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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『倫敦千夜一夜物語 ふたりの城の夢のまた夢』久賀 理世 




19世紀末・英国。
アルフレッドとサラの兄妹が営む貸本屋「千夜一夜」の毎日は、ささやかな謎に満ちている。
消える蔵書票。店の片隅で本を手にひとり涙する少年。
そして兄の旧友・ヴィクター達と共に出かけたピクニックで若い女性の遺体を発見したサラは、やがてロンドンを騒がせる連続殺人事件に深くかかわることに——。


『倫敦千夜一夜物語』続編待っていました!とてもうれしい!
表紙の本の頁をめくるサラがとても愛らしい。アルフレッドお兄様の腹に一物含んでいそうな表情も格好いい。

コバルトの流れをくむ英国ヴィクトリア朝の少女小説、久しぶりに読むことができました。
そうそう、この雰囲気、やっぱり少女小説に合いますねえ~。
もちろんそれだけではなく、書物をめぐる各種知識と魅力的な謎解き、秘密を抱えた美しい兄妹、心温もる家族愛と友情、ほんのり恋の気配も、各種設定がひとつひとつ美味しくて至福でした。おいしそうな食べ物も。
やはりタイトルにもある通りに「夜」のイメージが濃い物語。静かで上品で深みのある雰囲気がたまらない。
第三話目でひたひたと明かされていく事件のからくりには、ぞくりと真剣に背筋が凍りました。

そして、これまでの物語の前提がすべてひっくり返されるかのような、ラストで明かされる衝撃の事実!!
さすが『英国マザーグース物語』の作者さんだなあと、読み終えてうなってしまいました。そ、そうきますか……。

と、いうわけで、以下の感想は、ネタばれ注意でお願いします~。
追記にたたみますね。


各章タイトルが、今巻とりわけどれも意味深で響きよく、これだけでも色々妄想にひたれます。

『夢見る少女と恋する青年』
消えた蔵書票をめぐるほんのささやかな謎解き。
蔵書票って、私も知って興味を持つようになったのは最近のことですが、ロマンあふれる品ですよね。千夜一夜のシェヘラザードの蔵書票、扉に精緻なイラストもあって、お店の雰囲気ぴったりで素敵。
おしゃまでお母さんと妹大好きなちいさなお姉ちゃんと、彼女の気持ちに寄り添うサラのやりとりが微笑ましく可愛らしい。ヴィクターがさりげなく提供した解決案がまた良い。
ハイネの恋の詩の響きもゆたかで美しいです。
薔薇色と蒲公英色の二色のドミノ・ケーキ、なんて凝ったお菓子を作っているのでしょうアルフレッドお兄様は。さすがです。
サラとの内緒話に失敗し涙目になるヴィクターですが、彼も少しずつ強かにしぶとくなってきた気がします!

『仔犬と狼のあいだ』
ヴィクター、やはり「忠犬」の役どころからどこまでも逃れられず……なお話(笑)。オチまで徹底していて笑ってしまいました。
シートンの、狼王ロボとブランカの物語。つい前の記事に書いた『金星特急』の外伝で、さるモチーフとして登場してきたばかりのものだったので、私の中でいっそう印象深いエピソードになりました。ロボと人間達、どちらの側の立場も分かるし、だからこそよけいに、ロボとブランカの愛は切なく美しく胸を打ちます。
父親思いで父の愛読書を目当てにひっそり通ってきた心優しいアーネスト少年とヴィクターの、兄弟のようなちょっと年が離れた友情が、お気に入りでした。
仔犬のことで、お父さまとの行き違いにはひやりとしましたが、ラストにはきちんとおさまって、ほっとしました。
それにしても、サラが「男の子」の話題を持ち出したとたんに光の速さで反応するアルフレッドとヴィクターがたのしい……。
孤高の狼王ロボ人気が圧倒的な中、ひとり忠犬ビンゴの肩を持ち続けるヴィクターがなんか健気で涙ぐましい。
「ブルータス、お前もか」「ぼく、アーネストですよ」云々のやりとりがお上手!
ほろほろ煮込まれた黒ビールとマスタード風味のビーフシチュー、まさに奇跡のような幸せの香りですね。

『ふたりの城の夢のまた夢』
序盤の河遊びピクニックの場面が、くつろいだ雰囲気でサラもいつになく浮き浮きしていて、読んでいて楽しかったです。
サラとヴィクターのいつになく深いところまで踏み込んだ打ち明け話、河の流れと時間の流れをからめた部分が、印象的でした。
なんといっても、サラとアルフレッドが準備したピクニックのごちそうの、豪華でおいしそうなこと!
しっとりふかふかした厚切りミートローフのサンドイッチ、クレソンとじゃがいものとろりとした冷製スープ、お肉がゴロゴロしたコーニッシュパスティ、辛子つきローストビーフ、二種類のタルト、挙げていくだけでよだれがでそうです。

平和な一日は、若い女性の無残な遺体を発見してしまったことから、暗転。
アルフレッドとヴィクター達の機転と行動で、当座の難は逃れたものの、兄妹にひたひたと迫ってくる暗い影が。
ライザとサラ、一度は確かに心通わせ、サラは彼女に親近感を覚えていたのが、あとから思い返すとたまらない気分になりました。
花布(はなぎれ)って私も大好きです。サラは器用なのね。
アルフレッドとヴィクターの助けも頼めぬ状況になっても、サラは結構肝が据わっていてメッセージを残したりする心意気もあり、さすがアルフレッドの妹なだけあると感心。

ルリユールの技術は凶器にもなりうるというのを、文字の形ではじめて突きつけられて、私自身ショックを受けました……。
クラレンスとライザの兄妹のゆがんだ姿は、ひたすら、読んでいて痛々しかったです。
むしろ彼ら兄妹を動かしていた黒幕が不気味。そしてカイルの正体は一体。
アルフレッドのどんなときでも動じぬ度量と威厳、サラとアルフレッドのため命をかけたヴィクターの堂に入った戦いぶり、はらはらどきどき読みました。
アルフレッドとヴィクターの、サラをめぐる会話。読みどころでした。ヴィクター、ついに言った!格好いい!
アルフレッドの兄としての返答も、手ごたえがあります。良かった!(と、この時点では、素直に思った。)
そのあとのサラにハンカチを差し出そうとして慌てるヴィクター、弟想いの彼らしくて微笑ましくてほっと和みました。

クラレンスとライザ、アッシャー家の兄妹、『白鳥の王子』の兄のため血を流しイラクサを編む妹姫、いくつもの兄妹の愛の物語がイメージとして重なり合う中での、サラの衝撃の独白。
禁断の関係、では、ないのね。
なんてこと。
でも、両親を亡くした二人が未だに「兄妹」の関係を保ち続けている事実、サラの心の底の激情を思うと、全然簡単にいかないたぐいのものである気がします。
うわあ、どうなっちゃうんだろう。サラをめぐる、青年ふたりの今後の展開が、正直全く読めません。
アルフレッドが戦いを挑み続ける、サラをつけねらう敵のことも、解決していないし。

誰よりもお互いが大切で想いあう美しいふたりに、ヴィクターが割りこめる隙間は、はたして、あるのかしら。
アルフレッドにはまだまだ負けているのかもしれないけれど、家族思いでおひさまみたいに明るく優しい、強い心根を持つ青年ヴィクターが、この巻に入って私はますます大好きで。
この事実が明らかになってもなお、サラにはヴィクターがお似合いだと、私自身は思っているので。
なんとかどうにか、今後の物語に食いついていってほしいです。
狼でも忠犬でもいい。しぶとくしたたかに!

ますます続きが待ちきれないシリーズになりました。
次回は早く続きが出ると嬉しいなあ。


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カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 久賀理世 

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