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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『小袖日記』柴田 よしき 

小袖日記小袖日記
(2007/04)
柴田 よしき

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ごく普通のOLの「あたし」が、雷に打たれてタイムスリップしたのは、平安時代の京の都。
そこで「紫式部」こと香子さまにつかえる女房「小袖」の身体になってしまい、『源氏物語』を書きあげていく香子さまの助手的役割を担うことに。
あちこちで物語のネタを探して駆けまわっている内に、様々な女君たちの事情に深くかかわっていき…。


『活字倶楽部』の特集で目にとまり、手に取った一冊です。
現代の女性が平安時代にタイムスリップして、紫式部の助手さんになって『源氏物語』成立に協力していくなんて、(一応)平安女流文学好きの私としてはかなり美味しい設定です(笑)。
『源氏物語』、通り一遍のことを学生時代に習った程度ですが、十分楽しんで読めました。

表紙が良いですね、まず。
蝶を見つめるほんのりと優しい表情のお姫様が素敵です。十二単やお花もきれいでかわいらしい。
本文中では最初、主人公は平安時代の女君たちのお顔を「おかめ」とけなして(?)いますが、この絵だけ見ていると、普通に好きだなあ。

なんといっても香子さまが、優しくて賢くてふところ深くてチャーミングな、本当に素敵なおばさまでした。実際に身近にいたら、『源氏物語』の作者とか抜きにしても大好きになりますよ、絶対に。
小袖と香子さまのコンビが、読んでいてとても楽しかったです。

『源氏物語』を一話一話書きあげていく上で、それぞれのお話のモデルのお姫さま達に、小袖と香子さまは関わっていく訳で。
『源氏物語』のモデルではあるけれど、実際のところは全然違うお姫さまたちの事情は、時にぐっさりとシビアで、時に切なくて、時に気高く美しいものでした…。
どうしようもないことの原因が、現代人の小袖にしか分からないような病だったりすると…辛いですね。
「葵」の山吹姫とさかえと若菜姫のお話が、特に印象的でした。
そんな事情ってありなの…?みたいなびっくり話もありましたが(笑)。

後、光源氏のモデルである、胡蝶の君や清瀬の君や涼風の君たちの、ぱっとしないこと(苦笑)。女性たちは皆素敵に描かれているのに!
男君の身勝手さに翻弄されて不幸になっていく姫君たちは…やっぱり切ないです。

そんな中でも、智恵とふところ深さとそれなりの地位を十分に活用して、女君たちのために奔走している香子さまが、本当に光っていました。
無力でこの時代の知識もないけれど、女君のことを思って自ら香子さまと一緒に頑張る小袖もよかったです。
こんな彼女が描きあげる『源氏物語』が、素晴らしい物語にならないはずはないですね。

わたしの書く物語の中では、男のひとたちにも苦しみを感じていただきます。
そして、愛に対する責任も最後まで果たしていただくつもりです。 (69頁)


小袖、結局この先はどうなるんだろう、もしかしてこのまま平安時代にとどまりつづけるのかな…?と思っていたところ、五章目で、一気に色々と明かされてお話が進み、ほうっとなりました。
「小紫」になった洋子さんの身の上話も…何とも言えない。
そんな洋子さんもまた、あたたかくて素敵なおばさまでした。
彼女は無事に現代へ帰れたのかしら。

ラスト近く、本物の「小袖」の悲しみのお話や身の上話の部分は、純粋で美しくて、重ためだったお話の中ではよけいに優しかったです。

あの子はいつも、きらきらと目を輝かせながら言いました。
この都には本当にたくさんの美しい人々がいるのですね。
そうした美しい人たちが、喜んだり悲しんだり、どなたかを慕って眠れない夜を過ごしたり、そうしたことのすべてが、見事な絵巻物のようではありませんか、と。
その言葉で、私は光源氏の世界を書くことを思いたちました。
人々の心があやなす、美しくて複雑で繊細な世界を、耳に心地よく目に優しい言葉でつづってみたい。 (250頁)


―私が小学生だったころ、ちょっと背伸びしたくて図書室で子ども向け訳の『源氏物語』を借りてきて読んだときは、光源氏の好色さや人々の苦しみはあまりぴんとこなくって、まぶしいくらいに美しく豪華な平安の貴族やお姫さまたちの世界に、ただうっとりとしつつ読んでいたっけ…なんとなく、そんなことを思い出してしまいました。

ラストでは、なんだかんだでお話のフォローもきちんとされていて、後味のいい読み終わりで良かったです。
香子さま、最後の最後まで、本当にお優しい…(泣)。

平安時代の習俗あれこれが、現代の女性視点でつづられていて、そういうのも楽しかったです。
平安時代の香は…確かに現代人が馴染むのは、微妙かも(苦笑)。
特に、私は美味しいものが大好きなので、食べ物が出てくると、ついつい注目してしまいます。
中でもときめいてしまったのは、「末摘花」の章で、小袖が最高の材料をおしみなく使用して作った、平安時代版・あいすくりーむ!(笑)


うーん、文章はとても読みやすかったですが、思っていたより大人っぽい内容の小説だった気が。
ちょっと説明が足りない部分があったように思うので、それも読めるともっと良かったかな。香子さまの私生活なども、できればもうちょっと詳しく読みたかった。
後、京都の地理を詳しく知っていたら、もっと色々楽しんで読めたでしょうね…。
でも全体を通して、なかなか楽しんで読むことができました。良かったです。


今回私が読んだのは図書館のハードカバーでしたが、文庫版も出ているようです。
小袖日記 (文春文庫)

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カテゴリ: 歴史もの

タグ: 柴田よしき 

この記事に対するコメント

こんばんは。

今日は台風の影響で、雨、風ともに強かったですが、そちらは大丈夫でしたか?
東海もすでに梅雨入り・・・憂鬱ですね。

『小袖日記』、表紙とタイトルだけは見たことがありますよ!
感想を拝見して、表紙とはうらはらにちょっとお話が重いのかな!?と思ってしまいました。意外でした(笑)

私も久々に平安時代のお話を読もうと思ってます。
夢枕獏さんの『陰陽師』の新刊を入手したので。庭の描写が素敵です。

先日ブログで拝見した『うさぎパン』、今読んでいる途中です。
今はいろいろなものが読み途中になっています(苦笑)

あと、小市民シリーズって、最近出版されていないですよね。ブログの記事を拝見して、「秋期間限定」(上下)の出版年月をみて、改めて思いました。では。

URL | かすみ草 #-
2011/05/29 20:17 * 編集 *

Re: タイトルなし

>かすみ草さん
コメントありがとうございます。

どうもこんにちは♪
昨日の台風、確かにすごかったですよね…。でも実際の被害は全くなかったです、ご心配いただいてどうもありがとうございました!
かすみ草さんのお住まいの方は、ご無事でしたでしょうか?

『小袖日記』はそうですね、重たいお話ではなく、むしろさくさく読めてしまうと思います(笑)。現代人である小袖の語り口が、慣れると痛快で面白くって。
ただ、お姫さまたちの事情の部分のお話を読んでいるときは、やっぱり重たかったでしょうか…。
でも表紙のイメージもまたぴったりだと思います。

『うさぎパン』、読まれているんですねー。
私も先日文庫版の方も読みました。書き下ろしが読みたかったので(笑)。これまた良いお話でした。

『小市民』シリーズ、確かに最近出ていないですね…。
でもちょっと見てみると、『春期限定』『夏期限定』『秋期限定』それぞれの作品の出版年もそれなりに空いているので、待っていれば『冬期』もその内出版されるんじゃないかなあ…となんとなく期待しているところです(笑)。

URL | fallclover #SvKcs0as
2011/05/30 10:20 * 編集 *

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