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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮』春坂 咲月 




仙台の篠笛教室に通う女子高生・八重は、夏の夕暮れふとしたきっかけで、仕立屋の美青年・宝紀琥珀と出会う。
その後篠笛教室にやってきた琥珀と八重は、着物にまつわる様々な謎を共に読み解いてゆくことに。
ドロボウになる祝着、端切れのシュシュの呪い、そして幻の古裂「辻が花」。
やがて八重と琥珀の前には、ひとつながりの大きな謎が浮かび上がり——。


はじめて読みの作家さん。
絢爛豪華な着物の世界の謎を追いかけていく日常の謎仕立ての一冊でした。
華やかで美しい表紙イラストとあらすじが私好みで気になって購入し(なんといってもヴィクロテの影響で「仕立屋」というワードにいちいちすべて反応せずにいられない)、そのすぐあとでTwitterのフォロワーさんにおススメもいただき、これはぜひとも読まねばと手に取りました。

なんといってもお着物の薀蓄がとても充実していていちばんの読みどころ。
その辺に関してほぼ知識ゼロの私ではありますが、具体的にイメージできないまま読んでいても、十分楽しめました。
なにしろ琥珀さんが、ほんっとうに楽しそうに着物の薀蓄を八重さんに細やかに語り続けているので、その楽しさにつられてしまったというのもあると思いました。
実際の描写も言葉が一つ一つ美しくてみやびで、読んでいてうっとりしました。各種謂れや和歌の言葉遊びとかもさらりと織り込まれていて楽しい。

着物を着るとドロボウになるとはなんぞや?とか、微妙な仲の友人に贈った手作りシュシュが呪いの品なのでは?とか、着物の知識がないと全くちんぷんかんぷんな謎ばかりでしたが(そして微妙に不気味)、さらっと解き明かしてゆく琥珀さんすごい。
序盤からのひとつひとつのささやかな謎が、後々の展開の大きな謎にひとつひとつ伏線としてつながっていっていて、あとから読み返したときにおおお、と何度もびっくり。
琥珀さんは序盤から謎めいた雰囲気ばりばりでしたが、ヒロインのごく普通の女子高生八重の過去が、実は物語最大の謎そのものになっていて、八重を中心に老獪な大人たちがぐるぐる策略をめぐらしていて、どうなることやらどきどきでした。
特に三章『花の追憶』からはその一つの大きな謎に向けて物語がぐいっと勢いづき、舞台が全国各地に飛び時間軸も行ったり戻ったり、引きこまれて最後まで一気読みしてしまいました。
なるほど、『花を追え』というタイトルにふさわしいお話だったなあと、最後まで読み切っての感想。
幻の花の古裂を追っかけてゆくという構図がとてもロマンティック。

着物をめぐる大人たちの策略が不気味で若干ほの暗い雰囲気になりそうなものだったのですが、八重と琥珀さんの十歳年の差カップルのロマンスパートはとっても一途でひたむきで可愛らしくて(←琥珀さんが)、そっちにほとんど印象持って行かれました!
着物のことが大好きでかつ八重のこともとっても大好きな、そこそこいい年した琥珀さんが、なんというか微笑ましい~。
黙ってたたずんでいれば女性に熱い視線をかけられる端正な和風美青年で、超一流の仕立て屋かつ冴えわたる頭脳の持ち主。なんですけどねえ。着物と八重さんへの愛がとにかく重たくて……(苦笑)。
いつどこの場面でも八重さん以外の女性は眼中にも入っておらず笑顔でさりげなくアプローチをし続け、八重さんのためなら主義に反する夜なべも惜しまずサの字を引っ張って日本各地におっかけてゆく琥珀さん。わがままで自分勝手な天才肌の芸術家のイメージそのものといいますか。愛すべきお人です。
あと結び文とタフタの意味深な組み合わせ!絶妙に面倒くさい!(笑)

人魚姫のつもりが自分が人魚だったというのは、うまい言い回しだったなと思いました。確かに琥珀さんが報われない。
というか、さらりと流されている感があるけれど、幼い日に八重さんが受けた仕打ちがひどすぎないですか……?犯人はもっときつくお灸をすえられるべきだと思うのですが。
このあたりは、コレクターの世界ってすごいなー怖いなーと思いました。
篠笛教室の銀さん、由依さんペアがお気に入りだったので、中盤の展開はこれまた辛かったのですが、からくりが分かってホッとしました。
最後の最後に登場した花の着物の豪華さは感動的でした。お父さんのことも救いがあって、良かった。
表紙イラストに帰ってきて、描かれていた花に改めて納得。

脇役キャラでは上にも挙げた由依さんが好きでした。八重と年の差を超えてお稽古仲間として友情を育んでいるところが好きでした。
八重の友人達も好きだったので、もっと出番があるとより良かったかなあ。基本的にヒロイン以外は年配の登場人物が多めの落ち着いたお話でした。
八重の母親と義理の父親のエピソードはもっと詳しく読みたかったかも。八重が陸朗さんに想いを寄せていた理由が個人的にちょっと弱く感じたのもあり。あと実の父親のエピソードも。
どこまでも琥珀に振り回され続ける祭文さん不憫でした。しっかりしたたかな商売人であることは感じましたが。彼のほんのりしたロマンスの気配はその後どうなったんだろう。というか年下の娘っ子って全然人のこと言えないじゃない(笑)。
あと篠笛もお気に入りアイテムだったので、篠笛がもう少し物語にしっかり絡んできてくれるとより良かったかな。

とか、若干突っ込みどころもありつつ、「仕立屋・琥珀と着物の迷宮」、というサブタイトルで、最終的にはまあそんな感じでいいのかもね、と色々納得。語られていない部分は迷宮の中にあるのでしょう。ということで。
総合的にとても楽しく読めた和風ミステリーでした。良かったです!

大学生になった八重は琥珀さんの着せ替え人形になる未来しか見えないけれど、高2にして大学生に間違われる大人びたしっかり者の八重なので、琥珀さんをびしびし操縦してうまい具合に仲良くやっていくのではないかと思っています。
でも琥珀さんはようやく八重を公然と恋人にできてすごい嬉しいだろうな……。やっぱり八重は苦労しそうだな。
とかなんとか、色々勝手な妄想が膨らんでしまいました。
(それにしても年の差カップル率が高いお話だったな……年の差ロマンス好きな私にはとても美味しかったです。)

お着物をめぐる和風日常の謎ものといえば、白川紺子さんの『下鴨アンティーク』シリーズも傑作なので、どちらかお気に召された方は、もう一方を読まれるのも良いのではないかと思います。
『下鴨アンティーク』もまた、高校生の女の子と大学の先生の年の差カップルのじれじれが美味しくときめくお話ですので。(そこですか)

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カテゴリ: ミステリー・日常の謎系

タグ: 春坂咲月 

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