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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『下鴨アンティーク 雪花の約束』白川 紺子 




京都下鴨の地で、祖母からいわくつきの着物の管理を引き継いだ女子高生の鹿乃。
ある日野々宮家を訪ねてきたのは、見知らぬ男性。幼馴染の女性の祖母が、鹿乃の祖母に着物を預けていたのだという。
蔵から取り出した着物には、斜めに横切るような鮮やかな赤い糸。ところがまばたきする間に、その糸は切れてしまい……?


『下鴨アンティーク』シリーズ第五弾。
新刊が出るのを楽しみに、このところの日々をなんとか生き抜いていました。嬉しい!!
「恋のつぼみが花開く」と意味深な帯と井上のきあさんの花と雪のイラストが美しい表紙。
どきどきしながら手に取って読みはじめました。
ちなみにフェアのしおりは井上のきあさんでした。猫とオレンジが軽やかでとても可愛らしい。

季節ぴったり初冬の物語。本編三話に、高校時代の良鷹が主役の過去編一話。
この『下鴨アンティーク』シリーズ、巻が進むごとに、各種描写やキャラクターや世界観が馴染み洗練され深みを増してゆき、読んでいて幸福感いっぱいです。
特に、季節ごとの星空や夕焼けの描写の美しさに、心が打ち震えました。

物語の世界がいとおしくて読み終えるのが勿体なくて、でも続きは気になるので読み進めないわけにはいかず、途中まで読んではふと手をとめて窓の外をながめては物語の世界にぼんやりひたって反芻し、また続きを読み進める。
そういう読み方ができる小説に、また一作、出会えたという幸せ感。
鹿乃たちの馴染みのあるしたわしい方言にそっとくるまれつつ。

鹿乃と慧の関係が、明らかに前巻から一歩進みました。
主に慧さんの方が鹿乃への想いを自覚したことへの躊躇い、戸惑いが。
想い人のぎこちない態度に不安に揺れる十代の少女の鹿乃の心と、幼いころから知っている少女を女性として意識してしまった社会人の慧の躊躇い。
今の年齢の私にはどちらの気持ちもいくらかは分かるので、読んでいて非常にもどかしく、同時に心ときめいて仕方なかったです。
お互いを自分より大事にいつくしみあう、それまでずっと一緒にいた年月の積み重ねも感じられる関係は、そのままで。(あえて、そのままであろうと努力していて。)
ふたりの愛情の形が尊いです。
ドラマティックというと違うんだけれど、ひっそり静かな熱が確かに横たわっていて。
まあ、浮世離れしているとはいえ現代日本が舞台のこの作品において、特にヒロインがまだ女子高校生ですし、この年齢差はかなりのネックになるだろうなとは、前々から思っていましたが……。
そしてあのラストに一気に色々持って行かれましたね!そしてそこで終わるのかー!!!(叫ぶ)

『星の糸』
「思うに、運命の赤い糸というのは、切れてからが本番なのだ。」(6頁)名言ですね。
名古屋から野々宮家を訪ねてきた幼馴染の男女二人に女性の亡き祖母の恋話、ギリシア神話のペルセポネとアリアドネ、糸巻と切れてしまった赤い糸。ロマンティックなエピソード満載でそれぞれのパーツがしっくり調和していて、今回のお話の中で特にお気に入りかも。
竣太さんの人の良さとちょっと子どもっぽいところが読んでいてどんどん好きになっていきました。同い年だという良鷹と慧それぞれとのコミュニケーションがそれぞれ違っていて面白かった。
志織さん本人は登場してみると思っていたよりしっかりしたひとで、竣太さんと志織さんそれぞれ性格を把握し尽くして付き合っていて、なんだかとてもいいなと思いました。
竣太さんがおじいさん仕込みで星座にとても詳しいのもギャップがあって良い。幸せになってほしいものです。
アリアドネとテセウス、ディオニュソスの神話は、そういえば星座の秋の本の中でも特にお気に入りでした。
テセウスがひどすぎるけれど、そのあとディオニュソスと幸せになれたのであれば、それで。
そんなギリシア神話の葡萄も取り入れて着物を合わせる鹿乃ちゃんのセンスが心にくい。
志織さんのおばあさまの愛情も染み入るように伝わってきます。
良鷹さんのスパイシーチキンカレーも非常に美味しそうです。誰か作ってくれないかな……。鹿乃用のまろやかなカレーのエピソードにもほっこり。

どこかさびしげな空だが、その静謐さは、爛熟した星の輝きが露となってふってきそうな夏の夜空と、天を冷たく燃やし尽くしそうな爛々とした星で満ちる冬の夜空との間に、ひっそりと息をつける風情がある。 (82頁)

ここの一文すごくすごく好き。

『赤ずきんをさがして』
幼い自分を捨てて男の元に走っていってしまった母を許せない女性。母が遺した着物への複雑な思い。
影のあるエピソードと赤い色がどこまでも鮮やかに印象に残りました。
寿々子さんと慧さんはどちらも過去に凍り付いてしまった自分の親へのわだかまりをどうしても消せなくて。そんなだったから寿々子さんが今回桃太郎の着物の帯でいくらか折り合いがつけられて、それを見守っていた慧の方でもまた、気持ちの変化があったということかな。
母に捨てられたという赤ずきんちゃんのエピソードがちょっとぞくりとしました。

このお話でとても良かったのは、ラストで栗ご飯を作っている鹿乃と、そんな彼女を手伝いつつ見つめる慧の独白。

自分の好きなものよりも、相手の好きなものが真っ先に思い浮かんで、それを作ってくれようとするひとが己にいるということの大きさを、考えていた。
それはけしてありふれたことではない。 (133頁)

本当にそうだと思いました。
栗ご飯なんて、恐ろしく手間がかかるけれど手間の分だけ最高に美味しいお料理の象徴みたいなものだしな……。
慧さんがこういう風に物事を考えられる人で良かったなともまたしみじみ思いました。
良鷹を交えての夕飯のやりとりが微笑ましくていとおしくて、この幸福感がこれからもずっと損なわれずにあればいいのに。
ツナと大根の炒め物も白和えもおいしそうです。

『雪花の約束』
静かに空から降り積もる雪の結晶の美しいイメージがなんとも秀逸な物語。
そこにからめられた夫婦の約束が、悲しいけれどなんてロマンティック。
親しい人だからこそ、大事なことを聞けないままで、誤解したまま。って、本当によくあることだなと思いました。
鹿乃が「雪みたいな子」って、分かるなあ。人のことを否定せずにうけとめられる子。
ミルクココアの場面がとても好きでした。ココアにはやっぱり牛乳でなければってすごくよくわかる。というか絶望的な顔をする鹿乃ちゃんが可愛すぎる……。

しかし、春野さんは、なんなのでしょうねえ。
春野さん自身も自分の気持ちを分かっていないのか。
菅谷さんみたいな友人がいるんだし、悪い人じゃないんだろうけれどなあ。(梨々子ちゃんにちょっかいは出さないでおいてほしいけれど……。)
鹿乃に好きな人がいるというのを誤解したままで、それでも鹿乃が向かったお茶会が気になって様子見に行ってしまう慧さんの矛盾っぷりがなんとももどかしくときめきます。結果的に大正解でしたが。(ただしアップルパイ自体はすごく美味しそう……。)
手をつなぐ場面のふたりのそれぞれの心境の変化も。
そのあとで風邪をひいてしまった鹿乃ちゃんへの慧さん、良鷹さんそれぞれの過保護っぷりにほんわかしてしまいました。
こんなに丁寧に良鷹さんが料理をするのは、鹿乃が風邪をひいたときくらいだ、とかちょっとらしすぎて笑えました。

鹿乃とふたりで父と対峙し、ひとつの段階を超えた慧さん。
静かに気持ちを殺した慧さんに、鹿乃のまっすぐな告白。
うわーうわーなんでここでページが切れているんでしょう。
お互い想いあっていることは明らかな二人ですが、このタイミングでこの告白は正直どう転ぶか不安……どきどき。

『子犬と魔女のワルツ』
高校生良鷹視点が新鮮。おにいちゃん大好きな幼い鹿乃が可愛らしいこと!
祖父母と兄妹の四人家族の生活風景が、胸がきゅうっとなるほど愛情深くて幸せで。
照子さんと子犬の物語は、不思議で寂しくて切なかったです。
カサブランカの花の華やかなイメージの影に、何とも言えない寂しさが。
鹿乃が今も昔も良鷹の陽だまりで太陽なのだ、というのは十二分に伝わってきました。お祖母ちゃんが心配するのも分かる……(笑)。
あと良鷹に親切で素直な真帆ちゃん。新鮮(笑)!

一緒に買い物している姿を若夫婦と言われて笑えなくなってしまった慧さんですが、夕ご飯を手伝いあいつつ一緒に作っている姿とか、本物の若夫婦以上に夫婦らしいと思うのは、私だけだろうか……。
このふたりが一緒にご飯を作っている場面の幸福感はたとえようもないです。なんていうことのない日常の家庭料理の献立が、また。
それに、あんなに鹿乃を溺愛していて過保護な良鷹さんが、明らかに鹿乃を想っている慧さんをけして邪魔せず見守っているにとどめているということは、良鷹さんは親友と妹がそういうことになるのを、認めてるってことなんですよね?
つまり、おにいちゃんという最大の難関は、もうすでに超えているということなんじゃないですかね?(笑)
ということで、この難しい年の差カップルの行方も、最終的にはまあなんとかなるんじゃないかなあと、ちょっと楽観的な気分になったりもするのでした。
うん。なんにせよ、鹿乃ちゃんがあんまり辛い思いをしないようにしてほしいな。

ミルクココアや栗ご飯やアップルパイに加え、お祖母ちゃんのマドレーヌや鹿乃ちゃんのお土産クッキー、食べ物がどれもこれも美味しそうで物語に効果的に用いられていて、読んでいてうなってしまうのでした。

幸せな読書でした。続きがとてもとても待ち遠しいです。

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カテゴリ: オレンジ文庫

この記事に対するコメント

ゆりさん、初めまして(*^^*)白川紺子先生のツイッターから来ました!

来てみてゆりさんの読書量の多いこととその素晴らしい感想集にびっくり。
・・・すごいです~~( *´艸`)
下鴨アンティークシリーズの感想も、そうそう!!(*'▽')と共感しながらじっくり読ませて頂きました。
早く続きが読みたいですよね!(*^^*)☆

ゆりさんの読まれている本の中に偶然私も読んでいる本が何冊かあり、勝手に親近感を持たせて頂きました。
(「鳥居の向こうは・・・」とか「鎌倉香房メモリーズ」とか^^。また、懐かしの漫画家さんの感想もあって、嬉しかったです。)
私も読後感が良いお話しが大好きなので、今後もたまに寄らせて頂いて共感したり、本を選ぶ際の参考にさせて頂きますね!

これからも、更新楽しみにしています(*^▽^*)!

URL | クローバー水 #wedqC5yM
2017/02/09 11:58 * 編集 *

Re: タイトルなし

>クローバー水さん
コメントありがとうございます。

クローバー水さん、こちらこそ、はじめまして♪
(お名前の響きがすてきです♪)
白川紺子先生のTwitterからお越しとは、なんだか光栄です。ありがとうございます~!

私のブログの感想をそんな風に読んでいただけたなんて、感激です。嬉しくて涙が出てきます。
『下鴨アンティーク』シリーズは地の文がとてもとても優しく品があり丁寧なので、ブログの感想もそこに寄り添うのを理想に書いていたのかも……しれません。
続きがとても気になりますよね!

『鎌倉香房メモリーズ』も『鳥居の向こうは~』も、素敵なお話ですよね!お仲間がいらしてとても嬉しいです。

はい。こんなブログでもよければ、今後もぜひ、お時間とお気持ちに余裕があるときにでも、いらしてくださいませ♪
楽しい読書生活のほんの少しの足しくらいにでもなれれば、身に余る幸福です。

URL | ゆり #SvKcs0as
2017/02/11 22:09 * 編集 *

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