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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『桜風堂ものがたり』村山 早紀 




月原一整は、銀河堂書店の文庫担当の青年。他者と関わるのを避ける傾向にあるが、かくれた名作を探し出す目がありまた誠実な仕事ぶりで、同僚たちには信頼されていた。
しかしある日、書店内で起こった万引き事件により、一整は書店を辞めざるを得なくなる。
そんな一整は、ネット上でかねてより親しくしていた、桜風堂書店の老店主を訪ねるために、桜野町に旅に出る。
彼を待ち受けていたのは、思いがけない出会いと運命で——。


村山早紀さんの新作は、書店員さんが主役の、長編書きおろしの一冊。
大人の男の人が主人公のお話って、村山先生のお話にはちょっと珍しいかもしれない。と読んでいて思いました。

あらすじと、げみさんの柔らかくて優しくて美しい表紙イラストに惹かれて手に取って。
少しめくってみたら、主要登場人物の一人の娘さんのお名前が、「苑絵(そのえ)」さん、というのが、目に留まり。
他の作家さんのお話で恐縮ですが、荻原規子さんの古代日本ファンタジー小説『薄紅天女』のヒロイン・「苑上(そのえ)」が好きで大好きな私は、もうこの名前の響きに心の中でぴんときて、これは今すぐ読むしかない!と。
小さなころから私、リアルでも物語の中でも、人の名前というのがすごく好きで、お気に入りの名前の響きをいつまでも心の中に転がしてうっとりたのしんでいるところがあるので、こういうきっかけで何かのお話を読みはじめる、というのが、実はときどきあります。
苑上という人物も好きだし、彼女の名前の響きも好き。どちらが先か主かは分からないし、どっちでもいい。

話を戻しまして。
村山先生のいつものスタイルとは少し違い、ファンタジー要素はほとんどないのですが。
読み終えてみると、この物語もまさしく、村山早紀さんの書かれた「奇跡」の物語であったなあ。と思いました。
表紙のイメージの通りに、やわらかくてあたたかな桜の花散る本棚の海に、しばしまどろんでいるような。
現実には大変なことはもちろんいっぱいあるのだけれど、それでも本を愛し、未来を信じて働く人々の姿は、読んでいて美しく、心が洗われるかのようでした。
『四月の魚』が、世の勢いに乗り何重にも奇跡の物語となっていく過程は、美しいファンタジー。なのだけど、浮世離れしているわけじゃないのよ。
裏には途方もない人々の努力、苦労の積み重ねがあり、人々の作品への愛と祝福があり、そういうすべてのものに裏打ちされた、奇跡。
現実の世界にだって、こんな物語がもしかしたら、あるのかもしれないですよ。いや、きっとありますよ。
読み終えて、そう信じたくなる。

読む前に思っていたより文章量があり中身もかっちり作りこまれていて、ゆっくりときどき休みつつ、それでも最後まで一気読みしました。

本屋さん業界の諸事情、バックヤードのお話が、部外者の私にはひとつひとつ新鮮で、お仕事小説としてまずとても楽しかったです。
今の世の中は本当に厳しいのだな。と改めて思いました。万引き事件のエピソードも書店側の不利益とか丁寧に書かれていて、それでも犯人の少年の事情も辛いし追い詰められていく一整も本当に辛いし……。読んでいて胸を抉られました。
そんな世の中でも、本を愛し書店を愛し毎日たくましく働く銀河堂書店の店員さんひとりひとりが、読んでいてステキに格好良くって、関わり合いをもつ作家さんや出版社の営業さんや星野百貨店の人々や、すべてのひとびとが、格好いい。
こんな風に己の仕事に誇りを持ち日々働く人に、私もなりたい。
一整を追い詰めた「闇」の部分を持つネット、SNSが、物語の終盤では、書店員たちの横のネットワークとなり素晴らしい奇跡を起こす伝達手段となり広がっていき収束していくのが、ああ、上手く言えないんですが、良かったなあ。

主人公・一整青年の人となり、たたずまいが美しかったです。
辛い過去から心を閉ざしている一方で、書店員としての真摯な働きぶり、他者との関わりを避けているわけではなく誠実なところが、本への愛を静かに感じさせるところが、すごくステキで、確かに私まで惚れ込んでしまいました。
『竜宮ホテル』の響呼さんの男性版キャラというか。そんなイメージでした。

ヒロインの一、苑絵さん。
私が名前で惚れた人。「内気で夢見がちな美しい娘」なんて設定まで私好み(笑)。
育ちのいい繊細で優しい苑絵さん、一整さんを王子様と重ねて憧れて恋している苑絵さんが、読んでいてもう本当に可愛らしくて、わあ、幸せですねえ!野薔薇を持った王子様の絵本のエピソードが美しい。
だからこそ一整のあの事件はこたえますよね。
彼の力になりたい一心で、彼女にとって本当に大きな一歩を踏み出した苑絵さんが、また良かったです。
彼女の絵は、私の中ではゴーギャンの『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』のイメージでした。
(私自身が一番つらかった時代にテレビ番組で観てなにか心の救いになった作品というのがあり。)
一整さん、なんだか脈ありな感じでしたし、内向的で感性豊かなふたりお似合いだと思いますし、応援してしまいます。ふふふ。

ヒロインの二、渚砂さん。
苑絵さんの親友の若きカリスマ、明るく元気で有能な書店員のお嬢さん。
彼女が恋した相手は……。そ、そうきますか。
苑絵さんとは事情が違うとはいえ、なんだか渚砂さんがちょっとかわいそうで報われないな……と残念に思っていたら、ラスト近くで小さなフラグが立ったようで、これならまあ、大丈夫かな。
先生も、一整さんとはまた別の過去のトラウマを抱えたひとで、知的で優しく内面は繊細な大人で、このひともやっぱり好きだ。お似合いだと思いました。
渚砂さん自身にも過去の傷があるようで、それでも強く凛々しい渚砂さんが、やっぱり大好き。幸せになってほしいです。

柳田店長も塚本副店長も頼れるダンディーな書店員さんで格好いい~!

都会の銀河堂書店とはまた趣が全然違う桜風堂書店も、店主の心がいたるところに込められた、素敵な書店だなあと思いました。
一整が桜風堂書店にごく自然に馴染み書店をよみがえらせていく過程が、読んでいてとても心地よかった。わくわくしました。
店主さん、すごく心配だったのですが、持ち直したようで、本当に良かったです。
透君もいいこです。塩麹漬けの鶏もも肉は美味しいですよね。
透君と一整の人生がこうして交わって、どちらの面からも本当に良かったなあとしみじみしました。
猫のアリスとオウムの船長も、欠かすことのできない物語の大切な登場人物。

『四月の魚』を私も読んでみたいな。
リカコさんつながりがラストで判明する流れにうなってしまいました。

あと、一整が桜野町を目指して春の旅に出る場面が、静かなんだけれど浮き立つようにわくわくして、道中の風景が美しくて、お気に入りな部分でした。
自然界の描写がとても美しい物語でもありました。すべて書き尽くせないのだけれど。

私は文才もないし絵も描けないし、胡蝶亭さんや星のカケスさんみたいな素敵な書評はとても書けないけれど、それでも私なりの「恋文」が書けたらいいな、とか思いつつ、やっぱりいつものとりとめのない感想文になってしまいましたが。
本を愛するひとに、おすすめな一冊でした。
実際の本屋さんに出かけて本棚をじっくりじっくり見つめてみたい。
魅力的なキャラクターがたくさん出てきて全員が自身の能力をすべては見せきってくれていない気がするので、続編ぜひ読みたいです。個人的にはロマンスをちょっと進めてほしい(笑)。


ここ何日かにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀 

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