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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『一華後宮料理帖』三川 みり 



和国の皇女で神に捧げる食事を作る「美味宮(うましのみや)」という職についていた理美は、大帝国崑国への貢物として後宮入りすることに。
慣れない場所で大切な故郷の味「香漬(かおりづけ)」の壺を怪しまれ奪われそうになっていたところ、食学博士の朱西に助けられる。
彼の優しさに触れた理美は再会を胸に、余所者に冷たい後宮内でなんとか暮らしていくのだが、ある日突然皇帝不敬罪で捕らえられてしまい——。

三川みりさんのビーンズ文庫新作。
読んでから間があいてしまいましたが、先日暑さ負けで疲れた夕食時、母のお味噌汁のだしがしみじみ染み渡る美味しさで。そしてこの小説のことがとっさに思い浮かんで、やっぱり感想書いときたい!とやってきました次第です。

古代日本っぽい国で、料理を司る神職についていた皇女がヒロイン。彼女が貢物として、古代中国っぽい大国の後宮入りをするところから、物語ははじまります。
一風変わった中華風ファンタジー少女小説。読み応えもあってたいへん面白かったです!
自らの仕事に誇りと覚悟を持ち、すべてを費やして頑張りぬく職人肌の女の子、やっぱり格好良く素敵です。
ふわふわした甘くきれいな世界だけではなく、底の方の泥臭い苦労もきっちり描かれているところが、三川さんらしい。
この作品世界も古代もの好きにはたまらない感じです。特に斎宮様とか出てくると、地元民的にはいっそう肩入れしてしまいます。

最初から、香漬の壺を持って後宮入り。
ビジュアル的に変わっています。凪かすみさんの可愛らしく美しい挿絵で違和感がないのがすごい。
周りは友好的とはいいがたい感じでしたが、基本マイペースで楽天家な理美は、彼女なりに順応し可愛いペットと一緒に暮らしはじめ、重たくなりすぎずにいいですね。
とはいえ、最初食べものの味が分からなくなっているのが、平気な顔をしていても理美の中ではしんどかったのねえ、と胸に来るものがありましたが。
そんな彼女も食に関わることには真摯で、まさに全身全霊命をかけて打ち込んでいて、すべてひっくるめてとても好ましいヒロインでした。
食を司る神職、というのが、巫女みたいになんとなく神秘的な雰囲気をまとわせていて、面白い。

そんな理美にほぼ唯一、最初から親身に対応してくれて、理美のピンチにも陰ひなたに味方をしてくれる朱西、彼の存在はとても心強くて良かったです。三川さんの少女小説にはなかなか珍しいタイプ(?)の正統派ヒーロー。
ともに食に情熱を捧げるふたりの会話は癒される~。理美の慣れぬ言葉遣いでときどきおかしな方向にいってしまうのはご愛敬。
皇帝陛下はじめ格好よく優秀なのだけど非常に殺伐とした男性陣の中では、朱西の存在は癒しでした。
癒しといえば珠ちゃんも。

こじれにこじれていた兄弟の関係を、窮地に追いやられていた理美が、こういうかたちで修復にまで持ってゆくとは、思っていなくて。ぎりぎりの状況下での、彼女の覚悟と努力が素晴らしい。
皇帝陛下もお兄さんも、かつての心を喪ってはいなくて、本当に良かった。
それでいて理美の目的は「おいしい」と、言ってほしかった、ただそれだけというのが、シンプルでとても強い想いで、挿絵の彼女の笑顔もあいまって、それまでの緊迫感から、ほうっと顔がほころぶ良い場面だったのでした。

堅魚(かつおぶし?)と海布(こんぶ?)が食物には見えない……というのは、確かに、料理に使う文化が全くないひとにとっては、その通りだよなあ、と。
(だからといってあんな物騒な展開になるのはあれですが)
和国でのやり方では一度は上手くいかなくて、もう一工夫……という理美の試行錯誤の過程も、読んでいて好きでした。
(しかし、今回料理としていちばんまずかったのは、朱西が皇帝陛下に作っている珍味系料理の数々なのではという気が……ちょっとあれは陛下が気の毒なような……。)

今後の展開的には、理美の恋のお相手は、朱西なのかしら、やっぱり。
けれども皇帝陛下も、あれでなかなか心が広いし将来名君になりそうな気配なので、三角関係?そもそも理美は後宮の女なわけですしね……。うーん、どうなるんでしょう。
今回は後宮の女同士のあれこれはメインではなかったけれど、理美の扱いがこういうことになったら、また色々ありそうじゃないですか。大丈夫かなあ。
あと直接の登場はなかったものの、理美の姉斎宮がかなりの存在感を放っていて、理美が語る彼女と姉との関係がとても好きで、ここのあたりももうちょっと読んでみたい。
そして珠ちゃんの今後はいったい。
これは続き、出ますよね?

三川みりさんらしい、がんばるヒロインの姿に読んでいる私の背筋もしゃんとして、がんばらないとね!と自然に思わせてくれる、よい少女小説でした。

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カテゴリ: ビーンズ文庫

タグ: 三川みり 

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