Admin   *   New entry   *   Up load   *   All archives

ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『スロウハイツの神様 上下』辻村 深月 







中高生に絶大な人気を誇る作家チヨダ・コーキの小説で「人が死んだ」——凄惨な事件から十年。
脚本家の赤羽環がオーナーであるアパート「スロウハイツ」では、環とコーキ、そしてその友人のクリエイターたちが共同生活を営んでいた。
夢を語り物語を作り世間に作品を認められるのを目指して、仲間と共に足掻き全力を尽くす日々。
そんな彼らの日常は、新しい入居者・加々美莉々亜の登場によって、大きな変化を迎える——。


ずっと気になっていて、もう結構な前から積み本になっていた小説でした。
先週の三連休に、ようやく手に取ってみました。

最初の方は頻繁に移り変わる語り手と登場人物たちの個性の強さに若干話に入っていきづらかったのですが、次第にぐいぐいひきこまれてゆきました。
特に下巻から。ひとつひとつの何気ない伏線が予想外の方向に収束していくたびにうなりつつ、お話にも勢いがついて飽きさせず。
何より今までのすべての伏線がつながり大きくひっくり返された最終章には、やられました!!
ああ、もう、そういうことだったのかー!!すごくすごく良かった。
確かに最後まで読むと、究極の純愛小説だったのだなあ、としみじみ納得がいきました。
ピュアな恋心と人を思う優しさとそれが報われる瞬間のよろこびと、色々な感情がこみあげてきて、じわじわと目頭が熱くなりました。

チヨダコーキの作品を読むことで辛い境遇から救われた少女と、今度はその彼女のメッセージで絶望的な状況から救われたコーキ。
昔から読書好きで、辛い時やっぱり本(それもいわゆるライトノベルの類)の力で何度も乗り切って生きてきた私としては、やはりこのシンプルなエピソードが胸を打つ、良いものでした。
(途中でややもやっとしたものの最後まで読むとカタルシスがすごい)

あと芸術家の卵の若者たちが「スロウハイツ」で仲良く共同生活を営んでいる空気も、とてもとても好きでした。(コーキと環のふたりはすでにプロデビューしている訳ですが)
オーナーの環が何と言っても我が強い性格の女性で他の皆も個性的で自分の中にゆずれぬ芯を持っていて、必死にあがいているがゆえに時にぶつかり合ったり色々なこともあるのですが、確かな友情と絆で結ばれた仲間たちであり、読み進めていくごとにメンバー一人一人に愛着がわいてきて、ラストまでくるともう皆いとしくてたまらなくなりました。
私は特に下巻部分の環とスーの対等な女性同士の友情がとても好きでした!!
その作風からはむしろ一番遠く思える、コーキの不器用だけれど人としてどこまでもピュアで誠実で優しい人柄にも、惹かれました。

あと作中のここぞと言う場面で何度も登場する「ハイツ・オブ・オズのチョコレートケーキ」が最高に美味しそうで、読んでいて憧れの気持ちがどんどん膨らんでゆきました。

今さら私が感想を新しく付け加えるのもおこがましい人気作品なのですが、ネタばれこみの感想メモを、追記に少しだけ。


コーキの作品に関わる大量殺人事件、環の失恋(?)パーティーから始まった通りに、読み終えてみると、圧倒的に、コーキと環のふたりの物語であったのだなあ、としみじみ。
ラストまで読んでから読み返すと、コーキの何気ない台詞やしぐさや表情のひとつひとつにちょっと深読みしてしまって微笑ましいですね(笑)。

我が強く性格にクセもある環さんは敵も多そうですが、私はでも嫌いにはなれなかったし、なんだかんだいってお節介で面倒見がよくて不器用に優しいところが、最後まで読むととても好きでした。桃花ちゃんと仲良し姉妹なのも良い。
環の好きな人は、ずっと昔からずっと変わってなくて、それは恋とひとことで言えないくらいひたむきで純粋で強いもので、なんだか報われなくて辛いなあ……と徐々に胸に来ていたところに、あの最終章。
まさか当の本人がずっと前から「コーキの天使ちゃん」の正体からすべて知っていて、本人にこっそり会いに行ってまでいたなんて、全くもって想像もしていませんでした。
もしかしたら環よりもずっとずっと強い熱量で、彼女への想い、執着を抱いていたというのも。
辛い境遇で育った孤高の少女が、コーキの作品を読んで浮かべた笑顔、それをコーキがこっそり見て心動かされている場面が、なんともいえず大好きです。
図書館への本の寄贈やクリスマスのチョコレートケーキなんかは、まるで『小公女』の真夜中の屋根裏部屋への贈り物のようで。コーキ本人にとってみたら格好悪いのかもしれないけれども、最高にロマンティックなエピソードできゅんきゅんしました。
チョコレートケーキやテレビの贈り物にあたっての手間のかけようがすごい。彼らしい。
「お久しぶりです」とあの両手の握手がまさかそんな意味だったとはね!
あとこの最終章では今まで人でなしっぽいエピソードが多かった(失礼)黒木さんが、なんだかんだいってコーキのことをちゃんと大切に見守ってきてたんだなというのがなんとなく伝わってくるのも、良かったです。

お互い正反対の長所と短所を持っているような環とスー、お互いがダメになったときにちゃんと助けに行き必要な言葉をかける二人の友情が、好きでした。
個人的にはそれでもやっぱり正義とスーの仲睦まじいカップル二人が大好きで別れてほしくはなくって、でもそのことを言葉でちゃんと口にしたコーキさんに、とても救われる思いでした。
そういうのってあまり言っちゃいけない雰囲気があるし実際やっぱり難しいけれど、でもコーキが言うなら変な意味にもとられないし、本当に素敵な人だな。
狩野も正義もめちゃくちゃ好きでいい男で格好良かったし、莉々亜ちゃんもまあ、嫌いにはなりきれないな。(彼女のしたたかさ賢さには感心させられっぱなしでした)
エンヤさんのエピソードも複雑だけれどなんというかうん、印象に残りました。彼が去った後の環の姿も印象的でした。

『レディ・マディ』や『ブラン』ちょっとどんなものか読んでみたいな~。マディのモデルは本当の本当に彼女なんだろうな、とか思うとまた微笑ましい。
あと『ダークウェル』の作者は、そうきますか!これもやられました。
コーキと狩野が色々語る場面がなんというかとりわけ印象的で、月と流れる雲の描写が、美しかったです。(表紙のイラストが彷彿とするものでまた良い感じ)

辻村深月さんの作品はずっと気になっている作品がいくつかあり、またぜひ読み進めていきたいです。
とりあえずチョコレートケーキ食べたいです。(結論)

関連記事

カテゴリ: ミステリー・日常の謎系

タグ: 辻村深月 

この記事に対するコメント

こんにちは。

懐かしい本の紹介に嬉しくなってつい出てきました。
私は初期の辻村作品が好きで、最近のはまだ読んでないのですが、その中でも、「スロウハイツの神様」「凍りのくじら」が好きで、スロウハイツを最後まで読んだ時はミステリなのに恋愛で、カーッと胸が熱くなったのをいまだに覚えています。環が好きで、すごく感動した作品です。

こういう胸が熱くなったり、じんわりしたり、いろいろな物語が日々を助けてくれているなとしみじみと感じています。ゆりさまのマイペースなブログにも癒されています。仲村つばきさんの新刊も読んでみますね。楽しみです。石田リンネさんの茉莉花官吏伝もすごく気分が上がってよかったので12月の2巻が待ち遠しいです。

昨日は糸森環さんの「階段坂の魔法使い」を読み、本当に素敵で泣きました。主人公が健気で参りました。好き。あと2冊あるので結末にドキドキします。
さらに糸森さんの今月の新刊も買いました。和風ファンタジーなので嬉しくてワクワクしてます。最初だけパラパラ見ても言葉が美しくきらきらとして雅で素晴らしい世界観だなと思いました。ですが今はまだ我慢してます。

それでは。
雨の多い日が続いてますが、お体ご自愛ください。

URL | ねね #-
2017/10/21 11:43 * 編集 *

Re: タイトルなし

> ねねさん
コメントありがとうございます。

こんにちは♪お久しぶりです。
またこうして丁寧で心のこもったコメントをいただけて、私はとても嬉しくて幸せです。わーい!

『スロウハイツの神様』もう本当に良かったです!
ミステリなのに恋愛小説、その通りの読み心地でした。下巻のカタルシスがたまらなく心があつくなりました。
環が私も好きです~!!
そして『凍りのくじら』も実は同じくずっと積み本になっているのです。
ねねさんがタイトルあげてくださったことですし、次の辻村さんはこれを読んでみようと思います!
本当にこの作品は、読んでいて明日の現実を生きる大きな活力になりました。
本に支えられて生きているなあと良く実感します。

石田リンネさんの『茉莉花官吏伝』も良かったですよねー!!
12月に第二巻とは順調な刊行ペースで嬉しいですよね。
仲村つばきさんの新作もおすすめですのでぜひぜひ。
『階段坂の魔法使い』もずっと気になっているお話なのですよね。

こんなマイペースブログですが、今後もよろしければ、どうぞお付き合いくださいませ♪

本当にこのごろ雨ばかりで肌寒いですが、お互い体調崩さぬように乗り切りましょう。

URL | ゆり #SvKcs0as
2017/10/22 17:34 * 編集 *

コメントの投稿
Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://hananomi691.blog10.fc2.com/tb.php/1702-0c7dfc13
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)