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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『マスカレード・オン・アイス』一原 みう 




かつては将来を期待された若手フィギュアスケーターだった白井愛。だが高1になった今では不調に悩み、世界ジュニア二位に輝いた姉の華との差は開くばかり。さらには経済的な事情も。
幼い日に交わした「世界での再会」の約束を胸に、あきらめきれずに懸命に練習に励む愛のもとに、思いがけない道が開かれることに。


一原みうさんのオレンジ文庫の新作は、現代日本の女子高校生が主役の青春もの。
フィギュアスケーターとして頑張る姉妹の次女・愛がヒロインの物語でした。
色々な意味で目新しさを感じて書店で手に取りました。

表紙の柔らかく透明感のあるパステルカラーのイメージそのままに、さわやかな読み心地の青春ものストーリーでした。
フィギュアスケートということで、現代ものなのだけど、異国の宮廷のおとぎ話のような、優雅な別世界まで楽しめるような作りが読んでいて楽しかった。
私が勝手にいだいているオレンジ文庫へのイメージ・コバルト少女小説へのゆるやかなリンクをこういうパターンで楽しめるとは美味しい。
スケートのジャンプの用語の響きやクラシックの曲、衣装のきらきら感など、ほどよくロマンティックムード。
幼馴染のふたりのほんのり色づく程度の関係も美味しい。現時点では甘さはほとんどありませんが。

特に物語の後半はロシアが舞台になり、『大帝の恋文』『皇女アナスタシア』など作者さんのロシアが素材のコバルト少女小説の世界も、読んでいると頭の中で自然につながって、これまた美味しかったです。
作者さんのロシア愛に感じ入りました。

優等生で優秀な姉の華と常に比べられて自分の不調に落ち込み苛立ちつつも、でも努力をやめない愛の姿が、読んでいて辛く痛々しくもあり、そこまで頑張れる彼女がまぶしくもあり。
こんな厳しい環境でもメンタル面で完全にへこみはしない愛はなかなかすごいと思います。華ちゃんと家族のサポートも大きいと思いますが。
そんな愛だけれど、ある特別な「才能」のようなものを持っていて、それに周囲の人たちが次第に気づいていって、道が開けてきて……という物語の流れが、さらりと嫌味がなく心地の良いサクセスストーリーになっていました。(だってその前提にはずうっと地道に練習を重ねてきた愛の努力があった訳ですし。)
この才能と、愛の性格がなんというかとてもリンクしていて、ブレのない感じが眺めていて気持ちがいいんですよねえ。

そしてこの愛の才能を最初に見出して将来の再会を約束した「ユーリちゃん」の存在も、物語のキーポイント。
幼い日の出会いから運命の再会、共に夢を追いかけていく姿が物語の王道パターンで、これまた爽やかに心地よくまとまっていました。
これまでのふたりの頑張りや辛い出来事などすべてを経てきたのちの、ラストのふたりのスケートの場面が、美しくてとても良い場面になっていました。
ロシアで再会した愛にユーリははじめなんだか冷たくて、愛と一緒に不安にもなりましたが、でも彼の気持ちが分かった後のふたりの交流は、微笑ましく気持ちがいい。「仮面」をユーリに再びつけてあげる愛の場面が好き。
愛に意味が通じていないユーリの言葉は、愛が感じている以上の彼の気持ちがこぼれてきていて、こっそりときめきつつ。
もう、本当にユーリちゃんは、氷上の王子様という表現がぴったりなのです。
クールなんだけれど優雅で実は優しくて。妹への思いを愛の存在が自然に溶かしてゆく……みたいな流れも。

愛の姉の華ちゃんも、愛とは違う魅力を持った努力家の女の子で、華ちゃんも大好き。
こんな難しい世界(に思える)の中の姉妹にしてはふたり自然に仲が良くて、素敵だな。負けず嫌いな努力家の華ちゃんの今後の道行きも気になる。
そして大好きな脇役キャラ・アンジェリカ。世界一のお姫様の素顔は家族思いで友人思いの普通の人懐こい女の子で、やはり大変な努力家で、好感度高かったです。ママの手料理が食べたい、の言葉の真意にほろり。
大好きな脇役キャラその2、ユキさんと山瀬さん大人の女性ふたり。ユキさんが悩める愛ちゃんにくれる言葉がシンプルでとても力を持っていて、読んでいる私も励まされてしまいました。どんなことだって、決して無駄にはならない。いつか力になる。
ユキさんの生き方のありよう、精神の持ちようがとても格好良いなあと惚れ込んでしまいました。
寿司酢のおにぎりのさりげない優しさがしみ込んできます。
愛にチャンスをくれて長期的にサポートをしてくれているらしき山瀬さんも頼もしいおひと。

フィギュアスケートの色々な専門用語、フィギュアを続けてく上での実際的な苦労、経済面での事情なども、ほとんど何もわかっていない私にも分かりやすく丁寧に書かれていて、自然に楽しむことができました。
読んでいるとフィギュアスケートを観戦したくなってきました!
あとマスカレード・オン・アイスに使われていたハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」は、私自身中学時代に吹奏楽部の大会で演奏した曲で、個人的に思い入れがものすごくあって、より一層物語に入り込んで浸ってしまいました。

最初と最後のインタビュー記事や、物語の後の解説を読んでいると、この物語はまだほんの序章で、これからが本番、愛とユーリの活躍のはじまりなのかしら、と期待が高まってしまうのですが、どうなのでしょう。
このままで終わってしまうにはもったいない物語だと思います。
続きがあればとても読みたい!!

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カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 一原みう 

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