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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

私の好きな美味しい物語10 真帆さんの玉子サンドイッチ(『下鴨アンティーク 祖母の恋文』白川紺子) 

超不定期連載、私の好きな美味しい物語シリーズ。
ようやく10記事目です。一体何年かかっているんだ。

そんな今回の記事は、白川紺子さんのオレンジ文庫『下鴨アンティーク』シリーズの三巻目より。
先日京都に出かけ下鴨神社にも行ってきたところなので、タイミングを合わせて。




コバルト文庫より一段階大人向けの少女小説まさにかくあるべし。という理想形のような作品だと思っています。下鴨アンティークシリーズ。
アンティーク着物にお花に各種小物遣いも行き届いていて乙女のときめき要素満載、舞台は古都京都でメインキャラは旧華族のお嬢さま、お坊ちゃま。現代日本のふつうの生活と上流貴族の優雅な暮らしがごく自然に溶け合いほどよい浮世離れ感。
東西古典文学の知識などもさりげなく織り込まれ、上品でどこか懐かしく優しい文体は、読んでいるだけでうっとり幸せになれる。
おっとり育ちがよく内にさみしさを抱えたヒロインの女子高生鹿乃ちゃんと、方向性の違う格好良さを持つ頼れるお兄ちゃん兼ナイト役・慧さんと良鷹さんふたりのキャラクター配置も、私の好みストレート!たまらないです。
鹿乃と慧さんの年の差の淡いロマンスの気配も好きすぎる。

そんな白川紺子さん、乙女好みの美味しい食べ物の描写も毎回素敵です。
コバルト文庫も含め巻数を重ねるごとに描写が魅力的になってきている気がします。

このシリーズで、なかでも私が印象的だった食べ物……というと、この三巻目『祖母の恋文』の中の最終話『真夜中のカンパニュラ』に出てくる、玉子サンドでした。
基本鹿乃が主役で進むこのシリーズの箸休め的回というか、ぐうたらノーブルな古美術商・良鷹お兄ちゃんと、彼の仕事上の知り合いの娘であり腐れ縁(?)の女子大生・真帆さんが主役をはるお話。
寄れば口論ばかりしている(主に真帆さんがのらりくらりとかわす良鷹さんにきーっとなってる?)このふたりの関係性も、なんだかおもしろいんですよねえ。

基本ふんわり優しくあたたかな読み心地のシリーズの中で、この『真夜中のカンパニュラ』はちょっと異色。
風鈴草にたたずむ琴子さんのまぼろし。
物語が進むにつれつまびらかにされてゆく過去の琴子さんのエピソードは、どこまでいっても凄惨で、救いがない。
全然構えず夜に読み進めていたら、真剣にぞくりと背筋が凍りました。
淡い初恋の対象のようだった琴子さんの幻影に、どんどん深みにはまってゆく良鷹さん。横で見ているしかない真帆さん。
特に良鷹さんが真夜中に掘り起こしたものの正体は。目を覆いたくなりました。つらい。えぐい。つらすぎる。

そんな闇を引きずった朝の場面転換の役割を担ったのが、真帆さんが良鷹さんに出前した、手作り玉子サンドでした。
マヨネーズをほんの少し入れてふっくら焼き上げた玉子サンドを竹籠のランチボックスに入れて。
たまごの明るい黄金色とサンドイッチ用パンの白ときゅうりの緑。それだけで闇が、ぱあっと晴れる色味な気がします。
真帆さんの台詞もいい。

「食べてください。食欲がないときでもとりあえず卵を食べれば体力は持ちます。
食べて元気になってください。せっかく生きているんですから」  (256頁)

この場面の絶望を必死に払いのけようと、真帆さんが持ち込んだ生命力が、読んでいてひどく印象的で。心に焼き付いて。
私自身玉子大好きで、玉子サンド大好きですけれど。
こんなにかがやかしく力を放った玉子サンドイッチ、読んだのはじめてです。きっと。
なんてことない、けれど大切な人のために心を込めて作った、家庭の手作りサンドイッチだからこそ、この場面では、価値があるんじゃないかと思いました。

私はもう本当にくよくよへこみやすい落ち込みやすい人間なのですが、これから先、なにか絶望にさいなまれるたびに、救いが一つできた気がします。
この場面の良鷹さんと真帆さんの玉子サンドイッチを頭の片隅に思い浮かべつつ、あるいはイメージとかぼんやりとした台詞だけでも思い浮かべつつ、マヨネーズ入りのたまご焼きを作るのでしょう。不器用にパンにはさんでラップでくるんでお弁当袋に入れるのでしょう。
食べれば元気になれるよ。ぜったいおいしいもの。真帆さんも言ってたもの。たまごがあれば元気になれる。
なんといってもたいてい冷蔵庫に入っている玉子で簡単に作れるというのがいい。

ちなみにこの後で飲物をめぐってちょっとした言い争いになりかけるふたりがまたらしい。
確かに玉子サンドにはオレンジジュースだな!ぴったり!こういうセンスの良さは良鷹さんいつもベストです。さすがこのシリーズの中で誰より貴族らしい男の人(←私の私見。)
私だったら合わへんやろと言われつつお茶を合わせるでしょうけれど。面倒なので。

(誰にも聞かれてないけど)私が作る玉子サンドは、塩麹を入れて溶いて焼きます。ふっくらします。あと時間をおくごとにじわじわ味が馴染んでいく気がするのが好き。
パンにはケチャップとマヨネーズを合わせて塗って、焼きのりをちぎってのせて、たまごをサンドします。水分を吸ってくれる気がするし、私はこの組み合わせがなんか好きなんです。
スライスチーズとのりのサンドイッチもシンプルでおいしいよね。これは母の味。
この話を読んでから、ちょくちょく、ほんの少しマヨネーズも混ぜて溶いて玉子焼きを作ってます。
元気な時も元気じゃないときも、やっぱりたまごサンドは美味しいです。

メインカップルの雰囲気とはまた全然違うふたりだけれど、お似合いだと思うんだけれどな~。真帆さんたち。
彼氏を放り出してこんな感じで良鷹さんの世話を焼いていたら、真帆さん絶対、良鷹さん以外のひとと結婚できないと思うんですが……。今でも恋人通り越して長年連れ添った夫婦みたいですよ。
なんてね。

冒頭で真帆さんが食べていたレーズンと胡桃のパンもおいしそうでした。
真帆さんにはなんだかパンが似合うイメージ。

ちなみにこの巻のもう一つの食べ物的読みどころは、『金魚が空を飛ぶ頃に』で慧さんがこしらえる、鹿乃のためのお菓子の家。
大人になりつつある鹿乃にだんだん頼ってもらえなくなり、もやもやしている内心を持てあましてその結果黙々とお菓子の家を作る慧さんという図が、なんというかもうつぼにはまってしかたない(笑)。
妹と友人の関係が微妙に変わりつつあるのを、面白がりつつ見守っている良鷹お兄ちゃんの距離感もまたよいものです。
思えばかなりの年の差カップルなんですが、鹿乃ちゃんには本当に、幸せになってほしいのです。ふたりともがんばれ!
そして鹿乃ちゃんと慧さんが日常でさりげなく手伝いあいながらご飯の支度をしている場面も、いつもさりげなくもとても好きです。

今回の結論。
たまごは最強!ということで。
たまごはいいですよね。一個献立にあるだけでしあわせになれる。おべんとうに一個入っているとしあわせ。

あ、たまごサンドといえば、最近読んだ本の中では荻原規子さんの『エチュード春一番 子犬のプレリュード』で美綾が作っていたたまごサンドもおいしそうだったな。ゆでたまごのポピュラーな方(?)のサンドイッチ。
あのつくりたてのみずみずしさも印象的でした。まさに春のイメージ。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: 私の好きな美味しい物語

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