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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『ひみつの小説家の偽装結婚 恋の始まりは遺言状!?』仲村 つばき 




覆面小説家のセシリアは、自らを見捨てた没落貴族の親から逃れるため、後見人の騎士ヒースとかたちばかりの結婚をしていた。
だがそのヒースが亡くなり、小説の売れ行きも芳しくなく、切羽詰まった状況に立たされたセシリアは、ヒースの遺言状によって、彼の部下クラウスと「二度目の」かたちばかりの結婚をする流れに。
最初は喧嘩腰だったクラウスだが、実はセシリアを上回る読書家で、セシリアが男性名義で書いている小説のファンであることが分かり——。


仲村つばきさんがコバルト文庫の方から出された新作。
すみれ色とクリーム色がかった柔らかなタッチのきれいな表紙とあらすじに心ひかれて手に取ってみました。

実際に読んでみると、これぞコバルト文庫と言いたくなるような、しみじみと品のある、とても良い少女小説でした。
派手さはなく落ち着いたタッチでつづられる王道パターンの物語なのですが、ひとひねりがちゃんときいていて、読み終えるとあたたかくやさしいもので心満たされる。
ああ、何だか私、このお話を読むことができて、とても幸せだなあ。
それほどボリュームがある物語ではないということもあり、一昨日くらいに読み終え実はすでに二回読み返してしまいました。
ロマンス、家族愛、友情、そして本や読書への愛情。すべてが読んでいて胸を打ちました。

ヒロインのセシリアは、金策に失敗し夜逃げした両親に置いていかれ、どん底の暮らしをしていたところを、親子ほどにも年が違う騎士団長ヒースに拾われ、「結婚」という形で保護された貴族の女の子。
仮面夫婦ながらもおだやかな生活を送っていたところに、その夫と死別し……というところから物語がはじまります。

若い身空でギリギリのところで苦労してきたセシリア、それでも小説を書きたいという強い意志は捨てることなく持ち続け、あきらめずに努力をし続け女流作家の小説は売れぬと言われてもあきらめず男性名義で書き綴り、彼女のこの不屈の精神が、なんといっても格好いい。
少し我が強くて、ひたむきで凛として、自らを客観的に様々な角度で見据え、目的に対しまっすぐに進んでゆく。
彼女の精神は、クラウスが評する通りに、確かに彼女が書く「セオ」の小説に出てくる登場人物像に自然と重なります。
けして完璧という訳ではなく荒削りで、でもなんだかとても心惹きつけられる。
彼女の不器用に背を伸ばして頑張っている姿に、そっと手を差し伸べたくなる。

最悪の出会いをしたセシリアとクラウスが、最初はお互い利害が一致するということでかりそめの婚姻関係を結び。
そしてお互い本が好き、しかもクラウスは「セオ」の小説の大ファン、というところから徐々に距離を縮めていき……そんな一連の流れが、ごく自然なタッチで描かれていて、自らの小説を迷いなく絶賛されて身もだえるセシリアに微笑ましくなりつつ(笑)、王道ながらにとても良かったです。
ふたりとも本当に本が好きなんだな~というのが端々から伝わってくるのが、読書好きの私としてはまた嬉しくにまにまするポイントでした。
現実的な読み方をするセシリアに、比較的ロマンチストなクラウス。


クラウスにとって読書とは、箱庭だった。
本の頁をめくることは、美しく手入れされた庭を逍遥する行為に似ていた。
景色を楽しませてくれるが、どこへもつながることはない。
そのうち孤独をすっぽりとおおいくるんで、クラウスの意識を濃くて温かい霧のなかに閉じ込めてくれる。それで良かったのだ。
だが、マクウェル家の書斎に通うようになってから、クラウスは霧の中で彼女を捜すようになった。
クラウスの視線の先には、質素なドレスに身を包み、本のページをめくるセシリアがいた。
いつしかそれが心地よいと思うようになっていった。   (180-181頁)


クラウスというヒーローがまた、過去の戦争で親友を喪い心に傷を負って、他人を全く寄せ付けなくなってしまっていた孤高のひとで。彼が読書、とりわけ「セオ」の本の世界にのめり込むようになった気持ちが、これも私にはなんだかとてもわかる。
そんな彼が、実際にセシリアに接するうちに、徐々に心を許してゆくさまも、淡々とした態度ながらに彼の気持ちが透けて見えるようで、また良かったです。
不器用だけれど優しい人で、相手のプライドを傷つけずに如才なく仮面夫婦を演じそっと寄り添いあう、そこはセシリアに似ている。お似合いです。
パンを買ってベンチで読書し仲睦まじく寄り添っているふたりの場面が大好きです。(パンもおいしそう)

一度は距離感を間違えまた大きくすれ違ったふたりですが、突然の別離、クラウスのけがと帰還、色々あって、結局はすべてがまるくおさまって、一連の流れがまたとても良かったです。
セシリアがクラウスの父に切々と訴えた彼への想い(理詰めで自らを客観視していてこんな場面なのにとてもセシリアらしい)を、実はクラウスは狸寝入りして全部聞いていた……という下りが、もう本当に泣き笑いですよ!!「ばか!」としか言えない(笑)。

で、こんな仮面夫婦だったので、甘い場面というのはほぼ皆無だったのですが、ラスト直前のふたりのやりとりのときめき感といったらもう、もう、言葉にならない!!
今までが抑えられていた分余計に、といいますか。ひかえめにいって最高でした。
クラウスの「それだけ本を読んでいて、口だって回るのだから、俺の言葉の意味を察するべきだ」というのが、セシリア向けの最高の殺し台詞でした。
あとセシリアの返答を聞いた後のため息。堅物で言葉少なな青年だからこその色気……。
ほんのり甘えるセシリアもいかにも若奥さんらしく可愛くてもだえます。それに照れてるクラウスも可愛い!

クラウスに出会い恋を知りすべてを糧にしたからこそ書けた新作、そしてセオの正体をようやく明かすラストも、完璧でした。最高でした。
このふたりへの、ヒースのちゃめっけたっぷりの愛情がお話全編にいっぱいに満ちていて、それを改めて再認識させられました。
図書館への夢が、クラウスとセシリアが語り合うことでどんどん具体性を増してゆき現実的になっていく場面も、ふたりこれからよきパートナーになれることをはっきり見渡せたと言いますか、しみじみ良かった。ヒースが結んだ縁が尊い。

クラウスの家族もなんだか読みこんでいくごとに好きでしたよ。
デューイお兄さんも軽いノリながらクラウスのことをちゃんと理解しセシリアへのフォローもナイスでしたし、おとうさんも上のお兄さんも、なんだかんだ弟君をちゃんと大切にしているし。
セシリアの両親も、親としては完全失格だけれど人として極悪人ではないし、まあ、今が幸せならばもうそれでいい。というスタンスで。

あとセシリアと男性名義の小説家仲間のフレデリカのふたりの、お互いを高め合う友情関係も、またとても良かったです。
ふたりのお茶会のお菓子がはなやかで最高に美味しそうです。
セシリアが迷い悩んでいるときフレデリカが差し伸べるアドバイスが、美味しいお菓子と共にいつも的確でうなってしまいました。
カートも最後の最後できりっと格好良かったな。
マルコ氏もあれでなかなか頼もしかったし。
誰より何より頼もしくてユーモアと包容力があって素晴らしかったのは、もちろんヒース氏でしたけれどね!!文句なく!!

セオの小説のタイトル通りに、灼熱の苦労の時代から、しんしんと孤独な冬、雪解け、そして明るく優しい春の世界へ。
そんな転調を感じるお話の流れでした。


なんだかお話の魅力をこんなにたくさん語ってきたのにまだ語り尽くせない!!というもどかしさ。
少女小説好きさんにはとてもおすすめです。ぜひぜひ、読んでみてくださいませ。

最後に、読んでいて私がなんといってもうらやましかったのが、読書好き夫婦が共有できる、夫婦で一度に十五冊くらい買っても収納場所に悩まなくても済むくらいの、お屋敷の立派な書斎(笑)。


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カテゴリ: コバルト文庫

タグ: 仲村つばき 

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