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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『はるかな空の東』村山 早紀 




幼い日の記憶がない少女ナルが最近夢に見るのは、月が三つ浮かぶ世界で城に幽閉された長い髪の少女。
私とよく似た顔で微笑むあなたはだれ?予言に導かれて、魔術師や吟遊詩人が生きる異世界へやってきたナルを待っていたのは、伝え語りに隠された真実と、未来に託されたはるかな願い。
生まれ落ちた時から重い宿命をになうことになった少女の、歌と魔法に彩られた冒険と成長の物語がはじまる——。


※昔からとても思い入れがある作品ゆえ、以下の私の感想は自分自身の昔語りも込みです。
あと過去に感想記事(こちら)とか美味しい物語の記事(こちら)とかも書いているので、一応リンクを。


中学生時代に図書館で借りて読んだのが出会いで、それから何度も図書館で借りては読み、今でも私にとってとてもとても大切な物語。
あれから大人になって村山早紀先生のお話をたくさん読むことができる幸運にめぐまれて、それでもやっぱり今でも村山先生の作品の中で一番好きなのは、ゆるぎなく、この『はるかな空の東』です。
「日本の作家さんが描かれる長編ファンタジー小説ってこんなに面白いんだ!」と、当時の私にカルチャーショックと喜びを与えてくれた物語。
ほんの少し前に、ハードカバー版が今でもネットで注文できるのにようやく気づいて、今私の手元にはこちらもちゃんと存在しています。

村山先生の過去の作品がいくつも新装版として出てゆくたびに、「ああ、はるかな空の東もいつか文庫化されたら良いのに。そしてもっともっとたくさんのひとに、この作品の面白さを伝えて共に分かちあいたいのに」と、ずうっと思ってきました。
とうとう実現しました。うれしい。未だに夢を見ているようです。
そして後日談も収録されると聞いて。そわそわ気になって仕方がなかった。

ハードカバー版は村山先生ご本人のそれはそれは美しい挿絵がふんだんにページに織り込まれていて挿絵も物語を構成する重要アイテムなのですが、文庫本のこの表紙イラストもまた、ハードカバー版の雰囲気も漂わせて絵本の一場面のような完成された美しさがあって、とても素敵です。
個人的に特に気にいっているのはイラストの縁取りの部分。

紋章の歌姫、さだめを持って生まれた双子姫、お城に仕える魔術師たち、美しく平和な花の都、貴種流離譚、神話や伝説が息づく世界、悲しい過去を持ち長い時を生きてきた魔術師、もうとにかく今の私の好みポイントの原型はすべてこのお話に備わってるんじゃないかしら、という(笑)。
魔術よりも音楽の方が力がある世界観がなかでも素敵です。中学生のころ吹奏楽部員だった私は、だからこそよけいにこの物語に共感を覚えたのだと思う。
美しくて強さと弱さを併せ持つ水晶姫サーヤ・クリスタライアは私の心の中に強烈な憧れのイメージを残し、今でも、私の中で一番高貴な宝石といえば、紫水晶ですから。
(ただしロマンス色はほぼ皆無。当時の私にとってはロマンスよりも女の子の友情ものの方が切実に求めるもので、この物語はそこがまたとても良かった)

何度も繰り返し読んでいる故に、本編はまるで、ナルやハヤミさんたちと同年齢の少女であった過去の自分自身の心を旅していくような感覚で、読み進めていきました。
プロローグのハヤミさんの回想の「おひさまの昇るほうから」の場面で、すでに涙腺が決壊しました。死ぬのは辛くて苦しいし、大切な人にはいつも笑顔で幸せでいてほしい、そんなシンプルな心情が胸にぐいぐいせまってくる。
あと最初の伝説の抜粋がいくつか書かれているところの「ある若者の日記」、敏い王に導いてもらえるそれだけのことで、本当に人は幸福になれるのか?神によって人は救われるのか?こんなことを考えるのは、私ひとりだろうか?という下りが、昔は読み飛ばしていたのだけれど、今の私にはすごく響きました。

ナルにトオヤ、ハヤミさんにサーヤさん、ユリアにミオさん、沙由里ちゃん、魅力的な女の子(女の人)キャラが、何人も出てきて活躍しているのが、何よりも魅力的!!
ハヤミさんやミオさんが高校生の年代なんてびっくりですよね。未だにハヤミさんたちは年上の頼れるお姉さんキャラというイメージでしか読めない。
でもでもハヤミさんもサーヤさんも、勇敢で正義感あふれる凛々しく戦うお嬢さんで、かなり無謀ですね(笑)。これは周りの人ははらはら気が休まらないだろうなあ。青ざめた大沢さんにたしなめられているハヤミさんの図に苦笑い。でもそうですよね、ハヤミさん、まだまだ大沢さんに「ハヤミちゃん」と呼ばれるのがごく自然な歳の女の子だったんですものね。

ナルと沙由里、ユリア、それぞれの友情がやはりとても好きでした。
「前世で私がつらくて悲しかったときに、あなたが助けてくれたから」の台詞のリレー。
昔の私は完全にナルに同調して読んでいたので沙由里やユリアの屈託ない明るさ人懐こさにひかれたけれど、今読んでいると、相手のことを心より思い自分の危険も顧みず助け素敵な台詞をつむぐナルという女の子も、友達思いの最高に素敵な女の子だと思いました。千年の歌姫とか王女様とかそんなの抜きで、ひとりのふつうの女の子として。
あとハヤミさんとミオさんの友情も好きです。無鉄砲に突っ走る格好いいハヤミさんとおっとりストッパーをかけるふんわり女の人らしいミオさんの相性がいい。

若干惜しむらくは、やっぱり大好きだった村山先生の挿絵の数々が文庫版では収録されていないこと……仕方がないことなのですが。
でも各場面ごとの挿絵はなんだか私だいたいもうイメージがまぶたに焼き付いてしまっていて、黒髪なびかせ微笑みながら弦楽器を奏でるサーヤ、大ピンチのなか颯爽と登場したハヤミさん、ラストの手に取を取り合う双子姉妹のイラストなどは、もう読んでいるだけで脳内で勝手にイメージ補完が(笑)。あの場面のナルの衣装は本当に可愛らしかった!(と、手元のハードカバー版を読み返しつつ確認)

絶望的な場面で、それでもナルたちが絶望的な戦いに打ち勝てたのは、奇跡が起こったのはなぜだったのかなと(あの最初の若者の日記も思い返しつつ)ぼんやり考えて。
それは伝説の力というよりは、たとえば人が人を強く思う心、愛する心、傷ついても失敗しても立ち上がり前回よりよりよくしたいと努力し続けること、そういうのものの積み重ねがどんどん重なって行き、すなわち奇跡を呼び寄せたと、そういうことじゃないのかな。とか上手く言えないのですがそんなことを今回読み返していて思いました。
私にとってもっとも印象的だった「奇跡」は、あのクライマックスの戦いの場面のハヤミさんの「ばかやろう」と、彼女の愛情にこたえたトオヤのふたり。
あと声を失ったナルにサーヤがフルートの存在を指し示し、紋章を譲り渡す場面もすごく良いです。好きすぎる。

と、ここまでが本編の感想で。
書きおろし部分のミオ視点の後日談エピソード『朝』。
……あまりにその内容が衝撃的すぎて、思わず三度読みしました。本編がいったんすべて吹っ飛ぶくらいに!
ええええええー!!!(言語化できない)
こ、これは、本編も初読の方が読まれてどう感じられるのか、私には全く分からないや。私はこの物語への思い入れがあまりに強すぎるので、なんというか客観的に状況を判断できないよ……(笑)。
何か語ろうとすると救いようのないネタバレな感じなので、以下は追記にたたむことにします。
思い入れがありすぎて長々しいです。ご注意を!


まずは、ミオさんが日本の世界の方(たぶん風早のどこかですよね)に帰ってきていて、そこで人妻になり娘を育てているという事実に、びっくり仰天。
旦那さんは普通の日本人で、でも旦那さんのお人柄は、さすがミオさんが結ばれた人なだけはあるな、と納得しました。
そしてミオさんが語る衝撃の物語のその後。
ナル、死んじゃったの?というのに大ショックを受け、その後のハヤミさんーー??えええーー???(呆然)
ちょっと落ち着いてから考えて、そっか、紋章の歌い手に比べて魔術師が間違いを犯しやすいというのは、そういうことか……ユウラン然り、雪白のサフィアさん然り(ため息)。
そして世界が崩壊した(?)ときから時間遡行をしたトオヤの底知れない実力にまたびっくり仰天。
彼女が幼いころから恐ろしいほど賢い姫だった、古代魔術を取得した、世界を救う「千年の王」と予言された、それらの伏線が、ここになって真に生きてくるとは。
さらに衝撃的だったのは、沙由里ちゃんのその後のあまりに数奇な人生。
まさか沙由里ちゃんが紋章の使い手になって、ナルの世界に飛んじゃうなんて。わわわ……。
サーヤの語りに出てきた「過去に失われた紋章」が、まさか日本に保管されていたなんて、全く思いもしなかったし、それがアパートの森老人の姉が持ち込んだもので、お姉さんが「荒野の歌姫」ナルの友人であったことも、全く思いも結びつけもしませんでした。
沙由里ちゃんが紋章に見出され、荒れ地に花が咲き、という場面がとても印象的でした。
そしてさらに同時にトオヤが扉を開いて沙由里ちゃんと紋章を引きこんで、世界とナルの命が救われた。という流れをようやく飲み込み、もう何だかいろいろありすぎて、呆然。
紋章が本当に10個揃う展開が実現するとは昔から全く思ってもいなかったので、はああ、本当にすごい。それをもたらしたのが沙由里ちゃんだというところがまたすごい。
ええと、理解が正直まだ追いついていないんですが、とりあえず世界は時を巻き戻されて救われて、ナルもハヤミさんも向こうの世界で元気に生きているという認識で、いいんですよね。二十年たったんですものね。沙由里ちゃんが中学生で飛んだ(多分)ということは、向こうでも世界は結局滅びずに続いているということで、いいんですよね。(でも時の流れの違いとかもあるし、このあたり何度か読み返してみたけれど完全には理解できないなあ。自信ないなあ。まさにトオヤしか真実を知らないということか。)
中学生の娘を失った沙由里ちゃんの両親がすごく辛い……でもこの話の語り手が自身も子の母親になったミオなので、こういう風にご両親視点もきちんと書かれていて、それが慰めなのかもしれないな。
向こうで、ナルと沙由里は再会できたかな。お話できたかな。もともとがあちらの世界のナルとは違って、家族も全て日本の方にあった沙由里ちゃんは、ナルとは違う意味で、たくさん辛い思いをしたんじゃないかな。と思うと、泣きそう。
あちらの世界で彼女自身の幸せを見出して暮らしているといいな。というかそれを願うしかない。
この後日談を読むまで、私、沙由里とユリアはどこか同一人物、それこそ前世つながりに近いものなのではないかとぼんやり自分の中で認識していたのですが、こうなってくると、別の人間ですよね。
沙由里とユリア、少し名前が重なっている彼女たちも、その後親友になれたのかな。
時の流れの違いに少しずつ隔てられていってしまったミオさんとハヤミさんの友情も、どうしようもなさが、ひどく切なかったけれど、あのラストならば。救いが。

……諸々私自身の中で想像で補うしかできないのが、もどかしくてなんだか胸が苦しい。
この後日談エピソード、昔村山先生のサイトで読んだとおりに、やっぱり本の形でしっかり読みたかったな……本当にいつかのいつか、実現しないかしら。トオヤ視点で、沙由里ちゃん視点で、物語を読みたいです。

色々感情のままに書きなぐっちゃいましたが、それでも大好きなミオさんの語りでこの後日談を読むことができて、良かった。とても良かったです。
きっとあちらの世界で今日もナルたちは、歌と魔法にかこまれて、旅を続けているのでしょう。
仲間と共に。笑顔で。幸せで。
信じています。

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カテゴリ: 村山早紀さん

タグ: 村山早紀 

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