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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『まるまるの毬』西條 奈加 




親子三代で菓子を商う麹町の「南星屋」は、 売り切れご免の繁盛店。
武家の身分を捨て、職人となった治兵衛を主に、娘のお永と孫のお君が看板娘として切り盛りするこの店には、他人に言えない秘密があった——。


はじめて読む作家さんのお話。
江戸時代のお菓子屋さん一家のものがたりでした。
書店で文庫が平積みされていて、表紙のそぼくであたたかみのあるお菓子のイラストになんとも心惹かれて、ずっと心の隅っこで気になっていた作品でした。
しばらく間をあけて、読了。

読みはじめるまで私、タイトルを『まるまるの「まり」』と勘違いしていたのですが、『まるまるの「いが」』でした。
まるまるのまりみたいな、表紙のお菓子みたいな、まあるくてやわらかであたたかい物語が最後まで続くものと思って読みすすめていきますと、確かに途中で「いが」がありました。
やるせなくて心にしみて痛くて涙するような「いが」なのですが、それでもやっぱり「まるまるのいが」であり、まあるくてやさしい愛に満ちた物語。なんですよね。

派手さはないのですが、お互いを真摯に思いやる家族の愛情の物語、と私は読みました。とても良かった。
清々しくふくふくとした幸福感のたちのぼってくる読後感でした。
お菓子の描写もやはり派手ではないのですがどの場面でもしみじみと味わい深くて魅力的。
読み終えて何日か経るごとに、ひたひたと余韻が心の中にわきあがってきて、これはブログにも少しばかり感想を書き残してゆこうかと。

主人公はお菓子職人の治兵衛さん。年配の男性です。朴訥と職人肌で家族思いのすてきなおじいさま。
最初は少々とっつきにくいかとも思ったのですが、描かれ方が良い感じに人間味あふれているといいますか、迷ったり心の弱い部分も書かれていて、男親のむつかしい心情もあったり、自然と感情移入できました。
お菓子が大好きでお菓子作りしか見えていないところも共感できました(笑)。
治兵衛さんの抱えるものは思っていたよりあまりに大きくて、この秘密がじわじわと物語の流れを変えてゆくことに。

治兵衛さんの娘のお永さん、孫娘のお君ちゃん。
穏やかで父の仕事を幼いころからずっと愛し支えてきたお永さんの、内に抱えた想いのお話『まるまるの毬』、彼女の激しい想いに胸をはっとつかれました。お永さんと治兵衛さんの大人同士の父娘の不器用な思いやりの情がいい。
あと母親に比べると勝気でちょっとわがままなところもあるお君ちゃん、正直最初のうちはお母さんの方が私は好みだったのですが、いやいやごめんなさい。
自分自身の幸せを置いておいても、まず一身に祖父達家族の平穏な暮らしを守り抜くことを望み、迷いなく行動を貫いたお君ちゃん、めっちゃいいこや……泣きました。
この辛く理不尽な経験が、結果的に彼女をここまで大人にしてしまったと思うと、切ないものがあるのですが。
それでもラストのお君ちゃんの姿が、きりりと凛々しく自分一人の足で立っている感じで、何も失っていない、といえるのがまぶしくて、ああ、何とも言えないものがありました。
母や祖父が思っていたより、お君ちゃんは大人でお日様みたいな強さを持っていて、それは彼女が愛情をたくさん与えられまっすぐに育てられてきたからこそのものなんだろうな、と。

随所で一家三人を陰ひなたに支えているのが、治兵衛さんの弟の石海さん。
豪放磊落なお坊さんで、兄弟住む世界を違えてもずっと仲良く菓子を食べつつ支え合っている関係が、なんだかいいな~。と素直に思えました。
各話読んでいって、お侍さんのおうちにも色々あるんだな、と当たり前のようなことを思いました。
治兵衛さん達の実家の人達の常にすっと筋がたっているストイックさ、厳しいのだけど柔軟さも忘れてはいない、深い愛情を底にたたえたありようは、好き。
翠之介君のエピソードもね、微笑ましかったけれど、お家の事情がやるせなかったです。お父さんも辛いな……。
河路様の実直でおごらない好青年っぷり、常識をわきまえてそうなひとなのに年の差身分差を越えて率直に想いを告げる若々しさがまた何とも言えずに素敵でときめきました。
治兵衛さんを招いた折の屋敷の梅の描写が印象的でした。
ふうう。それでもやっぱり切ないなあ。
身分を越えて自由を得たように一見思える治兵衛さんだけれど、それでもしがらみからは逃れきれない姿が、他の何人もの登場人物の姿にも重なり、切ない。

南星屋さんの各地の名物お菓子を日替わりで出してゆくというスタイルも、面白いです。
カスドースが現代に当てはめて考えてみても甘くてハイカラで贅沢の極みという感じで魅力的……。
兄弟の思い出の大鶉というお菓子の名前もいいなと思いました。
最後に治兵衛さんが必死に再現した「橘月」も、単なる希少品ではない手間と心遣いが丹念にかかったお菓子で、紐解いてゆくごとに治兵衛さん自身がかつて受け取っていた愛情もなんだかつたわってくるようで。

他の方の感想にもありましたが確かに『みをつくし料理帖』に少し重なるものがある。
お君ちゃんはちょっとお美緒さんみたい。境遇は違うのだけれど。
良いお話でした。
もし続きがあるなら読んでみたいなあ。
個人的には平戸のお菓子事情まで話を広げた続編をちょっと期待してしまいます。駄目でしょうか……。


この二週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: 歴史もの

タグ: 西條奈加 

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