。
相変わらずクールな雪弥さんと、めげずへたれず明るく笑っている高橋さんのふたり、眺めていて安心します。
文香って、私も昔買って友人への手紙に忍ばせたなあ。
雪弥さんの解き明かしたからくり、何気ないけどそういうことってできるんだとちょっとぞわりとしたり。

それにしてもあらすじまで高橋さんのこと(自称)雪弥の親友あつかいで、なんかかわいそう(苦笑)。
彼の「ゆっきー」呼びと分け隔てしない明るさ優しさ、フットワークの軽さは、物語をいつも和らげてくれる得難い存在です。
香乃への接し方もいつもとても好き。

『あの日のきみへ』
序盤で、香乃の話に出てくる「アキラさん」に嫉妬し黙り込む雪弥さんがおかしすぎました(笑)。誤解をあえて煽るおばあちゃんも曲者ですね……。
文化祭、これまで出てきたキャラクターが何人も再登場しにぎやかに盛り上がって読んでいてとても楽しかったです。
(大人しめの文化部所属の大人しい女の子ふたりの若干地味目な文化祭活動が、かえって親しみをもって読んでいけて良い感じ。)
そして同時に紡がれる孤独な少女の物語、そして最後に彼女に差し伸べられた救いの言葉があまりに尊くて、思わず涙しました。
私自身いわゆる「ぼっち」で身の置き場所がなく、休み時間とか人気のないところで隠れていた学生時代がありますので、あの辛さにつぶされたら嫌なことだってやっちゃう気持ちもすごい分かるし、とにかく、もうね。
そして和馬氏の強烈な存在感が!彼のことを「サタン」呼びする怖いもの知らずの中学生カップル・香凛とアサト君もすごいしおかしい。
和馬氏に良識ある突っ込み役(ストッパー役?)・みずきさんも今回いらして安心しましたが。(でもこのひとも別な意味で只者じゃなさそう……。)
周囲に軋轢呼びまくりの和馬氏ですが(そういうところはある意味雪弥さんにも似ているか……)、おそらく、雪弥さんのためであった不可解な行動、言葉のやり取りは、気にかかりました。
そのことであんなに調子を崩す雪弥さんの姿にも、不安が。
相変わらずチヨちゃんのふるふる引っ込み思案な友情、渋い趣味もひっくるめて可愛すぎてチヨちゃん最高!
ちょっぴり距離を縮めた香乃と雪弥さんにときめきました。文化祭パワーですね!
香乃のほんのささやかな嘘泣きと秋の日差しにすける雪弥さんの頬の産毛がなにかひどく印象的でした。
和馬さんのワッフル大量注文作戦、あまりにらしくて笑っちゃいました。ワッフルおいしそうです。

『かがやける星』
香乃のご両親が登場。完全に私の予想外でびっくりしました。
意外でしたが言われてみれば納得なお仕事をされていたお父さま、ストイックな感じは、慣れるとなかなか好もしかったです。三春おばあちゃんになんだかんだ押し切られているのもちょっとおかしい。
お母さまはなんだか香乃ちゃんそっくりだなー。というのがうかがえるところが微笑ましく良かったです。そして微妙なタイミングで明かされる意外なご両親の馴れ初めエピソード……。
ご両親とも、香乃ちゃんの体質のことをきちんと受け止めていて娘のことをきちんと愛していて、そのうえで心配しているのだと伝わってきて、ふたりの愛情に胸がふさがりました。
星月亭と「夕星」のエピソードも心にすうっと優しく染み入るもので素敵でした。由梨江さん素敵な方だなあ。
最後にご両親ときちんと話せて、自分の希望をきちんと伝えられた香乃ちゃん、本当に良かったな。
鎌倉に残りたい理由が本当に香乃ちゃんらしくて微笑ましく良かったです。
おばあちゃんの本音を分かってあげられている彼女が特に好きでした。

雪弥さんもお父さまになんだかんだ認められたようだし、帰り道のふたり良い感じだし……。という最後の数ページで、まさかの展開が。
雪弥さんの行動は香乃ちゃんへの想いの故だし一旦は安心しても、再びずしりと突き落とされたラスト。ええ、どうなっちゃうんだろう。三度めはないってどういうことなのか。
ひとまず雪弥さんのお家の事情は、今見えているものよりはるかに厳しく根深そうだなあ。と。

香りで分かってしまう人の心のきれいじゃないところも、自分だってそうだから、と認めて、人を憎まず受け入れる香乃ちゃんの優しさがとても尊くて。ちんまり引っ込み思案で奥手で、でも人の心の痛みを放っておけない香乃ちゃんが、大好きなひとを理解し守ろうと懸命な香乃ちゃんが、本当に愛おしく大好きなヒロインです。
なんというか、このシリーズで描かれる「人の過ちを許す優しさ」みたいなのが、とても好きだと思いました。
私自身が抱くささくれだった気持ちまで、すっと鎮められていく心地がします。品の良い香りにくるまれて。

次回の物語は「冬」ですよね。
なかなか暗雲立ち込めていますが、香乃ちゃんと雪弥さん、ふたり再び笑っていられる時を取り戻せますよう、願うばかり。


ここ何日かにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 阿部暁子 

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