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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『流血女神伝 砂の覇王』全9巻 須賀 しのぶ 




カデーレの皇子宮を脱出して身をやつして旅していたカリエとエドは、あるとき騙されて、砂漠の国エティカヤ、バルアン皇子の後宮に奴隷として売り飛ばされてしまう。
エドと引き離されたカリエは、彼と自分の命を守るためにも、後宮で力をふるえる妾妃の座を目指すが、無実の罪で投獄されてしまい——。

『帝国の娘』の続編『砂の覇王』、全9巻。読了。
伝統にしばられた帝国の皇子の身代わり生活から、砂漠の王国のハーレム生活へ。
人生の転換にもほどがありすぎる!
しかもこれもほんの序章にすぎず、後のお話の中でもカリエの身の上は目まぐるしく変わり続け、息つくひまもありませんでした。
波瀾万丈という言葉がまさにぴったりです。
はじめの1、2巻は序章的なお話と言うのか、若干軽いノリで楽しめたのですが、疾風怒濤のごときお話に読んでいるうちにすっかり巻き込まれて、頁をめくる手がとまりませんでした。
一週間で一気読みしちゃいました。


9巻分のてきとうなダイジェスト感想で、ネタばれも全然考慮していませんので、この先お気をつけてくださいませ。


まずはドミトリアスとの別れの場面が美しかった。ドミトリアスとカリエだからこその絆か。
そして騙された末の、カリエ後宮の奴隷生活。
女たちのドロドロが読んでいてリアルで怖い……。そしてそんな中でどんなに身を落としてもなんだかんだしぶとく楽しそうですらあるカリエがすごい。
特にカリエとエドの転落の原因となったサジェは、正直いけ好かない娘でしたが、彼女が最初から悪だったかというと、違うんだよなあ。彼女の可憐な美貌にかくしきれない野心ぎらぎらを、バルアンは確かに気にいって、愛したんでしょうし。
カリエを憎悪しながら一方で複雑なゆれる感情を持ち続けたサジェ。彼女の最後は、読んでいてこたえました。彼女の死を本当に悼んでいた侍女たちの存在が救いでした。
ビアンさまとジィキさま、ふたりの娘達。ふたりのマヤジルは最初怖かったー!けれど、読んでいくうちに彼女たちの信念は、けっこう好きだなあ。と。しかし幼い娘たちが不憫でした。イウナさまの心の叫びが辛い。
カリエの友人という貴重な存在ナイヤ。彼女との友情はとても楽しそうでミーハーな会話も読んでいて好きでした。
一度は彼女との友情が壊れかけるかとひやひやしましたが、持ち直して(たぶん)良かったです。
裏表ない少女のきずなに、サジェが嫉妬するのも分かるなーと思いました。

3巻目、無実の罪から二度も死刑宣告されて後宮から脱出したカリエは、今度はなぜかバルアンの小姓生活。
この時点でのカリエには、正直、男装の従者姿の方がしっくり馴染んでいるなと……私が『帝国の娘』のイメージをまだひきずっていたのか(笑)。
このバルアンという王子がつかみどころない曲者中の曲者で、読んでいて全然良さが分からなかったのですが。
ぷりぷり怒りながら王子に振り回され連れまわされるカリエが哀れでした。

一方ルトヴィア組では、アルのことをはっきりさせたいグラーシカがロゴナに乗り込んできたところで、ドミトリアスの求婚。
厳しくて理性的で凛々しいふたりは素直にとてもお似合いで、グラーシカが皇后になったのは嬉しかったな~。ふたり婚礼で民衆に手を振るイラストが美しくてお気に入り。不敵な笑顔が似合う夫婦です。
その影でサラは切なかったし、イレシオンを慕っていたエナも切なかったけれど。
グラーシカが嫁ぐ前の家族とのやりとり、グラーシカのシビアな出生の秘密、それを踏まえたうえでのタウラの忠誠を誓う場面がしみじみ美しくて涙しました。
高潔なグラーシカひとりでは見えてこなかったものの、読んでいけばユリ・スカナも意外にきな臭かったです。
まさにビアンさまがユリ・スカナの影の部分の現れであったか。
カリエに道をさししめした彼女はけっこう好きだったのですけどねえ。イウナのこともあるし、複雑……。




カリエの出生の秘密がとんでもない方法で明かされた5巻目。サルベーン……。
幼い挿絵のカリエが可愛らしい。
カリエの精神、バルアンとの関係においても、転換点となった巻だったように思いました。
現状に前向きになり、知識を得ようとはげみ好奇心をきらめかせ周囲に積極的に入ってゆくカリエの姿は、『帝国の娘』のときと同様、読んでいてとても気持ちがよいです。これはみんなに愛されるよなあ。
バルアンのマヤラータであると認識されながらやっぱり小姓をやってるカリエの姿がちぐはぐなんだけどカリエらしい。面白いです。
エドが連れてきたラクリゼでバルアンがまさかあのようなことになるとは思いませんでしたが。
けっして手に入らない女だからこそ、というのには納得してしまった。
マヤラータとしてのカリエの諫言は見事でした。

そしてにわか正妃から、今度は海賊娘に。
海賊たちの海の陽気な日常、みたいなのは愉快でした。トルハーンとメギーの夫婦関係が面白かった。
あと正体不明の最強美女ラクリゼが、意外と可愛いところを見せてきてくれて、親近感がわきました。彼女も人間だったんだな。
このあたりで、カリエとバルアンの関係と気持ちに、お互いはっきりとした変質が。
私自身、いつの間にか、バルアンをそれほど嫌いではなくなっていました。ふしぎ。
トルハーンとギアスの因縁ありな関係が、7巻目以降どんどん好きになってゆき、善か悪か割り切れない展開が辛かった。
トルハーン、最終的にはひとまず胸をなでおろしました。
ギアスという人間が面白くて読んでいるごとに味が出てきてお気に入り。



そしてバルアンと一旦別れて、今度はカザリナ皇女、お姫さまとして、ロゴナ宮へ。
ドミトリアスとグラーシカが、カリエを「家族」としてあたたかく迎え入れてくれる姿に胸が熱くなりました。
カリエを迎えた夜のドーンとグラーシカの延々と続く不毛な口論が、なんだか読んでいてとても幸せで、『砂の覇王』のなかでもトップレベルで好きな場面でした。
アルにはあんなに厳しかったのに、妹に甘々なドーン兄上の姿がとても意外に思えたのですが、そうか、彼も苦労して疲れてるんだな……グラーシカも入れて実は人間関係も複雑でした。
ロイにはじめて提案されたときは衝撃だったけれど、でも、正論なんだな。

そしてそして、なんといってもミュカですよ!(これがもうひとつの『砂の覇王』トップで好きな場面)
まさに白馬に乗った王子さまそのものな再登場!(しかもポレナだし!)なんて格好良くいい青年に成長したんだろう。嬉しすぎる。涙ぐみました。
ミュカの両親に会いに行く場面でのやりとりや、その後の両親ふたりの会話も含めて、どきどき。
やっぱりそうだったんだよね。ミュカ。ストイックで一途な彼の恋心が泣ける……。
ふたりの挿絵のカリエがいつの間にかすっかり大人びていて、それもあわせて感慨深かった。
ザカリア女神がミュカから奪ったものとは、やっぱりカリエのことなんだろうか。そうであるような、そんな単純なものではないような。



ザカリア女神といえば、その後の展開には度肝を抜かれました。
そこで、サルベーンと、そうくるか!!
8巻目の表紙を見返すとなんて意味深。
女神の意志は人間の理解の範疇を超えていて、空恐ろしいです。
ラクリゼやサルベーンですらほんのちっぽけな存在にすぎないと思えてきます。
そしてザカールの風習には、ルトヴィアで育ってきたカリエには、それは絶句するよりないでしょう。
こんなザカールであがめられている女神の守護を持つカリエには、今後確実にろくでもない受難な展開が降りかかってきそうで、今から不安が増してきます。
(確かにサルベーンはどんどんヘタレになってゆく気がします……。)

ドミトリアスとグラーシカは個人的にとっても大好きな強くて凛々しく優しいカップルですが、確かに彼らの現在の姿は、危うくうつります。
ふたりとも、お互いに言えないところで無理している気がするなあ。特に子どもに恵まれないグラーシカは、辛い。
そしてミュカの立ち位置もとても微妙なバランスで危ういです。確かにカリエに彼が語ったことも、真実だしな。
カリエが去ることとなったルトヴィア国は、今後どうなってゆくのかなあ。
トルハーンのこともドミトリアスにとっては傷になるのでは。色々複雑……。
ロイがまだ腹に一物含んでいそうなのも、気がかり。
皇帝夫妻、カリエとミュカのダンスの場面は、楽しそうでお気に入りでした。



そして最終巻では、バルアンの兄のシャイハンが予想外に好もしいお人で、カリエが揺れるのもよくわかりました。
シャイハンの母親のエピソードも辛かったな……。サルベーンの暗躍が罪深い。
イウナさまの憎しみ、嫉妬が本当につらくてやりきれなかったです。
ジィキさまとヒカイの過去と結末に泣き、ムイクルの献身にも泣き、すべて乗り越えて、ついに勝利したバルアン。
バルアンのもとに味方が、運が、ことごとく吸い寄せられていくかのような展開。彼の策略や人望のあつさに感服しました。
バルアンとシャイハンの最後の戦いを見つめて、最後にエドと自由に生きても良いと選択をゆだねられてもなお、バルアンを選ぶカリエ。
不思議なのですが、それが彼女の道なんだなあ、と自然に思えるのでした。
砂の覇王、の真の意味が、重みがありました。

これでようやく半分ということで、今後の展開が気になりすぎてそわそわ落ち着きません……。
このシリーズを読みはじめる前に、カリエが今後とても辛い目にあうとうっすらネタばれ的な情報を読んじゃっているので。
ああ、気になる。
最初はともかく後半にいくにつれあまりに影が薄かったエドが、今後どう物語に関わって活躍していくのかも気になるー!!
(エドといえば、正直私はアルゼウスのことを振り切れるか不安でしかたなかったのですが、いつの間にかカリエ以上にエティカヤに順応していて堅実に出世していて、すごく意外な感じがしたのでした。
『砂の覇王』終幕で再会したのちも全然甘くはないカリエとの関係、さてどうなるのかしら)
やっぱり刊行順で外伝から読むべき?


この一週間にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: コバルト文庫

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