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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『銀の犬』光原 百合 

銀の犬銀の犬
(2006/06)
光原 百合

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ケルト民話をモチーフに描かれたファンタジー。
楽の音で人を癒し、妖を打ちはらい、山を裂き海を割ることさえ可能といわれる「祓いの楽人」オシアン。
声を失った彼の竪琴が奏でる調べは、この世をさまよう魂や妖精族の憂いを払っていく。
なぜ愛する人はマスターの命令に背いていってしまったのか、なぜ犬は大好きな飼い主を殺してしまったのか。
相棒の少年・ブランとオシアン、二人連れの旅の先々で関わりを持つことになった、悲しくも美しい五つの物語。


光原百合さんの作品、この間読んだ『イオニアの風』がとても良かったので、他の本も読んでみよう!と思い立ち、今回はこれを手にとってみました。
ケルト民話はほとんど知らない私なのでどうなるかなあ…と思いつつ読み始めましたが、やはりすみずみまでていねいに書きこまれた文体で、加えて今回の本は連作短編形式で区切りがあって読みやすく、途中でひっかかることもなくすっと読めました。
そうか、他の小説で読んだ妖精や魔物の中にも、実はケルトと関わりがあるものがたくさんあったのね。
…そういう発見も読んでいて楽しめました(笑)。

表紙からのイメージもあるかもしれませんが、美しく澄んだ水の底の世界に招き入れられたような読み心地でした。見上げると、夜の水面がゆらゆらきらめいている、幻想的というかなんというか。ホラーではないひんやり感が、読んでいて心地よかったです。
祓いの楽人の音楽の調べも、イメージとして常に静かに私の中で流れている感じでした。

伝説の竪琴の旅の詩人諸々設定、雰囲気あってよかったです。
どのお話も悲しい話ではあるけれど、謎めいた主役ふたりをはじめとするキャラクターたちが持ちあわせる優しさや微笑ましさがきいているのか、あたたかな読み心地でした。
私、こういう読後感がきれいな悲恋物は結構好きなんですよね(笑)。人と不思議の存在の物語(格好良く言えば異種交流譚)というのも個人的に好み。

オシアンが何も語らない分、おしゃべりでお話をひっぱっていってくれるのが、相棒の少年のブラン。
この子は結構な生意気で、オシアンを絶対的に慕っていて、おせっかいで心優しくて、彼のキャラが、お話を明るめにするのに一役かっていたと思います。


以下、各話別に感想を。
第1話 声なき楽人
非業の死をとげた楽人の若者が幽鬼になって害をなしているという噂をききつけてやってきた、若者の婚約者であった娘・モードが真実にたどり着くまでの物語。

愛する人が変わってしまったのでは…というモードの痛みが本当に辛かったです。けれども次第にことの真相が明らかになっていって、これならまだ救われるかなあ、と。(いや、そもそもリードレのあれがなければ…という話なんですけどね。)
モードとフィルの過去の回想シーンがほんとうにほのぼのとして幸せそうで、胸がいっぱいになりました。
そういえば、楽人の男性の婚約者の娘…みたいな設定って、他であまり読んだことがないなあ。
うーん、こういう男性を生涯共に暮らしていく伴侶とするのは、結構苦労しそう…(笑)。
それでもフィルの最後の曲とか、モードへの愛が深く感じられてとても良かった。優しくて前向きな気分でお話を読み終えることができました。


第2話 恋を歌うもの
美しい歌声で女たちを幻惑して愛する生活を続けてきた妖精・ガンコナー(恋を歌うもの)が、ある人間の娘と出逢って…そこからはじまる物語。

このお話は、作品の中で一番私好みでした。(二番目はその前の「祓いの楽人」でしょうか。)
「ケルピー」って、『伯爵と妖精』シリーズ以外ではじめて小説で読みました(笑)。
あまりに人と価値観が違って共感もできなかった彼(イシル)が、無愛想な娘・ローズマリーと出逢って関わりを持つことになり、そうとは分からないままに惹かれていき、相手に優しくする気持ちを知っていく…その流れが読んでいて、とてもいとおしかったです。
こういうラブロマンスはとても好きです(笑)。ロージィに振り回されるイシルがどんどんかわいくなっていくのでときめきました(笑)。
なのに運命は残酷で、つかの間のふたりの生活は幸せだったものの、恋の結末は胸にぐっさりときました…その後でイシルがたどった道も辛かった。オシアンとブランがふたりを再び巡り合わせて解き放ってくれて、本当によかったです。

後、私は「スカボロー・フェア」のメロディがとても好きで、この一節が出てきて嬉しくなりました(笑)。
荻原規子さんの『西の善き魔女』シリーズのバードを思い出してしまいました。
この曲が収録されているリュートのCDを持っているので、部屋に流してひたっていました。心に染みるなあ…。

「ほかに言うことはないの」
「……?」
「ありがとう、は」
「ああ」
彼は頭の中にぱっと鬼火(ジャッコ・ランタン)が灯ったように感じた。
それだ。この間手当てを受けたあとにも、言うべきとされているのに思い出せなかった言葉。
「そうそう、それだな。ありがとう。そうだ、ありがとう」
「もう。本当に、子供なんだから」
そう言って彼女は、リンゴの花がほころぶようにほほ笑んだ。
この娘はやはり魔法を使うのだろうか、と彼はいぶかしむ。
みっともないくせに、まぶしいほど輝いてみせるという魔法を。 (93頁)


第3話 水底の街
最愛の女性を喪ったロディが、会いたいものに会えるという伝説の地・イースの街にやってくるお話。

このお話も、ロディとイースの街が語る過ぎし日の回想があまりにも幸せで、それだけに別離の悲しみが辛い…。それが何度も繰り返されるなんて、やはり辛い。ロディの気持ちも十二分に分かるのですけれど。
イースの街のからくりは、明かされてみるとほんのりと和みました。純粋に優しい街なのね。

第4話 銀の犬
若奥さま・リネットの忠実な番犬クーが、彼女をかみ殺してしまうという無残な事件が起こった。
呪いと愛情で飼い主と固く結びつけられていたはずの犬がなぜ…その謎を語り明かしていくお話。

序盤に出てきたリネットの召使・ブリジット視点で語られるお話なのかと思って読んでいたら、そうでもなかった(笑)。途中から出てきた呪い師の若者ヒューとその相棒猫のトリーが、オシアンとブランと共に活躍。
ヒューとブランとの掛け合いは、くすくす微笑ましかったです。ブランもヒューも子どもだなあ…(笑)。トリー(トリヤムーア)も、ヒューのお姉さん的ポジションのようで、お姫さまのものだという名前もぴったりで、かわいいー(笑)。
リネットとジョー、ブリジット、イリアド、そしてクーの物語の真相は…ああ、そういうことだったのね。
確かにリネットの命令は、クーにはむごいものだったでしょうね…。
弟のヒュー視点で読んでいると、あんな結末になってしまったジョーも、なんとなくおかしみのあるキャラクターに思えてきて、読み心地が軽くなりました。


第5話 三つの星
将来の王と王妃、一の騎士。昔から仲良く育ってきた少年と少女、三人の間に起こった悲劇をたどっていき、迷える魂を救おうとするお話。

ヒューとトリーが再登場。ヒューも相変わらずなんだか気の毒なキャラで好きだけど、トリーも好きですー(笑)。
読んでいて、私は最初なぜか、フィンのことを女の子だと思い込んでいました…。女騎士さまも良いじゃないですか(笑)。
まあそれはともかく、いかにも伝説の香りがする筋のお話だなあ、と大した知識がない私も読んでいて思いました。
ディアドラとフィンのふたりと、トゥリンとの間に出来てしまった溝、それがもたらした悲劇は、すでに分かっている結末にひたひたと近づいていく様が、読んでいてなんとも切なかった…。それでも思ったよりどろどろではなくて、最後に救われたシーンはやはりきれいで良かったです。


『活字倶楽部』によると、このお話にはまだ続きがあるらしい(?)ので、いつかぜひ読んでみたいです。
作中で折に触れて語られながらも結局真実は分からないままだった、妖精の女王のニアヴと伝説の楽人のオシアンの話が気になります…。この作品に出てくるオシアンも、結局のところ何ものなのか。
後、オシアンとブランの過去の出会いとかも結局最後まで語られなかったので、これも気になります。


素敵なファンタジー作品をまた読むことができました。
『イオニアの風』も、この『銀の犬』も、特に夏のお話という訳ではないのですが、夏に読むのに雰囲気ぴったりのように思いました、なんとなく。
心の中に、涼やかなものが満ちてくるような。


私が読んだのは図書館で借りてきたハードカバーでしたが、文庫版も出ているようです。
銀の犬 (ハルキ文庫)


昨日それぞれの記事に拍手下さった方々、どうもありがとうございました♪

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カテゴリ: ファンタジー(西洋風)

タグ: 光原百合 

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