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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『がらくた屋と月の夜話』谷 瑞恵 




OLのつき子さんがある日道に迷いたどり着いたのは、老人が営む奇妙な骨董品屋。
そこはがらくたの品ひとつひとつに秘められた「物語」を売る店だという。
河嶋骨董店に落とし物を探しに通うようになったつき子は、がらくたとそこに関わる人々の不器用で優しい物語に触れていき——。

谷瑞恵さんの単行本、現代日本が舞台。
月と夜の世界で、古い品々(ブロカント)がそれぞれの秘める物語を語り、現実の人間達の物語も重なり合ってゆく、独特の世界が読み進めるごとに素敵で、途中からすっかりはまりこんでしまいました。
苦い過去もふっとほどけて心安らぐエピソードとして結ばれていく、谷瑞恵さん作品の心地よさよ。
つき子さんの大人な淡い恋もゆっくりと育ってゆき、ロマンティックな世界観にうっとり。
タイトルもですが、千夜一夜物語を思わせる物語のつくり。
私の脳内でずっと流れていたのは、NHKのみんなのうたの『月のワルツ』でした。
夜の闇や千夜一夜物語がひめるほの暗さ、残酷さ、そういう要素も物語の中には確かにあるのですが、読んでいて不思議とそういうのは表に出てこない。柔らかくてぼんやり白い霞の世界にすべてのものがくるみこまれているかのような。
一見がらくた扱いされてしまうブロカントの品でも、ここにいれば何より大切で価値のあるものなのよ、ここにいてもいいのよ、と柔らかく肯定されているかのような。
お人好しで何物も否定せず偏見の目でみず、澄んだ優しいまなざしを注ぐつき子さんは、とびきり素敵なシェヘラザードでした。(主な語り手は厳密にはつき子さんではないのですが……。)

『タイムテーブル』
最初のころはそれでもうさんくさく思えた河嶋老人、作業着姿の天地さん。
未亡人と旅したタイムテーブルの物語にそれでも惹かれてしまいました。

『白い糸のジュエリー』
つき子の友人・成美さんと彼女のお母様の間にあるわだかまりと、美しいレース。
メヘレンレースなんてはじめて聞きました。レース職人の娘と母親、幸いの鳥のモチーフ、少女小説好きにはたまらないエピソードだなあ!

『特等席の彼女』
天地さんの職場の工業高校に通う梨香ちゃんがしんどい境遇で必死にあがいていて。
彼女の思い出の椅子とおいしそうなナポリタンに心をぎゅっとつかまされました。
お友達って本当に切実で難しい。つき子さんとぎこちなく交流している梨香さんが良かった。つき子さんのお人好しさに頭がさがる……。
赤ん坊と子猫を救ったチャーチチェアのお話もじんわり心温もってとても良かった。

『未来からのドッグタグ』
ドッグタグが語った男の運命。一度は姿を消した男を待ち続け「おかえりなさい」と出迎えた妻の場面に涙ぐみました。
天地さんの事情がますます複雑に重たく思えてくる。

『夜のトワエモア』
つき子さんが探し求めていた指輪がようやく見つかり、今度はつき子さん自身が自分の物語をかたる。
指輪がつないでいたあまりに思いがけない縁に、天地さんの感謝に、胸がきゅうっとしました。
つき子さんの過去の苦い記憶もすっかり書き換えられて、なんて幸せな指輪なんだろう。トワエモアという言葉の響きも素敵。
つき子さんとのりちゃんの会話も好きでした。つき子さんの美質をきちんと理解し接してくれるひとで本当に良かった。

『角ウサギの夢』
天地さんと河嶋老人、天地さんの母親の過去の物語がついに。
皆不器用で優しくて、偽物かもしれなくても愛情は本物だったのだと思う。天地さんが育ってきた境遇は辛いな……。
ヴォルペルティンガーなんてはじめて存在を知りました。なんか『伯爵と妖精』シリーズの世界観を思い出します!
キスをめぐるつき子さんと天地さんの会話が微笑ましすぎました。

つき子さんと、ぶっきらぼうで付き合いづらいけど心根は優しい天地さん、読みこむごとにお似合いです。
ふたりで鈴カステラとか抹茶ケーキとかお茶している場面が和んでお気に入りでした。
まるい鈴カステラひとつまで物語を内包しているかのような、不思議なおとぎ話風作品世界でした。

現代の働く女性のための少女小説、みたいな。とても素敵なお話でした。
『伯爵と妖精』シリーズまた読み返したくなってきたなー(笑)。

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カテゴリ: 日常のお話

タグ: 谷瑞恵 

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