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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ』白川 紺子 




京都下鴨の地で、亡き祖母から、蔵にある「いわくつき」の着物や帯の管理を引き継いだ、高校生の鹿乃。
ある日鹿乃は喫茶店店主の満寿から、自身の両親の過去の話を聞かされる。鹿乃は稲妻が描かれた帯を手掛かりに、幼い日に亡くなった両親の馴れ初めを辿ってゆく。
また、蔵から出した枯れ菊の着物が、慧の過去に関わりを持つ品であることを知り——。

『下鴨アンティーク』もシリーズ四巻目です。
タイトルが表す通りに秋の季節の物語。
「神無月」の「マイ・フェア・レディ」というタイトルの組み合わせも斬新、かつ品よくロマンティックでときめきますし、井上のきあさんの表紙イラストも相変わらず秀逸。
物語を最後まで読んでから改めて表紙を眺めると、物語に出てきた印象的なモチーフが組み合わされているのがよくわかり、二度美味しいです。

今回は、野々宮家の過去の物語をひと世代ごとに紐解いてゆくような、そんな面白さがありました。
各時代の風俗、野々宮家の事情、登場人物の性格、人間関係、それぞれちょっとずつ違うのを読み比べるのも面白い。
でもやっぱりどの世代の人々も素敵な方ばかりで、ロマンスのエピソードも素敵で、読んでいてなんとも微笑ましく幸せな気持ちになれました。野々宮家への愛がいっそう深まりました(笑)。(もちろん鹿乃たち世代も含む)
鹿乃の血のつながりのある人々、というのがみんなどこか納得できる、おっとり品よく心優しく、いざとなると大胆な行動にでることをためらわない人たち(笑)。

加えてこれまで深く語られなかった慧の家族の物語も。印象的でした。
その過程で、鹿乃と慧の関係にもゆらぎが生じ、進展が。どきどきしました。春野さんもひっそり暗躍していますし!のっそり見守っていてくれる良鷹お兄ちゃんもまたナイス。
鹿乃の友人ふたりや満寿さんも、相変わらずいい味だしてくれています。みんな大好きです!

星の桔梗、矢と雷、菊、兎、アンティーク着物や小物遣いは相変わらず素敵ですし、はんなり訛りのある会話文、地の文共々、読んでいて慕わしくて心地よく、今回も心まるごとどっぷりひたって癒されました。
あとやっぱり作品内にさりげなく登場する家庭料理やお菓子がどれも心ひかれるものばかり。
冷しゃぶにきのこのパスタ、喫茶店のチーズケーキ、親子丼ぶり、金平糖、みんな美味しそうです!

『星の花をあなたに』
雑誌の方で既読。
残暑のころ、零れ落ちる星の花、白と紫の桔梗、凛と咲く花の姿。イメージが涼しやかで非常に美しい。
鹿乃と慧と春野さんが連れ立って出かけた、お寺さんの紅葉前の緑と桔梗の場面の描写のうつくしさも、とても好きでした。静謐な空気が漂ってきて。
絢子お嬢さんと桔梗の花の君との、淡く切なく優しい想い。
絢子さんの桔梗の着物の美しさで、二人のひそやかな恋の美しさを愛でるのが、良いのでしょう。
それでも絢子さんの結婚生活も、はじまりはひどかったかもしれないけれど、きっと次第に優しさが芽生えて幸せだったのだと、私は想像しています。久二さんの方もしかり。
絢子さんに関わるご婦人方、富江さんキミさんと鹿乃のそれぞれの会話場面もお気に入りでした。
年配の女性の方言交じりの口調が、読んでいてなんだか私の亡き祖母に重なって、胸がいっぱいに。
そしてなにげなく息ぴったりにご飯を作る鹿乃と慧のふたりがやっぱり良いです。冷しゃぶ涼し気でおいしそう。

『稲妻と金平糖』
鹿乃のご両親の過去の物語。
千鶴さんと慶介さんの年齢や立場が、鹿乃たちと重なりを感じつつも、性格はかなり違ったようで、芙二子さんも交えて微笑ましかったです。(それにしても「慶ちゃん」にはどきっとしました……。当時を知る人はよけいに鹿乃達に重ね合わせちゃうんじゃないかしら、これは。)
育ちの良い世間知らずのぼんぼん慶介さんが、千鶴さんにつれなく扱われ落ち込んだり好意が全然伝わっていなかったり、不憫で可愛らしかったです。
そりゃあ、あの一筋縄では全然いかないご両親に頭を押さえつけられ(?)育てられたら、こんな息子になるのかなあ。母親に言い負かされ続ける慶介さんがまた不憫。
ドライブの運転のていねいさと千鶴さんをかばう姿の格好良さにどきりとしつつ。
稲妻の帯の物語は怖そうなイメージに反して幸せに満ちたもので、金平糖の甘さも相まって、なんともこそばゆく幸せな物語としてしあがっていて、素敵でした。
お父さんが鹿乃ちゃんを溺愛して息子にまで嫉妬していたなんてエピソードもあり、鹿乃が両親に確かに愛されていたのだと実感できたのが、また良かったです。
(そして千鶴さんが私自身と同郷だと知りいっそう親近感が。)

『神無月のマイ・フェア・レディ』
文化祭を楽しむ友人三人組が楽しそうでかわいらしい。
枯れ菊の着物から、つながる先は、慧の過去の物語。
『マイ・フェア・レディ』の原作では、イライザ達は結ばれなかったのだというのは知らなくて、びっくりしました。
『平家物語』の祇王と仏御前の物語も重なり、男と女の大人のままならない愛情が切なく響きます。
慧の過去についてひとり辿り、真実をたぐりよせていく鹿乃の姿に、ちょっとどきどき。良鷹お兄ちゃんがそばで見守っていてくれたので、そこは安心感がありましたが。
着物を渡した貴和子さんのさっぱりした潔い女の感情が、枯れ菊でありながら美しいという着物のイメージに重なり合って、切ないけれども美しいなと思いました。
慧の過去のどうしようもない傷が苦しくて、そして抱きしめ合う慧と鹿乃の姿がこれまでの関係とは明らかに変わっていて、どきどき引きこまれました。
まだそこで引いちゃいますか、慧さんは。もどかしいけれど、歳の差とか考えると、無理ないかなと言う気も……。
それまでと明らかに違う抱擁に、未知の感情を知りざわめく鹿乃。春野さんがさらに爆弾発言を。
春野さんの鹿乃ちゃんへの想いの程度がいまひとつ読めなくて、うーんどうなんでしょう。

『兎のおつかい』
最後の物語はちょっと箸休め的な。
鹿乃の曾祖母・汐子さんと、曽祖父・信篤さんの、馴れ初めエピソードでした。
兎のモチーフが可愛らしく効果的に使われていて、育ちよくまっすぐな気性で内に繊細さも秘めた汐子さんとのんびり知的な美青年信篤さんが、行動を共にするごとに距離を縮めてゆく様も初々しく微笑ましく、ふたりが関わった若夫婦のいざこざも最後には修復できたし、後味よく幸せな物語で、良かった。
特に最後のお互いへのストレートな告白にきゅんきゅんしました。
ふたりが食べていた洋食屋のチキンカツレツがおいしそう!

この野々宮家の愛の歴史の物語に、若き文学研究者の慧さん、そして骨董屋の娘真帆さんの名前が、いつか組み込まれるのは、色々な意味でとても自然だと今回思いましたし、そんな日がいつかやってくると信じています。

そういえば、この本を購入した書店では、『下鴨アンティーク』シリーズの小冊子がついていまして。
『アリスと紫式部』の導入部のまんがが、少女まんがチックでとても可愛らしかったです。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: オレンジ文庫

タグ: 白川紺子 

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