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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『芙蓉千里』須賀 しのぶ 





時は明治大正、ところは満州。
「大陸一の売れっ子女郎になる」と自ら人買いに売り込んで哈爾賓に渡った少女・フミ。
この地でフミは、共に売られてきた少女タエと、妓楼・酔芙蓉の下働きとして働きはじめる。
いくつもの出会いと別れ、事件を経て、フミは天性の愛嬌と舞の才能を買われ、芸妓の道を歩むことに——。


去年『流血女神伝』シリーズにはまりにはまった須賀しのぶさんの描かれた歴史もの長編小説シリーズ。
この作品も、何年も前からずっと読みたくて気になっていたお話でした。
年末のベストブック記事で『流血女神伝』の感想に再び触れたのと、お正月の区切りの良さとで、積み本から一冊手に取って読みはじめてみました。

序盤入り込むまでに少々時間を有したのですが(慣れない漢字地名表記に手こずりまして……。)、徐々にエンジンがかかってきて、特にフミとタエがそれぞれの「夢の交換」をした姿に、惚れ込んでしまって。それからは一気読み。
頁数もお話の内容もかなりのボリュームがあり読み応えばつぐんで、読み終えた後は濃密な世界観にどっぷり。くらくらしました。

以下少しネタバレ感想ですので一応ご注意を。


なにかとしんどいばかりの境遇で、時に心の澱に囚われても、誇りを持って生き抜こうとする女性たちの姿が、とにかくまぶしく格好いい。のひとこと。まさに泥の中にいくつも花開く、清楚な大輪の花のようです。
すさまじいエネルギーが物語の中に内包されているというか、読んでいるとその熱気に充てられ私の心も熱く燃えているような。

まずはやはり主人公のフミ。
生まれ落ちた時から逆境続きだったフミが、本当の本当に自分自身の力で身をたてて大陸に渡り、舞の才能を、血のにじむような努力で磨き上げて運をつかみ取り、華やかな世界で花を咲かせていく姿が、なんて格好いいんだろう。
しなやかで強く誇り高い魂、清濁併せのむ彼女の努力の姿がすごい。
そしてフミの親友、可憐で芯のある美少女タエとの友情が、私は好きすぎる。
女郎になりたくないと泣きべそをかいていたタエが、フミとお互い感化されあってといいますか、どんどん化けてゆき、美貌と賢さを鳴り響かせ男をころころ手の内で転がすお職になっていく様が、ぞくぞくしました。
まさに小桜、紫桜。
年月を経てそれぞれの立場から「酔芙蓉」を背負って盛り立てていく親友二人、お互いの旦那のこととかたわいないことで肩を寄せ合い笑いあう二人の姿がもう、とてもとても好きだー!!!(ダブルヒロインもの大好き人間です。)
ときに互いに嫉妬したりマイナス面も含んでの友情がかえってリアルです。女の友情ってそれでこそという感じが。
文庫版の表紙イラストのふたりの表情がとてもイメージ通りです。
タエの歌で角兵衛獅子の舞をするフミ、というふたりが、やっぱりいちばん好き。

フミの前に現れるふたりの男性。豪華!
幼い日のフミを救い、ずっと彼女の心の支えになっていた初恋のひと、山村さん。
山村さんの荒削りな頼もしさ、優しさはたしかによろめきます……危険な香りが特に再会時にはぷんぷん漂ってきますが、そこも魅力の一部なんですよね。彼女と甘いひと時を過ごし、同時に計算し芙蓉を利用しようとしているところとか、なんか彼女がこんなに夢中になっているのなら仕方ないのかとか思ってしまう!あのロシア料理屋さんの雰囲気はとても素敵でした。
一方、芸妓芙蓉の前に現れたのは、華族の次男坊・黒谷さん。
育ちの良いお坊ちゃんという感じでちょっとヘタレなところはあれども、ある日の彼の過去の打ち明け話に、ぞくりときました。
私はどっちかというと黒谷さん好きです。個人的にフミと最終的に一緒になってほしいなと思いますが、たとえそれが叶わなかったとしても、彼には幸せになってほしい。
黒谷さんの不器用ででも誠実な想いが、報われるといいな。どういうかたちになるのか分からないけど。
黒谷さんに自分を惚れさせてみせると啖呵をきったフミが、格好良かったなあ。ふふふ。
この巻の最後、山村さんか黒谷さんか、どちらの道を選ぶか悩みに悩みぬくフミの姿には、はらはらどきどき。
彼女が積み重ねてきたものを経てこその選択が、良かったです。やっぱりどちらの道をとっても後悔するものですよね。
私も何だかこの場面のフミの台詞に心励まされました。

そしてくまさんことベリーエフ氏は貴重な和み系キャラでした。
あと小琳のくれた不器用さ優しさも好きでした!

フミの姉女郎たちの生きざまも色々壮絶。
美しく儚げで優しい蘭花ねえさん。彼女に憧れるフミには微笑ましくなり、そして彼女が隠していた覚悟には寒気がしました。どうしてこんな生き方しかできなかったんだろう。
粋で辛辣な物言いはするけれどフミとタエのふたりをちゃんと見守って励ましてくれていたお千代ねえさん、私も最高に格好いい方だと思いました。最後まで。泣きました。
お千代さんとおマサさんの人生を光と影とに違えてしまったものが、なんだか本当にやるせなくて胸がつまりました。
女郎として稼ぐ娘の人生に寄生して生きる両親のエピソード、えぐいな……。
ウメさんも女将さんもフミにとことんきびしかったみんなみんな、最後まで読んでいくと愛着がわいてくるというものでした。
あんなでもたしかに女将さんはみんなの「かあさん」だったんだなあ。と。

国と国との関係、政治的な駆け引き、知識不足の私が語ってもあれなので触れませんが、かっちりしていて読み応えありました。
おナツさんの人生のエピソードがまた印象的でした。
山村さんはどういう立場でどういう役割を担っているんだろう……。
京劇の彼らは、またフミと出会うことがあるのでしょうか。

はじめは慣れなかった独特の固有名詞の読みも、慣れてくるごとに響きも魅力に思えてくる不思議。
女郎たちの花の名前の響きが独特の艶っぽさを醸し出していてそれぞれの気性にしっくり馴染んでいるようで、良かった。
大きな河の流れの描写にも圧倒されました。

タエ主人公の『桜の夢を見ている』。
タエが魅せる美しく艶めいた夢にうっとりし、そしてドミトリーさんの不器用な純愛、恋人たちを襲った時代の試練、そして桜の花の結末に読んでいて涙があふれました。美しいお話でした。とても良かった。
タエ視点からの本編終了後のフミと黒谷さんたちのひとこまが読めたのも良かったです。
ただ、この流れだと、タエはこれで物語の表舞台からは離れるのかな。ちょっとそれは寂しいな……。

続きはこれから読みます。
またがつんと読み応えあるお話だと思うので、今からはらはらどきどきしています(笑)。
フミの恋は一体どうなっていくんでしょう!

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カテゴリ: 歴史もの

タグ: 須賀しのぶ 

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